非リアの俺と学園アイドルが付き合った結果

井戸千尋

私の勇人くん成分と俺の素晴らしい彼女

七十八話






【新転勇人】







翌日。
俺はいつものように円香と一緒に登校し、いつものように教室へ行き、いつも自分の席へ座る。
いつもならここで円香から「今日も一日がんばりましょう!」と可愛らしいLimeが飛んでくるのだが、今日は違った。

『どうやら廊下騒がしさは一年生のクラスの方かららしいですよ?』

そう。
今日俺たちが登校すると、何故かいつもより廊下が騒がしく二人とも気になっていたのだ。
“いつもより”。というのは、いつもは「おいあれ……」「チッ……まだ付き合ってんのかよ」「俺生まれ変わったら新転になるわ」と罵詈雑言や妬みの声が上がっているのである。
まぁ毎回「ウェーイお前らこんな可愛い子と並んで歩いたことないだろォ!やーいやーい!」って心の内でバカにしているからさほど気にしてはいないが。

さすがに声には出せないよね。殺されちゃうもん。

騒がしい廊下を眺めつつ円香への返信を考えていると、再びスマホが震え通知を知らせた。

『見に行ってみませんか?と、特に下心的なのはないんですけどふたりきりで行きませんか』

かわいい。

昨今のラノベ主人公ならここで「下心?なんのことだ?」みたいに鈍感効かせてモテ男ウザイ、となるのだが俺はそんな鈍感系主人公でもモテ男でもないから分かってしまうのだ。
つまり!!

この騒がしさを利用して周りに見せつけようっていうことだ!
さすが円香。
周りの厄介者達を跳ね除けるすべは一級品だ。
俺は「教室行くね」と連絡し、席を立ち隣のクラスへと向かった。






【新天円香】







うぅ…………まだ勇人くんと一緒にいたい、昼まで我慢出来ないですなんて言えません……。
なんかこの騒ぎの中ふたりきりで並んで歩いたりしたら周りの人に見せつけているみたいで気が引けちゃいます……。それだと勇人くんに迷惑をかけてしまいますが……我慢出来なかったのです!!
植物に水をあげないと枯れてしまうように、新天円香にある程度の勇人くん成分を与えないと真っ白に燃え尽きてしまうのです!
仕方ありませんね!はい!
新天円香の身体の8割は勇人くん成分で出来ているので!
「あ、あのぉ……」
むっ!この声は!!
「新て――」
「ここにいます!」
今の私はウサ〇ン・ボルトより速かったかも知れません。
私は素早く勇人くんの手を取り……あ、さすがに廊下で手を繋いでたら勇人くんにこれ以上迷惑がかかってしまうのでやめておきましょう。
もし周りが女生徒だけだったら繋げたのですけどね……。
勇人くんの先を歩くようにして廊下に出ました。

短い時間ですが勇人くん成分をちゃーじです!!









「な、何ですかこれは……」
騒ぎの原点となる教室へたどり着いた私たちは驚きの光景を目にしました。

短く艶やかな黒髪。

真っ赤に染まっている頬。

…………大きな胸……。


「勇人くん、これって――」
「こんなに可愛くなるんだ……」
ゴクリ、と、彼は生唾を飲み込み、その少女を眺めていました。
「・・・」
「すげぇなぁ……」


「勇人くん?一体何がすごいんですか?」
胸ですか?
胸なんですか?
私の無い胸から沸き起こる嫉妬心とは裏腹に、勇人くんは「あ、そっか」と短絡的な言葉を呟き、こう続けました。

「これ三郷さんだよ。あの子がメガネとると可愛いって浅見くんから聞いてたんだけど……相当だね」

「…………え?あれが三郷さん……?」
申し訳ないのですが、昨日の面影が一切ない……唯一あるのは胸くらいしか……。
「ほら、だってあれ」
勇人くんの目線の先には――
「おっほぉー!可愛いね三郷さん!私としたことが見逃しちゃうところだったよぉ!」
コロコロとアングルを変えて写真を撮る真結がいました。
もうなんかはじめましての時の面影がありませんね……。
私はそんな彼女からそっと目を離し、勇人くんへと目線を向けます。
「ん?どうかした?」
「いいえ♪なんでもないでーす♪」
私の勇人くん成分はいっぱいになりました。







【新転勇人】







「おっ、勇人!!」
円香が嬉しそうに俺から目を離してすぐの事だった。
「勇っちおはよ」
浅見くんと金霧先輩から声をかけられたのは。
「おっと、あとすこしでHRだしあんまし話してる暇ねーわ!ちょっと待っててくれ。」
「お、おう……?」
颯爽と現れたと思ったら、颯爽と三郷さんのところへ行く二人。
…………なるほどね……。
「勇人くん、あの二人なにしに三郷さんのところへ?」
「んー……まぁ見とけばわかる、かな。」
多分二人はあのことを伝えにいったのだろう。
どこからどう見ても浅見くんのことが好きな彼女に。
きっと三郷さんのことだから黙り込んで肯定しちゃうんだろうな。
お幸せに、とか言ったり……。

浅見くんの恋がかなったのになんかやるせない感じだ。




――しかし。
そんな俺の思いとは裏腹に、思わぬ声が“響き渡った”。


「ぃやですッ!」

と。


三郷さんの声が。

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