非リアの俺と学園アイドルが付き合った結果

井戸千尋

私の先輩と俺の親友

百十八話






【新転勇人】





「勇っちのお母さんってすごい人だったんだね……」
「いや、頭おかしいだけですよ」
今どき時間ないからってヘリで帰るなんてありえないだろ。
今どきじゃなくてもないけどな!
「勇人くんのお母さんって不思議な人だね」
左道さんもなんとも言えない表情で空を見上げていた。
母がいなくなった空はすっごく平和に見えました。
「お母さん凄かったですね!」
平和じゃない人がここにひとり。
だいぶ前にヘリが去っていった空を指さしてキラッキラした笑顔ではしゃぐ円香ちゃん(五歳)
「あんな可愛らしい方なのにはしごに捕まれるなんて!」
「そこっ!?ヘリに乗りたいとかじゃなくて!?」
円香のことだからお空に行ってみたいです!とか言うと思ったのに。
さすがの円香もそこまでこどもじゃないか。
「はい、ヘリじゃないですけどスカイダイビングする時に飛行機に乗ったことあるんです」
予想以上に大人!?
スカイダイビングって相当勇気ないとできないよね!?
「お母さんに、飛べば胸が大きくなるよって言われたんですけど、まぁ残念ながらこのザマですよははは」
あらやだ胸の成長のためならなんでもやるんじゃないこの子。
てかお母さん円香で遊びすぎじゃない!?
「新天それ嘘だと思うよ。だってあたしスカイダイビングなんてしてないもん」

せ  ん  ぱ  い  の  む  い  し  き  こ  う  げ  き  だ  !

「先輩のばか……うぅ……」

こ  う  か  は  ば  つ  ぐ  ん  だ  !


『続いては三年生によるクラス対抗リレーです。三年生にとって最後の体育祭、最後の競技となるので温かい声援をよろしくお願いします!』

「んじゃいってくる」
先輩はそう言ってグラウンドへと駆けていった。

会場はより一層の熱気を放ち、燃えたぎるような応援が飛び交う。

しかし――
“最後”。

その言葉を聞いて俺たちは駆けていく先輩の背中を見ていることしか出来なかった。
先輩の最後の体育祭。
俺たちが卒業するときにはこの学校にいない先輩、先輩はどんな気持ちでこの数ヶ月を過ごしてきたんだろうか。
「先輩とこうして過ごせるのもあと数ヶ月しかないんですよね」
「そうだね、受験勉強で会えない日が続くと思うから思ってるよりも短い期間しかないね」
「そうですよね……」
円香のそんなつぶやきは会場の熱気にのまれて消えていった。









「先輩そろそろですね」
先輩はアンカーを務めるらしくタスキをかけ屈伸運動をしている。
正直先輩には足が速いイメージがないからアンカーと聞いて驚いたのだ。
「三位ですけど大丈夫でしょうか」
「大丈夫。先輩……銀杏さんは負けず嫌いだから」





【新天円香】






「せんぱーいッ!頑張ってくださいッ!」
先輩にバトンが渡りました。
順位は第三位。
前を走る二人への距離は目と鼻の先です。
「先輩!やれェ!!」
「先輩頑張って!!」
「先輩ファイトー!」
浅見さん、勇人くん、真結の応援が響きます。
やはり浅見さんは気合が入っており、人一倍声を張り上げています。
「勇人くん!勇人くん!これ一位いけますよね!!」
「そうだね、いけるよ!」
私も興奮が抑えきれません。
だってもう既に上位の二人に手が届きそうなんですよ!?
『金霧さん早い!ていうかこれは……大至急彼氏持ちの方は彼氏へ目潰しをお見舞してあげてください!危険です!』
会場全体が何が危険なのかは察しています。
だからこそ、応援の熱気が溢れる中、少しの笑いが会場全体から湧きました。

先輩はみるみるうちにスピードを上げ、ついに第二位の方と並びました。
『これはすごい!あれほどのものをもちながらここまでの走りを見せるなんて!さぁ!最後のコーナーです!一位との差は極わずか!一位を手にするのは、スピードを上げてきた金霧さんか!それとも――』







【新転勇人】






「先輩、おつかれさまです」
「ん、おつかれ」
「先輩かっこよかったっす!惚れ直しました!!」
「そりゃ頑張ったかいがあるね」


惜しくも“1位には届かなかった”先輩へ気をつかってか、みんな先輩への激励の言葉が止まらない。
「先輩すごいです!大きなハンデがあるのにも関わらず!」
「新天はそのハンデがないからいい走りできるよ」
激励の……。
「いやぁ先輩は本当に被写体としての華がありますよねぇ」
「取るのは構わないけど、売らないでね?あたしにはこの子がいるから」
激……。


ま、まぁいい。
多分みんななりの励ましだろう。
ギリギリで一位に届かず、惜しくも二位でゴールした先輩への。

「……あたしね、現実で一位になったことなんてないんだ。負けず嫌いって分かってるのに何故かいつも今みたいに直前で壁が立ちはだかる」

先輩は俯き、心から悔しそうに拳を握りしめながら。

「ゲームでは一位なのに、生身の、金霧杏佳になった途端ダメなの。だからせめて高校最後の体育祭では!って頑張ったんだけど……なんでかなぁ……」

髪の隙間から覗く瞳にはうっすらと涙さえ浮かんでいるように見えた。

「なんでいつもあとすこしが届かないんだろう……ダメだなぁあたし」

先輩は今まで俺たちに見せたことのない心を、弱気を口に出していた。
それは過去全てを悔やむような、よもや今をも後悔で包んでいるかのようなものだった。


「ダメな――」
「――ダメなんかじゃない」

俺は先輩へ声をかけようとしていた円香の手を掴み、彼女を制止させる。

ここで俺や円香が下手に声をかけるより、大好きな、世界で一番愛してる人に声をかけてもらった方がいいに決まってる。
ここは浅見くんがかっこつける番だ。


「俺が先輩を一番にしますよ。」
「でももうリレーも終わっちゃったし……」
「金霧杏佳じゃなくなるのは申し訳ないんですけど、浅見杏佳として、世界一幸せにしますから。」


おぉ……。
なかなかにクサイセリフだな……。
だけどそこがいい。
人を幸せにするには少しロマンチストの方が丁度いいからか。
浅見くんらしいセリフだ。

「勇人くん……」
「言わないよ?」
円香はお預けを食らったペットのような表情に。

「それってプロポーズ?」
「まぁ……はい。まだ年齢が間に合ってませんが、俺がんばるんで、先輩のために一生懸命頑張りますから!」

いや……今このタイミングでこんなこと思ってしまうのは俺の悪い癖なんだが……何でこんなかっこよくて一途な浅見くんが円香を脅迫なんかしたの?
不思議でならないんだけど。
それほど円香が魅力的すぎたってこと?

「勇人くん……」
「ダメです」

んー、まぁ無きにしも非ず。
魅力的なのは認める。


「浅見、かっこいいね。」
「いやそれほどでも…………あるかも」
「ばーか」
「なんでぇ!」
先輩は楽しそうに、それでいて今にも飛び跳ねてしまうんじゃないかと思うくらい嬉しそうな表情で、

「夫をいじめるのも妻の役目でしょ?」

笑ったその顔は過去全てを溶かしてしまうような、浄化してしまうような柔らかな温かみに包まれた笑顔だった。




「勇人くん、私も――」
「ダメです」








うっ……幸せにあてられて消え去りそうだ……。

井戸が仲間にしてほしそうな目でこちらを見ている。

仲間にしますか。

はい

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コメント

  • うみたけ

    唐澤貴洋「先生、トイレに行ってもいいですか?」
    先生「駄目です」
    唐澤貴洋「ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!!ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!!」

    7
  • MEG士

    井戸は仲間w

    2
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