双子転生 -転生したら兄妹に分裂してた。天才双子の異世界ライフ-
第8話 魔法学校と鎧の少女
魔法都市アスパムには魔法学校がある。
といっても俺らがいた世界の学校とはだいぶ趣が違い、義務教育というわけでもなければ高等教育というわけでもない。あくまでも魔法を勉強したい者が訪れる、塾のようなものだ。
魔法を教えるのは学校を運営するフェルグランド家が選んだ魔術師たち。教え方は魔術師それぞれに任せており、授業を開くもの、実技を中心とするもの、自らの研究に没頭し質問されたら答えるものなど様々だ。
生徒側も自由に教師のもとを行き来し、自由に魔法を学んでいる。そして俺らもそんな魔法学校の生徒の一員なのだ。
俺とサリアは今日も連れだって魔法学校にやってきた。俺らはこの町では有名人なので登校すると多くの人々が俺らの方を見る、だが一応最高権力者の一族でもあるので話しかけてくることは稀だ。ただし一部を除いて。
俺らを見ると真っ先に駆け寄ってきた男がいた。
「よーぅご両人。今日もアベック登校か? お暑いねぇ」
俺らを茶化す男の名はトニオ・バッサーニオ、背が高く金髪でどこか遊んだ様子の彼は俺らより少しだけ年上だが対等な友人であり幼馴染だ。元々は5歳くらいの時、宮殿に忍び込んでは逃げるという遊びをしていた悪戯小僧で、その頃に俺らと仲良くなった。
「おはようトニオ。妹さんは元気か?」
「ん、まあな。それより俺のセリフについては返答なしかい? つれないなー、もっとこう恥ずかしがるとかないのか?」
「別に、セイルとは兄妹だもの。トニオだって妹さんとそういう考えは持たないでしょ?」
「いやうちの妹はかわいくないから別だがよ、仮にも街一番の美男美女だぜ? 互いに意識したりしないのか?」
「妹を溺愛してるお前が言うと説得力ないぞ。俺らは互いに意識はない」
「うん、全然」
だって同じ自分なのだから。自分で自分を意識するようなことがるだろうか?
――まあ実を言うと、サリアの容姿には時々どぎまぎとさせられる。ただしそれはサリア本人もそうらしいので仕方がないのだ。もしも逆に、サリアが俺に対しそういった感情を持った時が一番の問題だろうが今のところそういった兆候はなかった。
「ちぇー、双子は相変わらずかー。なんでそんなこう、感情が薄いってか、達観した感じなんだ?」
「それは、まあ……」
「色々あったからね、私たちは」
「やれやれ天才さんはこれだから。とても同じ日に揃っておねしょしてた連中とは思えない」
「なっ!? お、お前、それを言うな!」
「ト~ニ~オ~っ!」
「へへっ、あーばよ!」
トニオは俺たちの手をすり抜けてしたり顔で逃げ去っていった。まったく、と俺らは憤慨する。幼い頃からの付き合いだけあって互いのあれやこれやを知っており、トニオは時たまそれを武器にしてくるのだ。相手が貴族だろうとお構いなしである。その分、分け隔てなく接してくれる心の置けない仲でもあった。
「うう~っ、トニオの奴……」
だがサリアはというと顔を真っ赤にしてぷるぷる震えていた。というのもトニオが語ったおねしょ事件――本当は、彼女だけだったのだ。彼女曰くどうも男と女の体では構造上こらえられる長さが違うらしく、女の体に慣れていない彼女は、精神が子供でないので油断してたということもあり、6歳のある朝見事にやってしまった。15+6年も生きての粗相に絶望する妹を不憫に思い、俺は自分の布団に工作をして、責任を分散させてやったのだった。
そんなことを思い出しながらサリアを見ていたら、それに気付いた彼女は睨みつけてきた。
「なにその目」
「いや、まあ、な……懐かしいなと思って」
「お前からすればそうでしょうけどねえ! 私があの時どれだけ恥ずかしかったか! お前も一度女になってみればいいんだあ!」
「衆人環境でそういうこと言うな、わかってる、わかってるから」
「ぐぐぐ……トニオ、絶対あとでシめる……」
涙目で頬を染めるサリア。自分の分身がこうも動揺しているのは複雑だが、たまに見せるこういった顔はやはり美少女なのだった。
「あっ、セイルさん、サリアさん!」
次に駆け寄ってきたのはヒトミだった。慌ててサリアは平静を装った。
黒髪を揺らしながら嬉しそうに駆け寄ってくる彼女は大量の本を抱えている。
「おはようヒトミ、こっちの生活は慣れたか?」
「はいっ! おかげさまで、大好きな魔法の勉強ができて充実してます!」
ヒトミは例の一件の後、留学という形でアスパムに移り住んでいる。アスパムは魔法都市というだけあって魔術師を志す者の修業の場としても知られ、彼女のように留学する者も多いのだ。
「ああ、憧れの2人と同じ街に住めるなんて……感無量です!」
「オーバーだって……」
「いえいえそんな! 最近なんかお2人と同じ空間にいるだけで調子がいいんです!」
「悪化してるし……まあ、ヒトミがいいなら好きにしなよ」
「はい!」
あの一件を経て、ヒトミの俺らへの憧れはより一層強くなってしまったらしく、彼女はすっかり信者状態だ。彼女がそれで楽しいならよしということにはしている。
ヒトミに限らず、俺らはこの魔法都市アスパムでは特別な目で見られることが多い。地方を納める領主の子であり、何かと注目を浴びるようなことをしているのだから当然ではある。ヒトミのように慕ってくる者もいれば敬遠する者に……明らかに敵視してくる者もいる。
この日、俺らの前に現れたのもその類だった。
「そこのお前ら!」
突然、勇ましい声が響く。声の主は俺らの前に道を塞ぐようにして立っていた。
魔法学園の廊下に立ち塞がったのは1人の少女だった。赤色のロングヘア、腹や腿の出た微妙に露出度の高い鎧を着て、剣を床に突き刺し立っている。その顔はかわいらしいが、エメラルドグリーンの瞳は鋭く俺たちを睨んでいた。
「俺たちに何か用か?」
「あなた、アスパムの人じゃあなさそうだけど……?」
「御託はいい! この私と……んっ?」
少女は剣を抜こうとしたが、少し深く刺し過ぎたのか力を込めても抜けない。
「私とっ……んっ、このっ……わあっ!?」
顔を赤くして力を込めなんとか抜けたが、今度は勢いあまって後ろに倒れてしまった。いたた、と腰をさすっている。だがハッとして俺らを見ると慌てて立ち上がり、また上気した顔で睨みつけ、剣の切っ先を向けてきた。
「この私と、決闘しろ!」
改めて勇ましく宣言する少女。俺とサリアは顔を見合わせ、首をかしげるのだった。
といっても俺らがいた世界の学校とはだいぶ趣が違い、義務教育というわけでもなければ高等教育というわけでもない。あくまでも魔法を勉強したい者が訪れる、塾のようなものだ。
魔法を教えるのは学校を運営するフェルグランド家が選んだ魔術師たち。教え方は魔術師それぞれに任せており、授業を開くもの、実技を中心とするもの、自らの研究に没頭し質問されたら答えるものなど様々だ。
生徒側も自由に教師のもとを行き来し、自由に魔法を学んでいる。そして俺らもそんな魔法学校の生徒の一員なのだ。
俺とサリアは今日も連れだって魔法学校にやってきた。俺らはこの町では有名人なので登校すると多くの人々が俺らの方を見る、だが一応最高権力者の一族でもあるので話しかけてくることは稀だ。ただし一部を除いて。
俺らを見ると真っ先に駆け寄ってきた男がいた。
「よーぅご両人。今日もアベック登校か? お暑いねぇ」
俺らを茶化す男の名はトニオ・バッサーニオ、背が高く金髪でどこか遊んだ様子の彼は俺らより少しだけ年上だが対等な友人であり幼馴染だ。元々は5歳くらいの時、宮殿に忍び込んでは逃げるという遊びをしていた悪戯小僧で、その頃に俺らと仲良くなった。
「おはようトニオ。妹さんは元気か?」
「ん、まあな。それより俺のセリフについては返答なしかい? つれないなー、もっとこう恥ずかしがるとかないのか?」
「別に、セイルとは兄妹だもの。トニオだって妹さんとそういう考えは持たないでしょ?」
「いやうちの妹はかわいくないから別だがよ、仮にも街一番の美男美女だぜ? 互いに意識したりしないのか?」
「妹を溺愛してるお前が言うと説得力ないぞ。俺らは互いに意識はない」
「うん、全然」
だって同じ自分なのだから。自分で自分を意識するようなことがるだろうか?
――まあ実を言うと、サリアの容姿には時々どぎまぎとさせられる。ただしそれはサリア本人もそうらしいので仕方がないのだ。もしも逆に、サリアが俺に対しそういった感情を持った時が一番の問題だろうが今のところそういった兆候はなかった。
「ちぇー、双子は相変わらずかー。なんでそんなこう、感情が薄いってか、達観した感じなんだ?」
「それは、まあ……」
「色々あったからね、私たちは」
「やれやれ天才さんはこれだから。とても同じ日に揃っておねしょしてた連中とは思えない」
「なっ!? お、お前、それを言うな!」
「ト~ニ~オ~っ!」
「へへっ、あーばよ!」
トニオは俺たちの手をすり抜けてしたり顔で逃げ去っていった。まったく、と俺らは憤慨する。幼い頃からの付き合いだけあって互いのあれやこれやを知っており、トニオは時たまそれを武器にしてくるのだ。相手が貴族だろうとお構いなしである。その分、分け隔てなく接してくれる心の置けない仲でもあった。
「うう~っ、トニオの奴……」
だがサリアはというと顔を真っ赤にしてぷるぷる震えていた。というのもトニオが語ったおねしょ事件――本当は、彼女だけだったのだ。彼女曰くどうも男と女の体では構造上こらえられる長さが違うらしく、女の体に慣れていない彼女は、精神が子供でないので油断してたということもあり、6歳のある朝見事にやってしまった。15+6年も生きての粗相に絶望する妹を不憫に思い、俺は自分の布団に工作をして、責任を分散させてやったのだった。
そんなことを思い出しながらサリアを見ていたら、それに気付いた彼女は睨みつけてきた。
「なにその目」
「いや、まあ、な……懐かしいなと思って」
「お前からすればそうでしょうけどねえ! 私があの時どれだけ恥ずかしかったか! お前も一度女になってみればいいんだあ!」
「衆人環境でそういうこと言うな、わかってる、わかってるから」
「ぐぐぐ……トニオ、絶対あとでシめる……」
涙目で頬を染めるサリア。自分の分身がこうも動揺しているのは複雑だが、たまに見せるこういった顔はやはり美少女なのだった。
「あっ、セイルさん、サリアさん!」
次に駆け寄ってきたのはヒトミだった。慌ててサリアは平静を装った。
黒髪を揺らしながら嬉しそうに駆け寄ってくる彼女は大量の本を抱えている。
「おはようヒトミ、こっちの生活は慣れたか?」
「はいっ! おかげさまで、大好きな魔法の勉強ができて充実してます!」
ヒトミは例の一件の後、留学という形でアスパムに移り住んでいる。アスパムは魔法都市というだけあって魔術師を志す者の修業の場としても知られ、彼女のように留学する者も多いのだ。
「ああ、憧れの2人と同じ街に住めるなんて……感無量です!」
「オーバーだって……」
「いえいえそんな! 最近なんかお2人と同じ空間にいるだけで調子がいいんです!」
「悪化してるし……まあ、ヒトミがいいなら好きにしなよ」
「はい!」
あの一件を経て、ヒトミの俺らへの憧れはより一層強くなってしまったらしく、彼女はすっかり信者状態だ。彼女がそれで楽しいならよしということにはしている。
ヒトミに限らず、俺らはこの魔法都市アスパムでは特別な目で見られることが多い。地方を納める領主の子であり、何かと注目を浴びるようなことをしているのだから当然ではある。ヒトミのように慕ってくる者もいれば敬遠する者に……明らかに敵視してくる者もいる。
この日、俺らの前に現れたのもその類だった。
「そこのお前ら!」
突然、勇ましい声が響く。声の主は俺らの前に道を塞ぐようにして立っていた。
魔法学園の廊下に立ち塞がったのは1人の少女だった。赤色のロングヘア、腹や腿の出た微妙に露出度の高い鎧を着て、剣を床に突き刺し立っている。その顔はかわいらしいが、エメラルドグリーンの瞳は鋭く俺たちを睨んでいた。
「俺たちに何か用か?」
「あなた、アスパムの人じゃあなさそうだけど……?」
「御託はいい! この私と……んっ?」
少女は剣を抜こうとしたが、少し深く刺し過ぎたのか力を込めても抜けない。
「私とっ……んっ、このっ……わあっ!?」
顔を赤くして力を込めなんとか抜けたが、今度は勢いあまって後ろに倒れてしまった。いたた、と腰をさすっている。だがハッとして俺らを見ると慌てて立ち上がり、また上気した顔で睨みつけ、剣の切っ先を向けてきた。
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