蛆神様

ノベルバユーザー79369

第6話《好き嫌い》



あたしの名前は小島ハツナ。
嫌いなものは蛆神様で、好きなものは蛆神様以外の高校一年生だ。
土曜日の夕方。お母さんと隣町まで買い物に出たその帰り道に、近所に住んでいる田中さんとばったり出くわした。


「あら、小島さん。こんにちわ」


「やだ! びっくりするじゃないの! こんなところで会うなんて」


ほほほと母親同士は笑い合う。
これは、長くなるぞ。主婦同士の立ち話は、一旦始まるとなかなか終わらなくなるのがお決まりだ。
晩御飯作らないとだし、キリのいいところで引き上げなきゃ延々に終わらなきゃ。そうあたしは考えた。


「ハツナちゃん大きくなったわね。前は私より小さかったのに。今、いくつぐらい?」


「えと、一七〇センチ前後です」


「うっそ! すごい! そんなにあるの?」


「ええ。主人が一九〇あるから、多分、その影響ね」


田中さんは「はぁー! すごいわねぇ!」と腕を組んで感心している。
正直、あんまり身長のことはいわれたくなかったりする。コンプレックスだと思っているし、あたしは。


「でもいいわねー。きっとハツナちゃんが大きくなったのも、なんでも食べるいい子だからよねぇ」


なにか含みのある言い方をし、田中さんはため息をつく。
あたしとお母さんはお互いに顔を見合わせた。


「田中さん、どうかしたの?」


お母さんが聞くと、田中さんは「ああ、すみません」と咄嗟に謝ってきた。


「つい心の声が出ちゃったみたいですね」


「いいから話してみて。話せばスッキリするわよ」


絶対スッキリしない予感がする。
でも、止めようよ。ともいえない。すごいもどかしい。


「実はうちの息子なんですけど、今年で五歳になるんです」


「あら、リョウタくん。もうそんな大きくなったの?」


「ええ、そうなんですけどね」


はぁと田中さんはまたため息を吐く。


「偏食持ちでね。食べられない食べ物が多くて困っていたの」


「食べ物に好き嫌いが多いってこと?」


「ええ、そうなんです」


お母さんはそれを聞くと、鼻から息を出して「なーんだ」と明るくいった。


「そんなの簡単よ。嫌いな食べ物だと思わせないで食べさせればいいのよ。材料を細かく刻んであげたりとか」


「やってみたんですけど……でも子供って匂いに敏感みたいですぐに吐いちゃったりして」


「あら、困ったわね」


ぶっちゃけリュウタくんの気持ちはわかる。
たしかに、五歳頃は味に敏感だったりした。
あたしもお母さんがニンジンやピーマンを得体の知れない具材に入れているのにすぐ気がついたし、本当いうとあまり食べたくなかったのもあった。
けど、嫌いな食べ物って時間が経てば結構食べられるようになったりするから、 無理やり食べさせなくてもいいような気もするのはあたしだけだろうか。


「旦那のお母さんが、私のいないところで無理やり食べさせようとしてるみたいなの」


田中さんのお姑さんは、「男の子は好き嫌いがあったら強くならない」といって、リョウタくんの嫌いな納豆や梅干しをそのまま食べさせようとスパルタ教育を施しているという。
あきらかに嫌がっている息子の話を聞いた田中さんは、姑に電話でリョウタの嫌がることはやめてほしいとお願いしたそうだ。
だが、ヒステリックな性格の姑は「私はリョウタのことを想ってやってるの!」と怒鳴り返し、関係性が悪くなっただけという。
旦那に相談しても、仕事が忙しいから家のことはお前に任せてあるといった挙句、最終的には「おふくろの好きにさせてあげろ」といって耳を貸してくれないそうだ。
八方塞がりな状況でどうしようか困ったていたところ、田中さんはある噂を聞いたという。


「【蛆神様】って知ってる?」


「え? ええ。ハツナから聞いたわ。土地に棲んでいる神様なのよね?」


「そうなの。なんでもお願いごとしたらなんでも叶うっていう話を聞いてね、試しにちょっとやってみたの」


「やってみたって……なにを?」


お母さんが聞くと、田中さんは一呼吸置いて「うーん」と唸った。


「とりあえず、ちょっと家に寄ってくれたらわかるわ」


帰り道。田中さんは事のあらましを話してくれた。
つい先日あたり。田中さんは隣町まで歩いていき、児童公園の前に貼られた黄色いポスターを見つけたそうだ。


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※注意※
この近辺での願いごとはご遠慮お願いします。
願いごとによる事故等につきましては一切責任を負いません。
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妙な注意文言の上部分に、毛むくじゃらの丸マークが描かれていた。
これが蛆神様か。
注意文言の内容に多少の違和感を感じたものの、田中さんはあまり気にせずフランクな気持ちでお願いをしたそうだ。


「うちの息子が《嫌いなものが食べられますように》ってお願いしたの」


「納豆や梅干しが食べられるようになったの?」


「いえ。それはまだみたい。でも、とりあえず《嫌いなもの》は食べられるようになったのはわかったの」


話していると、田中さんの玄関前に到着した。
玄関を見て、あたしとお母さんは顔が同時に引きつった。


「さっきお義母さんがきてこうなってたの」


虫が集る田中家の玄関前。
口周りを真っ赤に染めたリョウタくんが、剥き出しになった姑の内臓を貪っている。
それを見守る田中さんは、買物袋を下げた腕を組んで、ため息をついた。


「せめて下味をつけてから食べてもらいたかったわ」


隣でお母さんはいった。


「お掃除大変ね」


そこじゃねーだろ。
心の中であたしは二人につっこんだ。




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