迷宮壊しは、全ての始まり

篝火@カワウソ好き

第18話 成長の迷宮7part1

◆◆


「ここから先は、私達も今回を含めてまだ二回目だ」


「いつも、この位で迷宮回りしているんのでは?」


カレンは俺の疑問に、呆れた顔を作る。


「お前達も見ていただろう……正直四人パーティじゃ第8層でも、危ないくらいだ。それに私達がいつも稼いでいるのは安息地のある第6層だ」


そう、今は第9層まで俺達は到達していた。


「じゃあ、初回はどうやってここまで辿り着いたんだ?」


「今は詳しくは言えないが、私達の師匠的なパーティと攻略したんだ」


「第8層でそんなこと言ってたな……詳しく聞きたいが、それは攻略し終えてから聞こう。第9層は?」


興味深い話があったが、そろそろダンジョンのフィールドも近づくのを感じた俺はカレンに伺う。


「第9層は、第5層の強化版みたいなものだ」


「強化版?」


「ああ、この層でもリーダーとなる存在がいる。そのまとめあげるゴブリンの中に第6層以降に出てきた盾持ちのゴブリンディフェンダー、弓を使うゴブリンアーチャー、魔法を使うゴブリンマジシャン。この三種が加わる。そして何より厄介なのが、それらを纏めあげるゴブリンリーダーだ。指示出しはもちろん、奴は魔法専門でゴブリン達の後方から中級レベルの魔法を使ってくる。ただ、そいつにも欠点がある。それは、奴が固定砲台で動くことはないということだ。勝利のカギは、如何にして奴の懐に入り込めるかどうか、という点に尽きるだろう」


詳細に説明された内容は、とても理解しやすいものだった。だが、俺は嫌味っぽく笑いを携えてカレンに問いかけた。


「抜け落ちは?」


カレンは顔を引き攣らせて答える。


「今回は、何も無いよ……」


弱った、言い方をする可憐に新鮮さを覚えてニヤニヤしていると足に痛みが……


コアさんそっぽ向いて足を踏むのは止めてッ!


──


「うぉ、まだ気付かれてはいないみたいだけどこりゃ凄いもんだ!」


「何で、それで笑ってるのよっ!」


「ハイハイ……コア、貴女も笑っているぞ……」


「戦闘狂が滲み出てるね、二人共」


スレイの言葉通り、どうやら俺が自覚していた通り、周りにもそう認知されていたようだ。


コアは……まぁ、自覚なしのようだが。それもコアだから許しちゃう!!


「作戦としてはどうする?」


「まずは、前衛ゴブリンは私たちが対処しよう。リーダーとその取り巻きは君たちに任せたい。一撃の火力は君達の方があるようだしな。それで構わないか?」


俺とコアは、カレンの意見に首肯を以て答える。二人の口には笑みが浮かんでいた。


「どうやら気づかれたみたいだ。では、作戦を開始する!」


こうして、第9層における戦いの火蓋が落とされた。


──


「ダン、正面敵を押し込めっ! スレイはその周囲を対処! ミアリーは二人のサポートだっ! 」


「「「了解!!」」」


ここまでは第6層の時と同じ流れだ。ただ、憎いことにゴブリンディフェンダーの数が5枚と多すぎる。どうにも攻め切れる一手が見つからない。


こんな時、彼らだったらどう対処するのであろうか?


アデージュならば、正確無比な一撃で沈める攻撃で各個撃破するであろう。
同職とはいえ異質ではあるが魔法使いのコアならば、一点に向かって高火力の魔法で相手を叩くだろう。


コアの火力が羨ましい。あの、自由自在はいかなる場面でも有効だろう。そして一つの魔法に込められた魔力、その密度には憧れる。


私がこの場面、それらの対処法に寄せるには、初級魔法で正確さ重視にするしかないだろう。



──いや、ちょっと待て……


初級魔法だからといって威力は出ないのか?
それは違うだろう。私は今なんと言った?


魔法に込める魔力、その密度を高めれば良いだけじゃないか!


私は、魔法が発動できる最低限の魔力しか込めてこなかった。それは、常識における手段であり、方法として当たり前のことだった。だが今は、こんなにも近くにその常識とはかけ離れた魔法使いがいるではないか!


「ハハッ、私はもう少し常識の外を見た方が良いらしい」


全く、彼らの常識度外視な戦い方からは学ぶものが多々あるみたいだ。


私も、少しは真似まなぶことにしよう。


「ダン、スレイ! 私が詠唱を始めてから10セカ後だっ! 頼んだぞ!」


彼らは敵との交戦中ながらも笑って、頷いてくれた。
流石は街最強パーティだ。ちゃんと私の意図に気付いてくれる。


「望むは全焼せし一死の矢」


私も、そのパーティの一員、しかもそのリーダーだ。
当然、フェアレスト最強パーティの名を背負える矜持、そうプライドというものがある。


「穿て穿て我がめいの元に」


個人では、ビギナーのアデージュとコアには悔しいが遠く及ばないだろう。だが、私は『完全封鎖シャットアウト』を担うリーダー。ここでうもれるわけにはいかないのだっ!!


「貫けっ『火炎の矢フレイムアロー』!!」


私は、初級魔法を魔力を増やし密度を高めた状態で放つ。それと同時に、ダンらを半円状に囲っていたゴブリンディフェンダーの隊列が右斜め後方に一直線となる。そうパーティの仲間がそうなるように調整したのだ。


私が立つのは皆の左斜め後方。目の前にあるのは隙の見えた並んだゴブリン。


そこに向かうは、猛々しく燃えた一本の魔力矢。


──1体目、消滅。


──2体目、消滅。


──3体目、消滅。


──4体目、消滅。


そして5体目、そのゴブリンには右から射ぬかんとする矢に気付かれた。


矢が届くが先か、ゴブリンが盾で防ぐが先か


「貫けぇぇッ!!」


私は叫ぶ。


そんな願いが届いたのか、目を瞑っていた私の耳にはズサッという音が届いてきた。


目を開いて見た光景は、魔力矢がゴブリンの盾の数セメル横を抜けて心臓部へと突き刺さっているというものだった。


当たった場所が、心臓部以外であればまだ奴の息はあったであろう。


しばらく時間が経った後に、5体目は遂に消滅した。


その瞬間をしっかりと見届けたあと私は安堵の溜め息をついた。


そこに駆け寄ってくるメンバー達。


私は目を閉じ口元に笑みを作り思いを馳せる。


アデージュとのコアに付いて行けば、まだまだ私達は成長できるだろう。


そうすれば私達の祈願もいずれは果たされるであろうと確信が持てる。


その為には、まず目の前の成長の迷宮を彼らと共にクリアしなければならない。


だが彼らとなら、それは達成できるだろう。


私はそんな想いを持って、アデージュ達に視線を向ける。


その視線の先には、どんなに体格の差があろうと笑みを浮かべ勇敢に戦う彼らの姿があった。


──いやっ、何笑ってんだよっ!!


どうやら彼らを見るとツッコミを入れてしまうのは、いつの間にか常識になったらしい。

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