双子転生 -転生したら兄妹に分裂してた。天才双子の異世界ライフ-

八木山蒼

第35話 『天才』


 その日、アスパムには音が響いた。

 家々が破壊される音。

 人々が逃げ惑う音。

 魔法が衝突しあい、弾け飛ぶ音――


「どうして……」


 響く音の中、ヒトミは涙を流し崩れ落ちる。


「お願いします……セイルさん、サリアさん……助けて……!」


 ここにいない双子の名を呟き、縋るように祈る。彼女にはそれしかできなかった。

 氷に覆われていくアスパムを目の前にしながら――






 俺とサリアはパイロヴァニアの外で落ち合った。サリアは妙に慌てている様子だった、あとなんかリオネのサリアを見る視線が妙に熱を持っていたがサリアが無視しているので俺も流した。

「どうしたサリア、何があった?」
「細かい説明は後! パイロヴァニアが、アスパムを狙っているらしいの!」
「なんだって?」

 俺はすぐに自分たちの浅慮に気付いた、俺ら双子がいないアスパムは敵意あるものからすれば隙だらけの状態、攻め込む好機となる。フェルグランド家には軍隊などもいない。危険だ。

「目的はまだわからないけど、何か嫌な予感がする」
「ああ、俺もだ。すぐにアスパムに戻ろう」
「このリオネちゃんも連れてくよ、説明は省くけど色々と内情を知ってるらしいから」
「わかった、ならあの手段だな?」
「うん」

 俺とサリアは頷き合うと横に並び、互いの手を握った。パイロヴァニアからアスパムまでは馬車で1日、転移魔法も届く距離ではないので普通に向かっていたのでは間に合わない。
 ちと荒業だが、俺らには奥の手があるのだ。

「リオネちゃん、私の体にしっかりと掴まって。思いっきり掴まっていいよ」
「は、はいぃっ! あああ、ご主人様のお体ぁ……」

 リオネはうっとりしながらサリアの体にしがみ付く。その態度は非常に気になる所ではあったがここは無視し、魔力に集中する。

「『融合ユナイト』……」
「『魔導マージ』」

 融合魔導ユナイトマージ、2人以上の魔術師が完全に同調することで成せる、魔法の威力を何倍にも引き上げる魔法。本来なら上級魔術師が何年も寝食を共にし修行してやっと体得できるものだが、双子かつ元同一人物である俺らならちょっと集中すれば簡単にできる。転生の特権だ。

『ショウリュウ!!』

 爆発的に生み出した魔力は龍の形をとり、俺ら3人を呑み込むと天に昇った。
 何物にも阻まれない空の道を通り、竜は一直線にアスパムへと向かう。空を翔ける間も、俺は嫌な胸騒ぎを抑えきれなかった。







 同刻、パイロヴァニア某所。
 寝転がったポップは強い魔力が遠ざかっていくのを感じた。あの双子だな、とすぐにわかる。どうやらアスパムの危機を知り文字通り飛んでいったようだ。

 パイロヴァニアが今何をしようとしているのかは知らないが、狙いは十中八九ミリア・スノーディンだろう。あれも双子と同様の、『天才』だ。

 しかし難しいのは天才の定義だ。天才は天に与えられた才と書く通り、生まれつき神に賜った能力の持ち主のことを指すわけだが……

 その点でいうと、やはりあの双子は『天才』と呼ぶべきなのだろうか?

 自分で神にねだったのに?

 だがまあ、双子にしろミリアにしろ、持ちうる力が持って生まれた才覚であるのは変わりない。

 努力だけでは辿り着けない領域というものは存在するものだ。

 何しろ、神というものが実在するのだから……神は人を超越した存在ゆえに神と呼ばれる、人が届かない領域があるのも当然だ。

 だから、究極の力を手に入れようと欲した時。

 人は必ず『天才』にぶつかる。

 それはひとえに、人の努力の前に神が君臨するということに他ならない。


「まったく悲しいね……神というものは」


 嘲るように笑いつつ呟くと、ポップは起き上がった。
 自分もやらなければいけないことがある。
 それがはたして善か悪かは……まあ、神のみぞ知ることだ。 

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