幼女転生から始める異世界解読術

りょう

第59話 再会の姉妹 前編

 ユウニの声がした。

 本に戻ったはずのユウニの声が。

「そんなわけないよね」

「私を死人みたいな扱いしないで」

 また声がする。今度はその正確な場所が分かった。

「預言書が喋った?!」

「ユウ、わざとらしすぎ」

「あ、すいません」

 ユウニの声がしたのは預言書からだった。今まで少女の姿だった分、本が喋るのはとてもシュールに感じてしまう。

「本に戻っても喋れるの?」

「そうみたい。声が届くのに時間はかかったけど」

「じゃあさっきまでの事も見てたの?」

「見てたから言った」

「まあ、それはそうだよね」

 そうでなければ、あんな事は言わないわけで。

「ユウの気持ちが伝わっていなかった。本気ならもっと言葉を選べたはず」

「そうは言うけど、アジュールが言っていた事も間違っていなかったし、長く生きていたなら自分達だけ犠牲になるのが嫌な気持ちも分かるよ、私は」

「私はそれが世界の為なら、この身を捧げても構わないと思っている」

「それはあくまでユウニの意思でしょ? カナデの気持ちも聞いていないし」

「残りの二人は説得するしかない」

「説得って……」

 あんなに頑なに嫌っていたアジュールが頷いてくれるとは思えないし、何より預言書の方のカナデとはまだまともに言葉も交わしていない。
 その二人を説得するのが、この自分にできるのだろうか。

「とにかく今は時間を置くしかない。だからその間にユウには向かってほしい場所がある」

「向かってほしい場所?」

「私を見つけたあの場所に連れて行ってほしい」

「ユウニを見つけた場所?」

 それってサラスティア王国の事を言っているのか? でも俺、その場所までの道のりを全く覚えてないけど。

「道なら預言書を見ればいい。ユウがここまで進んできた道がしっかりと預言として残されているから」

「あ、そっか。でもどうしてサラスティアに?」

「私は預言を終えてしまった身。元ある場所に戻してほしい」

 ■□■□■□
 アジュールとはまた時間を置いて会いに行く事にして、俺は本となったユウニと共にサラスティアへ向かうことに。

「元に戻してどうするの? 世界も救う事できないんじゃないの?」

「私を元に戻したあとのことは改めて説明する。もうこの姿になってしまった以上、私に残された事は一つしかないから」

「残された事? 預言以外の事で?」

 ユウニは何も答えない。どうもユウニは本の姿になってしまってから様子がおかしかった。特に本の姿になってしまった直前、彼女はこうなるはずじゃなかったと言っていた。
 俺はその言葉がずっと引っかかっていて、あの場所で本来なら何が起きたのだろうかと考えてしまう。

「そもそもあの場所にカナデが現れる事はなかった」

「え?」

「私達はあの場所では何も起きずに、真っ直ぐにノアへと到着する事になっていた」

「じゃあカナデが未来を変えたの?」

「それだけじゃない。他にもきっと彼女は……」

 意味ありげなセリフを言うユウニ。その言葉を聞いて、一つ思い当たることがある。それはフリスの事だ。
 多分ユウニはこの旅にちゃんとフリスも付いてくる事になっていたから、その役目を俺に託したのだろう。だけど、それもまたイレギュラーな事が起きたことによって、全てが狂っていた。

(フリスが俺に意地でもユウニと二人で行かせようとした本当の理由って……)

 流石にそれは考えすぎか。

「……ユウはたまに鋭すぎら所がある」

「何か言った?」

「何でもない。それよりもうすぐサラスティアに到着する」

「あ、本当だ」

 実は既にノアを出発してから三日が経っている。その間、殆ど俺とユウニは会話をしておらず、痺れを切らせて俺が今日彼女に話しかけていた。

「帰ってこれちゃった」

「書いてある通り進んだんだから当たり前。さあ、早く私を元の場所に」

 ユウニの言う通りに俺はサラスティアへと足を踏み入れる。相変わらず人の気配が全くない国だが、この場所にはアーニスさんがこの場所を守る為に住み続けている。

(久しぶりに帰ったし、顔を出しておくか)

 流石に挨拶もなしにあの図書館へと行くのも失礼なので、俺は一度サラスティア城へと足を運ぶ。

「ユウ、待って」

「どうしたのユウニ」

「ここに戻るのは失敗だったかもしれない」

「え?」

 その言葉とほぼ同時に、俺は鎧を纏った騎士に囲まれた。まるで俺がこの場所にやって来るのを分かっていたかのように、そいつらは姿を現した。

「動くなエルフの少女」

「え、ちょっと、これはどういう」

 突然な事に俺は動揺する。そしてその騎士達を掻き分けて、一人の女性が姿を現した。

「貴様が預言書を集めていると噂のエルフだな」

「だとしたらどうするの?」

「大人しく付いてきてもらう。貴様に拒否権はない。これは中に捕らえている奴のためでもある」

「まさか……アーニスさん?!」

「この国の元王女は既に囚われの身だ。そして貴様もこれから、同じ身となってもらう」

 堂々と言いのける騎士の女性。彼女が言っていることが本当かは分からないが、こうして囲まれている以上は、ここは大人しく、

「まさか私が知らない間に、妹に手を出すとは思っていなかったわよ、クスハ」

 従おうと思った瞬間、その声は俺達の頭上からした。

「っ!? 何故お前がこの場所に」

「それはこっちの台詞よ」

 そしてその声の主は俺の隣に着地した。

「お、お姉ちゃん? どうして」

「……すこし見ないうちに背が伸びたわね、ユウ」

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