幼女転生から始める異世界解読術
第29話 二匹のウサギは邂逅する 前編
時を止める魔法。
確かに止めた分だけ寿命が長くなってしまうような話はどこかの本でも読んだ事がある。
「まさかその本に、禁忌の魔法が眠っているとは私も思わなかった、あの時一瞬だけおかしな事が起きたからまさかって思ったけど、間違っていなかったんだね」
「じゃあ発動したのは偶然なの?」
「偶然、だとは思いたいけど、もしかしたらあの時ユウが願ったから発動したのかも」
「願った?」
「私を助けようとしたでしょ」
「あ」
確かにあの時間に合わないから一瞬だけ時間が止まってほしいと願った、それに答えたかのように時が止まった。これらが偶然として片付けるのは難しい。
でもそれだとおかしい話もある。
「その時を止める魔法がこの世界のものなら、少しおかしいよ」
「おかしい?」
「だってこの魔導書は」
俺の世界の言葉で書かれているものだ。
何故この世界の魔法が日本語で書かれているのか。ずっと疑問に思っていた事だ、こちらの世界からしたら、ただの珍しい本になるかもしれないが、俺からしたら事情が違う。
「ユウ、何がおかしいの?」
「あ、えっと」
だけどそれを話す事はできない。皆には事情を話しているから、隠す理由はない。だけどこれは他に話して解決する問題じゃなくて、俺自身が見つけるべき答えなのかもしれない。
「と、とにかくこの魔導書は危ないって事なの?」
「危ないってわけではないけど、ユウの体には一番危ない」
「それは使わなければ大丈夫なんじゃ」
「一度使ってしまっている以上そういうわけにもいかない」
ユウニは真剣な目でそう言うが俺には実感がなかった。寿命が延びるだなんて言われても、それがどれくらいで、どれほどの影響があるか分からない。
(何だろうなこの不思議な感覚)
「とにかくユウは使っちゃダメ。それは私じゃなくて、サシャル達もそう思っているから」
「え?」
「ごめんねユウ。私もそれだけはやめてほしいの。理由は……いつか話すよ」
ユウニだけならともかく、サシャルにまでそう言われてしまったら俺もそれに従う。
そもそもな話、どうしてこの世界から魔法という概念が無くなったのかが不思議だ、別に使えなくなったわけでもなく、こうして魔導書ですら存在する。
この世界で一体どうして。
「とりあえず魔法以外の方法でラーヤを助けないと。簡単な話ではないけど、ユウは答えを見つけたんだよね?」
「見つけた、と言えるかは分からないけど、ラーヤが抱えている闇は理解できた気がする。あとはもう説得以外にないと思う」
「乗り越えるのはラーヤ次第」
この世界に来てから疑問に思う事が多い。だけどその結論が未だに出ていない。
本だけで出来ている世界と聞いて最初は期待していたのだけど、こうして転生して一ヵ月半の時間を過ごして、色々な事情を知った。あの神様は読解力と速読スキルがあれば世界を救えるって言っていたけど、こうして実際に世界に触れてそれだけじゃ足りない事を学んだ。
「ラーヤ、私絶対救ってみせるから……」
■□■□■□
大きな動きがあったのはそれから二日後。この間に一度も帰ってこなかったラーヤが帰宅したのだ。
「ラーヤ?! どうしたのその体」
「ごめんサシャル。私やっぱり一人じゃ何もできない」
ただその姿は全身がボロボロな状態だった。思わぬ事態に俺達は慌てる。
「格好悪いよね、復讐とか色々いきがって、悪者になろうとして……。それなのに私何もできなかった」
「格好悪くなんかないよ。ラーヤの気持ちは理解できる。でもやり方が間違っているの」
「やり方?」
「あなたはずっと一人じゃない。私……私達がいるのに、頼ってくれなかった」
「頼るなんて……できるわけがない」
情緒が不安定なラーヤ。でも言っていることは間違っていなかった。
ラーヤがいようとしていた事はこの国を崩壊させるという名目で、己を犠牲にして国を安泰させるとある儀式を行う事だった。
「この儀式は私一人でしかできないの! 誰かを頼って解決するような話じゃないの」
「そんなの分かっているよ、私もユウ達も」
「だったら」
「自分犠牲にしてもいいの? ふざけないでよ」
「ふざけてなんかいない! 私はこの国の王女。犠牲にしてでもこの国を守るのが使命なの!」
涙を流しながら嘆くラーヤ。きっと今のセリフはアーニスでも同じことを言うかもしれない。それは誰よりも国を思っているからこそだとは思うけど、それを使命だというのは間違っている。
「ラーヤ、その使命は誰が決めたの?」
「別に誰かが決めたわけじゃない。でもそれが王女としての務め、だから……」
「だから死んでも構わない? 残さる人の気持ちはどうするの?」
「それは……許してほしいとしか言えない。これは私にしかできない事だから」
「もういい加減に……」
「これ以上自分を苦しめないで、ラーヤ!」
サシャルの声に被せるように俺達ではない別の声がする。
「え?」
声がした方に俺達は体を向ける。そこにいたのは、ラーヤと同じウサギ耳をした少女。だけど体が弱いのか車椅子みたいなものに乗っての登場だった。
「う、嘘、どうしてここにいるの?」
「ずっと会いにこれなくて……ごめんねラーヤ」
確かに止めた分だけ寿命が長くなってしまうような話はどこかの本でも読んだ事がある。
「まさかその本に、禁忌の魔法が眠っているとは私も思わなかった、あの時一瞬だけおかしな事が起きたからまさかって思ったけど、間違っていなかったんだね」
「じゃあ発動したのは偶然なの?」
「偶然、だとは思いたいけど、もしかしたらあの時ユウが願ったから発動したのかも」
「願った?」
「私を助けようとしたでしょ」
「あ」
確かにあの時間に合わないから一瞬だけ時間が止まってほしいと願った、それに答えたかのように時が止まった。これらが偶然として片付けるのは難しい。
でもそれだとおかしい話もある。
「その時を止める魔法がこの世界のものなら、少しおかしいよ」
「おかしい?」
「だってこの魔導書は」
俺の世界の言葉で書かれているものだ。
何故この世界の魔法が日本語で書かれているのか。ずっと疑問に思っていた事だ、こちらの世界からしたら、ただの珍しい本になるかもしれないが、俺からしたら事情が違う。
「ユウ、何がおかしいの?」
「あ、えっと」
だけどそれを話す事はできない。皆には事情を話しているから、隠す理由はない。だけどこれは他に話して解決する問題じゃなくて、俺自身が見つけるべき答えなのかもしれない。
「と、とにかくこの魔導書は危ないって事なの?」
「危ないってわけではないけど、ユウの体には一番危ない」
「それは使わなければ大丈夫なんじゃ」
「一度使ってしまっている以上そういうわけにもいかない」
ユウニは真剣な目でそう言うが俺には実感がなかった。寿命が延びるだなんて言われても、それがどれくらいで、どれほどの影響があるか分からない。
(何だろうなこの不思議な感覚)
「とにかくユウは使っちゃダメ。それは私じゃなくて、サシャル達もそう思っているから」
「え?」
「ごめんねユウ。私もそれだけはやめてほしいの。理由は……いつか話すよ」
ユウニだけならともかく、サシャルにまでそう言われてしまったら俺もそれに従う。
そもそもな話、どうしてこの世界から魔法という概念が無くなったのかが不思議だ、別に使えなくなったわけでもなく、こうして魔導書ですら存在する。
この世界で一体どうして。
「とりあえず魔法以外の方法でラーヤを助けないと。簡単な話ではないけど、ユウは答えを見つけたんだよね?」
「見つけた、と言えるかは分からないけど、ラーヤが抱えている闇は理解できた気がする。あとはもう説得以外にないと思う」
「乗り越えるのはラーヤ次第」
この世界に来てから疑問に思う事が多い。だけどその結論が未だに出ていない。
本だけで出来ている世界と聞いて最初は期待していたのだけど、こうして転生して一ヵ月半の時間を過ごして、色々な事情を知った。あの神様は読解力と速読スキルがあれば世界を救えるって言っていたけど、こうして実際に世界に触れてそれだけじゃ足りない事を学んだ。
「ラーヤ、私絶対救ってみせるから……」
■□■□■□
大きな動きがあったのはそれから二日後。この間に一度も帰ってこなかったラーヤが帰宅したのだ。
「ラーヤ?! どうしたのその体」
「ごめんサシャル。私やっぱり一人じゃ何もできない」
ただその姿は全身がボロボロな状態だった。思わぬ事態に俺達は慌てる。
「格好悪いよね、復讐とか色々いきがって、悪者になろうとして……。それなのに私何もできなかった」
「格好悪くなんかないよ。ラーヤの気持ちは理解できる。でもやり方が間違っているの」
「やり方?」
「あなたはずっと一人じゃない。私……私達がいるのに、頼ってくれなかった」
「頼るなんて……できるわけがない」
情緒が不安定なラーヤ。でも言っていることは間違っていなかった。
ラーヤがいようとしていた事はこの国を崩壊させるという名目で、己を犠牲にして国を安泰させるとある儀式を行う事だった。
「この儀式は私一人でしかできないの! 誰かを頼って解決するような話じゃないの」
「そんなの分かっているよ、私もユウ達も」
「だったら」
「自分犠牲にしてもいいの? ふざけないでよ」
「ふざけてなんかいない! 私はこの国の王女。犠牲にしてでもこの国を守るのが使命なの!」
涙を流しながら嘆くラーヤ。きっと今のセリフはアーニスでも同じことを言うかもしれない。それは誰よりも国を思っているからこそだとは思うけど、それを使命だというのは間違っている。
「ラーヤ、その使命は誰が決めたの?」
「別に誰かが決めたわけじゃない。でもそれが王女としての務め、だから……」
「だから死んでも構わない? 残さる人の気持ちはどうするの?」
「それは……許してほしいとしか言えない。これは私にしかできない事だから」
「もういい加減に……」
「これ以上自分を苦しめないで、ラーヤ!」
サシャルの声に被せるように俺達ではない別の声がする。
「え?」
声がした方に俺達は体を向ける。そこにいたのは、ラーヤと同じウサギ耳をした少女。だけど体が弱いのか車椅子みたいなものに乗っての登場だった。
「う、嘘、どうしてここにいるの?」
「ずっと会いにこれなくて……ごめんねラーヤ」
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