死んだ恋人と愛し合うことを誓えますか?
第6話
それは体育祭の後の事である。
体育祭の熱気はどこかに消え、感傷的な夕焼けが街の景観のバックを担っていた。
彼女は応急処置を施してもらった包帯巻きの痛む足でも、一人で帰路に就こうとした。
「あっ」
校門の塀に背中を預けてスマホをいじっている彼の姿を認めて、彼女はあまりの予想外に間抜けな声を発した。
「そんなとこで何をしてるんですか?」
「ん……ゲーム、してた」
彼女の方を見向きもせず彼は、しどろもどろに答えた。
彼女もそれ以上追及する気はなく、肩に掛けたスクールバックをぐいっと持ち直して、
「さっきはありがとう。それじゃ」
礼は言ったから用はないと、彼女は歩き出す。
「おい、待て」
彼が三歩ほど歩いた彼女を、唐突に呼び留める。
彼女は顔だけ振り向かせた。
「なぁに?」
「足首、まだ痛いだろ?」
「少しね」
簡潔に答えて、彼女は彼の表情を窺う。
彼は何か言いたそうにして、彼女を険しい顔で凝視していた。
「私に言いたいことでもあるの?」
ああ、と彼は肯定の意を短く伝えた。
「えっ、マジで」
「悪いか?」
「そういう訳じゃないけど……あるあるのイベントみたいな気がして」
告白イベントとは気恥ずかしくて口に出せる訳もなく、そのイベントを想像してしまった彼女は自分の頬をビンタしたかった。
彼女の胸の内を知るよしもない彼は、突拍子もなく言う。
「痛いなら、家まで付き添ってやるぞ」
「はい?」
「聞こえなかったか。家まで付き添ってやるぞ」
「聞こえてるよ! 聞こえてるけど、その台詞恥ずかしくないの?」
彼は思案するような素振りで、
「むしろ、俺がおぶった方が楽だよな」
「変態ですか?」
「俺はお前が心配で提案したんだぞ。さっきは俺におぶられたくせに嫌がるのか?」
反論しにたい点を挙げられて、彼女は視線を外してはにかむ。
「嫌じゃないけど、男の人におぶってもらうの恥ずかしいんですよ」
沈黙。薄ら寒い風が地面を滑るように吹き、いかにも秋らしかった。
彼は沈黙を破る。
「君をおぶりたい、それじゃダメか」
彼の言ったことは相当解釈しづらく、彼女は目をぱちくりさせた。
「何言ってるんですか。君が好きだとか俺と付き合ってくれ、とかなら理解もできたけど。君をおぶりたい、ってそれ告白ですか?」
「まぁ、そんな感じのものだ」
「あーもう、面倒くさいから単刀直入にこっちから聞くよ! 私のこと好きなの?」
「好きだな」
会話が途切れた。
じわじわと恥ずかしさが彼女の頬を赤くする。
「私、帰る」
突っ慳貪な言い方をして背を向け、いつもの帰路を辿った。
彼が距離を詰めずに足を庇いながらゆっくり歩く彼女の後を追い縋る。
距離を保ったまま二人は、同じ道を進んでいく。
彼女はしびれを切らし、不満顔で振り向いて彼に詰め寄る。
「なんで着いてくるんですか!」
彼はあっけらかんと答える。
「俺も帰り道一緒なんだよ。だから仕方ないだろ。嫌なのか?」
「別に嫌じゃないのよ。ただ、着いてこられると後ろが気になって仕方ないだけ」
むっつりと彼女は答えた。
彼が不安を顔に顕す。
「あと、心配なんだよ」
「私が?」
そうだよ、と言って頷いた。
彼女は心配してもらって彼に面白味の興味と密かな好意を自覚なく抱いて、吟味する挙動を見せる。
そのあと微笑んで、
「隣、来る?」
彼は目を大きく開いた。
「いいのか、ほんとに」
「後ろを着いてこられるより、そっちの方がましじゃない」
嬉しく顔を緩めることもなく彼は、彼女の隣に陣取った。
二人は他愛もない会話をちょくちょく交わしながら、帰り先が違ってくる住宅街の四辻で別れるまで並んで歩いた。
それから彼と彼女は日がたつごとに親しくなり、いつしか恋人となる。
これはそんな二人のなりそめの話。
          
体育祭の熱気はどこかに消え、感傷的な夕焼けが街の景観のバックを担っていた。
彼女は応急処置を施してもらった包帯巻きの痛む足でも、一人で帰路に就こうとした。
「あっ」
校門の塀に背中を預けてスマホをいじっている彼の姿を認めて、彼女はあまりの予想外に間抜けな声を発した。
「そんなとこで何をしてるんですか?」
「ん……ゲーム、してた」
彼女の方を見向きもせず彼は、しどろもどろに答えた。
彼女もそれ以上追及する気はなく、肩に掛けたスクールバックをぐいっと持ち直して、
「さっきはありがとう。それじゃ」
礼は言ったから用はないと、彼女は歩き出す。
「おい、待て」
彼が三歩ほど歩いた彼女を、唐突に呼び留める。
彼女は顔だけ振り向かせた。
「なぁに?」
「足首、まだ痛いだろ?」
「少しね」
簡潔に答えて、彼女は彼の表情を窺う。
彼は何か言いたそうにして、彼女を険しい顔で凝視していた。
「私に言いたいことでもあるの?」
ああ、と彼は肯定の意を短く伝えた。
「えっ、マジで」
「悪いか?」
「そういう訳じゃないけど……あるあるのイベントみたいな気がして」
告白イベントとは気恥ずかしくて口に出せる訳もなく、そのイベントを想像してしまった彼女は自分の頬をビンタしたかった。
彼女の胸の内を知るよしもない彼は、突拍子もなく言う。
「痛いなら、家まで付き添ってやるぞ」
「はい?」
「聞こえなかったか。家まで付き添ってやるぞ」
「聞こえてるよ! 聞こえてるけど、その台詞恥ずかしくないの?」
彼は思案するような素振りで、
「むしろ、俺がおぶった方が楽だよな」
「変態ですか?」
「俺はお前が心配で提案したんだぞ。さっきは俺におぶられたくせに嫌がるのか?」
反論しにたい点を挙げられて、彼女は視線を外してはにかむ。
「嫌じゃないけど、男の人におぶってもらうの恥ずかしいんですよ」
沈黙。薄ら寒い風が地面を滑るように吹き、いかにも秋らしかった。
彼は沈黙を破る。
「君をおぶりたい、それじゃダメか」
彼の言ったことは相当解釈しづらく、彼女は目をぱちくりさせた。
「何言ってるんですか。君が好きだとか俺と付き合ってくれ、とかなら理解もできたけど。君をおぶりたい、ってそれ告白ですか?」
「まぁ、そんな感じのものだ」
「あーもう、面倒くさいから単刀直入にこっちから聞くよ! 私のこと好きなの?」
「好きだな」
会話が途切れた。
じわじわと恥ずかしさが彼女の頬を赤くする。
「私、帰る」
突っ慳貪な言い方をして背を向け、いつもの帰路を辿った。
彼が距離を詰めずに足を庇いながらゆっくり歩く彼女の後を追い縋る。
距離を保ったまま二人は、同じ道を進んでいく。
彼女はしびれを切らし、不満顔で振り向いて彼に詰め寄る。
「なんで着いてくるんですか!」
彼はあっけらかんと答える。
「俺も帰り道一緒なんだよ。だから仕方ないだろ。嫌なのか?」
「別に嫌じゃないのよ。ただ、着いてこられると後ろが気になって仕方ないだけ」
むっつりと彼女は答えた。
彼が不安を顔に顕す。
「あと、心配なんだよ」
「私が?」
そうだよ、と言って頷いた。
彼女は心配してもらって彼に面白味の興味と密かな好意を自覚なく抱いて、吟味する挙動を見せる。
そのあと微笑んで、
「隣、来る?」
彼は目を大きく開いた。
「いいのか、ほんとに」
「後ろを着いてこられるより、そっちの方がましじゃない」
嬉しく顔を緩めることもなく彼は、彼女の隣に陣取った。
二人は他愛もない会話をちょくちょく交わしながら、帰り先が違ってくる住宅街の四辻で別れるまで並んで歩いた。
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