幼女転生から始める異世界解読術

りょう

第36話 照らしてくれた光を探して

 柊奏
 彼女は俺の幼馴染だった。才色兼備で頭もよくて、学校の人気者で、幼馴染の俺が羨ましがられる程だった。

 そんな彼女と俺は偶然にも高校生まで同じ学校を通っていた。

「龍ちゃんはさ、高校を卒業したらどうするの?」

「俺はまだ決めていないかな。ていうか、まだ俺達高校入ったばかりじゃん」

「まあ、そうなんだけどね」

 家も近所の為よく二人で一緒に下校する事もあった。周りからしたら付き合っているようにしか見えないが、俺達の関係はそれ以上を踏み出す事ができなかった。

 いや、できなかったんじゃない。

 出来なくなったんだ。
 全てを失ったあの日、俺は……。

「また……嫌な夢だ……」

 外が天気が悪いせいか、最近俺が見る夢は著しく良くなかった。特に奏の名前をこの世界で聞いてからは酷かった。

「ユウさん、起きてください。朝ですよ」

「あ、起きているんで今行きます」

 ヒノプスにやって来てから十日。あの日から続いていた微妙な空気は少しずつだが解消されていた。スズも元気を少しずつ取り戻し、孤児院もいつも通りの時間が流れていた。
 俺も十日も働いていたからか、すっかりここでの仕事も慣れてきていた。女の子の遊びにはまだ慣れていないけど、もうすっかりここに定着し始めている。

「森の泉ですか?」

「はい。実はヒノプスを出た少し先に大きな泉があるんです」

 そんなある日の朝食時、スズがこの国にある泉について話を切り出してきた。実はこの国にある本を読んで泉の情報は知っていたのだが、スズがこの話を切り出したのは別の意味があった。

「その泉には実はこの森の呪いを解くヒントがあると噂があるんですよ。詳しい話は分かりませんが、調べてみてはどうかなと」

「それは気になりますけど、どうしていきなりそんな話を?」

「カナデを追う為ですよ」

「え?」

「私このままあの少女を無視する訳にはいかないんですよ。まだちゃんとした話を聞いていませんから」

 その言葉には明確な意思が宿っていた。俺も彼女と同じような事を考えていたが、何故スズがそこまでカナデという少女に執着しているのか分からなかった。まるで俺と同じように彼女に対して何かしらの後悔があるかのようだが……。

「あの、スズさんはどうして、そのカナデという人に執着するんですか?」

「どうしても何も、彼女は私にとって生きる力だったからですよ。私にとってたった一人の親友で、たった一つの光だったんですよ」

「光?」

「……いつか話します。それより先にまずはこの森を出ないといけませんから」

「私も協力しますよスズさん。ただ一つだけ約束してほしい事があるんです」

「約束?」

「今も言ったカナデさんの事、私にも教えてほしいです。どういう人だったのか」

「その位構いませんよ。約束します」

 交わされた小さな約束。だけどその小さな約束は大きな意味を持っている。もしこの世界にカナデという名の人物の生きた証があるなら、それを知りたかった。
 同一人物なのかは分からないけど、そこに意味があるなら……。

 俺はそれを求めたい。

 ■□■□■□
 スズと泉へやって来たのはそれから二日後。孤児院の世話は他の人に任せてやって来たのだけど、道中性格からなのかスズは子供達の心配をしていた。

「子供達は大丈夫でしょうか」

「心配しすぎですよ、スズさん」

 思わず苦笑いしてしまうが、そこが彼女のいいところなのかもしれない。

(何か奏を思い出すな)

 彼女はとてもお世話焼きで、スズに負けないくらい子供が好きだった。将来は保育士を目指して勉強をしていたし、それを誰よりも俺が応援していた。

「私の顔に何か付いていますか?」

「あ、いえ。何でもありません」

 そんな事を考えながらスズを見ていると、そんな事を言われてしまう。本当によく似ていると思うけど、そもそもこの世界のカナデはもう存在していない。

「ユウさん、一つ聞いていいですか?」

「何ですか?」

「ユウさんは誰かを好きになった事はありますか?」

「い、いきなり何を聞いてくるんですか?!」

「 エルフ族は長生きですから、気になってしまいました。でもその様子だと、ありそうですね」

 つい素で反応してしまった俺に対して、スズはニヤニヤしながらこちらを見てくる。

「い、いませんよ私は。スズさんの方こそどうなんですか?」

「私は……いましたよ。もう側にはいませんが」

「それはもしかして……」

「争いが続く中で亡くなっちゃったんですよ」

 遠い目をしながらそう言うスズ。俺は思わず一度足を止めてしまう。

「すいません、思い出したくない事を聞いてしまって」

「いいんですよ、昔の話ですから。それにこう言う話ができるのは貴方くらいですから」

「私しか友達がいないんですか?」

「そ、そういうの直球で聞かないでくださいよ。それは確かに……ませんが」(ボソッ

 何かをボソッと言うスズ。その後森の泉までひたすら彼女が考える恋愛観やら、好きな人やら、俺が苦手な話ばかりさせられた。

 当初の目的とか忘れていないよな?

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