蛆神様

ノベルバユーザー79369

第51話《呪い》-其ノ七-



あたしの名前は小島ハツナ。
自分と同じ名前の謎の老婆が指示してきた場所。そこに向かったマチコがどうなったのか。気になって仕方がない高校一年生だ。


「あの、それからどうなったのですか?」


あたしはマチコに訊いた。
すっかり暗くなった外。
雨風が車の窓ガラスを強く叩いている。


「これからわかるわ」


ぼそっとマチコはつぶやいた。
高速を降り、一般道に入ってから三〇分ぐらいたった。
車は住宅街に入り、細い路地を突き進む。
やがて。
小さな一軒家に辿り着いた。
マチコは車を停め、エンジンを切った。


「降りて」


車の中に置いてあるビニール傘を手渡されたあたしは、いわれるがまま、車外に出た。
その家は、古い建物だった。
玄関の柵は錆つき、壁に亀裂がいくつか走っている。
この家はなに?
見たこともないボロ家だ。
だけど。
表札を見て、あたしは目をむいた。


「ここ……」


木板で掘られた表札。
小島ハツナ。
表札にはっきりと書かれている。
同姓同名?
いや、だけど。


「入るわよ」


傘をさしたマチコが、ついてくるようにあたしを促した。


「え、でも」


「誰もいないわ」


マチコの後をあたしは追いかける。
玄関ドアを開けると、すえた臭いが鼻をついた。
手に持った懐中電灯を点けたマチコが、土足のまま玄関を上がった。


「ひぃ!」


軽くあたしは悲鳴を上げる。
暗がりの土間に、何かが走る気配を感じた。
見ると、ムカデがローファーのつま先を横断していた。
スマホのライトを懐中電灯代わりにして、あたしは家の中に光を当てる。
穴だらけの壁。引っかき傷だらけの廊下。至る場所にスプレー缶の落書きが目立つ。
空き家になってどれくらい経ったのだろうか。
人が住んでいる雰囲気をとてもじゃないけど感じられない。


「こっちよ」


マチコは奥にある階段に来るように手招きしている。
目的の場所は二階だ。
そうマチコはあたしにつげた。


「マチコさん。ここって」


「あなたの家よ」


二階に上り、廊下の奥の部屋にマチコはあたしを案内した。


「正確にいえば、家になる予定といった方がいいのかしら」


奥の部屋の前に立つと、扉に南京錠がかかっているのに気づいた。
マチコはジャケットの裾ポケットから、南京錠の鍵を取り出し、南京錠を解錠した。
扉を開けたその先に、あたしは絶句した。


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※注意※
この近辺での願いごとはご遠慮お願いします。
願いごとによる事故等につきましては一切責任を負いません。
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黄色のポスターに書かれた注意文言。
不気味な毛むくじゃらの丸記号。
蛆神様だ。
部屋の壁全部。蛆神様のポスターが所狭しと貼られている。


「私はここで【蛆神様】のことを知ったわ」


汚れた紙ゴミが散乱した床を踏んで、マチコは部屋の奥に進んだ。
床に散乱した紙ゴミ。
スマホの光を当てると、紙ゴミが新聞紙だとわかった。
新聞紙に印字されている日付を見て、あたしは自分の目を疑った。


「二〇四七年?」


これが本当なら、三〇年後の新聞になる。
なんだこれは。
撮影に使う小道具かなにかか?


「ハツナ。これを見て」


マチコが部屋の奥にある本棚から、一冊のノートを取り出し、あたしに手渡してくれた。
べたべたに手垢のついた汚いノート。
表紙には『小島ハツナへ』と書かれている。
これ。
あたしの字だ。


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このノートに書き始めようと決めたのは、三回目からだ。
最初と二回目の失敗を活かすため、今後の教訓のためにメモをしようと思う。
やり直しはこれで三回目。
四回目にならないようにしなくちゃダメだ。
これかららもっと慎重に行動することを考えないと。
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書いた覚えのない文章がノートに書かれている。
三回目のあたし?
どういうこと?
それにこのノートは一体。


「そのノートには『ループ世界』と書かれていたわ」


マチコはいった。
ループ世界?
それって。


「基準となるのは、あなたが隣町の高校に通い始めて一ヶ月経った五月頃。その時間を基準に、時間はループしている。そう説明があったわね」


「ま、待ってください! 時間がループってどういうことですか?」


「気づいているはずよ。蛆神様に翻弄される毎日だったのが、ある日を境に突然蛆神様がみんなの記憶から消えたことを」


マチコは懐中電灯の光を、壁に置かれた本棚に当てた。
本棚には、ボロボロになったたくさんのノートがぎっちり挟まれている。


「ノートを読んでわかったのは、どうやら『121回目』のあなたが私の存在を知って探したということ」


121回目の小島ハツナ。
なぜ老婆の姿になったのか。
死んだ原因や、事務所の入口で腐乱死体となっていたのもわからない。
そう、マチコはあたしにいった。


「それと、筆跡鑑定をかけてみたけど、少なくともここにあるノートのほとんどは同一人物が書いたものだというのはわかったわ」


121回目。
ノートにはそう書かれているとマチコはいった。
121回も、あたしは同じ時間をループしている。
そういわれても。
信じられない。


「121回目のあなたのノートには、あなたが122回目以降は、『記憶』が引き継がれないと書かれていたわ」


マチコは腕を組み、動揺するあたしを正面から見つめた。


「121回目のあなたが、ループ世界を抜け方を知り、122回目のあなたに私を引き合わせるように仕向けたの」


「121回目のあたしが……ですか?」


「そうよ。どういう方法を使ったのかわからないけど、122回目のあなたが存在する世界に、一瞬だけ121回目のあなたがいた。それで私がこの家に来るよう、121回目のあなたが計らいだの」


まったく信じられないでしょ?
そうマチコはあたしに訊いてきた。


「私もよ。だけど、これが事実なの」


マチコはジャケットの内ポケットから、一枚の写真を取り出し、あたしに手渡した。
映っているのは、八〇歳くらいの老婆が一人。
カメラに見えるように両手で黄色い紙を持っていた。
蛆神様のポスター。
それがわかるように、老婆はポスターにシワが寄らない持ち方で掲げていた。


続く

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