幼女転生から始める異世界解読術

りょう

第2話 望まぬ奇跡は哀を呼ぶ

 天使のリル(然り気無なく名前を聞き確認した)に言われるまで全裸だった事に気が付かなかった俺は、彼女から服を借り、今一度姉であるティナの元へ向かうことにした。

「ねえリルお姉ちゃん、ちょっと変な事を聞いていい?」

 その途中、折角なので俺はリルに少しだけ質問をしてみることにした。

「どうしたの?」

「私ってその、いつ亡くなったの?」

「一昨日の話だよ。それからティナは塞ぎこんじゃって、今日まで家から出ていなかったから心配していたの」

「お姉ちゃんがそんなに私を……」

 その姉に投げ飛ばされたんですが、それは……。

「でも今は、こうして奇跡が起きたから元気は戻っているんじゃないかな」

「そ、そうなのかな」

「不安?」

「不安……かな」

  あの怒りようからして、むしろ元気をなくしているとさえ思える。あれから時間もそんなに経っていないのだから、そう考える方が妥当だ。

「リルお姉ちゃんは嬉しいの?」

「勿論」

「そっか……」

 まああり得ない事が起きてしまったのだから、何も知らない彼女からしたら嬉しいに決まっている。
 だからこそ複雑な気持ちだった。

(ティナが言っていた通り、俺は成りすましに近い。それを彼女も知ったら……)

 どうなるのだろうか。

「本当にこれは奇跡なのかな」

「ユウちゃん?」

「あ、ごめん。何でもない」

 こんな望まれてもいない形の何かが、奇跡と呼べるのか。

(あの神様はどうして)

 俺にこんなにも辛い思いをさせる為に、転生なんてさせたんだよ。

 ■□■□■□
 痛む胸を何とか抑えながら、俺はリルと一緒に再び彼女の家へと帰宅。

「ティナ、居るんでしょ。少し話がしたいから開けて」

 そういって家の扉をノックするリル。

 先程の事が少しトラウマになってしまた俺は、リルの背中にぴったりくっついたままその様子を見守った。

「どうしたのリル。さっき話をしたばっかりでしょ」

 数分ほどしてティナが扉を開けて出てくる。そして条件反射かのように俺を見つけるなり、

「あ、偽物! 私だけじゃもの足りず、親友まで騙そうとするなんて許さない!」

 そう言って小さな俺に飛びかかってきた。

「ちょ、ちょっと待ちなさいティナ。私騙されてなんかいないわよ。どう見てもユウちゃんでしょ?」

 しかしそこは何とかリルが仲介してくれ、トラウマが再び起きることだけは避けられた

「騙されちゃダメよリル。そいつは私の妹を装っているのよ。どこの馬の骨か知らないけど、ユウは絶対に男みたいな喋りかたをしない」

「そ、それは多分一時の気の迷いだよ。だから奇跡が起きたんだと思って許してあげて」

「奇跡? これが? 馬鹿にしないでよ。奇跡ならどうしてあの時に起きてくれなかったの?  そうすれば私はこんなにも辛い思いをしなくてよかったのに……どうして……どうして」

 突然子供のように泣き出すティナ。その姿を見てリルは黙ってしまう。

(リルが言っていた通り、か)

 肉親を亡くしてまだ二日。それなのに立て続けにこんな事が起きたら、俺も彼女と同じ気持ちになる。

 こんな苦しくなる奇跡、嫌だよな。

「ごめん。二人にはちゃんと話すよr

「え?」

「ゆ、ユウちゃん?」

「そうでもしないと、この体を与えてくれた人に申し訳ないから」

 出会って間もない二人ではあるけど、俺はこの二人には真実を伝えることにした。それは多分二人にとっては残酷すぎる話かもしれないけど、黙っておく方が残酷だと思う。

「持ち主って……どういうことなの?」

「確かに私……俺はユウって子ではない」

「やっぱり成り済ましじゃ」

「成り済ましと言われればそうかもしれない。だけどそうじゃないんだ」

「どういうことユウちゃん」

 だから彼女達だけには伝える。

「俺の本当の名前は夏目龍之介。ついさっき、その、ユウって言う子に転生してこの世界にやって来たんだ」

「え」

「え」

 俺、夏目龍之介というありのままの自分を。

『えええぇぇ!』

 台詞とは全く似つかない可愛らしい声で。

 ■□■□■□■□
「じゃ、じゃあつまり今のユウちゃんは私達が知っている」

「ユウじゃないってことなの?」

 一度家に入り、俺はここまでの経緯をすべて説明した。俺自身も死人であり、
 異世界からやって来てしまった事。
 男であること。
 そしてもう本物のユウという子は戻ってない事。
 嘘のような真実を話した。

「私も信じられなかった。まさかこんな形の転生をしてしまうなんて。自分勝手だよね、本を読みたいから勝手に他人に生まれ変わるなんて」

 俺口調だとこの話をするにはあまりにもシリアスブレイカーなので、私口調で二人に俺はそう告げた。何だったら今殺されても構わないくらいの覚悟もある。こんなの二人には可哀想な話なのは変わらない。

「信じられないよね、やっぱり」

「……信じたくない話だけど、声はユウだし口調も直せばなにも変わらないけど、それでも私は受け入れられないよ……」

「そう言うと思ったから、今この場で殺してくれても構わないよ」

「そんな馬鹿なこと言わないで! 殺すなんてそんなことできるわけないでしょ」

「ならどうするの」

「私の妹としてちゃんと生きててくれるならそれで構わない。さっき投げ飛ばしちゃったことも謝る」

 俺の喋る間も無くティナは言葉を続ける。

「その代わりにさっき言っていたその能力とか言うやつで、私を……ううん、私達を助けて」

 なんの意図を持ってティナはそう言ったのかは分からない。だけど彼女の助けてという言葉には、俺も深い悲しみを感じた。

 そう、あの頃の俺と全く同じように。とても深い深い悲しみを。

「私からもお願いします。その、転生者さん。もし本当に救う力があるなら、どうか助けてください。天使の私からもお願いします」

 そしてそれはリルからも同じものを感じた。さっきとはまるで違う悲しみを。

 この二人から、いや、この世界からとてつもない悲しみを感じた。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品