銃剣使いとアストラガルス ~女の子たちに囲まれる、最強と呼ばれた冒険者の物語~

夕月かなで

第09話 王女様と姉妹の間

「……ユーの嘘吐き」
「ユーくん、信じてたのに」
「待て待て、爺さんのお使いってのは嘘じゃなかったろ?」
「護衛はお使いじゃないよ! それにこんなに可愛い子だなんて! ひしっ!」
「……裏切り」

 爺さんに話を聞いた後、俺は家に帰りアリルとミルねぇを連れてもう一度ギルド長室へと戻ってきた。
 その間にラジクは受付業務に戻っており、俺は爺さんとフリーダ王女と共に二人へと説明することになった。
 今日の護衛のこと、明日からの護衛のことを。

 しかし今日の依頼のことを話した俺に待っていたのは、不貞腐れたように頬を膨らませ何故かフリーダ王女を抱きしめるミルねぇと、そっぽを向いて俺を横目で睨むアリルだった。

「悪かったって。もう隠し事はしないから」
「当たり前でしょ、家族なんだから!」
「ミルねぇ……」
「おっほん、それじゃあ詳しい話をしようかの」

 俺が優しさの塊のようなミルねぇと見詰め合っていると、咳払いをした爺さんが話を戻した。
 そして爺さんから二人に話されたのは、爺さんの隣りで座っている人がフリーダ王女であること。
 そして姫さんが今日から七日間社会見学としてギルドに住むこと、そして二人にも護衛と姫さんの話し相手になってほしいということだった。

「わわっ!? 王女様だったの!? ご、ごめんなさい、ご無礼を」
「別にいいわよ。私が隠してた訳だし」
「それで、ミルねぇとアリル。護衛依頼はどうする?」
「私は大丈夫だよ! 王女様とお話ししたいし!」
「……わたしも大丈夫。だけど鍛錬の時間はほしい」
「勿論、丸一日使わせるわけじゃないからのぅ。夜はギルドの方で受け持とう。ミルルの日課があるじゃろうから、護衛する時間はいつもユードが来る時間から夜になるまでじゃの。それでは二人とも依頼を受けるということでいいんじゃな?」
「はい!」
「……ユーもいるし、それでいい」

 二人共快諾し、なんでも屋の次の仕事は王女様の護衛になった。
 俺が街中の依頼を受けない分、依頼が溜まってしまうわけだが、そこはギルドで対処してくれるらしい。
 報酬も爺さんの懐から人数分出してくれるらしいので、ありがたい限りだ。

「皆さんありがとう! 私は王城から出たことが無かったから、心配だったの。だけど二人ともいい人そうだし、ユードも口は悪くてもいい人だったから、これから楽しみだわ! よろしくね!」
「はい! あ、王女様だしもっと丁寧に喋らないと」
「そんなの気にしないわ、フレンドリーにお願いね! 後、王女っていうのは隠しておきたいから、フィーって呼んで頂戴!」
「分かったよフィーちゃん! でも私は強いってわけじゃないから、一杯お話しようね!」
「……護衛は、わたしとユーで受け持つ。ミルは弱いからフィーの使用人代わり」
「分かってた事だけど、実際言われると悲しい! 遂に私もメイドかぁ……」

 いや、家事が壊滅的なミルねぇには厳しいだろ。

「別に全て使用人に任せていた訳じゃないから、あまり気負わなくて大丈夫よ。アリルさん、でよかったかしら? お爺様から聞いたのだけれど、剣聖って呼ばれてるのね! とっても頼りにしてるわよ!」

 アリルは姫さんの言葉を聞いて、眉尻を下げた。

「……任せて。でもその呼び名は、私には似合わない」
「あら? かっこいい名前じゃない。そんな呼び名が付くという事は、強いんでしょ?」
「……私より、ユーの方が強い」
「そんなことはねぇと思うがな」

 俺はアリルの言葉を否定するが、事情を知っている爺さんが俺の言葉を否定する。

「ほっほっほ、確かにユードの方が実力は上じゃのぅ」
「そうだったの? さっき街で話したときには、強くないみたいなこと言ってなかった?」
「まぁ、姫さんを守るくらいの力はあるって言ったかな。今の実力ならアリルの方が上なんじゃないか?」
「……そんなことない。まだユーより下」
「へぇ、剣聖って呼ばれる人にそう言われるってことは、やっぱりユードは強いんじゃない!」
「別に、強くなんてねぇよ。とりあえず! アリルには、姫さんの一番近いとこで守ってもらうから。プライベートな所は俺がいたら拙いだろうしよ」

 俺は強いと認めろと言わんばかりの視線を振り払うように、話を進めることにした。
 王様秘蔵の箱入り娘に、庶民で男の俺が常に近くにいるわけにもいかない。
 異性に見られたくないものはあるだろうしな、着替えとか風呂とか。
 その時に俺がいると困るだろう。

「まぁそうね。あ、私いつも使用人に起こしてもらっていたのだけど、アリルにお願いできるかしら?」
「……善処する」
「まぁいざとなったら俺がアリルを叩き起こすから大丈夫だ。毎朝やってることだしな」
「……善処、したい」
「お、遅くてもいいわよ?」
「そうなるとこいつ何時までも寝てるからな。まぁ少し遅くなるとは思うが、確実に起こさせるから」
「そ、そう。分かったわ」

 少し厳しいかもしれないが、いつもより早く起きるだけだから頑張ってくれ。
 家族は皆寝起きに弱いが起こさないと仕事に遅れるし、いつも布団を引っぺがして起こしている。
 いや、引っぺがすのは数年前に止めた。時々酔って全裸で寝るからな。
 こっちの心臓が持たなくなっちまう。

「最終確認じゃが、夜から朝まではギルド職員が護衛をする。ギルド内とギルド周辺の警邏くらいじゃがのぅ。お主らは朝から夜までの間を頼むぞい。ユード達は朝食をネムと食べるじゃろうから、フリーダの朝食についてはこちらで用意させる。すまんが、昼と晩は酒場にでも連れ出してやってくれんか?」
「ああ、分かった。スズのとこなら個室もあるから大丈夫だろう。さて、これからよろしくな、姫さん」
「姫さん? 外ではちゃんとフィーって呼んでよ?」
「分かってる、他人に聞こえる範囲はフィーって呼ぶよ」
「ならいいわ。よろしくね、ユード。それにアリルとミルルも」
「うん!」
「……よろしく」

 そうして俺達の、一国の王女を護衛するという一大任務が幕を開けることになった。



 ユード達が家へと帰った頃、ギルド長室の中は沈黙に包まれていた。
 その沈黙を破ったのは、ギルド長であるコボロフの膝に座ったフリーダ王女だった。

「ねぇお爺様。わたくし、ここで何を学べばいいのかしら?」

 不安を滲ませた声色で、命令にも嘆願にも似た言葉を吐いた彼女は、コボロフへと問う。
 決してユード達には見せなかった、ただ不安気な子供としての表情で。

「なんじゃフリーダ姫、不安か?」
「ええ。だって、昨日突然お父様から言われたんだもん。もっと前から教えてくれれば良かったのに」
「今回のお忍びは極秘じゃからのう。仕方あるまいよ」
「それに、ユード。彼は何故強さを否定するの?」
「それは……」
「剣聖アリル。王城にだってその噂は聞こえたわ。現在王国最強の冒険者だって。だけど当の本人はユードの方が強いと言っている。そしてお爺様もアリルよりユードの方が強いみたいに言ってる」
「そうじゃのぅ」
「ユードは、自分のことをなんでも屋って言ってたわ。彼はモンスター討伐に出向かないんだって。強いを隠すことと、戦わないことに理由が何かあるの?」
「ワシが思うにな、あやつら以上に信頼できる冒険者はおらん。フリーダ姫には最適なんじゃよ。なんでも屋、という存在に触れることが」
「私にとっての、最適?」
「さよう。フリーダ姫よ、あやつらは大きな問題を抱えておる。だからこそ双方にとっていい影響が生まれると思っておるのじゃ」
「その問題って?」
「それはフリーダ姫。ワシからは話せんよ」

 彼女が王族に生まれて初めて触れた庶民。
 我が侭にも面倒そうではあったが付き合ってくれたし、街を歩いていると彼に挨拶をしてくる国民は手の指で数えるより多かった。
 そんな人脈もあるユードに見える、違和感。
 それに彼だけでなくアリルとミルルの二人も何処か変だった。

 彼女は知りたかった。

 その違和感の正体を。

 ――教えて、お爺様。

 ――ユードは一体、何者なの?

 その声に答えるものは、誰もいなかった。

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