双子転生 -転生したら兄妹に分裂してた。天才双子の異世界ライフ-
第12話 氷の少女との出会い
それはとある街での出来事だった。
「へっへっへ……」
「この街で、異邦人が1人でほっつき歩くとは不用心だな」
人影もほとんどない夜、町はずれの外壁に大勢の男が集まっていた。
男たちは全員手に剣や槌などの武器を持ち、人相は悪く語調は荒い。そして露出した腕や足、顔、首筋など体のどこかに、三日月のような黄色いタトゥーを共通して入れていた。
「俺たち『猩々団』のことを知らないようだから教えてやるぜ」
「俺らはこの街を仕切る裏の支配者!」
「悪いが異邦人にゃ容赦はしない決まりだ」
男たちは半円を描くようにして、1人の別の男を壁際に追い詰めていた。その男は日差しよけのローブを被り、夜闇もあって顔は見えない。背丈から未成年とわかり、猩々団を名乗る男たちはその体格からもローブの男を恫喝していた。
「まずは服」
「次に髪」
「最後は二度とこの街に来ねえように心に……猩々団の名を刻みつける!」
荒くれたちはじりじりとローブの男に迫る。今にも襲い掛かりそうだった。
だがその時。
「そこまでよ」
男たちの背後から声がかかる。アアン? といかにも荒っぽい仕草で振り返った。
そこに立っていたのは1人の少女だ。肩まで届く程度の赤い髪、ピッチリとしたワンピース調の服、男たちを睨む整った顔立ち。体格は未成年の少女として並程度だが、堂々と腕を組み男たちと対峙した。
「相変わらず群れて弱いものいじめなんてね。ヘドが出るわ」
「なんだァてめえ?」
「てめえも異邦人か?」
「私のことも知らないアホさ加減もうんざり。ま、所詮、男なんてこんなもんよね」
「んだとぉ?」
少女は男たちを煽り、頭に血が上った荒くれたちは少女へと照準を変えた。だが少女は屈強な男たちは無視し、ローブの男に視線を送る。
「あんた、そこでじっとしてなさい。怪我したくなきゃね」
忠告し、少女は腕を解いた。その周囲に魔力が渦巻き始めたことを、鈍感な男たちは気付かない。
「生意気な女だ」
「やっちまえ!」
そして全員で不用意に少女へと飛びかかる。それでもう、男たちは終わっていた。
少女は目を見開き、叫びながら蹴りを繰り出した。
「あんたら全員、未来永劫凍ってなさいっ!」
鮮やかなまでの回し蹴り。もっとも距離的に男たちにはまったく届かず、きれいに宙を蹴り一回転する。だがそれでよかったのだ。
蹴りと共に膨大な冷気が放たれ、それを受けた男たちは一瞬にして全身が氷に覆われ、動けなくなっていた。言葉もなく、音もない、まさしく一瞬の出来事。ふん、と少女は鼻を鳴らすと凍った男たちを適当におしのけ、ローブの男へと近づく。
そして訝し気にローブの下を覗こうと詰め寄った。
「あんた、どこから来たの? なんでこの街に? あんたも怪しいわね。用がないならさっさと……」
だがその時だった。
突然、近くの家の屋根の上から大勢の男たちが飛び降りてきた。その数はさっき少女が凍らせた数のかるく3倍、いずれも武器を持ち、壁際にいるフードの男と少女を取り囲んだ。
しまった、という顔で少女は振り返り歯噛みする。フードの男をかばうようにして。
「お前も相変わらず単純だな、『氷華』。こんな罠にあっさりかかってくれるとはなあ」
リーダー格と思われる剣を持った男が進み出る。そして。
「【フレイマー】!」
男が魔法を唱えると、持っていた剣が燃え盛った。さらに他の男の武器が全て同じように火炎を纏い、辺りは炎により激しく照らされる。火炎で包囲された少女の頬に汗が伝うのはその熱気のせいだけではないだろう。
「これだけの数の炎があればお前の氷もかなり弱まる。ついでにエサにしやすい異邦人がいて助かったぜ、そいつを守りながら戦えるのか?」
炎の武器を手にした男たちがいやらしい笑みを浮かべて迫ってきた。
「くっ」
少女は悔し気にもらし、せめてこの男だけは守ろうとローブの男をかばう。
だが何を思ったのかローブの男はそんな少女をぐいと押しのけて前に出た。
「ちょ、ちょっとあんた何やってんの? 私が守ってあげるから、おとなしく下がってて!」
焦る少女、嗤う男たち。だがそんな周囲などまるで意に介さないというように、ローブの男は応えず、動かない。
そしてただ一言、口にした。
「【ハイドロ・プレッシャー】」
それは魔法だった。そして次の瞬間。
膨大な水流が突如として空間に出現し、包囲していた男たちを、あっさりと吹き飛ばした。
「ぎゃあーっ!?」
「ぐえっ」
猛烈な水流に吹き飛ばされ、男たちは壁や地面に叩きつけられる。武器ごと全身はびしょびしょに濡れ、武器に付けた炎も消えてしまっていた。
「ひっ……」
「な、なんだこいつ……」
やっとのことで起き上がった時、その眼前にはもうローブの男が立っていた。少女も男の速度に目を丸くしていた。
「【フリーズガスト】」
そして男たちが逃げる暇もなく、冷風が男たちを襲う。度を越えた冷気を抱く風は一瞬の内に水を氷へと変じさせ、散り散りになった男たちは凍り付き動けなくなった。少女が凍らせたものほどの精度ではなかったが。
しかしそれでもローブの男の魔法は圧倒的だった。少女は無力な異邦人と思っていた男の行動に唖然とするばかりだった。
だがハッと我に返り、改めてこの男に助けられたのだと気付く。
「あ、あんた!」
名前も知らない相手を呼びかける。ローブの男は静かに振り向き、かぶっていたフードを下ろした。ちょうど月明りが男の立つ位置を照らし、その顔が見えた。
その下にあったのは端正な顔立ちの少年。水色の髪と白い肌、中性的な顔に一瞬少女はドキりとする。
「そ、その……ありがと。あんたのおかげで助かったわ。でもあんた、一体……」
とその時、遠くから足音が近づいてきた。
「セイル! こっちで見つけたよ、北からなら入れるみたい」
同じローブを被った人影は声からすると女らしい、水色の髪の男はその姿を見て頷いた。
そして次の瞬間、両者はすさまじい身体能力で跳躍すると近くの民家の上に飛び乗った。よく見ると男が女の手を握り先導していた。
「あっ、待ちなさい! 話はまだ終わってないわよ! あんたら何者なの?」
少女は問いかけたが2人は答えずにそのまま駆け出し、夜闇の彼方へと消えていった。
「なんなのよ、もう……」
やりきれない思いを抱え少女は1人ごちる。その脳裏には、あの少年の顔がこびりついていた。
これが、とある街で『氷華』と呼ばれ怖れられた少女、ミリア・スノーディンと、セイルの出会いだった。
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