幼女転生から始める異世界解読術

りょう

第58話 対立する意志

 アンジュールと名乗った三冊目の預言書の少女。ユウニ達とは違って、堂々とした立ち振る舞いをしていて、若干威圧感があった。

「その手に持っているのは、一冊目の預言書だな。ユウ殿、よくぞここまで持ってきてくれた」

「本当は持ってくるんじゃなくて、連れて来ていたんです。だけど」

「分かっている。ここまでの事も、これからの事も」

「それはやはり、預言書だからですか?」

「そのあと疑問は愚問だと言いたいが、実は半分間違っている」

「なら他の理由は」

「その辺りの話は追々するとしよう。こんな場所じゃ話しづらいだろう。我についてくるがよい」


 降りて来た階段を上り始めるアンジュール。俺はそれを黙って追った。俺はその間も、ユウニの事を眺めていた。そう言えばユウニは預言を終えたからこの姿になったとカナデは言っていたけど、実際のところはどうなっているのだろうか。
 俺はアジュールを見失わないようにしながら、預言書を開いた。以前開いたときは、直後に少女の姿になったが、今日はそれすらも起きず中には文字がビッシリと書かれていた。

(確かにユウニが言っていたような事ばかりが書いてあるな……)

 難しい言葉で記されてはいるものの、俺は解読術があるので何の問題もなく読み進める。そこには俺がこの世界にユウとして転生してきた最近の出来事から、他の本で読んだような歴史もそこには記されていた。

「カナダ殿が言っていた通り、どうやら読み解けるようだな、預言書を」

「え、あ、まあ」

「そうなるとユウ殿はこの世界でも貴重な存在というわけか。どうりで、カナデ殿が会わせたがっていたわけだ」

「多分カナデお姉ちゃんは、その事は知らなかったと思いますけど」

「ならなぜユウ殿は、我に会いに来た」

「それは……」

 今俺の手元には二冊の預言書がある。それを集めていた理由は、世界を守る為なのだが、それが彼女に通用するとは思えない。

「ユウ殿は確かに、この世界でも希少な妖精族の長とも知り合いのようだな」

「フリスの事ですか? 確かに彼女は妖精ですが、別に長というわけでは」

「ならその預言書を見てみるがよい」

 アンジュールに促され、俺は再び預言者に目を通す。確かフリスと出会ったのは、あの輪廻の森に入ってしまった時だから、確かこの辺に……。

『エルフの少女ユウは、妖精族の長であるフリスと出会い、その後行動を共にする』

 確かにそこにはそう書かれていた。フリスがただの妖精族ではなくその長であると。俺はその記述に目を疑ったものの、なんども見てもそこには間違いなくそう書いてあった。

「フリスが妖精族の長……。ならどうして国から逃げて来たんだろう」

「預言書には心理的なものは記述されていない。その代わり、書いてある事実が嘘ではない事は確かだ」

 その記述の信憑性は確かに高い。けどユウニが先日言っていたように、少しずつであるが預言の未来が変わり始めているのもまた事実。
 だから全てがあっているとは限らないものの、フリスと出会った事自体は間違っていない。

「あの、ユウニ……この預言書が言っていたんですけど、今この世界の未来が変わり始めているというのは本当なんですか?」

「本当だ。この世界は今預言すらも凌駕して、大きく変わり始めている」

「なら預言書は信じていいものなんですか?」

 俺の言葉にアジュールは足を止める。そして彼女は俺に振り返るなり、俺を睨んできた。

「信じていいも何も、我らの預言はこの世界の為のものだ。それを否定する事は、この世界を否定する事になるぞ」

「別に否定しているわけじゃありません。私はただ、この世界を救いたいんです」

「世界を救うだと。それだと我らが悪みたいじゃないか」

「悪とは言っていません。けど、それを巡って争いが起きているなら、私はこの世界に預言書はいらないと思っているだけです」

「ふざけた事を言うな!」

 叫ぶアジュール。彼女はユウニと違って、この世界に預言書は必要だと思っているのだろう。そう思っていなければ、自分を否定する事になるから、彼女はそれを嫌っている。

「この世界に我らがいらないだと?! だったら、これまでずっと生きてきた我らの気持ちはどうなる。この姿になるまでずっと本として長い時を生きてきた我らの気持ちは!」

「なら、世界はこのまま破滅に向かってもいいと言いたいんですか? その方が間違っていますよ!」

「その未来が避けられないものなら、それを受け入れるまで。我らだけ消されるくらいなら、世界の終焉の最後まで真っ当に生きた方がマシだ! 世界の為の犠牲など真っ平ごめんだ」

「アジュールさんがそう思うなら、私はそれでも構いません。でも私は……私のやり方でこの世界を救いますから」

「ふん」

 結局俺は、部屋へと通される前にこの城から出て行く事になった。本当は色々聞きたいことがあったけど、考え方が違うなら話をしても意味がない。
 本当ならここで彼女も仲間にして、次の行動へと移ろうと思ったけど、今はそれは難しい。

(アジュールが言いたい事は間違っていない。けどユウニの思いも間違っていない)

 救われる未来と救われない未来

 今の預言書に記されているのは、救われない未来だろう。けどそれを変える一歩には、確実に三冊の預言書が必要になる。
 だからアジュールには分かってもらいたい。今この世界には何が必要なのかを。

「アジュールを説得できないなんて、情けない。ユウ」

「え?」

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