幼女転生から始める異世界解読術
第4話 私の姉は手遅れなくらい腐ってました
本を用意してもらうとは言っても、気がつけば外はすっかり日が暮れていたので今日のところは解散する事になった。
「ふう、色々ありすぎて疲れちゃった」
リルが帰宅してしばらく、ティナはそう言葉を発した。
「お疲れ様。今日は……ごめんね」
「何で謝るのよ」
「だって」
「あまり余計な事言うと怒るよ私」
彼女が疲れた原因は俺にあるのに、ティナはそれを敢えて言わないで、逆に俺が怒られてしまった。これ以上彼女を怒らせるのも気がひけるので、俺は疲れを癒すためにティナにこう言った。
「お風呂ってどこにあるの?」
「ふろ? 何それ」
思わぬ返答に俺は驚愕する。
「え、えっとまさか……無いの?」
「有るも無いも、私そんな言葉聞いたことがないけど」
何てこった。
「じゃあ普段はどうしているの体とか。洗わないと不潔でしょ?」
「そこは毎日水浴びしているから大丈夫よ」
「水浴びって……」
それだけで体は綺麗になるのか? そんなこと考えたら、少しだけティナから距離をとりたくなってきた。
「ちょ、ちょっと何で距離取るのよ。そういう貴方だって本当なら外に出れないくらい臭いんだから!」
「あ」
一度死んだ身である以上、腐るとまでは言わないが確かに少しだけ体が匂う。どうやら今すぐにでも水浴びをしなければならないらしい。
「それで、どこで水浴びはできるの?」
「桶があるからそこに何杯か水を溜めて、家の外でそれをかけるだけだから簡単だよ」
そうサラリと言うティナ。つまり要約すると、外で全裸で洗ってこいと言う事らしい。
「じょ、冗談だよね?」
「本気に決まっているでしょ」
嘘だと思いたい……。
「ハックション。寒い……」
この後十分ほどかけて全裸で水浴びを行ったわけだけど、その時の事はなるべく思い出したくない。むしろこれを毎日続けると考えると、やはり少しだけ憂鬱になるのだった。
だけどよく考えれば、俺は転生からしばらく全裸で過ごしていたんだよな。
■□■□■□
水浴びを終え、家に戻るとティナが大量の本に囲まれて何やら考え事をしていた。
(何をしているんだ?)
声をかけようと思ったが少しだけ様子を見ることにした。するとティナは何か独り言をぶつぶつ言い出した。
「ここにある本って結構偏った物ばかりなのよね……。こんなので役に立つかな」
本を眺めながらティナは呟く。どうやら俺のためにわざわざ本を選定してくれているらしい。
「それにあの本は……読んでもらいたくないし、家にあるものだけじゃやっぱり足りないかな」
その正直な気持ちが嬉しかった。先程は協力してくれるとは言っていたけど、本当はしてくれないんじゃないかって不安はあったし、立場が立場なだけに、いつ追い出されてもおかしくはない。
それでも彼女はこうして本を選んでくれたり、食事を作ってくれたり、その純粋な優しさがすごく嬉しかった。
「ありがとう」
「え」
俺は思わずそんな言葉を漏らしてしまう。それによってティナがこちらに気が付いてしまった。
「ちょ、ちょっと戻ってきていたなら言ってよ」
「ごめんなさい。なかなか話しかけづらくて」
「別に本を選んでいただけなんだから、話しかけてもいいのに」
「何か嬉しくって」
「嬉しい?」
「だってそうやって私のために本を選んでくれているから、それが純粋に嬉しかった」
「べ、別に協力してあげるって言ったんだし当然のことをしただけなんだから。そのくらいで喜ばないでよ」
テンプレのツンデレセリフを言うティナ。もし今俺が男の姿なら、どんな顔をしていただろうか。多分ではあるけど彼女の目の前でニヤニヤして、怒られていただろう。
「な、何ニヤニヤしてるのよ!」
どうやらそれは転生しても変わらないらしい。
「それでどういう本があるの?」
俺は彼女の近くにあった本を一冊手に取ってみる。だがそのたまたま取った一冊が、彼女が言っていた偏った本しかないという言葉を裏付けるものだった。
「あ、そ、それは!?」
「こ、これって……」
それは俺の生きていた世界でいう同人誌と呼ばれるもの。そしてその表紙には男エルフと男エルフが……。
「……」
俺は言葉を失う。他の本を見てはいないが、もし仮にここにある本が全てそれに値するものだったらと考えるとゾッとする。
「お、お姉ちゃん」
「こ、こういう時にお姉ちゃんって呼ばないでよ」
「腐っていたんだね。別の意味で」
「く、腐ってなんかいないわよ」
腐ったエルフと書いて腐エルフ。この世に新たな言葉が生まれた。
「私こんなの読んで世界を救えないよ」
「わ、分かっている。分かっているわよ」
「救えないよ」
「どうして二回言うのよ!」
大事な事なので。
「それに、こ、これが全部じゃないわよ! ろ、六割くらいだけなんだから」
「ほとんどでしょそれ」
同人誌で世界を救うヒーローになるなんて話、全く聞いたことがないぞ。
いや趣向を変えればそれも……ないな。
「ゆ、ユウも一緒に読もう?」
「私をそっちの世界に引き込まないで!」
とにかくこの家ではまず真面目な本を探すことから始めたほうがいいかもしれない。
てか、実の妹に同人誌を読ませようとするなよ。
「ね、ねえそっちの世界にもこういう本はあるの?」
「あることにはあるけど、どうして?」
「もうここにある本は全部読んじゃったから新しい刺激がほしくて」
「持ってこれないからね!」
もう駄目だ、この姉腐るところまで腐りきっている。
「冗談よ冗談」
「冗談には聞こえなかったけど私」
こんなくだらないやり取りをしている内に夜はすっかり更けて、俺はリビング的な場所で、ティナは自分の部屋でそれぞれ睡眠をとった。一応ユウの部屋もあるらしいけど、使わせてはもらえないらしい。
(使えるのは認めてもらってからかな)
この世界の布団で寝転がりながら天井を眺めて俺は改めて今日のことを振り返る。色々あって混乱していたけど、冷静に考えると起きた事実はたった一つ。
もうあの場所には戻れない事。
地球に未練がなかったわけじゃない。むしろ未練のほうが多い。まだ俺にはやり残したことが沢山あったのに、もうそれを行うことはできない。していた約束も果たせない。
どうして俺は死んでしまったのだろう。
家族は突然の死にどう思っているのだろう。
その疑問に答えは出てこない。何故なら俺は、もうこの世界の人間に生まれ変わってしまったのだから。
それはどうあっても変えられない事実だった。
「ふう、色々ありすぎて疲れちゃった」
リルが帰宅してしばらく、ティナはそう言葉を発した。
「お疲れ様。今日は……ごめんね」
「何で謝るのよ」
「だって」
「あまり余計な事言うと怒るよ私」
彼女が疲れた原因は俺にあるのに、ティナはそれを敢えて言わないで、逆に俺が怒られてしまった。これ以上彼女を怒らせるのも気がひけるので、俺は疲れを癒すためにティナにこう言った。
「お風呂ってどこにあるの?」
「ふろ? 何それ」
思わぬ返答に俺は驚愕する。
「え、えっとまさか……無いの?」
「有るも無いも、私そんな言葉聞いたことがないけど」
何てこった。
「じゃあ普段はどうしているの体とか。洗わないと不潔でしょ?」
「そこは毎日水浴びしているから大丈夫よ」
「水浴びって……」
それだけで体は綺麗になるのか? そんなこと考えたら、少しだけティナから距離をとりたくなってきた。
「ちょ、ちょっと何で距離取るのよ。そういう貴方だって本当なら外に出れないくらい臭いんだから!」
「あ」
一度死んだ身である以上、腐るとまでは言わないが確かに少しだけ体が匂う。どうやら今すぐにでも水浴びをしなければならないらしい。
「それで、どこで水浴びはできるの?」
「桶があるからそこに何杯か水を溜めて、家の外でそれをかけるだけだから簡単だよ」
そうサラリと言うティナ。つまり要約すると、外で全裸で洗ってこいと言う事らしい。
「じょ、冗談だよね?」
「本気に決まっているでしょ」
嘘だと思いたい……。
「ハックション。寒い……」
この後十分ほどかけて全裸で水浴びを行ったわけだけど、その時の事はなるべく思い出したくない。むしろこれを毎日続けると考えると、やはり少しだけ憂鬱になるのだった。
だけどよく考えれば、俺は転生からしばらく全裸で過ごしていたんだよな。
■□■□■□
水浴びを終え、家に戻るとティナが大量の本に囲まれて何やら考え事をしていた。
(何をしているんだ?)
声をかけようと思ったが少しだけ様子を見ることにした。するとティナは何か独り言をぶつぶつ言い出した。
「ここにある本って結構偏った物ばかりなのよね……。こんなので役に立つかな」
本を眺めながらティナは呟く。どうやら俺のためにわざわざ本を選定してくれているらしい。
「それにあの本は……読んでもらいたくないし、家にあるものだけじゃやっぱり足りないかな」
その正直な気持ちが嬉しかった。先程は協力してくれるとは言っていたけど、本当はしてくれないんじゃないかって不安はあったし、立場が立場なだけに、いつ追い出されてもおかしくはない。
それでも彼女はこうして本を選んでくれたり、食事を作ってくれたり、その純粋な優しさがすごく嬉しかった。
「ありがとう」
「え」
俺は思わずそんな言葉を漏らしてしまう。それによってティナがこちらに気が付いてしまった。
「ちょ、ちょっと戻ってきていたなら言ってよ」
「ごめんなさい。なかなか話しかけづらくて」
「別に本を選んでいただけなんだから、話しかけてもいいのに」
「何か嬉しくって」
「嬉しい?」
「だってそうやって私のために本を選んでくれているから、それが純粋に嬉しかった」
「べ、別に協力してあげるって言ったんだし当然のことをしただけなんだから。そのくらいで喜ばないでよ」
テンプレのツンデレセリフを言うティナ。もし今俺が男の姿なら、どんな顔をしていただろうか。多分ではあるけど彼女の目の前でニヤニヤして、怒られていただろう。
「な、何ニヤニヤしてるのよ!」
どうやらそれは転生しても変わらないらしい。
「それでどういう本があるの?」
俺は彼女の近くにあった本を一冊手に取ってみる。だがそのたまたま取った一冊が、彼女が言っていた偏った本しかないという言葉を裏付けるものだった。
「あ、そ、それは!?」
「こ、これって……」
それは俺の生きていた世界でいう同人誌と呼ばれるもの。そしてその表紙には男エルフと男エルフが……。
「……」
俺は言葉を失う。他の本を見てはいないが、もし仮にここにある本が全てそれに値するものだったらと考えるとゾッとする。
「お、お姉ちゃん」
「こ、こういう時にお姉ちゃんって呼ばないでよ」
「腐っていたんだね。別の意味で」
「く、腐ってなんかいないわよ」
腐ったエルフと書いて腐エルフ。この世に新たな言葉が生まれた。
「私こんなの読んで世界を救えないよ」
「わ、分かっている。分かっているわよ」
「救えないよ」
「どうして二回言うのよ!」
大事な事なので。
「それに、こ、これが全部じゃないわよ! ろ、六割くらいだけなんだから」
「ほとんどでしょそれ」
同人誌で世界を救うヒーローになるなんて話、全く聞いたことがないぞ。
いや趣向を変えればそれも……ないな。
「ゆ、ユウも一緒に読もう?」
「私をそっちの世界に引き込まないで!」
とにかくこの家ではまず真面目な本を探すことから始めたほうがいいかもしれない。
てか、実の妹に同人誌を読ませようとするなよ。
「ね、ねえそっちの世界にもこういう本はあるの?」
「あることにはあるけど、どうして?」
「もうここにある本は全部読んじゃったから新しい刺激がほしくて」
「持ってこれないからね!」
もう駄目だ、この姉腐るところまで腐りきっている。
「冗談よ冗談」
「冗談には聞こえなかったけど私」
こんなくだらないやり取りをしている内に夜はすっかり更けて、俺はリビング的な場所で、ティナは自分の部屋でそれぞれ睡眠をとった。一応ユウの部屋もあるらしいけど、使わせてはもらえないらしい。
(使えるのは認めてもらってからかな)
この世界の布団で寝転がりながら天井を眺めて俺は改めて今日のことを振り返る。色々あって混乱していたけど、冷静に考えると起きた事実はたった一つ。
もうあの場所には戻れない事。
地球に未練がなかったわけじゃない。むしろ未練のほうが多い。まだ俺にはやり残したことが沢山あったのに、もうそれを行うことはできない。していた約束も果たせない。
どうして俺は死んでしまったのだろう。
家族は突然の死にどう思っているのだろう。
その疑問に答えは出てこない。何故なら俺は、もうこの世界の人間に生まれ変わってしまったのだから。
それはどうあっても変えられない事実だった。
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