双子転生 -転生したら兄妹に分裂してた。天才双子の異世界ライフ-
第18話 サリアの受難
ある日のこと。
私はいつものようにセイルといっしょに魔法学校を歩いていた。
「サリアは今日どうするんだ?」
「メイリアちゃんがそろそろ魔法の実践に入りそうだからその付き合い。セイルは?」
「トニオたちが課題を教えろと泣きついてきたから教えてくる」
「あ、そういえば、ミリアちゃんが新しい魔法作ったから練習台になれって言ってたってヒトミちゃんが言ってたよ」
「またあいつは勝手なことを回りくどい伝え方で……まあ付き合ってやるか」
「あの子きっとそわそわしながら待ってるから早めに行ってあげてね?」
適当に談笑しながら廊下を歩いていた、その時だった。
「もらったぁ!」
背後から女の子の声。私は戦慄し反射的に攻撃しようとしたが、時すでに遅し。
後ろから伸びた手が、私の胸を鷲づかみにした。
「ひゃんっ」
私の口から高い声が漏れる。いかにも女の子らしい声を出してしまったことを恥じた私は顔を真っ赤にしながら慌てて口を塞いだ。
「こ、このォッ!」
すぐに振り返りながら後ろ回し蹴りを浴びせる。だが魔の手を伸ばした張本人はその時すでに射程外へとすばしこく逃げ去っていた。
「ううーん、大きさは控えめながらも美しい形とハリ、手の平に心地よい重量感……さすがは天才双子、おっぱいも天才的だね」
うんうんと頷き胸の批評するその少女。背は私より一回り小さく小柄で、短めな茶髪は左目を半分隠し、右側には髪飾りでぴょんと髪を結んでいる。顔は小動物っぽさのある妹系美少女なのだが、私は彼女を愛らしいとはまっっっったく思わないし思えない。
シィコ・ラヴマリン。私の天敵にして、セクハラ大魔神……もっと率直にいえば乳揉み魔である。
「それにしても相変わらずいいリアクションするよねぇ、ありがたやありがたや」
「拝むな! このっ」
「おっと、では次もまたいだたくからお楽しみに!」
シィコは私の追撃にサムズアップで微笑んだ後、驚異的なすばしっこさで人混みの彼方へと消えていった。
彼女とのこうしたやりとりは初めてではない、というか私は数えきれないほど繰り返されており、またしてもやられた私は怒り心頭だった。
「まあまあサリア。美少女同士のスキンシップは前世ではわりと憧れのシチュエーションだったろ?」
「見ているだけのあんたはいいでしょうけどね……毎度毎度醜態をさらす身にもなれよ! あまつさえ元男の私が胸を触られてあんな声を出すのがどれだけ恥ずかしいか!」
「声が大きい、皆見てるぞ」
「ぐぬううっ……」
セイルは他人事だから呑気なものだが、私としてはたまったものではない。異性になって15年、さすがに男の意識は薄れてきた私だが完全に消えたわけではなく、いかにもな女の子らしい行動をすることにはまだ抵抗がある。だが女の感覚に慣れていないのか私の体はかなり敏感で、胸など触られると必ず過剰に反応してしまい、ひゃんだのあんだのという羞恥極まる声を上げてしまうのだ。
「決めた。今日という今日はもう許さない。あの悪魔に復讐してやる……! 然るべき報いを与えてやる!」
「いやまあ、あいつも報いならいつもの相手に十分受けてると思うが」
「それだけじゃあ私の気が収まらない。この手で、奴を地獄の淵へと叩きこみ、後悔と絶望に染め煉獄へと叩き落としてくれる……!」
「セリフが魔王じみてるぞ。どんだけだ」
積もりに積もった私の怒り、羞恥という名の炎は燃え上がる。
半ば恥ずかしさをごまかすための八つ当たり気味に、私は持ちうる力の全てを使って、シィコに報復することに決めたのだった。
我が妹にして分身サリアの考えが俺にはわからなかった。
少しして。俺らは魔法学校の中庭、その中央にある円形広場にいた。
「どうセイル、これだけの魔法を使えばあのセクハラ娘を捉えられるでしょう?」
サリアはしたり顔で全身にかけた魔法を見せつける。俺はあきれ果てていたがお構いなしだ。
「まず身体能力全体を強化、探知魔法により徹底した索敵、不可触の結界で全身を覆い、さらに睡眠魔法を粉状にして散布……完璧な布陣だよ」
「そこまでしてやるものなのか?」
「じゃああんた女になって衆目の中でひゃんっとか言ってみなさい! それも何度も!」
「まあ、好きにすればいいがなぁ……」
基本的には同一人物であり思考も行動も共通する俺ら双子だが、唯一違うのはやはり性別だ。元々が男だったためか、特にサリアは女であることを受け入れられないような言動を時たま見せる。やはり異性になってしまった当事者にしか理解できないことがあるのだろうと、基本的に俺は傍観の姿勢をとるのだった。
「で、肝心のシィコは来るのか? 逆にこれだけ対策すると恐れをなしてこないんじゃ」
「大丈夫、魔法で脳内に直接果たし状を送り付けてやった。『私の胸に触れることができたら体を好きにしてもいい』って言ったから絶対に来るはず」
「おいお前、それで負けたら大変なことに……」
「何言ってるの、私が負けるはずないでしょ? 絶対に勝つために準備したんだから」
サリアが順調に負けフラグを立てているような気がしたが、こうなった彼女は言っても聞かないので俺は放置することにした。それに正直なところ、美少女同士が絡む様は俺からすれば単純に眼福である。自分の分身でもあるサリアがその被害者ならば罪悪感もないし。
やがて、サリアが何かを捉えた。
「来た。セイル離れて、いよいよ決戦だよ」
「はいはい」
俺は円形広場から出てサリアから離れた。
シィコもただのすばしっこいセクハラ魔ではない。というか彼女、セクハラするためだけに数々の魔法を身に着けている。透明化、高速移動、風魔法……今も透明化で姿を隠しているようだ。じわじわと近づいてきているようだが、高度な隠密魔法を使っているらしく俺にはその詳細な位置まではわからない。
はたして下らないが無駄にレベルの高い戦いの行方は。俺は呆れつつ見守る。
「さあ……来るなら、来い……!」
360度どこから来てもいいようにサリアは重心を低く構え目を光らせる。風が流れ、静寂が辺りを包む。
それを打ち破ったのはシィコだった。
「ヒャッハーッ! 触り放題だーっ!」
茂みからいきなり飛び出し一直線にサリアに向かった。彼女も彼女で『触れたら体を好きにしていい』という条件に昂っているらしく、目をハートにし涎を垂らし野生動物並みの勢いでサリアへと襲い掛かっていた。
だが興奮するあまり敵を見誤ったか。当然、サリアはあっさりとそれを回避した。
「もらったあ!」
サリアはシィコを地面に組み伏せると、えげつないほどガッチリと腕の関節を取った。そのままロメロスペシャルかキャメルクラッチにでも移行しそうなほどだ。
が。
「「「「ひゃあっっはあーーーっ!!!」」」
その直後、サリアの四方八方全てから、何人ものシィコが飛び出して襲い掛かった。
「えっ! ひゃああっ!?」
敵を組み伏せるために不可触の結界を解いていたのが仇となり、サリアはあっという間に無数のシィコに埋もれ、矯正のような声だけが響くのみとなった。睡眠魔法もシィコの欲望の前には通じないらしい。
「分身魔法かあ……すごく高度な魔法を、恐ろしく下衆に使うな。それもダメージは通さず触覚だけ通すようにできてる。何倍もセクハラしたいっていう気概が感じられるな」
シィコの色欲に呆れるやら感心するやら。好きにしていいという約束をしたのはサリアなので俺は手を出さずに見守った。けして美少女同士の絡みを見物したかったからではない……といえば嘘になるが。
「あっ、ちょ、そこは! 待って、私そこはびんか……んんんっ、ダメ、だめぇ~!」
昂る無数のシィコに群がられ、サリアは滅茶苦茶だった。服も乱れ息も荒く、お子様には見せられないような状態になっている。
俺は静かに合掌し、シィコが満足するように祈るのだった。
ちなみにそれから10分ほどで魔法学校の俗にシィコ回収業者と呼ばれる先生がシィコを説得(物理)で回収していった。
俺はボロボロの我が半身を救い上げるとともに、自分は調子に乗って下手な条件を出さないようにしようと肝に銘じた。
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