俺が転生した世界はどうやら男女比がおかしいらしい
月刊スポーツ男子発売
雨上がり。爛々と輝く太陽の下、俺は少し濡れてテカテカと光を反射するアスファルトの地面を歩き本屋さんに向かっていた。今日は土曜日で部活の練習は午前のみであったため、午後からこうして出掛けているのだ。ちなみに明日はののちゃんのお願いを叶えてあげる日でもある。
どうして俺が本屋さんに向かっているかというと、俺が掲載される「月刊スポーツ男子」の今日が発売日だからである。自分が載ってると考えただけで気分が高揚してしまう。
俺が今向かっている本屋さんは客入りが多い大手の方ではなく、商店街の少々お客さんが少ない方である。以前俺が「これで相手をドキッとさせる!精選思わせ振りな行動150」を購入した場所だ。あの本は中々有用で重宝させて貰っている。
何でも聞くところによると、月刊スポーツ男子は毎月必ず即売り切れるという事なので予約しておいたのだ。そうして今月刊スポーツ男子を受け取りに行ってるというわけだな。
人通りがあまりなく少し物悲しい雰囲気の商店街を進む。
一般的に男はあまり1人で出歩かない方が良いと言われている。こういった人が少ない場所では尚更だな。何故なら、察せると思うが女性に襲われる危険を高くはらんでいるからである。これは前世においての、若い女性にも言える事だ。
しかし俺はそこをあえて1人で突き進むのだ。外出する度に誰かを連れていかないといけないなんて窮屈でしょうがない。それにこの体のスペックを持ってすれば女性に襲われた所で何ともないのだ。まあ正直この世界の女性はみんな美人なので是非とも襲って欲しいと言いたい所なのだが、残念ながら俺が襲われる事によって悲しむ女性たちがいるのでな。それは看過できないのである。
実際俺も何回か女性たちからの襲撃を受けた事がある。「このまま身を委ねたいなあ」なんて思ったのだが其処は鋼の精神で耐え、優しく優しくあしらってお帰りいただいた。
美女たちから襲われるという素敵体験を思い返して余韻に浸っていると、遠目にお目当の本屋さんが見えてきた。
さらにその入り口の道路をほうきで履くいつぞやの若い店員さんもいる。あの店員さんリアクションが中々良かったんだよねえ。
「こんにちは」
とりあえず近付いて背を向けている店員さんに話しかける。
「ほわっ!?」
ううむ。うん、やはりリアクション芸人。
「あっ、美少ね....この間の!ま、また来てくれたんですね!」
ほうきをポイッと捨てて俺との話に興じてくれる店員さん。
ほうきが.....。
「え、ええ。予約しておいた本を受け取りに来ました」
あまりに不便でチラチラとほうきに視線を向けてしまいつつ答える。
「そうだったんですか!ではご案内したいしますので参りましょう!」
店員さんは溌剌にそう言い、「ささ!こちらへ!」と俺を案内してくれる。
...ほうきを放ったらかして。ほうき....。
「よ、宜しくお願いします」
お礼を言いつつ、スキップする店員さんの後をついていく。自動ドアから中に入ると、本屋さん特有のなんとも言えない香ばしい匂いがする。俺新品の本に顔を押し付けて思いっきり匂い嗅ぐの好きなんだよねえ...。人にはあまり言えないんだけど。
「店長!美少年の来店です!ご予約を頂いた商品の準備を!」
少し小さめの店内を見渡してみても人を見つけられずこの店員さんだけなのかと思っていたのだが、どうやらカウンターの奥の部屋に店長さんがいるみたいだ。
「バタッ!ガタタ!!」
何か慌ただしい音が店内に響く。出処は奥の部屋だ。何をしているのだろうか。まあお取り込み中だと悪いからちょっと待ってみよう。
「ガチャ」
それから数十秒後、静かに扉が開いた。
「あ、あら。ご機嫌よう前原様。ご無沙汰しております」
中から出てきたのは、少し濃いめの化粧をし髪型は時間をかけたんだろうなと分かってしまうほど凝ったウェーブがかかっている妙齢に見える美人さんだ。喋り方も何処か違和感を感じないでもないが、上品にまとまっている。
しかしご無沙汰か....。こんな人は一目見たら忘れる事はないと思うのだが、俺に記憶がない。おかしい、この体になってから物忘れは殆どないはずなのだが。
「......て、店長。その格好と喋り方は...?」
店員さんは何故か店長さんを見て愕然とした様子でそんな事を問い掛ける。
うん?なぜ店員さんがそんなリアクションを?まさかいつもはこんな感じではないとでも言うのだろうか?
....あ、あ〜まさか俺が来るから?考え過ぎか?
「....なんの事かしら?」
「店長、美少年が来るからってそんなおめかしまでしちゃって...涙ぐましいです...!」
どこから取り出したのか、ハンカチを目に当てながら泣く演技をし始める店員さん。
ふむ、やはり俺が原因だったか。
「う、うるさいわね!予約した本を取りに来るのが今日なんだからちょっとくらい張り切ってもいいじゃない!」
図星を突かれて動揺したのか、口調が変化した店長さん。こっちが素なんだろうか。だとしたらこっちの方が俺は好みだから無理して欲しくないな。
「あっ、これは失礼致しました。オホホ」
普段の感じに戻っている事に気付いたのか店長さんは口に手を当てながら、よく2次元創作物のセレブがやるような笑い方をする。
見てて痛々しいよ店長さん....!
「店長さん、僕は先程の飾らない口調の店長さんの方が好きですよ。どうか、自然体で接してはいただけませんか?その方が店長さんは魅力的です」
これ以上女性に無理をさせることはできない。俺は店長さんにそう言って微笑みかける。
「しゅ、しゅき!?み、みりょきゅてき!?」
....うん、「す、好き!?み、魅力的!?」かな?
凄く動揺させてしまったようで申し訳ないな。
「はい。ですから、口調はどうか自然体で」
「う、うふふ。好き...美少年が私の事好きか....。むふふふ」
話を聞いてはくれないだろうか?
この世界の女性ってたまにトリップする時があるんだよね。そこも可愛いんだけど。
「いいなあ...店長...」
隣で何やら独り言を呟いている店員さん。
とりあえず店長さんは復帰しなさそうだから、この人に商品の準備をしてもらおうかな。
「店員さん」
「きゃいっ!?ごめんなさいごめんなさい、私も好きって言って欲しいなあなんて考えて本当にごめんなさい」
お、おお....。呼んだだけなのに凄い勢いで自らの罪状(?)を自白し始めた。いや罪でもなんでもないんだけど。そもそも別に店長さんにも好きと言ったわけではないんだが...。
まあこんな可愛い事を考えて貰っていたのだ。男としてここは応えねばなるまい。
「ふふっ僕は店員さんのこと好きですよ?」
『これで相手をドキッとさせる!精選思わせ振りな行動150』の第47項!
微笑みながら相手の鼻頭を指ツン!!発動!
どうだ!
「.....ぎゅぼっ!?」
えっ!?
顔を赤くさせてくれるかななんて楽観的に思っていたのだが、なんと店員さんは変な声を出しながら気を失ってしまった。
「あ、ごめんなさい店員さん!やり過ぎました!」
倒れない様に店員さんの体を支えながら俺は少し焦る。この店員さんの耐久を甘く見ていたようだ。俺の落ち度である。
「うふふふふふふふ」
「鼻...鼻が....美少年に鼻が....」
不気味に笑い続ける店長さんと気を失いつつも幸せそうな顔で鼻が鼻がと言い続ける店員さん。
何とも奇妙な空間になってしまった...。
数分後何とか元どおりになった2人から、商品を受け取った俺は今意気揚々と家への帰路へついているところだ。
店長さんは、
「す、すみません取り乱しました....。またのお越しをお待ちしております前原様。ところで結婚はいつになさいましょう?」
店員さんは、
「前原さんって言うんですね。って事は将来私は前原という苗字になるという事ですか。子供は3人程でどうでしょう?奥方様は他にもおられると思いますので私はそれで我慢します」
と言っていたな。
何かとんでもない選択ミスを犯した気がするが気にしないでおこう。
今は月刊スポーツ男子を読みたいのだ。気にしないったら気にしないぞ。
「ただいまーっと」
今は家族のみんなは家にいないが、誰もいない空間にとりあえず習慣の挨拶を飛ばす。
俺はそのままリビングに直行。
逸る気持ちが抑えられず、少し乱雑に月刊スポーツ男子の保護フィルムを剥がし急いで本を開く。
表紙には「月刊スポーツ男子」とデカデカとプリントされており、野球サッカーバスケから剣道や弓道まで幅広くスポーツ男子を網羅している事が分かる謳い文句も書かれている。
まあ表紙はとりあえず置いておこう。
まずは俺の記事が先だ。
「俺のページは....あっ、1ページ目だ」
どの辺りに載っているのか探そうと思った瞬間のことだ。
なんと巻頭カラーであった。
俺が巻頭カラーを飾る日が来ようとは思いもよらなかった。
俺の写真が全部で4枚あるようだ。
1枚目は、俺が弓道をしている写真だが、かなり顔にアップしておりデカデカと1ページを贅沢に使っている。こうして見ると本当に綺麗な顔だなと思う。競技中であるためキリっと引き締まった顔をしているのだが非の打ち所がないな、自分の顔なんだけどまだ実感が湧かないのは仕方がない事だろう。
2枚目は俺の袴姿の全体図だ。1枚目の顔アップとは違い全身が映っている。左手には弓、右手には矢を持っており、顔を何処と無く恥ずかしげに染めている。我ながらとても可愛いと思う。うん。
3枚目は俺が足立蘭さんからインタビューを受けている時の写真だ。いつ撮ったのかは分からない。俺はごく自然な表情をしている様に思う。やはりカメラを意識すると少し表情が硬くなるからな。これはカメラマンの柊美鶴さんの腕が良いのだろう。
4枚目は....俺の微笑んだ顔だ。これは恐らく足立さんと柊さんとの別れ際で撮られた写真だろう。あの時は自然な微笑みを浮かべる事ができたからな。
それにしても....これカッコよすぎないか?
カメラ目線をした記憶はないが柊さんがきちんと俺の目線に合わせてシャッターを切ったのか、俺はまるでこの本を見ている人に微笑みかけているかのようだ。
その微笑みは、慈愛、恵愛、情愛。読者に様々な愛の形を見せてくれるよう。
俺でさえ見惚れそうなこの表情。これ女性が見たらヤバイんじゃないか?大丈夫?
一抹の不安を抱きながらもそれは置いといて、俺は次のページへ移行する。
そこには、
『「美しすぎる弓道少年」、前原仁くん。今大会で見事優勝を果たした春蘭高校に所属する前原くんは12本の矢を全て的に的中させるなど凄まじい活躍を我々に見せつけてくれました。そんな溢れ出る才能を感じさせる前原くんですが、真に驚くのは弓道歴なのです。その弓道歴はなんと2ヶ月。わずかなその期間で前原くんは今大会の頂点へと至ってしまったのです。また....〜〜』
という記事が書いてある。
うん、ここは結構真面目なんだよな。俺は事前に確認させて貰って知っているからな。
弓道歴を偽っていることには罪悪感を感じるがそこは許してほしいところだ。
まあここまではいいんだ。問題は次のページだ。俺はそこから更にペラリと捲る。
すると、
『「前原仁くんの恋愛事情!?素顔に迫る!」この企画は、前原くんの女性に対する考えを包み隠さず読者の皆様にお伝えしていこうというものです。実は!!なんと!!前原くんは女性に対してかなり紳士的であることで有名なのです。その証拠として、同じ弓道部に所属する春蘭高校の女子生徒にインタビューをしてみたその記録をここに記載致しましょう。
女子生徒A「仁はとっても優しいんだよ!いつもニコニコしてて、頭を撫でて!ってお願いしたらすぐにナデナデしてくれるんだ〜えへへ」
女子生徒B「前原は素晴らしい男だ。あれほどの器を持ち得る人物は私は他に知らない」
女子生徒C「神ですか?ふっ神は尊大にして至高の存在。私ども愚民があの方を測ろうとすることすら烏滸がましい」
との応えを頂きました!どうでしょう?さらにさらに....〜〜』
あ〜うん、インタビューの女子生徒ってどう考えても、すみれ先輩と右京部長と、あと俺を神と呼ぶ人だよね。
本当にあの人たちは分かりやすいな。
しかし、こうも持ち上げられると背中がとてもむず痒いな。
ま、まあ悪い気分とかでは全然ないんだけど?
俺は謎のツンデレを発動しながら、また最初のページから読み直すのだった。
べ、別に読みたいわけじゃないんだからねっ!
どうして俺が本屋さんに向かっているかというと、俺が掲載される「月刊スポーツ男子」の今日が発売日だからである。自分が載ってると考えただけで気分が高揚してしまう。
俺が今向かっている本屋さんは客入りが多い大手の方ではなく、商店街の少々お客さんが少ない方である。以前俺が「これで相手をドキッとさせる!精選思わせ振りな行動150」を購入した場所だ。あの本は中々有用で重宝させて貰っている。
何でも聞くところによると、月刊スポーツ男子は毎月必ず即売り切れるという事なので予約しておいたのだ。そうして今月刊スポーツ男子を受け取りに行ってるというわけだな。
人通りがあまりなく少し物悲しい雰囲気の商店街を進む。
一般的に男はあまり1人で出歩かない方が良いと言われている。こういった人が少ない場所では尚更だな。何故なら、察せると思うが女性に襲われる危険を高くはらんでいるからである。これは前世においての、若い女性にも言える事だ。
しかし俺はそこをあえて1人で突き進むのだ。外出する度に誰かを連れていかないといけないなんて窮屈でしょうがない。それにこの体のスペックを持ってすれば女性に襲われた所で何ともないのだ。まあ正直この世界の女性はみんな美人なので是非とも襲って欲しいと言いたい所なのだが、残念ながら俺が襲われる事によって悲しむ女性たちがいるのでな。それは看過できないのである。
実際俺も何回か女性たちからの襲撃を受けた事がある。「このまま身を委ねたいなあ」なんて思ったのだが其処は鋼の精神で耐え、優しく優しくあしらってお帰りいただいた。
美女たちから襲われるという素敵体験を思い返して余韻に浸っていると、遠目にお目当の本屋さんが見えてきた。
さらにその入り口の道路をほうきで履くいつぞやの若い店員さんもいる。あの店員さんリアクションが中々良かったんだよねえ。
「こんにちは」
とりあえず近付いて背を向けている店員さんに話しかける。
「ほわっ!?」
ううむ。うん、やはりリアクション芸人。
「あっ、美少ね....この間の!ま、また来てくれたんですね!」
ほうきをポイッと捨てて俺との話に興じてくれる店員さん。
ほうきが.....。
「え、ええ。予約しておいた本を受け取りに来ました」
あまりに不便でチラチラとほうきに視線を向けてしまいつつ答える。
「そうだったんですか!ではご案内したいしますので参りましょう!」
店員さんは溌剌にそう言い、「ささ!こちらへ!」と俺を案内してくれる。
...ほうきを放ったらかして。ほうき....。
「よ、宜しくお願いします」
お礼を言いつつ、スキップする店員さんの後をついていく。自動ドアから中に入ると、本屋さん特有のなんとも言えない香ばしい匂いがする。俺新品の本に顔を押し付けて思いっきり匂い嗅ぐの好きなんだよねえ...。人にはあまり言えないんだけど。
「店長!美少年の来店です!ご予約を頂いた商品の準備を!」
少し小さめの店内を見渡してみても人を見つけられずこの店員さんだけなのかと思っていたのだが、どうやらカウンターの奥の部屋に店長さんがいるみたいだ。
「バタッ!ガタタ!!」
何か慌ただしい音が店内に響く。出処は奥の部屋だ。何をしているのだろうか。まあお取り込み中だと悪いからちょっと待ってみよう。
「ガチャ」
それから数十秒後、静かに扉が開いた。
「あ、あら。ご機嫌よう前原様。ご無沙汰しております」
中から出てきたのは、少し濃いめの化粧をし髪型は時間をかけたんだろうなと分かってしまうほど凝ったウェーブがかかっている妙齢に見える美人さんだ。喋り方も何処か違和感を感じないでもないが、上品にまとまっている。
しかしご無沙汰か....。こんな人は一目見たら忘れる事はないと思うのだが、俺に記憶がない。おかしい、この体になってから物忘れは殆どないはずなのだが。
「......て、店長。その格好と喋り方は...?」
店員さんは何故か店長さんを見て愕然とした様子でそんな事を問い掛ける。
うん?なぜ店員さんがそんなリアクションを?まさかいつもはこんな感じではないとでも言うのだろうか?
....あ、あ〜まさか俺が来るから?考え過ぎか?
「....なんの事かしら?」
「店長、美少年が来るからってそんなおめかしまでしちゃって...涙ぐましいです...!」
どこから取り出したのか、ハンカチを目に当てながら泣く演技をし始める店員さん。
ふむ、やはり俺が原因だったか。
「う、うるさいわね!予約した本を取りに来るのが今日なんだからちょっとくらい張り切ってもいいじゃない!」
図星を突かれて動揺したのか、口調が変化した店長さん。こっちが素なんだろうか。だとしたらこっちの方が俺は好みだから無理して欲しくないな。
「あっ、これは失礼致しました。オホホ」
普段の感じに戻っている事に気付いたのか店長さんは口に手を当てながら、よく2次元創作物のセレブがやるような笑い方をする。
見てて痛々しいよ店長さん....!
「店長さん、僕は先程の飾らない口調の店長さんの方が好きですよ。どうか、自然体で接してはいただけませんか?その方が店長さんは魅力的です」
これ以上女性に無理をさせることはできない。俺は店長さんにそう言って微笑みかける。
「しゅ、しゅき!?み、みりょきゅてき!?」
....うん、「す、好き!?み、魅力的!?」かな?
凄く動揺させてしまったようで申し訳ないな。
「はい。ですから、口調はどうか自然体で」
「う、うふふ。好き...美少年が私の事好きか....。むふふふ」
話を聞いてはくれないだろうか?
この世界の女性ってたまにトリップする時があるんだよね。そこも可愛いんだけど。
「いいなあ...店長...」
隣で何やら独り言を呟いている店員さん。
とりあえず店長さんは復帰しなさそうだから、この人に商品の準備をしてもらおうかな。
「店員さん」
「きゃいっ!?ごめんなさいごめんなさい、私も好きって言って欲しいなあなんて考えて本当にごめんなさい」
お、おお....。呼んだだけなのに凄い勢いで自らの罪状(?)を自白し始めた。いや罪でもなんでもないんだけど。そもそも別に店長さんにも好きと言ったわけではないんだが...。
まあこんな可愛い事を考えて貰っていたのだ。男としてここは応えねばなるまい。
「ふふっ僕は店員さんのこと好きですよ?」
『これで相手をドキッとさせる!精選思わせ振りな行動150』の第47項!
微笑みながら相手の鼻頭を指ツン!!発動!
どうだ!
「.....ぎゅぼっ!?」
えっ!?
顔を赤くさせてくれるかななんて楽観的に思っていたのだが、なんと店員さんは変な声を出しながら気を失ってしまった。
「あ、ごめんなさい店員さん!やり過ぎました!」
倒れない様に店員さんの体を支えながら俺は少し焦る。この店員さんの耐久を甘く見ていたようだ。俺の落ち度である。
「うふふふふふふふ」
「鼻...鼻が....美少年に鼻が....」
不気味に笑い続ける店長さんと気を失いつつも幸せそうな顔で鼻が鼻がと言い続ける店員さん。
何とも奇妙な空間になってしまった...。
数分後何とか元どおりになった2人から、商品を受け取った俺は今意気揚々と家への帰路へついているところだ。
店長さんは、
「す、すみません取り乱しました....。またのお越しをお待ちしております前原様。ところで結婚はいつになさいましょう?」
店員さんは、
「前原さんって言うんですね。って事は将来私は前原という苗字になるという事ですか。子供は3人程でどうでしょう?奥方様は他にもおられると思いますので私はそれで我慢します」
と言っていたな。
何かとんでもない選択ミスを犯した気がするが気にしないでおこう。
今は月刊スポーツ男子を読みたいのだ。気にしないったら気にしないぞ。
「ただいまーっと」
今は家族のみんなは家にいないが、誰もいない空間にとりあえず習慣の挨拶を飛ばす。
俺はそのままリビングに直行。
逸る気持ちが抑えられず、少し乱雑に月刊スポーツ男子の保護フィルムを剥がし急いで本を開く。
表紙には「月刊スポーツ男子」とデカデカとプリントされており、野球サッカーバスケから剣道や弓道まで幅広くスポーツ男子を網羅している事が分かる謳い文句も書かれている。
まあ表紙はとりあえず置いておこう。
まずは俺の記事が先だ。
「俺のページは....あっ、1ページ目だ」
どの辺りに載っているのか探そうと思った瞬間のことだ。
なんと巻頭カラーであった。
俺が巻頭カラーを飾る日が来ようとは思いもよらなかった。
俺の写真が全部で4枚あるようだ。
1枚目は、俺が弓道をしている写真だが、かなり顔にアップしておりデカデカと1ページを贅沢に使っている。こうして見ると本当に綺麗な顔だなと思う。競技中であるためキリっと引き締まった顔をしているのだが非の打ち所がないな、自分の顔なんだけどまだ実感が湧かないのは仕方がない事だろう。
2枚目は俺の袴姿の全体図だ。1枚目の顔アップとは違い全身が映っている。左手には弓、右手には矢を持っており、顔を何処と無く恥ずかしげに染めている。我ながらとても可愛いと思う。うん。
3枚目は俺が足立蘭さんからインタビューを受けている時の写真だ。いつ撮ったのかは分からない。俺はごく自然な表情をしている様に思う。やはりカメラを意識すると少し表情が硬くなるからな。これはカメラマンの柊美鶴さんの腕が良いのだろう。
4枚目は....俺の微笑んだ顔だ。これは恐らく足立さんと柊さんとの別れ際で撮られた写真だろう。あの時は自然な微笑みを浮かべる事ができたからな。
それにしても....これカッコよすぎないか?
カメラ目線をした記憶はないが柊さんがきちんと俺の目線に合わせてシャッターを切ったのか、俺はまるでこの本を見ている人に微笑みかけているかのようだ。
その微笑みは、慈愛、恵愛、情愛。読者に様々な愛の形を見せてくれるよう。
俺でさえ見惚れそうなこの表情。これ女性が見たらヤバイんじゃないか?大丈夫?
一抹の不安を抱きながらもそれは置いといて、俺は次のページへ移行する。
そこには、
『「美しすぎる弓道少年」、前原仁くん。今大会で見事優勝を果たした春蘭高校に所属する前原くんは12本の矢を全て的に的中させるなど凄まじい活躍を我々に見せつけてくれました。そんな溢れ出る才能を感じさせる前原くんですが、真に驚くのは弓道歴なのです。その弓道歴はなんと2ヶ月。わずかなその期間で前原くんは今大会の頂点へと至ってしまったのです。また....〜〜』
という記事が書いてある。
うん、ここは結構真面目なんだよな。俺は事前に確認させて貰って知っているからな。
弓道歴を偽っていることには罪悪感を感じるがそこは許してほしいところだ。
まあここまではいいんだ。問題は次のページだ。俺はそこから更にペラリと捲る。
すると、
『「前原仁くんの恋愛事情!?素顔に迫る!」この企画は、前原くんの女性に対する考えを包み隠さず読者の皆様にお伝えしていこうというものです。実は!!なんと!!前原くんは女性に対してかなり紳士的であることで有名なのです。その証拠として、同じ弓道部に所属する春蘭高校の女子生徒にインタビューをしてみたその記録をここに記載致しましょう。
女子生徒A「仁はとっても優しいんだよ!いつもニコニコしてて、頭を撫でて!ってお願いしたらすぐにナデナデしてくれるんだ〜えへへ」
女子生徒B「前原は素晴らしい男だ。あれほどの器を持ち得る人物は私は他に知らない」
女子生徒C「神ですか?ふっ神は尊大にして至高の存在。私ども愚民があの方を測ろうとすることすら烏滸がましい」
との応えを頂きました!どうでしょう?さらにさらに....〜〜』
あ〜うん、インタビューの女子生徒ってどう考えても、すみれ先輩と右京部長と、あと俺を神と呼ぶ人だよね。
本当にあの人たちは分かりやすいな。
しかし、こうも持ち上げられると背中がとてもむず痒いな。
ま、まあ悪い気分とかでは全然ないんだけど?
俺は謎のツンデレを発動しながら、また最初のページから読み直すのだった。
べ、別に読みたいわけじゃないんだからねっ!
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Kまる
今頃向こう側の仁は何をやっているのだろうか…かなり辛い人生を送っているのだろう……かわいそす。