銃剣使いとアストラガルス ~女の子たちに囲まれる、最強と呼ばれた冒険者の物語~
第13話 騎士たる者、悠然たれ
「そ、それでユード殿。ど、どういったご用件でしょ、だ、だろうか?」
再びティナの家へとお邪魔して、今は二階部分にある姉のリィナの部屋で対面している。
ティナと母親のシィナさんは大切な話ということで一階で待ってもらっているので、邪魔をされることもないだろう。
先程の姫さんがにゃんにゃん言ってた言葉で、キャッシーからラムちゃんの向かった方角を聞き取れたそうなので、今は一時中断して、先に解決すべき問題に差し掛かることにした。
「さっきの、見たよな?」
「ななななな、なんのこちょだろうか?」
「噛んでるぞ」
「……ごめんなさい、見ました」
あっさり吐いたな。
まぁ別に見たことに関しては俺達のせいでもあるのから、そんなに申し訳なさそうにしなくていいのに。
窓越しだったから、会話とかは聞こえていないだろうし。
「素直に言ってくれてありがとう。とりあえずリィナさんには二つの選択肢がある」
俺は指を二本立てて、リィナへと解決策を講じる。
「ふ、二つ、ですか」
「ああ。ずばりさっきのことを見なかったことにして人に漏らさないように魔法を掛けるか、俺達の協力者になるか」
「魔法!? それは、記憶を操るものか!? それがバレたら重罪だぞ!」
「こっちにも事情があるんでな。それで、どうする?」
リィナには悪いが、この能力が世間に広まれば姫さんが外出どころではなくなってしまう。
それに能力を悪用しようとする輩だって現れるかもしれない。
そうなったら姫さんの社会勉強ができなくなって、俺達の依頼は実質失敗に終わるからな。
リィナは額に掻いた汗を、服の袖で拭った。
「きょ、協力者とは、一体?」
「俺達はこいつの社会勉強みたいなことをしてるんだ。とある貴族の子でな、正式なギルドの依頼なんだ」
「は、はぁ。それは、言ってよかったのか?」
「協力しないなら記憶を消す訳だし、問題ないよ」
「そ、それもそうか」
選択肢は二つと言っておきながら、実質的な所一つの選択肢しか与えていないだろう。
脅しにはなるが、俺が知っているこいつなら。
姫さんの護衛としては申し分ないはずなんだ。
それに。
「だが俺達では手の届かない部分がある」
「手の、届かない部分?」
「ああ。学院について、だ。リィナさんのその服、王国学院の制服だろ?」
初めて会った、リィナが気絶した時から何処かで見たことある服だと思ってたんだが、ここで対面した時に思い出した。
所々は改造されているみたいだが、王国がやってる学院の制服なんだな。
流石にスカート短くし過ぎてる気がするんだが……。
「こ、これは母上が勝手に!」
「ああ、何も喋ってないから。俺の思考を読まないでくれ」
「す、すまない」
恥ずかしそうにスカートの丈を両手で伸ばそうとするリィナ。
戦闘になれば翻って中が見えると思うんだが……、まぁ俺の気にする事ではないか。
それに丈を伸ばそうとしてスカートがドンドンずれていってるんだが、上の服の丈も短いからお臍が丸見えだぞ。
「それでな、俺達は学院に行ったことねぇから詳しく分からないんだ。だからその辺りのことを、リィナさんからこいつに教えてもらえればなって。腕も立つだろうから、護衛としても加わってくれればありがたい」
「ひ、一つ質問いいだろうか?」
「どうぞ?」
「えっとだな、何故初対面で気絶した私のような人に、そこまで言うのかが分からんのだ」
リィナから発せられた疑問は至極当たり前のものだった。
一度も喋ったことがない相手にここまで言われれば、誰だって警戒するだろう。
甘い蜜で釣ろうとしているんじゃないかってな。
唯、俺はこいつを知っているが、こいつは俺の事を覚えてないだろうからな。
あの時もこいつは気絶してたし。
だから、適当に理由を出しておこう。
適当とは言っても、本心ではあるが。
「それはな。たった少しの時間でもよ、お前は悪い奴じゃないって思うんだよ」
「な、何故?」
「まずその態度だな。学院生ってのは騎士の育成機関だ。だからプライドの高い人間ばっかりいやがる。だがリィナさんは最初に会ったときから傲慢な部分が見えない」
ギルドの依頼を腕試しや訓練として受ける学院生も多い。
殆どが気の強い、冒険者を下に見る態度を取る奴等だ。
そのせいで冒険者からの学院生、果てには騎士達へのイメージは悪くなっており、現在騎士と冒険者の溝を深くしている。
ギルドもどうにかしたいと考えているらしいが、相手が国の保護にある学生ということもあり、難儀しているらしい。
ギルド長は競争があっていいと笑っていたが。
「そ、それは……隠しているだけかもしれんぞ? わ、私が嘘を吐いてるかもしれん!」
「いいや、それは無いよ。さっきティナに人柄は聞いておいたから」
これは事実だ。
俺がリィナの事を思い出しそうな時に、ヒントがないかと思ってティナに聞いてみたんだ。
依頼の事を聞くついでに。
「ちょおっ!? ティナ、どうしてそんなことを!?」
「持ってたお菓子を上げたら直ぐに吐いてくれたよ。お姉ちゃんは子供の頃から騎士を目指していて、弱い人を率先して守る優しいお姉ちゃんなんだってな。ベタ褒めだったよ。あの子は嘘を吐けない人だろうから、リィナさんは信じられる人間だと思っているよ」
ビストっていう板みたいな甘い焼き菓子を小腹が空いたとき用に持っていたので、それを上げればイチコロだった。
すると本当に指を咥えてお母さんのシィナさんがこちらを見てきたので、もう一つ上げることになってしまったが。
勿論、シィナさんからも情報を得る事が出来たから、問題は無かった。
そこで昔のリィナの思い出話を聞いた時に、思い出したんだ。
俺はこいつと会った事があると。
この家族、嘘すら吐けない正直者過ぎて不安になるな。
これまでも姑息な冒険者や商人を見てきた手前、俺はそう思ってしまう。
なんで依頼を受けに来た一冒険者に、そこまで姉の情報を話せるのか。
おねしょしてた時の話はいらなかっただろ、シィナさんよ。
「そ、そうですか。……ティ、ティナぁぁぁぁ! 後で怒るからね!」
「それにそうやって傲慢そうに見せた口調が直ぐに崩れる所もな」
「うっ!? し、仕方ないじゃないですか! 学院だとそういう口調じゃないと浮いちゃうし……」
こいつも色々と苦労してるんだな……。
「それで、どうする?」
「で、では。よろしければ皆さんと共に行動させていただきたいです」
リィナは逡巡の後、俺の提案に乗ってくれた。
いや、強制的に乗らせたとも言えるのか。
深い礼と共に、先程までオロオロとしていた態度は消え失せ、顔を上げればそこには真剣な正に騎士と言える表情があった。
「ああ、よろしく頼む。こんな言い草で悪かったな。お前らもいいな?」
「ユードがそういうなら問題ないわよ」
「私はユーくんに従うよ!」
「……一度、手合わせしてみたい」
どうやら姫さんも俺に信頼を置いてくれているみたいだ。
ミルねぇはいつも通りだが、アリルについてはまた今度時間を作ればいい。
戦いに生きる者同士、実際に手合わせすれば互いに信頼できるようになるだろう。
「よし、それじゃあまずシィナさんに挨拶かな。大事な娘さんを仲間に入れるんだし」
「あ、挨拶っ!?そ、そんな、それはまにゃ早いよぉ」
顔を真っ赤にして噛んでいるリィナを置いて、俺達は階下へと向かう。
そしてシィナさんはあらあらー? と快諾してくれて、ティナちゃんはそれを聞いて楽しそうにリィナさんの部屋へと向かった。
上の階からリィナが倒れる音が聞こえるまで、そう時間は掛からなかったが、一体何をしたんだろうか。
姫さんの秘密を知ってしまったリィナを仲間に入れて、五人で再び街へと出る。
とは言っても、現状では姫さんのことを貴族の御令嬢とまでしか説明していない。
その部分を教えるかは姫さんに任せた。
今後、姫さんが信用に足ると判断するかどうかって所だ。
「そ、それで、私達が飼っているラムちゃんの居場所は分かっているのか?
「さっき話した通り、フィーの能力で家の前に居たキャッシーから情報を得ている。何処に言ったのか、何をしに行ったのかまで聞けたそうだ」
「わたくしも能力を使えるようになってから知ったのだけど、あの子たちって違う種族間でもお話できるらしいわ。逆に喋れない人間が可笑しいってよく言われちゃうもの」
キャッシーとラムスターでは種族が違うから、分からないかと思っていたんだが、どうやらそういう訳ではないらしい。
この大陸の人間がこのような言葉を話すように、彼ら動物にも共通の言語のようなものが存在するようだ。
俺達にはにゃーにゃー言っているようにしか聞こえないが。
「へぇ、そう考えると可愛いね!」
「……どんな話してるんだろう?」
姫さんを先頭にして左隣りにミルねぇ、護衛として俺がその反対側で歩く。
アリルとリィナで後ろについてもらって、後方確認をしてもらいながら進む。
行き先だが、家を出てから姫さんがキャッシーから聞いた話を共有しておいた。
「あの子はこう言ってたわ。ラムちゃん? あぁ、あの子のことにゃね? 確かお店通りにある食堂の裏に行くとか言ってたにゃ。理由にゃ? 分かんにゃいにゃ~。と」
「フィー、普通にお前の言葉で喋って良かったんだぞ?」
「う、五月蝿いわね! 能力を使ったときの反動がまだ残ってるのよ! 気を抜いたらキャッシーの使ってる言葉が移っちゃうの!」
気を付けろよ。
その言葉が出る度に、ミルねぇが手をウズウズしてるからな。
飛びついてくるぞ。
「そ、そうか。とりあえず、その食堂ってとこに行ってみるか」
「そうにゃ……そ、そうね。早く行きましょ」
気を抜いてしまったか、顔真っ赤だけど、ミルねぇに抱きつかれてるけど、まぁ頑張れ。
とまぁ、そういった話を聞いておいたので俺達は商業区にある食堂へと向かう。
この区の食堂はあっても十数件くらい、そしてティナの家から比較的近いのは五件程。
ラムスターは暗い所を好む動物だからあまり大通りには出ないだろう。
となると、路地裏を通って行ける店は三件くらいだろうか。
「この門を潜れば再び商業区だ。大通りは人が多くて護衛には向かないし、ラムスターも」
「ラムちゃんだよ! ユーくん!」
「……ラムスターもとお」
「ラムちゃんだよ!」
「……はぁ。ラムちゃんも大通りは通らないだろうし、路地を通って行くぞ」
そこは譲れよ。
なんでミルねぇがその名前にプライドを持ってるんだよ。
「分かったわ。こっちの道でいいのね?」
「そっちは大通りだ」
「し、仕方ないじゃない! 街なんて普段歩かないんだから!」
いつもなら俺とミルねぇでパパッと見ていくんだが、今日の主役は姫さんだ。
路地を珍しいものを見るように歩く姫さんのペースに合わせて、俺達は進んでいく。
「あ、ラムスターいたわ!」
「いや、あれは私の家のラムちゃんではないな」
「そっか……首輪もしてないものね。次に行きましょう」
リィナが仲間になったことで、依頼の難易度はほぼ最低ランクにまで下がったと言っても過言ではないだろう。
なんたって探す目標をよく知っていて、一目で判断できる存在が一緒にいるんだからな。
依頼者の中には一緒に探して欲しいっていう依頼を出す人もいるが、大抵途中で疲れて休憩を入れる羽目になったりする。
だがリィナは学院生だし姫さんよりは体力はあるだろう。
「うーん、キャッシーは見かけるけどラムスターは居ないわね……」
「そろそろ休憩するか?」
「いいえ、まだ大丈夫よ」
「分かった」
意外と姫さんも体力があるな。
因みに、ミルねぇはいつも散歩と俺のなんでも屋の手伝いで歩き回るから体力がある。
なので姫さんが一番体力が少ないと踏んでいたんだが……。
この感じだと心配は要らなさそうだな。
「フィーちゃん、疲れたらいつでも言ってね?」
「ありがとう。でも本当に大丈夫よ。これでもわたくし、ただ篭ってるだけじゃないんだから」
「へぇ、何かやってるのか?」
「ダンスの練習はよくしてるわ、淑女の嗜みだしね」
「……本当に貴族ってダンスするんだ」
「学院ではダンスも習うぞ。簡単なものだが、騎士になれば貴族と触れ合う機会もあるからな」
するとリィナの言葉に勢いよく食い付いたのが、夢見る乙女なミルねぇだ。
「貴族と騎士の禁断の恋ってやつね!」
「あら、ミルルはそういう本読んだりするの?」
「うん!ユーくんによく買ってもらうの! 対立する貴族の間で生まれる恋物語とか、庶民と貴族の恋愛とか素敵だよね!」
「分かるわ! わたくしもよく使用人に買ってきて貰って読むのよ!」
「わー嬉しい! この話を出来る人がいなかったから! ユーくんもアーちゃんも、全然読んでくれないんだもん!」
指南書とか、冒険譚が書かれた本くらいしか読まないからなぁ。
恋愛なんてよく分からんし。
「だから鈍感なのかしら?」
「どういうことだ?」
「いえ、その言葉で充分に分かったわ。気にしなくていいわよ」
「そうか?」
「ええ」
腑に落ちないが、まぁいいか。
再びティナの家へとお邪魔して、今は二階部分にある姉のリィナの部屋で対面している。
ティナと母親のシィナさんは大切な話ということで一階で待ってもらっているので、邪魔をされることもないだろう。
先程の姫さんがにゃんにゃん言ってた言葉で、キャッシーからラムちゃんの向かった方角を聞き取れたそうなので、今は一時中断して、先に解決すべき問題に差し掛かることにした。
「さっきの、見たよな?」
「ななななな、なんのこちょだろうか?」
「噛んでるぞ」
「……ごめんなさい、見ました」
あっさり吐いたな。
まぁ別に見たことに関しては俺達のせいでもあるのから、そんなに申し訳なさそうにしなくていいのに。
窓越しだったから、会話とかは聞こえていないだろうし。
「素直に言ってくれてありがとう。とりあえずリィナさんには二つの選択肢がある」
俺は指を二本立てて、リィナへと解決策を講じる。
「ふ、二つ、ですか」
「ああ。ずばりさっきのことを見なかったことにして人に漏らさないように魔法を掛けるか、俺達の協力者になるか」
「魔法!? それは、記憶を操るものか!? それがバレたら重罪だぞ!」
「こっちにも事情があるんでな。それで、どうする?」
リィナには悪いが、この能力が世間に広まれば姫さんが外出どころではなくなってしまう。
それに能力を悪用しようとする輩だって現れるかもしれない。
そうなったら姫さんの社会勉強ができなくなって、俺達の依頼は実質失敗に終わるからな。
リィナは額に掻いた汗を、服の袖で拭った。
「きょ、協力者とは、一体?」
「俺達はこいつの社会勉強みたいなことをしてるんだ。とある貴族の子でな、正式なギルドの依頼なんだ」
「は、はぁ。それは、言ってよかったのか?」
「協力しないなら記憶を消す訳だし、問題ないよ」
「そ、それもそうか」
選択肢は二つと言っておきながら、実質的な所一つの選択肢しか与えていないだろう。
脅しにはなるが、俺が知っているこいつなら。
姫さんの護衛としては申し分ないはずなんだ。
それに。
「だが俺達では手の届かない部分がある」
「手の、届かない部分?」
「ああ。学院について、だ。リィナさんのその服、王国学院の制服だろ?」
初めて会った、リィナが気絶した時から何処かで見たことある服だと思ってたんだが、ここで対面した時に思い出した。
所々は改造されているみたいだが、王国がやってる学院の制服なんだな。
流石にスカート短くし過ぎてる気がするんだが……。
「こ、これは母上が勝手に!」
「ああ、何も喋ってないから。俺の思考を読まないでくれ」
「す、すまない」
恥ずかしそうにスカートの丈を両手で伸ばそうとするリィナ。
戦闘になれば翻って中が見えると思うんだが……、まぁ俺の気にする事ではないか。
それに丈を伸ばそうとしてスカートがドンドンずれていってるんだが、上の服の丈も短いからお臍が丸見えだぞ。
「それでな、俺達は学院に行ったことねぇから詳しく分からないんだ。だからその辺りのことを、リィナさんからこいつに教えてもらえればなって。腕も立つだろうから、護衛としても加わってくれればありがたい」
「ひ、一つ質問いいだろうか?」
「どうぞ?」
「えっとだな、何故初対面で気絶した私のような人に、そこまで言うのかが分からんのだ」
リィナから発せられた疑問は至極当たり前のものだった。
一度も喋ったことがない相手にここまで言われれば、誰だって警戒するだろう。
甘い蜜で釣ろうとしているんじゃないかってな。
唯、俺はこいつを知っているが、こいつは俺の事を覚えてないだろうからな。
あの時もこいつは気絶してたし。
だから、適当に理由を出しておこう。
適当とは言っても、本心ではあるが。
「それはな。たった少しの時間でもよ、お前は悪い奴じゃないって思うんだよ」
「な、何故?」
「まずその態度だな。学院生ってのは騎士の育成機関だ。だからプライドの高い人間ばっかりいやがる。だがリィナさんは最初に会ったときから傲慢な部分が見えない」
ギルドの依頼を腕試しや訓練として受ける学院生も多い。
殆どが気の強い、冒険者を下に見る態度を取る奴等だ。
そのせいで冒険者からの学院生、果てには騎士達へのイメージは悪くなっており、現在騎士と冒険者の溝を深くしている。
ギルドもどうにかしたいと考えているらしいが、相手が国の保護にある学生ということもあり、難儀しているらしい。
ギルド長は競争があっていいと笑っていたが。
「そ、それは……隠しているだけかもしれんぞ? わ、私が嘘を吐いてるかもしれん!」
「いいや、それは無いよ。さっきティナに人柄は聞いておいたから」
これは事実だ。
俺がリィナの事を思い出しそうな時に、ヒントがないかと思ってティナに聞いてみたんだ。
依頼の事を聞くついでに。
「ちょおっ!? ティナ、どうしてそんなことを!?」
「持ってたお菓子を上げたら直ぐに吐いてくれたよ。お姉ちゃんは子供の頃から騎士を目指していて、弱い人を率先して守る優しいお姉ちゃんなんだってな。ベタ褒めだったよ。あの子は嘘を吐けない人だろうから、リィナさんは信じられる人間だと思っているよ」
ビストっていう板みたいな甘い焼き菓子を小腹が空いたとき用に持っていたので、それを上げればイチコロだった。
すると本当に指を咥えてお母さんのシィナさんがこちらを見てきたので、もう一つ上げることになってしまったが。
勿論、シィナさんからも情報を得る事が出来たから、問題は無かった。
そこで昔のリィナの思い出話を聞いた時に、思い出したんだ。
俺はこいつと会った事があると。
この家族、嘘すら吐けない正直者過ぎて不安になるな。
これまでも姑息な冒険者や商人を見てきた手前、俺はそう思ってしまう。
なんで依頼を受けに来た一冒険者に、そこまで姉の情報を話せるのか。
おねしょしてた時の話はいらなかっただろ、シィナさんよ。
「そ、そうですか。……ティ、ティナぁぁぁぁ! 後で怒るからね!」
「それにそうやって傲慢そうに見せた口調が直ぐに崩れる所もな」
「うっ!? し、仕方ないじゃないですか! 学院だとそういう口調じゃないと浮いちゃうし……」
こいつも色々と苦労してるんだな……。
「それで、どうする?」
「で、では。よろしければ皆さんと共に行動させていただきたいです」
リィナは逡巡の後、俺の提案に乗ってくれた。
いや、強制的に乗らせたとも言えるのか。
深い礼と共に、先程までオロオロとしていた態度は消え失せ、顔を上げればそこには真剣な正に騎士と言える表情があった。
「ああ、よろしく頼む。こんな言い草で悪かったな。お前らもいいな?」
「ユードがそういうなら問題ないわよ」
「私はユーくんに従うよ!」
「……一度、手合わせしてみたい」
どうやら姫さんも俺に信頼を置いてくれているみたいだ。
ミルねぇはいつも通りだが、アリルについてはまた今度時間を作ればいい。
戦いに生きる者同士、実際に手合わせすれば互いに信頼できるようになるだろう。
「よし、それじゃあまずシィナさんに挨拶かな。大事な娘さんを仲間に入れるんだし」
「あ、挨拶っ!?そ、そんな、それはまにゃ早いよぉ」
顔を真っ赤にして噛んでいるリィナを置いて、俺達は階下へと向かう。
そしてシィナさんはあらあらー? と快諾してくれて、ティナちゃんはそれを聞いて楽しそうにリィナさんの部屋へと向かった。
上の階からリィナが倒れる音が聞こえるまで、そう時間は掛からなかったが、一体何をしたんだろうか。
姫さんの秘密を知ってしまったリィナを仲間に入れて、五人で再び街へと出る。
とは言っても、現状では姫さんのことを貴族の御令嬢とまでしか説明していない。
その部分を教えるかは姫さんに任せた。
今後、姫さんが信用に足ると判断するかどうかって所だ。
「そ、それで、私達が飼っているラムちゃんの居場所は分かっているのか?
「さっき話した通り、フィーの能力で家の前に居たキャッシーから情報を得ている。何処に言ったのか、何をしに行ったのかまで聞けたそうだ」
「わたくしも能力を使えるようになってから知ったのだけど、あの子たちって違う種族間でもお話できるらしいわ。逆に喋れない人間が可笑しいってよく言われちゃうもの」
キャッシーとラムスターでは種族が違うから、分からないかと思っていたんだが、どうやらそういう訳ではないらしい。
この大陸の人間がこのような言葉を話すように、彼ら動物にも共通の言語のようなものが存在するようだ。
俺達にはにゃーにゃー言っているようにしか聞こえないが。
「へぇ、そう考えると可愛いね!」
「……どんな話してるんだろう?」
姫さんを先頭にして左隣りにミルねぇ、護衛として俺がその反対側で歩く。
アリルとリィナで後ろについてもらって、後方確認をしてもらいながら進む。
行き先だが、家を出てから姫さんがキャッシーから聞いた話を共有しておいた。
「あの子はこう言ってたわ。ラムちゃん? あぁ、あの子のことにゃね? 確かお店通りにある食堂の裏に行くとか言ってたにゃ。理由にゃ? 分かんにゃいにゃ~。と」
「フィー、普通にお前の言葉で喋って良かったんだぞ?」
「う、五月蝿いわね! 能力を使ったときの反動がまだ残ってるのよ! 気を抜いたらキャッシーの使ってる言葉が移っちゃうの!」
気を付けろよ。
その言葉が出る度に、ミルねぇが手をウズウズしてるからな。
飛びついてくるぞ。
「そ、そうか。とりあえず、その食堂ってとこに行ってみるか」
「そうにゃ……そ、そうね。早く行きましょ」
気を抜いてしまったか、顔真っ赤だけど、ミルねぇに抱きつかれてるけど、まぁ頑張れ。
とまぁ、そういった話を聞いておいたので俺達は商業区にある食堂へと向かう。
この区の食堂はあっても十数件くらい、そしてティナの家から比較的近いのは五件程。
ラムスターは暗い所を好む動物だからあまり大通りには出ないだろう。
となると、路地裏を通って行ける店は三件くらいだろうか。
「この門を潜れば再び商業区だ。大通りは人が多くて護衛には向かないし、ラムスターも」
「ラムちゃんだよ! ユーくん!」
「……ラムスターもとお」
「ラムちゃんだよ!」
「……はぁ。ラムちゃんも大通りは通らないだろうし、路地を通って行くぞ」
そこは譲れよ。
なんでミルねぇがその名前にプライドを持ってるんだよ。
「分かったわ。こっちの道でいいのね?」
「そっちは大通りだ」
「し、仕方ないじゃない! 街なんて普段歩かないんだから!」
いつもなら俺とミルねぇでパパッと見ていくんだが、今日の主役は姫さんだ。
路地を珍しいものを見るように歩く姫さんのペースに合わせて、俺達は進んでいく。
「あ、ラムスターいたわ!」
「いや、あれは私の家のラムちゃんではないな」
「そっか……首輪もしてないものね。次に行きましょう」
リィナが仲間になったことで、依頼の難易度はほぼ最低ランクにまで下がったと言っても過言ではないだろう。
なんたって探す目標をよく知っていて、一目で判断できる存在が一緒にいるんだからな。
依頼者の中には一緒に探して欲しいっていう依頼を出す人もいるが、大抵途中で疲れて休憩を入れる羽目になったりする。
だがリィナは学院生だし姫さんよりは体力はあるだろう。
「うーん、キャッシーは見かけるけどラムスターは居ないわね……」
「そろそろ休憩するか?」
「いいえ、まだ大丈夫よ」
「分かった」
意外と姫さんも体力があるな。
因みに、ミルねぇはいつも散歩と俺のなんでも屋の手伝いで歩き回るから体力がある。
なので姫さんが一番体力が少ないと踏んでいたんだが……。
この感じだと心配は要らなさそうだな。
「フィーちゃん、疲れたらいつでも言ってね?」
「ありがとう。でも本当に大丈夫よ。これでもわたくし、ただ篭ってるだけじゃないんだから」
「へぇ、何かやってるのか?」
「ダンスの練習はよくしてるわ、淑女の嗜みだしね」
「……本当に貴族ってダンスするんだ」
「学院ではダンスも習うぞ。簡単なものだが、騎士になれば貴族と触れ合う機会もあるからな」
するとリィナの言葉に勢いよく食い付いたのが、夢見る乙女なミルねぇだ。
「貴族と騎士の禁断の恋ってやつね!」
「あら、ミルルはそういう本読んだりするの?」
「うん!ユーくんによく買ってもらうの! 対立する貴族の間で生まれる恋物語とか、庶民と貴族の恋愛とか素敵だよね!」
「分かるわ! わたくしもよく使用人に買ってきて貰って読むのよ!」
「わー嬉しい! この話を出来る人がいなかったから! ユーくんもアーちゃんも、全然読んでくれないんだもん!」
指南書とか、冒険譚が書かれた本くらいしか読まないからなぁ。
恋愛なんてよく分からんし。
「だから鈍感なのかしら?」
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「そうか?」
「ええ」
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