幼女転生から始める異世界解読術

りょう

第44話 妖精女王様は夜道で語る

 あの後からしばらく俺は記憶を取り戻すことはなかった。本当はまだあの記憶の中で疑問に思う事が多いから、もう少し細かく思い出したいのだけれど、今は難しい。

「空間のズレですか?」

「恐らくとは思うんですけど、この輪廻の森は全部が同じ景色のように見えて、気づけないほどの僅かな変化があるんです。この前泉に行った時に気が付いたんですよ」

「じゃあそのズレを辿れば」

「この森を出ることは可能かもしれません」

 なので、今俺は当初の目標通りこの森の呪いを解く方に力を入れることにした。先日俺が泉で見つけたヒント共に動き出したのだが、ここで俺はある疑問を持つようになる。

(そういえば、俺達がサスティアに居たってことは、この森から最低でも一度は出ているんだよな)

 それは記憶の中の出来事と、目覚めた時の状況だ。俺がユウとして目を覚ました時は、サスティアにいてそこで一ヶ月ほど過ごした。そして取り戻した記憶の最後の場所はこの森。つまりこの森から出ていることになる。

 ならば、あの時その場に一緒にいたスズが本当は森の抜け出し方を知っているのではないかと思うようになってきた。まあ、その場合俺もそれを知っている事にもなるんだけど。

「そういえば最近フリスを見かけませんけど、どこにいるんですか?」

「フリスさんなら今、ユウさんに代わって子供達の相手をしていただいています」

「フリスが?」

 あの小さい体で多人数の子供を一人で相手したら、逆に彼女が玩具にされそうな気がするんだが、果たして大丈夫だろうか?

「いい? 今日から私がここのリーダーよ。女王様と呼びなさい」

「はーい、女王様」

 何か勝手に王国を作り上げていました。子供達はほんきのつもりではないだろうけど、どうもフリスの場合は本気にしか聞こえない。

「何やっているの」

「見ればわかるでしょ? 今日からここは私の王国」

「馬鹿」

 子供たちを支配しようとしてどうする。

「女王様、女王様」

 フリスの元に女の子がやって来る。猫耳の獣人族の女の子だ。

「どうしたの?」

「女王様、子供の作り方教えて」

「ぶふぉっ」

 あまりに直球な質問にその場にいる三人全員が吹き出してしまう。

(最近の子供は何のためらいもなく聞いてくるんだな)

 まあ、それが子供らしいんだけど。

「ど、どうしてそんな事聞くのかしら」

「えっとね、今おままごとをしているの。それで家族を一人増やしたいから、どうやって子供を作るのか教えて!」

「え、えっと、そうね」

 明らかに動揺を隠せない女王様。汗をだらだら流しながら、必死に答えを考えている姿を見ると何ともシュールな光景だ。まあどうみても見た目はまだ子供の方だから、こういう知識に疎いんだろうな。

「こ、こ、子供はあれよあれ。男の人と女の人が(自主規制)な事をして、(自主規制)をすればできるわよ」

「せめてそこは隠そうよ!」

 子供じゃ理解不能なことを何のたらいもなくいいやがったぞこいつ。当の子供の方は言うと、

「分かったよ女王様。私頑張る!」

「あ、えっと、うん、頑張って」

 一つ大人の階段を上った女の子は俺達の元から去っていく。

「ふう、何とかなった」

 何とかなったような気がしませんけど女王様。

「フリスさん?」

 この状況を一通り見ていたスズがただフリスの名前を呼ぶ。だがその声は背筋が凍るほど冷たく、フリスは固まってしまう。

「私の子供達に何を教えているんでしょうか」

「え、えっと、ですね、私はただ」

「言い訳無用です!」

「ひええ」

 この後フリスは滅茶苦茶説教されましたとさ。

 どうやらこの施設の真の女王様はスズだったらしい。

 ■□■□■□
 その日の夜遅く、俺は日課の読書の休憩がてらに少し散歩をしていると、偶然フリスと遭遇した。

「こんなところで何しているの? 女王様」

「次それで呼んだら殺すわよ」

「どうして私だけ?!」

 どうやらフリスも何かの作業をしていたらしく、その休憩に散歩をしていたらしい。昼間彼女が見せたキャラクターとは違って、どうも彼女は俺にだけは冷たかった。もう何も嘘をついていないのに、どうしてだろうか。

「こんな時間まで読書だなんて、本当に本が好きね」

「私にとって本は人生だからね」

「人生って、随分大層な事言うわね」

「それくらい好きなの、本が」

「そういうところ少しだけ羨ましい」

「羨ましい?」

 フリスがふと足を止め、空を眺める。そこには満天の星空が広がっていた。

「私ずっと何かを糧にして生きてきた事ないから」

「そうなの?」

「向こうでも私、一人ぼっちだったから」

 向こうとは恐らく彼女の故郷の事を言っているのだろうか。でもよく考えたら、初めて会ったあの日から彼女は一度も故郷に帰っていない。あの時はかなり急いでいた様子だったけど、彼女は一体何を急いでいいたのだろうか。

「あの時は確かに私は急いでいた。だけどそこに特別な理由はない」

 その疑問に答えるかのように彼女はそう言った。今考えていたことも全部彼女の耳には聞こえていたのだろう。人の考えていることが分かるって、よく考えたら辛いよな。聞こえなくてもいい事も聞こえてくるのだから、彼女はこれまでどれだけ辛い人生を送って……。

「知りたい? 私の事」

「え?」

「気になるなら少しだけ教えてあげる。私達の話」

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