俺が転生した世界はどうやら男女比がおかしいらしい

めんたま

事件の後に


『チチチ……!』

 何の鳥か分からないが、その辺の鳥の鳴き声で俺は目を覚ます。
 ……我ながら適当だな。

「うーん……」

 目を擦りながら眠気に抗うように声を漏らす。瞬時にスッキリ目が冴える目覚めの日もあれば、瞼が異様に重く感じ中々起きられない日もあるのは何故なんだろうか。今日は勿論後者である。

 昨日はなかなかの激動の1日だった。
 前世では考えられない経験をしたと言えるだろう。今思い返すと、あの時は、まるで俺と前原仁の精神が混ざり合い、別人の体を操作しているような万能感に酔っていた。あんなクレイジーで無慈悲で残虐な性格では決してなかったはずなんだけど。

「……明らかにキャラ変してるよなあ」

 陰キャオタクの俺があんな真似をねぇ。

「んー……」

 若しかしたら本当に『前原仁』と俺の精神が融合したとかあるんだろうか。記憶は間違いなく俺のものなんだけど。
 俺が首をかしげていると、『コンコンコンっ』とノック音がし、姉さんが入ってきた。

「おはよう、仁。よく眠れた?」

「おはよう。ぐっすりだよ」

「……そっか。昨日は無理して……。心配したよ?もうあんな真似はしないで」

 姉さんが顔色を憂いに染め、俺の頬━━殴られた部分にそっと手を添えながら言う。

「ごめんね。姉さんを悲しませるよう奴をどうしても許せなかったんだ。僕は姉さんが大好きだから」

 そう言って笑いかける。
 嘘ではない。俺は姉さんが本当に大好きだし、あいつを許せなかったのも本当だ。ただ俺の歪んだ思惑と行き過ぎた報復が介在していたのは否めない。

「そ、そう……」

 姉さんは顔を赤く染めながら目をそらす。

「そ、その大好きっていうのは、家族として?そ、それとも1人の女とし……」

「お兄ちゃんっ!」

 姉さんの言葉を遮り、心愛が元気よく入室してくる。相変わらず可愛い子であるが、せっかく姉さんと良いムードになりかけてたのに、と少しばかりの恨めしさを抱いてしまうのはご愛敬だ。

「心愛、おはよう。あと、病院では静かにね」

 シーッと人差し指を立てて唇に持っていく。妹の躾も兄の役目なのだ。

「あ、ごめんね。おはようお兄ちゃん」

 申し訳なさそうに心愛はシュンと身体を縮こませる。うん、少し可哀想だけどそんな姿も可愛い。

 一方姉さんは話を遮られた事に不満そうに口を尖らせている。

「おはよう、ジンちゃん。体は大丈夫?」

 そして心愛に続き、母さんも病室に入ってきた。これで家族勢揃いだな。仕事とか学校はどうしたの?と聞くのは野暮というものだろう。

「おはよう母さん。うん、大丈夫だよ」

「そう……よかったよ。さて、昨日はどうしてあんな場所でボロボロになってたのか詳しく!聞かせてくれるかな?ジンちゃん」

 母さんはプンプンと音が出そうな感じで腰に両手を当ててそう言う。
 やはり昨日の簡潔な説明では納得してくれないか。さてどう説明したものかな。

 俺は昨日の事件について話した。勿論全てを包み隠さず打ち明けたわけではない。あくまで姉さんの視点から見た事実を言った。

「そうだったんだ……」

 母さんと心愛は沈痛そうに俯く。
 まぁ傍から見れば、姉想いの健気な弟がその優しさのあまり起こしてしまった悲惨な出来事だからな。実際にはもっと悪意たっぷりの恐ろしい事件なわけだけど。それは言わないのが吉。

「私のせいなんだよ。私があんなやつの事を……」

 姉さんはそう言って自虐的に笑う。

「姉さん、違うって言ったでしょ?まあそう言っても姉さんは聞かないんだろうけど。じゃあ、今回は姉さんも僕も悪い。それでいいでしょ?」

「で、でも」

「でももへったくれもない!はい!解決!」

 俺が強引にそう話を終わらせると、姉さんは不満そうにしながらも一応は納得してくれたようだ。
 俺としても姉さんに責任を感じられるのはバツが悪い。俺は望んで暴行されたのだ。

「それにしてもお兄ちゃんかっこいいね〜。お姉ちゃんのために体を張るなんて、漫画とかアニメの世界みたい!」

「そうだね〜。ジンちゃん素敵だよ!今回みたいな事があったら、わ、私のためにも体張ってくれるのかな!?どうなの!?」

 心愛は目をキラキラさせながら俺を見て、母さんはそんな事を言いながら迫ってくる。……本当に俺の家族は。多分こうして姉さんの気持ちを紛らわせようと、わざと明るい雰囲気にしようとしているんだろう。本当に、いい人たちだと、心からそう思う。

 その後母さんたちは各々仕事や学校があるといって、部屋を出ていった。

 母さん、心愛が部屋を出て、最後に姉さんが部屋を出ようするその瞬間俺は声をかけた。

「姉さん」

「ん?どうしたの仁」

 こちらに振り向く姉さん。


「俺は、姉さんのこと1人の女の子として大好きだよ」


 俺はそうはっきり告げた。

「ブホッ!!」

 姉さんは盛大に吹き出した。

「そ、そそそれは!告白!?そうなの!?ねぇ仁!どうなの!?」

「あー傷が痛む。傷付いた僕は眠ることにするよ。おやすみ〜」

「ちょっとぉおおお!?」

 騒ぐ姉さんを置いて俺は布団をかぶり、その中で笑いを零す。
 あー美少女をからかうのは楽しいなあ。


コメント

  • ウォン

    家族と言っても仁からしたら一緒に住んでる人みたいな感覚なんじゃないのかな?

    1
  • みかん

    タラシめ!ww

    1
  • ノベルバユーザー300822

    仮にも家族、君の自制心はその程度か!

    3
  • べりあすた

    唇にもってく…カズマみたいなことするね

    5
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