幼女転生から始める異世界解読術
第39話 少女の嘆き
「ユウ……さん、起きて……ください」
思いもよらない真実を突きつけられ、一人混乱する中で声がする。これは過去のスズが発した声ではない。この声は……。
「ユウさん!」
スズの声で俺は過去の世界から意識が戻ってくる。目の前には心配そうにこちらを見てくるスズと、妖精が一匹いた。
「あれ、私」
「よかった、目を覚ましてくれて」
「スズさん、ここは」
「私の家ですよ」
改めて周囲を見回すと、確かにスズの家だった。どうやらあの後気を失ったままの俺は、スズによって家まで運ばれたらしい。
「私はすぐに目を覚ましたんですけど、ユウさんが目を覚まさなくて心配していたんですよ」
「すいません、長い夢を見ていたみたいで」
「夢?」
「とても重大な夢です」
俺は先程見たこと全てを鮮明に覚えていた。忘れたくても忘れられない、俺の記憶。
あれは夢ではない。
紛れもない過去の記憶。
「そういえばその子も付いてきたんですね」
「っ!」
俺が妖精の方に目線を向けると、何故か恥ずかしがってスズの後ろに隠れてしまった。
「恥ずかしがらなくて大丈夫ですよ」
それを見たスズは妖精に微笑みながら言う。
「違う。恥ずかしがっていない」
そうぶっきらぼうに答えた妖精は、背後に隠れたままこちらを見ようともしない。
「じゃあ恥ずかしくないなら出てきてもいいでしょ」
「嫌」
「私初対面の人に嫌われるようなことをした?」
「それも違う」
「じゃあ何で」
「私嘘をつくような人の顔を見たくない」
「それ明らかに嫌っているよね?」
「……」
スズを挟んでされる会話。妖精が言っている嘘、それって一体……。
それに嘘をついているのは、俺よりもスズの方が……。
「私人の心が読めるの。だからあなたが今何を考えているのかも分かるの」
「え?」
「だからあまり人と話をしたくないの。その、ぶつかったことは謝るし、助けてくれたのも嬉しい。だからちゃんとお礼はした」
「お礼?」
それってもしかして……。
「とにかく私は今から自分の故郷に戻るから。もう会う事はないと思うけど、助けてくれてありがとう。それじゃあ」
まるで決めセリフかの如く家から出て行こうとする妖精。しかし扉の目の前で止まると……。
「どうかしましたか?」
「そういえば私、今帰れないんだった」
孤児院に新しい仲間が一人増えました。
■□■□■□
妖精の名はフリスというらしい。何とか名前を聞き出せたのだが、それ以降俺とフリスはコミュニケーションを取れることが少なかった。積極的なのは俺の方だけで、彼女の方はそれらを全て無視。孤児院の方でも常に一人だった。
「フリスちゃん、今日も一人なんですね」
「私の方からコミュニケーションを取ろうと努力しているんですけど、全部無視されるんですよ」
「ユウさんの力を持っても駄目、という事ですか」
俺はあの日の一件以来スズから距離を取るようになっていた。彼女は一体どうしてあの事を一度も話してくれないのかと思うと同時に、自分から聞く事にも恐怖を覚えていたからだ。
あれが全て真実とは限らない。それは分かっている。
でももし真実だったら?
もし本当に俺と奏でが一度この世界に来たことあるならば?
ここでラーヤ達が言っていた言葉を思い出す。
あれもこの話も全部が事実なら、今の俺は誰なんだ?
俺は本当に夏目龍之介なのか?
「ユウさん、どうかされましたか?」
「スズさん、三日前に泉に行った時に、俺はヒントを見つけたって言いましたよね?」
「はい」
「答えはすごくシンプルだったので、今すぐにでも呪いを説いてもいいんですけど、その前に確認したいことがあるんです」
「確認したいこと?」
「フリスはスズさんは嘘つきではないと言っていましたが、スズさんは隠し事をしていますよね?」
「隠し事? 何の話でしょうか?」
「スズさん、本当は私の事昔から知っていますよね」
でも確かめる必要はあった。分からない事を本で調べて知識を得たように、俺は今分からない事ばかりで本を読んでも解決しない。
解決できないなら今度は人に聞くしかない。当事者であるスズに聞くしかない。
「どうして突然そんな事を聞くんですか? 私とユウさんは初対面ですよ」
「じゃあ聞き方を変えます。スズさんは夏目龍之介という人間を知っていますか?」
「っ!? どうしてその名前を」
「やっぱり知っていたんですね。私の事」
そして俺自身の事も。
「答えてくださいスズさん。どうして隠していたんですか」
「それをいうならユウさんも同じじゃないですか。まるで私と初めて会ったみたいな反応をしたじゃないですか」
「それは……」
ユウは知っていても俺は知らなかった。だから反応も当然だった。でもそれは俺が単純にその時の記憶が無いだけで……。
「ユウさんがその反応をしなければ私だって今までのように接していますよ。本当は泣きたいくらい再会できたのが嬉しいんですから」
「そんなに嬉しいんですか?」
「もう二度と会えないって思ったんですよ。リュウノスケさんもカナデちゃんもあれからずっと会えなくて、私はこの森からも出れなくて……。どうして誰もいなくなっちゃうんですか!」
スズは嘆いていた。一人でこの孤児院を経営していて、誰にも会いに行けなくて、ずっと寂しかったのだろう。だけど俺はそれを共有してあげることができない。
俺はユウでもその頃の夏目龍之介でもない。
何も知らない夏目龍之介なのだから。
思いもよらない真実を突きつけられ、一人混乱する中で声がする。これは過去のスズが発した声ではない。この声は……。
「ユウさん!」
スズの声で俺は過去の世界から意識が戻ってくる。目の前には心配そうにこちらを見てくるスズと、妖精が一匹いた。
「あれ、私」
「よかった、目を覚ましてくれて」
「スズさん、ここは」
「私の家ですよ」
改めて周囲を見回すと、確かにスズの家だった。どうやらあの後気を失ったままの俺は、スズによって家まで運ばれたらしい。
「私はすぐに目を覚ましたんですけど、ユウさんが目を覚まさなくて心配していたんですよ」
「すいません、長い夢を見ていたみたいで」
「夢?」
「とても重大な夢です」
俺は先程見たこと全てを鮮明に覚えていた。忘れたくても忘れられない、俺の記憶。
あれは夢ではない。
紛れもない過去の記憶。
「そういえばその子も付いてきたんですね」
「っ!」
俺が妖精の方に目線を向けると、何故か恥ずかしがってスズの後ろに隠れてしまった。
「恥ずかしがらなくて大丈夫ですよ」
それを見たスズは妖精に微笑みながら言う。
「違う。恥ずかしがっていない」
そうぶっきらぼうに答えた妖精は、背後に隠れたままこちらを見ようともしない。
「じゃあ恥ずかしくないなら出てきてもいいでしょ」
「嫌」
「私初対面の人に嫌われるようなことをした?」
「それも違う」
「じゃあ何で」
「私嘘をつくような人の顔を見たくない」
「それ明らかに嫌っているよね?」
「……」
スズを挟んでされる会話。妖精が言っている嘘、それって一体……。
それに嘘をついているのは、俺よりもスズの方が……。
「私人の心が読めるの。だからあなたが今何を考えているのかも分かるの」
「え?」
「だからあまり人と話をしたくないの。その、ぶつかったことは謝るし、助けてくれたのも嬉しい。だからちゃんとお礼はした」
「お礼?」
それってもしかして……。
「とにかく私は今から自分の故郷に戻るから。もう会う事はないと思うけど、助けてくれてありがとう。それじゃあ」
まるで決めセリフかの如く家から出て行こうとする妖精。しかし扉の目の前で止まると……。
「どうかしましたか?」
「そういえば私、今帰れないんだった」
孤児院に新しい仲間が一人増えました。
■□■□■□
妖精の名はフリスというらしい。何とか名前を聞き出せたのだが、それ以降俺とフリスはコミュニケーションを取れることが少なかった。積極的なのは俺の方だけで、彼女の方はそれらを全て無視。孤児院の方でも常に一人だった。
「フリスちゃん、今日も一人なんですね」
「私の方からコミュニケーションを取ろうと努力しているんですけど、全部無視されるんですよ」
「ユウさんの力を持っても駄目、という事ですか」
俺はあの日の一件以来スズから距離を取るようになっていた。彼女は一体どうしてあの事を一度も話してくれないのかと思うと同時に、自分から聞く事にも恐怖を覚えていたからだ。
あれが全て真実とは限らない。それは分かっている。
でももし真実だったら?
もし本当に俺と奏でが一度この世界に来たことあるならば?
ここでラーヤ達が言っていた言葉を思い出す。
あれもこの話も全部が事実なら、今の俺は誰なんだ?
俺は本当に夏目龍之介なのか?
「ユウさん、どうかされましたか?」
「スズさん、三日前に泉に行った時に、俺はヒントを見つけたって言いましたよね?」
「はい」
「答えはすごくシンプルだったので、今すぐにでも呪いを説いてもいいんですけど、その前に確認したいことがあるんです」
「確認したいこと?」
「フリスはスズさんは嘘つきではないと言っていましたが、スズさんは隠し事をしていますよね?」
「隠し事? 何の話でしょうか?」
「スズさん、本当は私の事昔から知っていますよね」
でも確かめる必要はあった。分からない事を本で調べて知識を得たように、俺は今分からない事ばかりで本を読んでも解決しない。
解決できないなら今度は人に聞くしかない。当事者であるスズに聞くしかない。
「どうして突然そんな事を聞くんですか? 私とユウさんは初対面ですよ」
「じゃあ聞き方を変えます。スズさんは夏目龍之介という人間を知っていますか?」
「っ!? どうしてその名前を」
「やっぱり知っていたんですね。私の事」
そして俺自身の事も。
「答えてくださいスズさん。どうして隠していたんですか」
「それをいうならユウさんも同じじゃないですか。まるで私と初めて会ったみたいな反応をしたじゃないですか」
「それは……」
ユウは知っていても俺は知らなかった。だから反応も当然だった。でもそれは俺が単純にその時の記憶が無いだけで……。
「ユウさんがその反応をしなければ私だって今までのように接していますよ。本当は泣きたいくらい再会できたのが嬉しいんですから」
「そんなに嬉しいんですか?」
「もう二度と会えないって思ったんですよ。リュウノスケさんもカナデちゃんもあれからずっと会えなくて、私はこの森からも出れなくて……。どうして誰もいなくなっちゃうんですか!」
スズは嘆いていた。一人でこの孤児院を経営していて、誰にも会いに行けなくて、ずっと寂しかったのだろう。だけど俺はそれを共有してあげることができない。
俺はユウでもその頃の夏目龍之介でもない。
何も知らない夏目龍之介なのだから。
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