幼女転生から始める異世界解読術
第32話 廻る森の中の孤児院
何か今更な話ではあるが、よく考えたら別に不思議ではなかった。
自分と同じ普通の人間がここにいる。
ただそれだけの話なのに、俺は少しだけ嬉しかった。とはいえ、今はエルフの姿であるので、その喜びを抑える。
「そういえばここは小さな王国と言っていましたが、こんな森の中にもあるんですね」
「本当に小さな国ではあるんですけどね。でもとてもいい国なんですよ」
「そうなんですか」
俺はようやく体を起こす。それと同時にお腹が鳴る音がした。
「あ」
「もしかしてお腹が減っていますか? 今から準備しますね」
「すいません、よろしくお願いします」
台所へ姿を消した彼女を見送った後、俺は一度寝ていた布団から降りて家を見回した。どこの家とも変わらない内装。木造のせいかやけに落ちつく。だがやはり文豪世界と言われるだけあって、この家にも本があった。
「え?」
だがその中に一冊すごく身に覚えがある本がある。
(何でこの家に預言書があるんだ?)
それは二冊目になる預言書だった。一冊目と同じようにどこかに隠さるようにあるものだと思っていたのに、まさかこんなに簡単に見つかるとは。
(……いや)
この王国が輪廻の森の中にあると考えると、見つけるのはたやすくない。つまり隠されていた事と同義ではあるが、それにしてもこんな一般の家にあるとは到底思えない。
(もしかして何か秘密があるのか?)
さりげなく聞いてみるのもいいけど、答えてくれるだろうか。そもそも彼女がこの事を知っているのかさえ分からない。
「どうかされましたかユウさん。本棚を眺めたりして」
「あ、いえ。少々気になるものがありまして」
「気になるもの?」
「あの、スズさんは預言書の事を知っているんですか?」
「あ、その本の事ですか? 勿論知っているから持っているんですよ」
俺が考えていた事とは真逆の答えを出すスズ。知っていて保管しているという事は、そこに何かの意図があるのだろうか。
「ユウさん、もしかして預言書に興味があるんですか?」
「興味があるというか、読んでみたいんです」
「それなら構いませんよ。その代わりに条件が一つあります」
「条件?」
「食事を終えたら私についてきてください。ユウさんにぜひ手伝っていただきたいことがあります」
■□■□■□
食後、約束通りスズの後についていくことにした。
「森の中にあるからてっきりスービニアと同じように木々に囲まれていると思っていたんですけど。結構空が開けているんですね」
「この国から見える空は一番きれいだと言われているくらい有名ですから、私達の自慢でもあるんですよ」
スズに付いていきながら、初めてヒノプスに足を踏み入れた俺は、正に森の中にあったスービニアとは全く違った景色に驚かされていた。勿論スービニアも悪くはなかったのだが、ここまで空に近いことを感じると、都会で暮らしていたあの頃の事を思い出していい気分になる。
「でもここの森って」
「悪い噂しか流れていないのは確かですが、それが全てではありませんよ。ほら、到着しました」
スズが足を止めたのは少し古ぼけた建物。そこには今の俺の身長とさほど変わらない子、日本で言えば小学生くらいの子達が元気に走り回っていた。
「今も言いましたが、この森は確かに輪廻の森と言われていて、一度入ったら戻ってこられないと言われています」
「あ、スズお姉ちゃんだー!」
そんな子供達がスズを見つけると、笑顔で駆け寄ってくる。俺はその様子を見て、このあと彼女が何を言おうとしているのかを理解した。
「なのであなたのような年代の子達が、間違って彷徨ってしまい戻れなくなることも少なくないんです。ですから私は、そんな子供達をこうして助けてあげて皆で暮らすようにしているんです」
「つまり孤児院って事ですか?」
「孤児院、とは少々違いますかね。別に捨てられたわけでもありませんから。まあ、そういうのを悪用するような人もいますが」
子供を抱き上げながらスズは言う。彼女が子供を見る目は、まるで子供を見守る母親のような優しい目だった。俺はそんな彼女を見て思わず関心してしまう。
(同じ人間、とは思えないくらいしっかりしているんだな)
それに比べたら俺なんて……。
「それで私の頼みというのは、ユウさんにはここで手伝いをしてもらう事です」
「手伝いをですか? でも私」
「エルフ族の子は長生きだと聞いています。だから見た目とは違って大人なんですよね?」
「ま、まあそうですけど」
中身も違うなんて言えないので、俺はそう肯定する。彼女が俺に向けている目もどこか優しげで、本当の母親ではないかと錯覚してしまうほどだった。
そんな目で見られてしまったら、こちらも断りにくい。
(どちらにせよ選択肢はないよな、俺には)
ここが輪廻の森の中である以上は何もできないし、色々ごちゃごちゃになっている頭を整理するためにもいい機会だ。
「分かりました。出来ることは限られているとは思いますが、私スズさんの手伝いをさせていただきます」
こうしてしばらくの間、俺はこのヒノプス王国の孤児院でお世話になる事になるのだった。
自分と同じ普通の人間がここにいる。
ただそれだけの話なのに、俺は少しだけ嬉しかった。とはいえ、今はエルフの姿であるので、その喜びを抑える。
「そういえばここは小さな王国と言っていましたが、こんな森の中にもあるんですね」
「本当に小さな国ではあるんですけどね。でもとてもいい国なんですよ」
「そうなんですか」
俺はようやく体を起こす。それと同時にお腹が鳴る音がした。
「あ」
「もしかしてお腹が減っていますか? 今から準備しますね」
「すいません、よろしくお願いします」
台所へ姿を消した彼女を見送った後、俺は一度寝ていた布団から降りて家を見回した。どこの家とも変わらない内装。木造のせいかやけに落ちつく。だがやはり文豪世界と言われるだけあって、この家にも本があった。
「え?」
だがその中に一冊すごく身に覚えがある本がある。
(何でこの家に預言書があるんだ?)
それは二冊目になる預言書だった。一冊目と同じようにどこかに隠さるようにあるものだと思っていたのに、まさかこんなに簡単に見つかるとは。
(……いや)
この王国が輪廻の森の中にあると考えると、見つけるのはたやすくない。つまり隠されていた事と同義ではあるが、それにしてもこんな一般の家にあるとは到底思えない。
(もしかして何か秘密があるのか?)
さりげなく聞いてみるのもいいけど、答えてくれるだろうか。そもそも彼女がこの事を知っているのかさえ分からない。
「どうかされましたかユウさん。本棚を眺めたりして」
「あ、いえ。少々気になるものがありまして」
「気になるもの?」
「あの、スズさんは預言書の事を知っているんですか?」
「あ、その本の事ですか? 勿論知っているから持っているんですよ」
俺が考えていた事とは真逆の答えを出すスズ。知っていて保管しているという事は、そこに何かの意図があるのだろうか。
「ユウさん、もしかして預言書に興味があるんですか?」
「興味があるというか、読んでみたいんです」
「それなら構いませんよ。その代わりに条件が一つあります」
「条件?」
「食事を終えたら私についてきてください。ユウさんにぜひ手伝っていただきたいことがあります」
■□■□■□
食後、約束通りスズの後についていくことにした。
「森の中にあるからてっきりスービニアと同じように木々に囲まれていると思っていたんですけど。結構空が開けているんですね」
「この国から見える空は一番きれいだと言われているくらい有名ですから、私達の自慢でもあるんですよ」
スズに付いていきながら、初めてヒノプスに足を踏み入れた俺は、正に森の中にあったスービニアとは全く違った景色に驚かされていた。勿論スービニアも悪くはなかったのだが、ここまで空に近いことを感じると、都会で暮らしていたあの頃の事を思い出していい気分になる。
「でもここの森って」
「悪い噂しか流れていないのは確かですが、それが全てではありませんよ。ほら、到着しました」
スズが足を止めたのは少し古ぼけた建物。そこには今の俺の身長とさほど変わらない子、日本で言えば小学生くらいの子達が元気に走り回っていた。
「今も言いましたが、この森は確かに輪廻の森と言われていて、一度入ったら戻ってこられないと言われています」
「あ、スズお姉ちゃんだー!」
そんな子供達がスズを見つけると、笑顔で駆け寄ってくる。俺はその様子を見て、このあと彼女が何を言おうとしているのかを理解した。
「なのであなたのような年代の子達が、間違って彷徨ってしまい戻れなくなることも少なくないんです。ですから私は、そんな子供達をこうして助けてあげて皆で暮らすようにしているんです」
「つまり孤児院って事ですか?」
「孤児院、とは少々違いますかね。別に捨てられたわけでもありませんから。まあ、そういうのを悪用するような人もいますが」
子供を抱き上げながらスズは言う。彼女が子供を見る目は、まるで子供を見守る母親のような優しい目だった。俺はそんな彼女を見て思わず関心してしまう。
(同じ人間、とは思えないくらいしっかりしているんだな)
それに比べたら俺なんて……。
「それで私の頼みというのは、ユウさんにはここで手伝いをしてもらう事です」
「手伝いをですか? でも私」
「エルフ族の子は長生きだと聞いています。だから見た目とは違って大人なんですよね?」
「ま、まあそうですけど」
中身も違うなんて言えないので、俺はそう肯定する。彼女が俺に向けている目もどこか優しげで、本当の母親ではないかと錯覚してしまうほどだった。
そんな目で見られてしまったら、こちらも断りにくい。
(どちらにせよ選択肢はないよな、俺には)
ここが輪廻の森の中である以上は何もできないし、色々ごちゃごちゃになっている頭を整理するためにもいい機会だ。
「分かりました。出来ることは限られているとは思いますが、私スズさんの手伝いをさせていただきます」
こうしてしばらくの間、俺はこのヒノプス王国の孤児院でお世話になる事になるのだった。
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