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双子転生 -転生したら兄妹に分裂してた。天才双子の異世界ライフ-

八木山蒼

第10話 自称・神の女の子

 決闘の後、俺らは魔法学校の食堂にいた。食堂は木製の広い場所で、アスパム特産の白米や魚介類などを使った料理を中心に、大衆的な料理が揃っている。コストパフォーマンスがいいので生徒以外の住民も時たま訪れているほどである。その日も食堂には大勢の人々でにぎわっていた。
 その一画、俺らの前で、山盛りのスパゲッティを食べていた。

「むぐっ、むぐ! 勝利の味は実にうまいな! 感謝するぞ!」

 口元にミートソースをべったりつけながら笑うメイリア。スパゲッティは決闘に負けたということで俺らのおごりである。決闘が終わった後に腹が減ってないか聞き昼食の申し出をするとメイリアはあっさりと了承し、今に至る。
 ちなみに俺が食べているのはこの地方の名産、ミロカ貝という大きな二枚貝の殻をそのまま皿としてそこに卵を落としてとじ、貝のうまみを卵の甘みで凝縮したミロカ焼き定食。サリアは同じく名産であるニンニクを使ったスープに貝に似た形のパスタをたっぷり入れたムーツ・スープという料理。ただし俺らは両方の味を楽しみたいので適当に交換しながら食べていた。

「それでメイリア、お前はどこから来たんだ?」

 彼女を食事に誘った理由は素性を聞くためでもあるので俺は尋ねた。彼女はスパゲッティをくるくる巻くのを中断した。

「私はパイロヴァニア王国から来た! その偉大なる王国騎士団……になる予定の戦士だ!」
「パイロヴァニア……たしかここからかなり南の国だぞ、馬車でまる1日以上かかる」
「けっこう大きな国だよね。産業と獣の街……だっけ」

 パイロヴァニア王国。フェルグランド家が所有するソレイユ地方と隣接する、モイス山陸地帯にある王国だ。絶対王政を敷いており、領土はさほどではないか管理された貿易により栄えている国。産業と獣の街、という独特な呼び名は、王国がかつて獣人族との共存のために作られたことに由来する。

「なんでわざわざパイロヴァニアからアスパムまで?」
「言っただろう! お前らを倒し、英雄となるためだ! そして私は王国騎士団となる!」
「たしかに私たちに勝ったとなればそれなりに名は知れると思うけど……ソレイユ地方ならともかく、パイロヴァニアでそんなに知られるものなのかな」
「何を言う、お前らの名はパイロヴァニアでも有名だぞ? 天賦の才に恵まれた、フェルグランド家の天才双子! 兄は腕の一振りで山を作り、妹は杖の一振りで海を消すと!」
「いや、いくら俺らでもそこまでは……」
「だいぶ誇張されてるね……」

 メイリアの言葉に俺らが辟易していた、その時だった。

「謙遜なさんな。神託の双子さんよ」

 背後から突然の声。独特な濁りのある少女の声だ。俺とサリアが座ったまま振り返ると、俺らの真後ろにその子は立っていた。

 奇妙な風貌の子だった。背は低く俺らの世界でいう小学生程度。だが浮かべる笑みはどこかシニカルで、無邪気とは真逆の雰囲気を漂わせる。それは色白の肌や吸い込まれるようなシアン色の瞳からも与えられる印象だ。髪は色が抜けたような白で後ろに束ねられているが左側の一束だけが黄色に染まり、左目の前に垂れ下がっている。しかしその全貌はよく見えない。というのも、彼女が着ている服のせいだった。

 白髪の少女は俺らがいた世界でいうところのパーカー、それに非常によく似た服を着ていた。色は青で厚手の布でできており、腹の部分に大き目なポケット、頭にはフードがついている。少女は背を丸めるようにしてポケットに両手を入れ、そしてフードを頭にかぶり、そのために髪はよく見えないのだった。パーカーは大き目で少女の腰の下まであり、そこからはすぐに足がすっと伸びている。下半身に何か履いているのか、それとも……靴は簡素な布靴だった。

「どうした? この世の深淵を覗いたような顔をして。神と出会うのは初めてか?」

 少女は白い歯を見せて冗談めかして笑った。俺らが何か言う前に、メイリアが立ち上がった。

「ポップ! また訳の分からないことを言うな! お前今までどこに行っていたんだ?」
「さてな、それは遥かに遠く、そして深く……そう、天上の音も聞こえるほどの純白が満たす世界」
「またその病気で喋るな! 私にわかるように言え! つまりどういうことだ」
「トイレだ。フフッ」

 どうやらメイリアと知り合いらしかった。俺らが訝しんでいると、少女の方から名乗った。

「私はポップだ。そこにいる間抜け騎士の妹。そして深淵を知る神でもある」
「か、神?」
「だれが間抜けだ! お前は腑抜けだ! ついでにへ抜けだ! へっ!」
「おいおい知らないのか? 神は白い少女の姿をし、世を嘆き生を謳う……とな。フフッ」
「ポップ! その病気をやめろ! 頭が痛くなる!」

 ポップ、という名前の少女はメイリアの妹らしい。そしてもうひとつ、どうやら彼女はいわゆる中二病のようだ。男口調で回りくどい言い回しをしたり、斜に構えたり、神を持ち出したりする辺りがなんとも痛々しい。俺らは本物の神を知っているだけ余計にだ。

「えーっと、ポップ。君は何歳だ?」
「14。ちなみにメイリアは16だ」

 メイリアが16だということにも驚いたが、ポップの14歳という年齢はまさに中学2年生ジャストの年齢だ。まあこの剣と魔法の世界、俺らの世界よりも酷い中二病が存在するのはおかしいことではないだろう。見た目は似ていないがメイリアの妹らしくもある。

「どれ、首が疲れてきた。神は着席しナプキンをとるぞ」

 ポップはわざとらしく首をこきこき(鳴らなかったが)させると回り込んで、メイリアの隣の椅子に座った。そしていつ手にしたのか自分のフォークをメイリアの前のスパゲッティに差し込んだ。

「ポップ! お前、私の勝利の証にフォークを刺すんじゃあない!」
「でも、こないだ、私のアイスをあげたじゃんか」
「あれは元々お前が私のアイスを勝手に食べてしまったからだろう!」
「まあまあ。それよりも聞けよ、この食堂は種類ごとに異なる場所で食べ物が置いてある。そしてそこの壁の突き当りを右に行ったところにはな……」
「なに? な、何が置いてあるんだ!?」
「なんにも」
「なに? ナンニモ!? 私はナンニモを食べたいぞ!」
「そうか、じゃあ行ってくるといい」

 メイリアは意気揚々と席を立ち、なんにも置いていない食堂の隅へと向かっていった。体よくメイリアを追い払ったポップは平然とスパゲッティをちゅるちゅるとすすった。

「フフ……私の姉妹はいい奴だろう? まさしく神に愛された女だ。あれで16年生きてきたのがその証明だ」

 否定できないのが難しいところである。俺らは黙って頷いた。

「私らがパイロヴァニアから来たことは聞いただろう。メイリアはその王立騎士団の見習い……というかそれ未満でな。剣の腕は立つんだがそれ以外がてんで騎士団向きじゃない、だから永遠の見習いだ。だが奴自身は持ち前の鈍さでそれに気付かずに、英雄になりたがってる。まっ、神の姉は英雄ぐらいになってもらわんとな」
「まあそれはわかるが、なぜ俺らなんだ」
「パイロヴァニアにも私たちみたいな実力者はいるはずでしょ?」
「フフフ、それが実に彼女らしい最高の理由でね。あんたらが兄妹だからさ」

 ポップは楽しそうに笑っていた。

「あんたら兄妹は有名で人気者だ。だからメイリアがあんたらを倒せば『にんきものパワー』とやらが家族2人分手に入り、メイリアが人気者になっても、私にそれを分けてひとりぼっちにさせないんだと。フフフ……」

 かなりむちゃくちゃな理屈だったが、つまりメイリアは自分の願望を叶えつつも妹のためを思って遥々アスパムまでやって来たのだという。

「いい姉妹だろう? 私も神として誉れ高いよ、フフフ」

 ポップは上機嫌だった。姉に思われていることが嬉しいのだろう。この姉妹、両方ともかなりアクが強いが、意外と一皮むけば姉妹愛で繋がった純粋な存在なのだとわかり、俺とサリアは思わず笑っていた。

「どうした? 我が姉の尊さにやられたか? まあいいさ。私らはしばらくこの街にいるつもりだ、王国騎士団永世見習いは別にパイロヴァニアにいなくてもいいからな。度々決闘を挑まれるだろうが、ま、付き合ってやってくれ」
「ああ、そうするよ。『神』のお達しだものな?」
「ほっぺにミートソースをつけた神の、ね」

 ポップはぴたりと止まる。そしてゆっくりと、落ち着いた様子で頬をぬぐった。まったく動じていませんよという顔で俺らに向き直る。

「逆の方だよ」

 ポップがぬぐった方と逆の頬を指でさすと、また一時停止、そしてゆっくりと頬をぬぐう。あくまでも平静は装えているつもりらしかった。

「さて、私はちと用があるのでな、ここで退散しよう。我が愛する姉のことはよろしく頼むぞ」

 恥ずかしかったのかポップはぴょんと椅子を降り、来た時と逆に回り込んで去っていく。俺らは微笑みながらそれを見送った。
 だが俺らが去っていくポップに背を向けた時。

「なあ、神に与えられた天才よ」

 聞き間違いかと思うほどの小さな声。だがそれはたしかにポップの声だった。
 俺とサリアは同時に振りむいたが、すでにそこにポップはいなかった。

「おーいポップ! ナンニモはもらえなかったが、彷徨ってたら近くの人がパンをくれたぞ! これも私が人気者だからだな!」

 遠くからメイリアが駆け寄ってくる。俺らはとりあえず、ポップは中二病で適当なことを言ったのだと解釈し、メイリアとの食事を続けたのだった。

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    スパゲッティーが好きで笑いかたの初めがニェということは...パピルスw

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