幼女転生から始める異世界解読術
第28話 魔法使いにはなれない
事情を知っておきながらラーヤを救いだせなかった事を俺は後悔していた。ラーヤは救いを求めているというのも分かっている。それはきっとサシャルだって。
「まずはユウがもっとこの国の事を知らないと駄目だと思う。表向きだけの事以外にも、この国には知っておかなければならない事があるの」
そのサシャルはというと、先程俺にそう言って沢山の本を俺に渡してきた。勿論この量を解読するのは苦でもないのだが、彼女が渡してきた本の内容の方が気になった。
「え、えっとサシャル。この本を読んでどうやってこの国の事を理解すれば……」
「あ、ち、違う、これは……」
彼女が渡してきたのは、毎度の定番となっている例の本。ティナがいない事でしばらくの間は聞いていなかった言葉だったが、まさか今度はサシャルの口から聞くとは思っていなかった。
(この世界は腐っているのか……別の意味で)
そう思うと少しだけ怖い。いや、勿論全員がそうではないと信じている。特にアーニス辺りからこの類の言葉が出てきたときには、きっと俺はこの世界が腐っていることを確信してしまうだろう。それだけはどうしても避けたい。
「い、今のは忘れて」
「忘れるけど。どうしてサシャルまでもが持っているの?」
「しゅ、趣味だから」
「趣味って……」
あなたが持っているのは女性同士の方なのですが、もしかしてラーヤにそういうのを求めているのですか? 確かにこの世界に来て男を見ていないけど、親友に求めるのはいかがかと。
「と、と、とにかくユウに読んでもらいたいのは……こっち」
今度はちゃんとした本を渡してきた。それは獣人族を更に細かく分類した本と、その歴史。他には……。
「え?」
「どうしたの? ユウ」
「ねえサシャル、どうしてこの本がここにあるの?」
サシャルが渡してきた本の中に紛れていた異物。俺はその異物に記憶があった。
「どうしてって、ユウこそどうしてこの本を知っているの?」
「どうしても何も」
これは俺がずっと前に書いた本だ。もうずっと昔の本だが、問題はそこではない。何故その昔の本がこの世界にあるのか、だ。
「とりあえずこの本は私がもらってもいい?」
「それは……できない」
「どうして」
「これは私の……私達の思い出だから」
「思い出って……」
他人の物だぞ。俺と……梓で一緒に作った本。無くしたものを取り戻したい。ずっとずっと探していた、大切な、
「駄目だよ、ユウ」
「駄目って」
「前を見なきゃ駄目だよ。今私達がするべきことは違うよ」
「そう……だけど」
心が揺れる。これが俺の悪いところだ。一度決めたことが、何かあると揺らいでしまう。思い出にすがり続ける自分が嫌になってしまう時もあるけど、そうでもしないと彼女を忘れてしまいそうで怖い。
「それに……ユウの願いはきっと叶う時が来る」
「どうして?」
「それは詳しくわからないけど、私は確信できる。だから今は頑張ろう」
彼女の言葉に俺は無言でい続ける事しかできなかった。
■□■□■□
あれから丸一日。ラーヤは帰ってこなかった。その間に俺はサシャルから渡された本を一日で読破し、サシャルが俺に何を言いたかったのかが理解できた。
ラーヤが一人でい続ける本当の理由。
復讐?
兎族の再繁栄?
違う。
「ラーヤ……どうしてそんな嘘をついてまで」
彼女がしたかった事は自ら悪役になってでも、救いたかったんだ自分の国を。でも彼女の中にある復讐心は変わらない。だからそれを理由にして、悪となろうとしている。
「サシャル!」
「ユウ、読み終わったの?」
「うん。サシャルが何を伝えたかったこと、ラーヤが何をしようとしているか、全部分かったよ」
「そう、よかった」
「止めないとラーヤを」
「それは最初から分かっているよ。そしてラーヤ自身も最初から。でも、だからこそ止まらなくなっている」
「それを何とかしてあげなきゃいけないのは」
「私達」
まだまだ気になることが多いけど、もう迷っている時間はない。沢山の人を、ラーヤ自身を救うためにも俺は自分の力を使う。
「ユウ、やる気になるのはいいけど、あなたが今考えていることは危ないからやめた方がいい」
だけどそれに水を差したのはユウニだった。あの日からしばらく姿を見ていなかったけど、彼女はどこへ行っていたのだろうか。
「魔法を使っちゃ駄目なの?」
「勘違いしていると思うから教えるけど、この前魔法を使ったのはあなたじゃない」
「この前の魔法?」
あの時間がほんの少しだけ止まった時の事だろうか。でもあの中で動けたのは俺だけだし、他の誰かが使ったようには見えなかったし、きっと魔導書を解読したのは俺だから、使えるようになったのはてっきり俺だと思っていた。
「あれはあなたが考えるような魔法じゃない。時間なんて簡単に止められない」
「でも止まったのは本当だし」
「甘く見ないで!」
ユウニは語尾を強める。何故かサシャルも真剣な目をしているし、俺が何か悪いことを言ってしまったのだろうか。
「時間が止まったらあなたは……」
「ユウニ、それ以上の事は」
「この先も体の成長が進まない」
「……え?」
もしかしてこの小さい体は……。
「まずはユウがもっとこの国の事を知らないと駄目だと思う。表向きだけの事以外にも、この国には知っておかなければならない事があるの」
そのサシャルはというと、先程俺にそう言って沢山の本を俺に渡してきた。勿論この量を解読するのは苦でもないのだが、彼女が渡してきた本の内容の方が気になった。
「え、えっとサシャル。この本を読んでどうやってこの国の事を理解すれば……」
「あ、ち、違う、これは……」
彼女が渡してきたのは、毎度の定番となっている例の本。ティナがいない事でしばらくの間は聞いていなかった言葉だったが、まさか今度はサシャルの口から聞くとは思っていなかった。
(この世界は腐っているのか……別の意味で)
そう思うと少しだけ怖い。いや、勿論全員がそうではないと信じている。特にアーニス辺りからこの類の言葉が出てきたときには、きっと俺はこの世界が腐っていることを確信してしまうだろう。それだけはどうしても避けたい。
「い、今のは忘れて」
「忘れるけど。どうしてサシャルまでもが持っているの?」
「しゅ、趣味だから」
「趣味って……」
あなたが持っているのは女性同士の方なのですが、もしかしてラーヤにそういうのを求めているのですか? 確かにこの世界に来て男を見ていないけど、親友に求めるのはいかがかと。
「と、と、とにかくユウに読んでもらいたいのは……こっち」
今度はちゃんとした本を渡してきた。それは獣人族を更に細かく分類した本と、その歴史。他には……。
「え?」
「どうしたの? ユウ」
「ねえサシャル、どうしてこの本がここにあるの?」
サシャルが渡してきた本の中に紛れていた異物。俺はその異物に記憶があった。
「どうしてって、ユウこそどうしてこの本を知っているの?」
「どうしても何も」
これは俺がずっと前に書いた本だ。もうずっと昔の本だが、問題はそこではない。何故その昔の本がこの世界にあるのか、だ。
「とりあえずこの本は私がもらってもいい?」
「それは……できない」
「どうして」
「これは私の……私達の思い出だから」
「思い出って……」
他人の物だぞ。俺と……梓で一緒に作った本。無くしたものを取り戻したい。ずっとずっと探していた、大切な、
「駄目だよ、ユウ」
「駄目って」
「前を見なきゃ駄目だよ。今私達がするべきことは違うよ」
「そう……だけど」
心が揺れる。これが俺の悪いところだ。一度決めたことが、何かあると揺らいでしまう。思い出にすがり続ける自分が嫌になってしまう時もあるけど、そうでもしないと彼女を忘れてしまいそうで怖い。
「それに……ユウの願いはきっと叶う時が来る」
「どうして?」
「それは詳しくわからないけど、私は確信できる。だから今は頑張ろう」
彼女の言葉に俺は無言でい続ける事しかできなかった。
■□■□■□
あれから丸一日。ラーヤは帰ってこなかった。その間に俺はサシャルから渡された本を一日で読破し、サシャルが俺に何を言いたかったのかが理解できた。
ラーヤが一人でい続ける本当の理由。
復讐?
兎族の再繁栄?
違う。
「ラーヤ……どうしてそんな嘘をついてまで」
彼女がしたかった事は自ら悪役になってでも、救いたかったんだ自分の国を。でも彼女の中にある復讐心は変わらない。だからそれを理由にして、悪となろうとしている。
「サシャル!」
「ユウ、読み終わったの?」
「うん。サシャルが何を伝えたかったこと、ラーヤが何をしようとしているか、全部分かったよ」
「そう、よかった」
「止めないとラーヤを」
「それは最初から分かっているよ。そしてラーヤ自身も最初から。でも、だからこそ止まらなくなっている」
「それを何とかしてあげなきゃいけないのは」
「私達」
まだまだ気になることが多いけど、もう迷っている時間はない。沢山の人を、ラーヤ自身を救うためにも俺は自分の力を使う。
「ユウ、やる気になるのはいいけど、あなたが今考えていることは危ないからやめた方がいい」
だけどそれに水を差したのはユウニだった。あの日からしばらく姿を見ていなかったけど、彼女はどこへ行っていたのだろうか。
「魔法を使っちゃ駄目なの?」
「勘違いしていると思うから教えるけど、この前魔法を使ったのはあなたじゃない」
「この前の魔法?」
あの時間がほんの少しだけ止まった時の事だろうか。でもあの中で動けたのは俺だけだし、他の誰かが使ったようには見えなかったし、きっと魔導書を解読したのは俺だから、使えるようになったのはてっきり俺だと思っていた。
「あれはあなたが考えるような魔法じゃない。時間なんて簡単に止められない」
「でも止まったのは本当だし」
「甘く見ないで!」
ユウニは語尾を強める。何故かサシャルも真剣な目をしているし、俺が何か悪いことを言ってしまったのだろうか。
「時間が止まったらあなたは……」
「ユウニ、それ以上の事は」
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