蛆神様

ノベルバユーザー79369

第34話《魚市場》



あたしの名前は小島ハツナ。
豊島に移転する前の築治市場にお父さんと一緒に行くことになった高校一年生だ。
お父さん曰く、築治にはオススメの天ぷら屋さんがあるそうだ。
移転したら天ぷら屋さんは閉業するということらしいので、お店がなくなる前に子供たちに食べさせたい。お父さんはあたしにそういって、日曜の早朝四時に寝ているお兄ちゃんとお姉ちゃん、そしてあたしの三人を叩き起こした。
また急だな。
と、思ったけど、普段無口で休日は釣り以外は家にこもりがちのお父さんが子供を連れて積極的に外に出ようとしている。かなり珍しいことだ。
お母さんからも「付き合ってあげて」といわれたのもあるし、お父さんがオススメの天ぷら屋さんもそんなに美味しいのか興味もあったから、あたしは築治に付き合うことにした。
ちなみに兄と姉の二人は起きることができず、家に置いていくことになった。


「Oh! Japanese fish market!」


金髪の外国人観光客がカメラを構えて築治市場の道を塞いでいる。


「邪魔だ! どけ兄ちゃん!」


ターレットを運転する漁師さんが観光客に向かって怒鳴った。
道が狭い。
築治が移転をするのも老朽化と荷置き場所が不足してきたからという理由だとお父さんから聞いたことがある。
移転前だからというのもあって、築治市場は全体的にピリついた雰囲気が漂っていた。


「なんだ、あれ」

狭い道を歩いていると、あたしたちは人集りの群れぶつかった。
外国人観光客らが、何かに向けてカメラを構えている。


「さぁ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! これからマグロの解体ショーが始まるよ!」


白い帽子をかぶった板前さんらしきおじさんが、陽気な調子で外国人観光客らにパフォーマンスをしている。
板前さんの手元には、大きな台とまな板があった。
まな板の上には、裸の太ったおばさんが仰向けに寝そべっている。


「これよりこの《マグロのババア》を解体していきます! みなさん刮目してください!」


板前さんがおばさんの首元にノコギリの刃を押し当てた。
フラッシュが炊く音に混じって、肉と骨が切り裂く音、おばさんの悲鳴が市場に響く。
台の上には、黄色い蛆神様のポスターが貼られていた。


「oh! It's Japanese famous show!」


いや、違うから。
あたしは外国人観光客に向かって心の中でつぶやいた。
それから、お父さんがオススメの天ぷら屋さんに行ったけど、店は閉店していた。
家に帰るまで、お父さんは無言だった。




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