幼女転生から始める異世界解読術
第45話 本音と白馬
人の心が読めるようになったのは物心がつき始めた頃だった。最初は雑音程度の音だったけど、それは年月が経つにつれて明確な声として私の耳に届いた。ただ会話しているだけでも、その人が私に対してどんな感情で、どんな思いで話しているのかが分かってしまう。
それは私にとってただの苦しみにしかならなかった。
見方によっては便利な事なのかもしれないけど、当人になった時それがどれだけ自分を苦しめることになるか、私はそれを知っている。だから私は人を避け、一人ぼっちになることが多かった。
でもそれが私にとっては何よりも心地のいいことだった。聞きたくもない声を聴かなくていい。それがどれだけ心地よくて、どれだけ幸せのものなのか。
「あなたには分からないでしょ? 私の苦しみ」
そう一言、私に接してこようとする人を突き放せば誰だって自然に離れていく。そう、この男だって、私から離れてくれる。私にとって一番鬱陶しいこの男だって。
「私は分かるよ、その痛み」
見た目は女の子のこの男。自分を偽り続ける彼なら、こんなの上辺だけの言葉で、本心では私の事を……。
『人の心って聞こえたくないよな……。今考えているこれだって、フリスには聞こえていると恥ずかしいし、本人も聞こえてきて辛いよな絶対』
……え?
「羨ましいとか思わないの?」
「思わないよ私は。だって本音が聞こえたら辛いでしょ」
『俺だったら絶対に嫌なんだけど、きっとフリス自身もそうなんだろうな』
彼は心の底から私に同意してくれているの? こんな嫌なことから逃げてきただけの私を。私の苦しみを。
(そんなわけ……)
こんなエルフに私の痛みを理解できるわけがない。
「どうしてそこまで言えるの? 本当はどうも思っていないくせに」
「それはフリスが勝手に決めているだけだよ。フリスがどう思っていたって私はフリスと話がしたい。私はそれを本気で思っているよ」
「……」
今までだったらこんな言葉は上辺だけで、皆本心はそんな事を思っている事の方が少なかった。だから聞こえてくる声がとても怖くて、耳を何度も塞いだ。それでも聞こえてくる相手の本心。
『すぐには難しいだろうけど、時間がかかっても構わないからあいつの心を開いてやりたい』
上辺の言葉には上辺の言葉だけでいいと思っていた。あの孤児院の子供達と遊んでいる時だって、あれはすべて演技だ。子供は純粋だから素直に受け止めてくれるけど、それ以上にもそれ以下にもならない。何にも成長する事が出来ない。
でももし、彼女が私の本音を受け止めてくれるなら?
「その言葉を……私は信じていいの?」
私を受け入れてくれるなら?
「私と嘘偽りなく接してくれるの?」
「勿論。まあ、私も嘘をついていたんだけど、もうしないよ。特にフリスに対しては」
『それが彼女の為になるなら、俺も本心で話そう。何も嘘をつかずに』
私も前に少しだけ踏み出してみても……。
「なら、私はユウを信じるよ。ただ、もし裏切ったら」
「その時は離れても構わないよ。その分私も容赦なく本音でぶつかるから」
いいのかもしれない。
「……ありがとう、ユウ」
■□■□■□
「という事が昨日あったんですよ」
「すごいですねユウさん、そういうところは尊敬しますよ」
フリスと打ち解けた翌朝、俺は昨晩の事をスズに話した。あの時本音でぶつかるとか格好いいセリフを言っていたけど、俺の中には少しの不安があった。別に本音で話すことは難しい話ではない。ただ、あまり本音で話しすぎると本人を傷つけてしまうかもしれないからだ。
(最後にお礼言われたけど……)
ぶっちゃけ先行きが不安でもあった。
「全部本音で話す……、簡単な話ではないですよね」
「難しい事なのは私も分かっています。けど、約束をしてしまったんで」
「嘘はつけない、って事ですよね」
「はい。でもそうしないとフリスが辛いと思うんで」
あの後フリスの話を改めて個人的に振り返ってみた。
人の心を読めることによって、他人との接触を避けてきた一人の妖精。
彼女は言っていた。心が読めるのが羨ましくないのかと。確かに見方を変えれば羨ましく見えなくもないかもしれない。誰が何を考えているかビクビクしながら生きる必要がないのだから。
でも裏を返せば相手の嘘と本音が見えてしまうリスクがある。それがフリスを苦しめていた。
「私ももし同じ立場だったら、フリスと同じようなことをしていたと思うんですよ。会話をするたびに本音が聞こえてくるなんて、怖いですから」
「それが無意識で聞こえてくるなら尚更ですよね。私はどちらかというと嘘をつくのは苦手なので、フリスさんが苦しむことはないと思いますけど」
「そうですかね」
スズに関しては嘘をつくことの方が多いと思うんだけど、それは気のせいだろうか。でもフリスは彼女にすぐに心を開いていたから、もしかしたら全部本音で話しているのだろうか。
「あ、そうだ、話は変わるんですが明日一日孤児院をお二人に任せていいですか?」
「それは構いませんけど、どこか出かけるんですか?」
「少し王様に用事があるんですよ」
「王様に?」
この国は小さいからサスティアみたいな城はないから国王とかいないと思っていたけど、やはり王国である以上いるのだろうか。いるなら果たしてどんな……。
「あ、といってもこの国の国王とかじゃありませんよ? そもそもいませんし」
「じゃあどの王様に?」
「白馬の王子様ですよ」
今時白馬の王子様なんて言う人初めて見たよ、俺。
てか、それってまさかフィアンセ?
それは私にとってただの苦しみにしかならなかった。
見方によっては便利な事なのかもしれないけど、当人になった時それがどれだけ自分を苦しめることになるか、私はそれを知っている。だから私は人を避け、一人ぼっちになることが多かった。
でもそれが私にとっては何よりも心地のいいことだった。聞きたくもない声を聴かなくていい。それがどれだけ心地よくて、どれだけ幸せのものなのか。
「あなたには分からないでしょ? 私の苦しみ」
そう一言、私に接してこようとする人を突き放せば誰だって自然に離れていく。そう、この男だって、私から離れてくれる。私にとって一番鬱陶しいこの男だって。
「私は分かるよ、その痛み」
見た目は女の子のこの男。自分を偽り続ける彼なら、こんなの上辺だけの言葉で、本心では私の事を……。
『人の心って聞こえたくないよな……。今考えているこれだって、フリスには聞こえていると恥ずかしいし、本人も聞こえてきて辛いよな絶対』
……え?
「羨ましいとか思わないの?」
「思わないよ私は。だって本音が聞こえたら辛いでしょ」
『俺だったら絶対に嫌なんだけど、きっとフリス自身もそうなんだろうな』
彼は心の底から私に同意してくれているの? こんな嫌なことから逃げてきただけの私を。私の苦しみを。
(そんなわけ……)
こんなエルフに私の痛みを理解できるわけがない。
「どうしてそこまで言えるの? 本当はどうも思っていないくせに」
「それはフリスが勝手に決めているだけだよ。フリスがどう思っていたって私はフリスと話がしたい。私はそれを本気で思っているよ」
「……」
今までだったらこんな言葉は上辺だけで、皆本心はそんな事を思っている事の方が少なかった。だから聞こえてくる声がとても怖くて、耳を何度も塞いだ。それでも聞こえてくる相手の本心。
『すぐには難しいだろうけど、時間がかかっても構わないからあいつの心を開いてやりたい』
上辺の言葉には上辺の言葉だけでいいと思っていた。あの孤児院の子供達と遊んでいる時だって、あれはすべて演技だ。子供は純粋だから素直に受け止めてくれるけど、それ以上にもそれ以下にもならない。何にも成長する事が出来ない。
でももし、彼女が私の本音を受け止めてくれるなら?
「その言葉を……私は信じていいの?」
私を受け入れてくれるなら?
「私と嘘偽りなく接してくれるの?」
「勿論。まあ、私も嘘をついていたんだけど、もうしないよ。特にフリスに対しては」
『それが彼女の為になるなら、俺も本心で話そう。何も嘘をつかずに』
私も前に少しだけ踏み出してみても……。
「なら、私はユウを信じるよ。ただ、もし裏切ったら」
「その時は離れても構わないよ。その分私も容赦なく本音でぶつかるから」
いいのかもしれない。
「……ありがとう、ユウ」
■□■□■□
「という事が昨日あったんですよ」
「すごいですねユウさん、そういうところは尊敬しますよ」
フリスと打ち解けた翌朝、俺は昨晩の事をスズに話した。あの時本音でぶつかるとか格好いいセリフを言っていたけど、俺の中には少しの不安があった。別に本音で話すことは難しい話ではない。ただ、あまり本音で話しすぎると本人を傷つけてしまうかもしれないからだ。
(最後にお礼言われたけど……)
ぶっちゃけ先行きが不安でもあった。
「全部本音で話す……、簡単な話ではないですよね」
「難しい事なのは私も分かっています。けど、約束をしてしまったんで」
「嘘はつけない、って事ですよね」
「はい。でもそうしないとフリスが辛いと思うんで」
あの後フリスの話を改めて個人的に振り返ってみた。
人の心を読めることによって、他人との接触を避けてきた一人の妖精。
彼女は言っていた。心が読めるのが羨ましくないのかと。確かに見方を変えれば羨ましく見えなくもないかもしれない。誰が何を考えているかビクビクしながら生きる必要がないのだから。
でも裏を返せば相手の嘘と本音が見えてしまうリスクがある。それがフリスを苦しめていた。
「私ももし同じ立場だったら、フリスと同じようなことをしていたと思うんですよ。会話をするたびに本音が聞こえてくるなんて、怖いですから」
「それが無意識で聞こえてくるなら尚更ですよね。私はどちらかというと嘘をつくのは苦手なので、フリスさんが苦しむことはないと思いますけど」
「そうですかね」
スズに関しては嘘をつくことの方が多いと思うんだけど、それは気のせいだろうか。でもフリスは彼女にすぐに心を開いていたから、もしかしたら全部本音で話しているのだろうか。
「あ、そうだ、話は変わるんですが明日一日孤児院をお二人に任せていいですか?」
「それは構いませんけど、どこか出かけるんですか?」
「少し王様に用事があるんですよ」
「王様に?」
この国は小さいからサスティアみたいな城はないから国王とかいないと思っていたけど、やはり王国である以上いるのだろうか。いるなら果たしてどんな……。
「あ、といってもこの国の国王とかじゃありませんよ? そもそもいませんし」
「じゃあどの王様に?」
「白馬の王子様ですよ」
今時白馬の王子様なんて言う人初めて見たよ、俺。
てか、それってまさかフィアンセ?
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