迷宮壊しは、全ての始まり

篝火@カワウソ好き

第5話 夢語り放置迷宮に行く☆

攻略者ギルドを出て、俺が滞在している宿屋に着く頃には正午を既に回っていた。


宿屋に入ると、食堂でおっさんと奥さんが談笑していた。


どうやらおっさんの仕事は、午前で終わったようだ。


「お、少年今日は早いな。午前中は何をしてきたんだ?」


「武器を買って、攻略者ギルドでカードを作ってきたところです」


俺はそう言いながら、作ったカードを見せた。


「とゆうことは、いよいよ迷宮デビューか!?くぅぅ若いねー、行先は街中迷宮か?」


「いや、外に出てくる予定です」


「何!? 放置迷宮にでも行くつもりか!? 危ないぞ!!」


おっさんは俺にいかに放置迷宮が危険かを諭した。


だが、俺はそう言われたからといって、それで引くことは出来なかった。


「衛兵さん……俺は夢を見たいんだよ。俺が目指しているのはソウルステージ6の領域に憧れがあるんだよ。光が見たい。その空気を味わいたい。そして、歴史を名を残したい。俺はな、『ブランクワーカー』なんだ。それこそ昔は名を残すことの多いな。けど今の達は見てられないんだ。だったら俺が再び輝く道を……『ブランクワーカー』は輝けるんだッていう希望の道を俺の手で示していきたいんだッ!!」


ヤベェー、勢い余って柄にもなく夢まで語っちまった……ダサいな俺。口調まで変わっちまってるし……


そう思いながら情けない顔でおっさん達を見ると、目に涙を浮かべていた。


「わ、悪かった……俺たちが口出しするような事じゃなかったな」


「大丈夫、俺だってこれから険しい道のりがある事、想像以上に厳しいモノになるって事は想定済みだ」


俺はおっさん達が泣いている事に驚きはしたが、俺の情けない顔はいつの間にか自然な笑顔になっていた。


「しばらくの間、この街を出る。2週間分先払いしとくから部屋を空けといてもらえないかな?」


俺は一日しか泊まっていないが、ここの人は温かく優しいもので、もう少し過ごしていたいと思い頼むことにした。


「気にしなくていいぞ。あの部屋は元々はただの空き部屋だ。この街のお前の部屋だとして使ってくれて構わない。あ、金もいらないぞ、なっ!」


「ええ、もちろんよ! 貴方はこの街では私たちの友達としてここに迎えてあげるわ!」


俺は、呆然としたのち、思いっ切りかぶりを振るった。


「おいおいッ、それは悪いだろッ!! 俺はそこらのヘッポコだぞッ!!」


おっさんは俺の言葉に、首を振って奥さんと目を合わせたのち、もう一度こちらを向いて奥さんと共に口を開いた。


「「英雄になるんだろッ(なるのよねっ)!!」」


「だったら、それが出世払いだ! さっさと有名になってこの宿屋を大々的に宣伝してくれ!!」


「その通りよ! 私たちの宿屋を英雄を輩出した宿屋にしてちょうだい!!」


俺の瞳から、一筋の線が落ちる。涙が出てきたのだ。
拭っても拭ってもまた出てくる。
感動で涙を流したのは初めてのことだった。


けれど、早くお礼を言いたくなった俺は、泣き止むことなく笑顔で言葉を紡いだ。


「ありがとう」


それを聞いたおっさんと奥さんは笑ってくれた。


こんなに優しい二人に出会えた俺は幸せだと、これからも感謝して生きていこう、そう思えた。


「そうだ少年、のちに世間に轟く名前を教えてくれるか?」


「アデージュ=クライストス。それが俺の名前だ。忘れんなよッ!!」


俺は最後の涙を拭い、思いっ切り歯を見せて、笑顔で言い放った。


「あと、親しい人は俺の事をアディーって呼ぶ。あんた達とも、会って二日目だがもう親しい間柄だと思っていいのなら、そう呼んでくれ。あとあなた達の名前も教えてくれ」


「俺の名前はローランド=クラッシュだ!」
「私の名前はアイラ=クラッシュよ!」


「家名、『クラ』繋がりだな! 親近感が湧く!」


くだらない事だが、何だか俺は嬉しくなった。


そこから三人で話に花を咲かせてしばらく笑い合った。


話し終える頃には、時間は午後3ハワを回っていた。
どうやら2ハワン以上も話し込んでいたようだ。


「じゃ俺はそろそろ放置迷宮に向かうとするよ」


「そうか、気をつけろよ」


「無理しちゃダメよ」


「ああ、もちろんだ」


すっかりタメ口で話すようになっていた。
俺は、身を案じてくれる二人の言葉に嬉しさを噛み締めた。


彼らは此処を俺の家とも言ってくれた。
だったら今はこう言うべきだろう。


「行ってきます」


「「行ってらっしゃい、アディー!!」」


二人も笑って、そう言ってくれた。


俺は彼等を第二の家族だと思って、大きく手を振ってから宿屋を後にした。


──


宿を出た俺は、尊敬していた人の言葉を思い出す。


『攻略者は良いぞ! 仲間とともに過ごすってのは最高だッ!! 一緒に狩りして、一緒に酒を飲む。それが醍醐味だ!!』


俺はその話を聞いて、想像上の攻略者に憧憬を抱いた。


しかし一転、あの日、憧れの男はボロボロの身体で故郷へと戻ってきて、こう口にした。


『ブランクワーカーの何がそんな差別の対象になるんだよ……』


そう彼は危険に陥ったダンジョン内で、『ブランクワーカー』だからといって囮役に無理やりされたのだ。


そう口にすると、意識を保つのがギリギリだったのか彼は、彼の、俺達の故郷に入ると、早々と命を落としたのだ。


俺はこの日から目標が決まった。確かに憧れていた男を囮にしたやつは許せないが、『バトルワーカー』『クリエイトワーカー』だからといって憎悪の気持ちはそれほど持ち合わせてはいない。


ただ一つ、『ブランクワーカー』だからと落ちぶれている、といった風潮に嫌気が差したのだ。


だからこそ、そんな風潮、俺が変えてやる。


その意志を胸に刻んで、故郷を出たのだ。


俺は、ソレを心の中で再び再認識すると街の門の方角へと足を進めていった。


◆◆


俺は、街を出て30ミニュン歩いたのちに、人目のつかない所である事を試してみる事にした。


「〈完全解析アナリシス〉[探知サーチ]オぺレート」


地に手をつき、ユニークスキルを発動する。


地を解析する事で、地下へと重なる層を探す。


それが俺の考えた放置迷宮の探し方だ。[探知]はスキル派生にないが俺のエゴで無理やり派生させてやる!!


失敗したらまた、宿屋に出戻り。


──ヤッベー、それだけはマジでしたくない……


アレだけ威張っといて、ただ今帰りました、とか俺死んじゃうわソレ……


地に手をつけること5ミニュン。派生は完全に出来た!そして


──ようやく、見つけたッ!!


南東の方角へ距離は約3キル。


すぐに着く距離だ。


「今すぐ見つけに行ってやるぞォォォッ!!」


俺は南東の放置迷宮らしき所へと一直線に駆け抜ける──ことは無く、道中おなじみのウルフ共とご対面。


丁度いい試してみたかったんだよなコレ。


そう思って取り出したのはコレ。


──チャクラム


──────────


『チャクラム・空絶輪』


・素材[ミスリル]
・有効利用[魔伝導率の高さを生かした属性付与]
・最良使用[並んだ5匹の中で一番右のウルフの横腹に曲げて当てるように投げる]


──────────


正直今初めて詳細見ました……。


なんか色々ツッコミないことあるんだけどッ!!


まず名前。空絶輪って何? 輪の字、人偏に変えるだけでやばい事になるんだけどッ!!
そのままでも空絶って!!どんな鋭さだよコレ……。


あと素材。ミスリルとか普通地上に出回らねーよッ!! 持ってるだけで価値を知るヤツが見たら絶対押し寄せてくるやつじゃん。


あの幽霊バカなの!?


あと属性付与って? 付与の魔法のことか?
使えんから意味ねーじゃん!!


あ、これは今後覚えていけばいいか……。


要はこの武器……


────マジで有能乙。


コレでしかもチャクラム特性で投げたら手元に戻ってくんだろ!?


やば過ぎだろ。


慣れなきゃ危ないッて言ってたけどそんなことないだろ!?


て事で、俺はチャクラムをブーメランの要領で完全解析アナリシスの[最良使用]さんの指示に従って投げる。


すると、


──ズバッ×5


ウルフの身体を5匹全部野原を掻っ切って、勢いそのままに俺の方へと戻ってくる。


ここでようやく俺は気づいた。


このチャクラムドウヤッテトンノ?


目の前残り10メル。


俺の起こした行動は……


──いや、避けるしかないでしょコレ。


何、あの輪っかに指を通せって!?


そんなのビビリの俺に出来るわけないじゃん。


俺のステータス見るか!?


──────────


[アデージュ=クライストス]15


〈ブランクジョブ〉アナリスト


〈ソウルステージ〉1


〈習得スキル〉
万物解析アナリシス(U)
[鑑識][最適解][探知]
・投擲




〈習得魔法〉


〈ステータス〉


力・・・162─F
魔力・・73──G
物防・・181─F
魔防・・85──G
敏捷・・220─E
知力・・267─E


──────────


おいちょっと待て……??


なんだ『豪胆』って?
いつこんなスキル手に入れたよ、アァアンッ!?


ステータスも地味に上がってるし……


そこまで、キャッチアンドリリース戦法を取らせたいか俺に……。


──いいぜ。やってやんよッ!!


そこからの俺は一方的だった。


アディー流チャクラムの蹂躙劇。


ウルフ共は辺り一面、1匹たりとも息をしてなかった。


そう、アディーは短時間でチャクラムに慣れたのだ。


俺って凄すぎね!? 天才やろ!!


俺は高笑いをしたいが、その気力が出てこない。


ゼェハァ、ゼェハァ


チャクラムに慣れると決めてから約1ハワン、ぶっとうしで投げ続けた俺は息遣いがとんでもなく荒かった。


しかしまあ、こうしてウルフ共を蹂躙していく内に目的地までの約3キルの距離を50メルの距離まで詰めていた。


そして今、目の前に放置迷宮らしきものが見えた。


──間違いない……あれは放置迷宮だッ!!


目の前にあるは奇妙なオーラを放っていた。


それが確信へと至ったのだ。


──ようやく、俺の挑戦が始まる……


そうつばを飲み込んだ俺は、迷宮へと駆け出した……



          

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