蛆神様
第27話《花火》
あたしの名前は小島ハツナ。
夏祭りといえば、縁日と花火がなくちゃダメだと思っている意外に形式にこだわりを持っている高校一年生だ。
「たーまやー」
夜空に花火が上がる。
あたしとトモミ、ミクの三人は、隣町にある神社の夏祭りに遊びに来ていた。
「その、たーまやーってなに?」
ミクがトモミに訊ねた。
「え、なんかいわない?」
「なんか聞くけど、あたし意味知らないんだよね」
トモミとミクのやりとりを聞きながら、あたしは夜空に打ち上がる花火を眺める。
きれいだな。
風情があって夏を楽しんでいる感じがする。
「たーまやー」
近くに立っている女性がいった。
その隣には、女性の彼氏らしき男が立っている。
「なんだ? そのたーまやーって」
「え、知らない?」
「知らない」
「《たーまやーっていえば花火の数が増えるんだよ》知らなかった?」
「へぇ、そうなんだ。たーまやー」
彼氏がいった。
花火が一個上がった。
「たーまやー、たーまやー」
花火が二個上がった。
「たーまやー、たーまやー、たーまやー、たーまやー、たーまやー、たーまやー、たーまやー、たーまやー」
連続して花火が八個上がった。
「たまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたーーーーーーーーーまやーーーーーー」
花火が連続して何十個も上がり続ける。
気がつけば、周りにいた人たちも「たーまやー」と連呼するようになった。
「たーまーやー」
夜空は花火の明るさで埋め尽くされている。
地面に黒い煙がもうもうと広がっていく。
「けほっけほっ」
息が苦しい。火薬の匂いが充満してきて、だんだん気持ち悪くなってきた。
「や、やばい、逃げよ」
咳き込むあたしは口を手で抑えながら、トモミとミクにいった。
トモミとミクも手で口を抑え、こくりと頷いた。
「たーまやーたーまやー」
黒い煙はだんだん霧のように広がり、濃くなってくる。
夏祭りに訪れていた子供やおばあさんがその場で倒れた。
「きれいだねー、たーまやー」
誰かがいったのを聞こえた。
神社から脱出したあたしたちは、夜空を見上げる。
花火の形が、毛むくじゃらの丸記号になっていた。
花火、多すぎだろ。
一晩中上がり続ける花火を見ながら、あたしは呆れてため息をついた。
終
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