蛆神様

ノベルバユーザー79369

第35話《歯磨き》



あたしの名前は小島ハツナ。
小学生サッカークラブの練習合宿に同行することになった高校一年生だ。


「すまんね。付き合ってくれて」


夜。
合宿所で三浦先輩があたしにいった。
三浦先輩は地元の小学生サッカークラブの元OBで、たまに練習に付き合ったり合宿で面倒を見ることがあるそうだ。
今年はメンバーが多いらしく、あたしとトモミに合宿の手伝いはしてほしいとお願いされて、今に至っている。


「いえ。お役に立てて嬉しいです」


正直、疲れた。
炎天下の中、小学生たちの練習に付き合ってバテバテだ。
トモミも同じく疲れたみたいで、口数がいつもより減っている。


「明日もあるし、二人とも先に休んでていいよ」


「ありがとうございます。そうさせてもらいます」


あたしとトモミは三浦先輩に会釈し、部屋に戻ろうとした。


「寝る前にちゃんと歯磨きなよ」


三浦先輩が冗談っぽくいった。
あたしは「もちろんすよ!」と笑顔で返した。
合宿も後一日。
気を引き締めていかなくちゃ。


「三浦コーチ……」


小学生一年生ぐらいの男の子が、半べそをかきながら三浦先輩の元に歩み寄ってきた。


「どうしたの?」


「僕……歯磨きしたくなくて……【蛆神様】にお願いしたの……」


「え?」


「《歯磨きをしたくない》ってお願いしたの……そしたら……」


男の子が口を開く。
口の中に糸が引いていた。
歯が溶けている。
まるでガムかチョコレートのように、歯が柔らかくなって伸びていた。


「ひゃみぃひゃひひひゃひひひいひひひひーひひ」


もごもごと男の子が三浦先輩に何かをいった。
三浦先輩は男の子の頭を撫でると、男の子の手を繋いで宿舎に戻った。


「歯磨いて寝ようか」


ぼそっとトモミがつぶやいた。
そうだね。
あたしは心の中で頷いた。




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