双子転生 -転生したら兄妹に分裂してた。天才双子の異世界ライフ-

八木山蒼

第11話 授業「魔法とは?」

 魔法学校にて、私たちは授業を受けていた。

「では今日は、魔法の使い方についてのおさらいをしましょう」

 教壇に立ち、おっとりとした喋り方で女性教師が授業をしていた。彼女はダーチャ・クルセイダース、アスパム魔法学校の教師の1人であり魔術師だ。口調そのままの穏やかな性格で、黄緑色の綺麗な長髪を編んで束ね、服は簡単な魔術師のローブ。が、そのゆったりとした服でなおも隠し切れないプロポーションが男子の目を引いている。
 かくいう私もダーチャ先生の胸にはいつも視線がいってしまう。そして自らの、膨らんではいるがさほど大きくないそれと見比べて、複雑な気分になるのだった。

「魔法はちゃんと練習すれば誰でも使えるものです。でも、使えるほどいい、というわけでもないんですよ」

 ダーチャ先生の授業はゆったりとした独特の空気感がありとても落ち着く。先生自身顔立ちもかわいらしさのある美人で性格も優しく子供のように純粋と、26歳にして浮いた話がない。これは彼女のある体質のせいなのだが――まあ、今はいいだろう。
 それで、魔法の基礎などとうに知っている私がなぜ彼女の授業を受けているかというと、メイリアのためだった。

「えーと、メイリアさんでしたね。魔法はまったく使えないんですか?」
「ああ! 全然だ!」
「それじゃ、ゆっくりやっていきましょうね」
「わかったー!」

 妹のポップにも聞いたのだが、メイリアは魔法が使えないらしく、教わったことすらないというのだ。せっかく魔法学校に来ているので私はメイリアに魔法を学ぶことを提案し、それがより英雄への近道だと判断したメイリアは承諾した。
 思うに、メイリアの剣術の腕はまさしく一級品だ。そこに魔法が加われば、それこそ私たちに匹敵する実力者になるかもしれない。私はなんとなくメイリアに愛着がわいており、世話を焼いてしまっていたのだった。
 私が同席しているのは色々と癖のあるメイリアのフォロー……と、ダーチャ先生のフォローのため。セイルが故あって欠席なので久々に兄妹別行動だ。彼はどうもメイリアよりも妹のポップの方に興味があるようだった。
 ちなみにこんな初歩の授業を聞く者は私らの他におらず、教室には私、メイリア、ダーチャ先生の3人だけだ。

「ではまず……魔法というものは、私たちの中にもある魔力というエネルギーを使って起きる現象のことです。薪を使って火を起こすのに例えると、薪が魔力、火が魔法です。そして薪に火をつけるための何らかの道具が呪文であり、それができることを『魔法が使える』というんですね」

 この世界の魔法について、というのは私にとっても中々面白い内容だ。転生前ではただ漠然と魔力、あるいはMPを消費して火を噴いたり瞬間移動したりするものだと思っていたが、魔法が存在する世界、それもある程度文明が進んだ世界だとやはり理屈で説明がなされている。
 メイリアは理解しているのかしていないのか、とにかく熱心に聞いていた。

「魔力は形のないもののように思われることがありますが、実はそうではありません。空気と同じで、目に見えないだけで存在するものなんです。たとえば大量の魔力が地下などでぎゅっと圧縮されると、それが水晶に似たものとなることがあります。他にも、環境次第では液体の魔力も存在します。厳密には、そういった物質は『マナ』と呼ばれ、マナが含むエネルギーのことを魔力と呼ぶんですね」

 私は何度か聞いた話を改めて噛み締める。転生前、ほとんど勉強をしていなかったので向こうの世界の学問についてはうろ覚えだが、この世界では魔法の研究からマナに辿り着き、化学という学問が誕生したらしい。
 メイリアは熱心に聞いていた。

「マナは私たちの体の中にもたくさんあって、また空気の中にも漂っており、私たちは息をすることでそれを体内に取り込むことができます。その際、マナに特殊な振動を与えることにより、狙った魔力を取り出して反応を起こす……つまり、様々な種類の魔法が使えるんです。その振動こそが呪文、つまりは声です。呪文を唱えることには、マナから魔力を取り出すという意味があるんですねー」

 つまり、この世界での魔法は言葉に依存する。なにも魔法使いは格好いいから魔法の名前を叫んでいるわけではないのだ。メイリアは熱心に聞いている。

「高度な魔術になると、その振動を自分で設定し、コントロールできるようになります。つまり魔法の名前を決められるんですね。また魔法を上達させると、声に出さずとも、心で念じるだけで魔法が使えるようになるんです。詠唱無し魔法が使えるようになるのは俗に『魔法を定着させる』と言われていますがメカニズムはまだよくわかっておらず、簡単な魔法ほど定着させやすく、また上級魔術師ほど高度な魔法を定着させられることだけが知られています」

 私たち双子の一部の簡単な魔法は『定着』できている。魔法を唱えなくても口の中だけで呟くようにしたり、あるいは脳内でそらんじるだけで魔法が使えるのだ。
 だが逆にいえばそうでない魔法は言葉を発せられない状態では使えない。なので魔法には、呼吸が重要な要素になる。

「長くなりましたが、魔法を使えるようになるにはいくつかのステップを踏めば簡単です。①マナを理解してその存在を感じ取ること。②言葉によりマナを振動させて魔力を生み出すこと。③特定の言葉、特定の振動で狙った魔法を発現させられるようになること……必要なのはたっぷりの練習と、ほんのちょっとの才能です。がんばれば誰でも魔法は使えるんですよ。メイリアさん、わかりましたか?」

 魔法について一通りの講義が終わった。私はメイリアが途中で居眠りでもしないかと危惧していたのだが、意外にも彼女は始めから終わりまでずっとフンフンと鼻を鳴らしながら聞き入っていた。バカと真面目は共存できるらしい。

「わからなかった! でも、練習すればできるようになるんだな!?」
「はい、それさえわかれば大丈夫です! 私と一緒に立派な魔法使いを目指しましょう!」
「もちろんだ! そして私はさらに人気者となるのだ! フハハハーッ!」

 意外にもメイリアとダーチャ先生はそりが合ったらしく手を取り合って意気込んでいる。純粋な者同士、根が似ているのかもしれない。
 だがその時、教室の外から悲鳴が聞こえた。

「な、なんですか?」
「ムッ、この有能なる王国騎士団見習い候補心得の出番のようだな! 私は英雄になる英雄的機会を逃さんのだ!」

 わたわたと慌てるダーチャ先生、剣を手に駆け出そうとするメイリア。やはり似た者同士とはいえ反応は正反対だ。しかしそんな2人とは対照的に、私はひたすらに憂鬱だった。

「ダーチャ先生の『いつもの』か……やれやれ」

 とりあえず立ち上がり準備する。どうあがこうと回避はできない、迎え撃つしかない。そういうものなのだ、ダーチャ先生の体質は。
 メイリアが机に脚を引っかけてスッ転ぶのと同時に、それらは壁をぶち破って教室に乱入してきた。

 それは、触手だった。

「きゃあ~っ!?」

 大量の触手はうねりながら真っ直ぐにダーチャ先生へと襲い掛かった。のんびりした先生は逃げきれず、あっという間に触手に絡みつかれる。

「あっ……ちょっと、そこは……やめて、やめてください~」

 両手足を抑えられ、衣服がはだける先生。ゆるゆるのローブがずらされて、豊かなバストがこぼれそうになっている。
 触手は魔法生物の類だろう。十中八九学校の実験室かあるいは召喚魔法の失敗が出所で暴走しているに違いない。慣れっこだった。

 これがダーチャ先生の体質……不幸体質。この世界では病気にも似た魔法による状態異常のようなものが存在し、それが慢性的にもなる。ダーチャ先生は生まれつき周囲からハプニングが絶えないという、ゲームでいうところのバッドステータスを背負って生きているのだ。そしてそれがなぜか妙にお色気っぽいのが特徴で、私とセイルは密かに『逆ラッキースケベ体質』と呼んでいる。

 そして触手はダーチャ先生に絡みつくだけでは収まりきらず、メイリアの方にもその魔の手を伸ばした。

「おお! 貴様ら、珍妙な見た目だが私の魅力がわかるのか! 人気者は辛いな! まさしく引っ張りだこだ!」

 メイリアは触手に群がられてもなぜか嬉しそうだが、あっさり四肢を拘束され、ただでさえ高い露出度がさらに上がりそうになっている。
 もちろん、触手は私にも伸びてきた。だがそんな薄い本展開、かつて見るのは好きだったかもしれないが当事者になるのはまっぴらごめんである。

「生憎、私は触手展開をやるには……強すぎる!」

 私は『定着』した電気魔法を放ち、魔法生物である触手に宿るマナを攪乱する。暴走するほどに質の低い触手はそれだけで簡単に機能停止し、ダーチャ先生とメイリオに絡みついていたものも床に零れ落ちた。
 こうしてダーチャ先生の逆ラッキースケベに巻き込まれ続けた末に身に着けた、悲しい手際の良さである。
 だがそれだけでは終わらない。ダーチャ先生の不幸は一度始まるとしばらく連鎖するのだ。
 遠くから声が聞こえる。

「繊維だけを溶かすスライムが逃げたぞ!」
「淫魔の魔本がひとりでに動き出した! 呪いを受けるなー!」
「興奮作用のある魔法の煙が漏れてるー!」

 ハア、と私はため息をつき、神様からもらった力を先生と友人を守るため、そして自らの尊厳を揺るがしかねない事態を防ぐために行使するのだった。

「双子転生 -転生したら兄妹に分裂してた。天才双子の異世界ライフ-」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く