幼女転生から始める異世界解読術

りょう

第49話 求めてきたもの

 俺が奏を見つける為に向かったのはあの泉。スズの説明には、その泉の底に眠っているらしいが……。

(問題はその泉の底にどうやって行くかだよな)

 一つの方法として考えられるのは、少し前に泉が一周している間に僅かに量が減っていたのがヒントなのではないかという事。本来なら泉の中に何かがあるなんて考えもしないが、スズの言う通りならこの中に……。

「待ってください、ユウさん!」

 ようやく泉にたどり着いたと同時に背後からスズが俺を呼ぶ声がした。わざわざここまで追いかけてきたのだろうか。

「スズさん、どうしてここまで追ってきたんですか?」

「どうしても何も、ユウさんを止める為ですよ」

「私が奏に会おうとして何が悪いんですか?」

「それだけは……駄目なんですよ、ユウさん」

「どうしてですか?」

「それは……」

 その先から言葉を発しないスズ。さっきもそうだったけど、彼女は何故そこまで俺に奏と会わせたくないのだろうか。別に俺は何か悪い事をしようとしているわけでもないのに、どうして彼女は……。

「とにかく今は駄目なんですよ」

「今はって事は、いつかはいいんですか? なら、そのいつかも今だっていいじゃないですか」

「こんなに言っても分からないなら、力づくでも止めさせてもらいますよ」

「分からないのはスズさんの考えです。そこまで意地になる理由が私には」

 だがその時だった。それが起きたのは。

『龍ちゃん』

 俺の耳に奏の声が聞こえた。前にも同じものを聞いたが、今度は幻聴ではない。確かに彼女の声が耳に届いた。

「奏……?」

「ユウさん?」

『龍ちゃん、駄目』

「え?」

 駄目って何がなんだ奏。

『私待っているから。龍ちゃん。だからまだ会えない』

「どうして……?」

『ごめんね』

 そう一言残して、その声はまた聞こえなくなってしまった。奏までもが俺と会うのを拒絶しているって、どういう事なんだ?

(それにまだって)

 なら、いつ俺は彼女に会いに来ればいいのだろうか。

「ユウさん、帰りましょう。明日も早いですから」

「でも私まだ」

「いいから帰りますよ、カナデさんの為にも」

「……」

 もう言い返す気力も湧かなかった。
 奏にまでああ言われてしまったら、今の俺はどうにもできない。

 俺がずっと求めてきた答えはこれだったのだろうか。

 もう聞けなかった声をまた聞けたのに、それなのにこんなに辛いものを……。

 俺はずっと求めていたのだろうか。

 ■□■□■□
 一夜明けて。俺とスズ、そしてフリスが森のとある場所に立っていた。この場所から森を脱出すると言っていたが、俺の中には不安しかない。

 スズを信じていないわけではない。

 俺が不安なのは、俺自身だった。

「ユウさん、もしかして眠れていませんか?」

「はい……」

 昨日のあの後から、俺は一睡もできていなかった。最終目的が奏に会うというわけではなかったのに、喪失感がすごかった。

「私にはどんな言葉が聞こえたかは分かりませんが、本当にカナデさんの声を聞いたんですよね」

「幻聴ではない限り、あれは絶対に奏の声でした。それなのに奏は……」

「カナデさんは分かっていたんですね、リュウノスケさんの事を」

「え?」

 彼女が何を言ったのかも教えてないのに、まるで何かを悟ったかのようにスズは言った。今思ったけど、彼女は一体何者なんだ。ただの孤児院の経営者だと思っていたのに、預言書を持っていたり、まるで全て分かっているような口調をしていたり、謎多き事ばかりだった。

「スズ、そろそろ出よう?」

「あ、そうですね。では」

 だがそんな様子の俺を無視して、スズは突然何かを唱えたかと思うと突然目の前の森が道を示すかのように開けた。呪いの魔法がかかっているかの森に、彼女は何かの魔法かけた。

「一体何が起きたんですか?」

「それは機密事項です。それよりほら」

「え?」

 森が開けた先に待っていたのは、半月前に俺が逃げ出してきたスービニア。何か事件でもあったのか、スービニアの一部に焼け跡が見られる。

(帰ってきたのか、俺はこの場所に)

 時間がかかると思っていたことが、一瞬で全て解決した。最初からこうすればよかったのではないかと思っていたが、記憶を取り戻さなければこの考えには辿り着かなかった。

 まるでこうなる事が決まっていたかのような感じだった。

「さあ行きますよ」

「え、今何があったのかは説明してくれないんですか?」

「それも機密事項ですよ」

 何事もなかったかのように歩き出すスズ。その後をフリス、そして俺という順番で追う。入口からしばらく歩いた先に、ラーヤ達が暮らしている屋敷があるが、そこへたどり着く前に見覚えのある顔がそこに現れた。

「ラーヤ?」

「っ! ゆ、ユウ、いつの間に帰ってきたの? それにスズさんまで」

 ラーヤは焼け跡の後片付けをしている真っ最中だった。突然現れた俺達に腰を抜かす、ラーヤだかすぐに立て直すと俺の元にやって来て……。

「よかったラーヤ、無事で……」

 思いっきり俺にビンタをかましてきた。身長差があるのに、かなり爽快な音が鳴り響き、俺の頬はヒリヒリ痛む。

「どれだけ心配したと……思っているのよ馬鹿!」

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