幼女転生から始める異世界解読術
第43話 Stand up
俺のためにユウが自ら死んだ。
そんな事を一度も考えたことがなかった。でも今までの情報を整理したとき、何故かその可能性を否定できなかった。
(いや、そんな事は……)
ないと信じたかった。そうでもしないと、彼女の存在を忘れてしまっていた俺は、彼女に合わせる顔もない。
何故俺はこの世界の事を忘れていた。
何故俺は奏と過ごしたこの場所を忘れていた。
何故俺は命を張ってくれた少女の名前を忘れていた……。
「流石に信じたくないですか、こんな話」
「信じるも何も私は」
「何も覚えていないから分からない、ですよね」
何も答えられなかった。当事者であるはずなのに、何も思い出せない。
(思い出したくない、だけなのか)
もしかしたら俺の記憶喪失は自ら望んだものだったりするのだろうか。
「私は決してリュウノスケさんを脅しているわけではないんですよ。ただあなたには、事実ともう一度向き合ってもらいたいんですよ」
「向き合う?」
「違和感を覚えないのですか? 今この世界に足りない人物がいることを」
「足りない人物?」
そうだ、奏がいない。
今までたどってきた記憶から考えられるのは、奏が重傷を負ってしまったこと。だけどそれより先の事はまだ思い出せていない。
奏が今ここにいないという事実。
それが示しているのは……。
「私以前カナデちゃんについて、預言書の少女に言いましたよね。もうあの子はいないって」
「い、言ったけどまさか」
「その通り。もうカナデちゃんはこの世界にいません。既に亡くなっています」
「どうして」
「それは……」
そこから口ごもるスズ。この様子だと何か知っているような感じに見えるが、これは俺自身が思い出すべきことなのだろうか。
(向き合うって言っていたし、俺が関係しているのか?)
でもあの時彼女はちゃんと生き残っている。それなら、別の原因が彼女を死へと至らしめた事になるが。
「幼馴染の事を考えるのも悪くはないですが……自分の事は考えないんですか?」
「え?」
「こうして転生をしているという事は、あなたはこの世界で何度も死を迎えているんですよ」
スズもラーヤ達と同じ事を言っている。俺は何度も死んでいると。だけどそこまでの記憶は俺にはない。というか時間の経過から考えると、俺は短時間で何度も死を繰り返しているという事になる。
果たしてそんな事はあり得るのだろうか。
「私そんなに死んでいるんですか?」
「正確にはリュウノスケさんがですが、その回数は計り知れないくらい繰り返しているんですよ」
「計り知れないって……」
頭が混乱し始める。あの時ラーヤ達に突きつけられた時と同じように、もう何が何だか分からない。あわよくばこの場所からまた逃げ出したい。
奏がもういない事。
ユウが自分のために死んでしまったかもしれないという事。
そして俺が何度も死を繰り返しているという事。
これらを一度に言われたら誰だって……。
「はは、おかしいですよスズさん。そんな話いくら記憶を取り戻したって受け入れられるわけないじゃないですか」
「リュウノスケさん、それが事実なんですよ。今あなたがやるべき事は今ある現実を受け入れて、前へ進むことですよ」
「だからそれができないって言っているじゃないですか」
逃げたくなる。全部から。
「時間を掛ければ」
「奏が死んでいるなんて言われて、そんな現実逃げたくなるに決まっているじゃないですか!」
たとえずっと前から俺の中で奏が死んでいた事を認識していたとしても、それだけは改めて言われても受け入れられない。
何故なら俺は、ずっと彼女の死を受け入れられていないのだから。
「……そんなに現実が嫌なら、私達の目の前から消えてくださいよ」
え?
「今なんて」
「何を勘違いしているか分からないですが、あなたが死を繰り返している事を誰より苦しんでいるのは、私達なんですよ? それも知らないで現実ばかりから逃げるというなら、もうどこかに行ってください! 私達も苦しみたくないんですよ」
この時俺は初めてティナの行動の意味が分かった気がした。彼女はユウの中に俺がいる事を知っていながら、ああやって普通に接してくれていた。けど俺は何も覚えていなくて、繰り返している事すらも知らなかった。
だから彼女は何とかして俺を苦しみから解放してくれようとしていた。
同時に俺という存在から己が解放されるために。
「スズさん、私は……」
「現実が苦しいものだというのは私も分かっています。でも、受け入れた先に幸せがあると思うんです。リュウノスケさんの役割は、この世界を救う事なんですよね」
「どうしてそれを」
「ずっと言っていましたから。皆知っていますよあなたが抱えている物を」
「私ずっとそんな事を」
少しだけ恥ずかしかった。でも今もっとずっとその思いは忘れずに残っている。つまりそれは、
この世界を救いだしたいくらい好きだという事。
転生し続ける意味ももしかしたらそこにあるのかもしれな。本当の意味は分からないけど、俺のせいで苦しんでしまっている人達もいるなら、俺はそれを救いだしたい。
「まだ全部を思い出せていないかもしれませんけど、私少しでも前に進みたいです」
それが過去から今へと辿ってきた記憶が俺を導いてくれた答え。
まだ先が見えないかもしれない未来への答え。
俺はその未来へもう一度歩みだす。
そんな事を一度も考えたことがなかった。でも今までの情報を整理したとき、何故かその可能性を否定できなかった。
(いや、そんな事は……)
ないと信じたかった。そうでもしないと、彼女の存在を忘れてしまっていた俺は、彼女に合わせる顔もない。
何故俺はこの世界の事を忘れていた。
何故俺は奏と過ごしたこの場所を忘れていた。
何故俺は命を張ってくれた少女の名前を忘れていた……。
「流石に信じたくないですか、こんな話」
「信じるも何も私は」
「何も覚えていないから分からない、ですよね」
何も答えられなかった。当事者であるはずなのに、何も思い出せない。
(思い出したくない、だけなのか)
もしかしたら俺の記憶喪失は自ら望んだものだったりするのだろうか。
「私は決してリュウノスケさんを脅しているわけではないんですよ。ただあなたには、事実ともう一度向き合ってもらいたいんですよ」
「向き合う?」
「違和感を覚えないのですか? 今この世界に足りない人物がいることを」
「足りない人物?」
そうだ、奏がいない。
今までたどってきた記憶から考えられるのは、奏が重傷を負ってしまったこと。だけどそれより先の事はまだ思い出せていない。
奏が今ここにいないという事実。
それが示しているのは……。
「私以前カナデちゃんについて、預言書の少女に言いましたよね。もうあの子はいないって」
「い、言ったけどまさか」
「その通り。もうカナデちゃんはこの世界にいません。既に亡くなっています」
「どうして」
「それは……」
そこから口ごもるスズ。この様子だと何か知っているような感じに見えるが、これは俺自身が思い出すべきことなのだろうか。
(向き合うって言っていたし、俺が関係しているのか?)
でもあの時彼女はちゃんと生き残っている。それなら、別の原因が彼女を死へと至らしめた事になるが。
「幼馴染の事を考えるのも悪くはないですが……自分の事は考えないんですか?」
「え?」
「こうして転生をしているという事は、あなたはこの世界で何度も死を迎えているんですよ」
スズもラーヤ達と同じ事を言っている。俺は何度も死んでいると。だけどそこまでの記憶は俺にはない。というか時間の経過から考えると、俺は短時間で何度も死を繰り返しているという事になる。
果たしてそんな事はあり得るのだろうか。
「私そんなに死んでいるんですか?」
「正確にはリュウノスケさんがですが、その回数は計り知れないくらい繰り返しているんですよ」
「計り知れないって……」
頭が混乱し始める。あの時ラーヤ達に突きつけられた時と同じように、もう何が何だか分からない。あわよくばこの場所からまた逃げ出したい。
奏がもういない事。
ユウが自分のために死んでしまったかもしれないという事。
そして俺が何度も死を繰り返しているという事。
これらを一度に言われたら誰だって……。
「はは、おかしいですよスズさん。そんな話いくら記憶を取り戻したって受け入れられるわけないじゃないですか」
「リュウノスケさん、それが事実なんですよ。今あなたがやるべき事は今ある現実を受け入れて、前へ進むことですよ」
「だからそれができないって言っているじゃないですか」
逃げたくなる。全部から。
「時間を掛ければ」
「奏が死んでいるなんて言われて、そんな現実逃げたくなるに決まっているじゃないですか!」
たとえずっと前から俺の中で奏が死んでいた事を認識していたとしても、それだけは改めて言われても受け入れられない。
何故なら俺は、ずっと彼女の死を受け入れられていないのだから。
「……そんなに現実が嫌なら、私達の目の前から消えてくださいよ」
え?
「今なんて」
「何を勘違いしているか分からないですが、あなたが死を繰り返している事を誰より苦しんでいるのは、私達なんですよ? それも知らないで現実ばかりから逃げるというなら、もうどこかに行ってください! 私達も苦しみたくないんですよ」
この時俺は初めてティナの行動の意味が分かった気がした。彼女はユウの中に俺がいる事を知っていながら、ああやって普通に接してくれていた。けど俺は何も覚えていなくて、繰り返している事すらも知らなかった。
だから彼女は何とかして俺を苦しみから解放してくれようとしていた。
同時に俺という存在から己が解放されるために。
「スズさん、私は……」
「現実が苦しいものだというのは私も分かっています。でも、受け入れた先に幸せがあると思うんです。リュウノスケさんの役割は、この世界を救う事なんですよね」
「どうしてそれを」
「ずっと言っていましたから。皆知っていますよあなたが抱えている物を」
「私ずっとそんな事を」
少しだけ恥ずかしかった。でも今もっとずっとその思いは忘れずに残っている。つまりそれは、
この世界を救いだしたいくらい好きだという事。
転生し続ける意味ももしかしたらそこにあるのかもしれな。本当の意味は分からないけど、俺のせいで苦しんでしまっている人達もいるなら、俺はそれを救いだしたい。
「まだ全部を思い出せていないかもしれませんけど、私少しでも前に進みたいです」
それが過去から今へと辿ってきた記憶が俺を導いてくれた答え。
まだ先が見えないかもしれない未来への答え。
俺はその未来へもう一度歩みだす。
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