双子転生 -転生したら兄妹に分裂してた。天才双子の異世界ライフ-

八木山蒼

第31話 別行動

 パイロヴァニア軍部の指令府は議事堂とそう遠くない場所にあった。見た目はパイロヴァニアの他の建造物と似た四角い鉄製の建物で、大きさもさほどではない。
 だがサリアが探知魔法で探ったところ、やはりこの軍部と議事堂は地下で繋がっているらしい。国王と軍部の癒着、早くもパイロヴァニアの闇のひとつが明らかになったわけだ。

「長いな」
「うん……」

 その建物の前で俺とサリア、あとリオネは待っていた。カインのことを軍部に伝えたところ、中には入れてもらえずにここで待たされている。国王の娘であるリオネの存在もここでは関係なさそうだ。ちなみにメイリアとポップとは一旦別れている、この国の住人である彼女らにあまり迷惑はかけたくない、特に王国騎士団を目指すメイリアが俺らと行動を共にしては色々まずいからだ。

「サリア、『音』はどうだった? 浮かない顔をして何を聞いたんだ?」

 補助魔法に長けたサリアは聴力強化を行い内部での会話を盗み聞きしている。その表情は妙に険しく、彼女を慕うリオネも心配そうだった。いったい何を聞いたのだろうか。

「どうした? 知った声があるのか?」
「うーん、私の魔法でも内容がなんとか聞き取れるくらいだからね、気のせいかもしれないんだけど……あ、そろそろ来るよ」

 サリアが言った通り、俺にも足音が近づいてくるのが聞こえてきた。だがサリアは何か聞こえたのかぷっと吹き出す。

「どうした」
「いやね……カインの上官の人、地下の話もそうだったけどもの凄く過保護なのよ。カインに色々言ってるよ、無理に黙秘しなくていいから聞かれたら話せとか、そのうち助けに来るから変に暴れるなとか……」
「その話からするとカインを引き渡す方向か」
「うん、私たちはお人よしだから、って。まあメイリアちゃんの友達だしね」

 命を狙ってきた相手に対しこれといった敵意がないのだからお人よしといえばお人よしだ。だがなんとなく、俺らはカインを憎む気にはなれないのだ。
 やがて軍部のドアが開き、警護の兵が横によける。現れたのは顔に傷のある目付きの鋭い女軍人と、それに連れられる手首を縄で縛られたカインだった。

「待たせたな。私はダイアナ・カシンスカヤ、兵隊長を務めている。此度は兵の暴走により迷惑を掛けたこと、まずは謝罪しよう。すまなかった」

 女軍人ダイアナは俺らの前にやってきてまず頭を下げた。長身と目付きの鋭さ、というよりは全身のオーラから謝られているはずの俺らの方がなぜか威圧感を覚えてしまうような女性だ。だがサリアの話によると兵士にはとことん過保護で心配性らしいからそのギャップには驚きである。

「この通り、問題の兵は拘束してある。対処は諸君らにお任せする、如何様な処分をしてもこちらは一切関知しない。それでこの件は終わりにして頂きたい」

 ダイアナはそう言ってカインを前に出したが、てっきり突き出すように乱暴にするかと思いきやそっと背中を押す程度。口ではああ言っているがやはりカインが心配らしい。

「わかった、それで手を打とう」
「だけどこんなこと二度とないようにね」

 ひとまず俺らもここでごねて本格的に敵対するのもあれなので受け入れる。元々正面から望むものが来るとは思っていないし、どっちかというとカインのことが心配だったからだ。

「承知した。では私はこれで失礼する」

 ダイアナはつっけんどんに対応するとさっさと去っていく。だがいざ戸を閉める段階で表情こそ変えないものの何度も振り返り、カインを心配しているようだった。
 やがて軍部の扉は閉められ、後にはカインだけが残された。敵意丸出しの顔で俺らを睨みつけている。

「フン、どうした、さっさと殺したらどうだ。俺は闇に生きる兵、敵の情けでむざむざ醜態を……」
「とりあえず手の縄とったら?」
「周りの人も見てるよ」

 ただのカッコつけとわかってるのでカインの言葉は途中で制する。カインはサリアの言葉でハッと周囲を見渡し、道行く人が手を縛られた少年を怪訝に見ていることに気付いたようだ。

「……フン」

 カインは手首の縄をあっさり引き千切った。
 実はカインの手首を縛る縄は明らかに脆く弱いもので、俺らに匹敵する力を持つ彼を縛るには完全に不十分だったのだ。パッと見ただけですぐわかるほどのそれは、あのダイアナがカインを気遣っていつでも脱出できるようにと結んだものであることは間違いないだろう。ご丁寧に跡が残らないよう緩くもあった。

「斥候役であることもお見通しか。ならばどうする? 今度こそ決着をつけるか?」

 カインはあくまでも俺らと敵対するつもりのようだ。だが思春期の子供が気張っているだけと思えばかわいいものである。

「と、いうより……」
「私たち、カインの力に興味があるんだよ」
「俺の……力?」
「ああ。お前が俺と戦った時の力の正体、あの後は教えてくれなかっただろう?」
「だからまずはそれを聞きたいなって」
「何を馬鹿な。貴様らに話すと思うか? この俺が」

 上官から話してもいいと言われているはずのカインは突っぱねてきた。まず間違いなく彼のプライドのためだろう、彼はいかんせん『プロの兵隊』になろうとするふしがある。敵に情報を開示するなどプロのやることではない、というわけだ。
 だがだからこそ扱いやすくもある。

「フン、そんなに情報を得たいなら教えてやろう。貴様らは俺の敵だ! パイロヴァニアはいずれ貴様らを滅ぼし、ソレイユ地方を手に入れる! 俺の力はそのための……」
「そうか、やはりそんな余裕などないよな」
「……なに?」
「そうだよね、私たちと戦うにしたってギリギリだもんね、力の正体を教えるほどの余裕はないよね」
「それに対したことない力なんだろう、俺に敗北したことだしな」
「なら教えてもらうまでもないか。ごめんねカイン、やっぱいいや」

 俺ら双子はよく似た笑みを浮かべていたことだろう、挑戦的で、はやし立てるような露骨な顔を。
 カインはあっさりと反応した。

「愚弄するな貴様ら! 余裕がないだと? バカを言え! 実はな、この程度のこと漏らしても構わんと俺は上官に言われているんだ! そんなに知りたいなら教えてやる、そして俺の力、ひいてはパイロヴァニアの力の強大さに打ち震えるがいい!」

 わかりやすい子である。どことなくメイリアと似ている気もした。

「街中じゃまずいな、ちょっと出ようか。そこで実践しながら見せてもらおう、それくらい強大な力なんだろう?」
「無論だ。俺が本気を出せば、こんな町など瞬く間に焦土と化す……!」
「わーすごい。それじゃ移動しようか、ごめんねリオネちゃん、ちょっと危なくなるからまた後で……」

 カインは言動こそあれだが実力は本物だ、力を見るだけとはいえ危険が伴う。そのためサリアはべったりだったリオネと別れようとしたが。

「あ、あの、ちょっと待ってください!」

 それまで黙って成り行きを見守っていたリオネが食い下がった。

「実は、これまで隣でお2人の話を聞いていて……ほとんどわけがわからなかったんですけど……サリア様たちは、パイロヴァニアのことが知りたいんですよね? それも普通なら知りえない奥の奥のことを」
「うん、それはそうだけど……」
「だったら私……まだ、力になれるかもしれません。国王の娘として、見せたいものがあるんです」

 リオネは真剣な表情でサリアを見つめていた。
 俺とサリアは目を見合わせて考える。あまり彼女を巻き込むのもなんだが、恩義を絶対とするヘテロ族には恩を返させないことが一番の侮辱、リオネ自身が望む限りは利用するべきだろう。それに国王の娘のみが知りえる情報というのもかなり興味があった。
 元同一人物たる俺らの思考はほぼ同じだ、ちょっと目配せしあっただけでだいたい示し合わせはつく。

「わかった、連れていって。セイル、私はリオネちゃんと行くから……」
「ああ、俺はカインの方にしよう。一応気をつけろよ」
「そっちこそ」

 俺とサリアは一旦分かれ、それぞれの目的を果たすことにした。そっちの方がずっと効率がいい。

「ありがとうございますっ!」
「わっ」

 リオネはここぞとばかりにサリアに飛びつき、その腕に頭を擦り付ける。まさしくよく懐いた猫のようで、少しサリアが羨ましかった。美少女同士の仲睦まじい姿は眼福でもある。

「というわけだが、いいかなカイン」
「フン……好きにしろ。だが後悔するなよ、いざという時1人で俺を止められるか?」

 一方のカインは少し安堵していたようだ。俺とは戦闘経験があるがサリアの方の実力はまったくの未知数でやや警戒していたのだろう、俺との一対一になりほっとしているらしい。わかりやすい男である。

「それじゃ」
「また後で」

 俺ら双子はそれぞれ分かれた。
 ――そこに渦巻いていた思惑に、気付かないまま。

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