鳥カゴからのゼロ通知
chapter1-25 「本当の遊び方」
協力者としては巨額なおつりが返ってくるほどの剣士。
剣士というには腰に剣を下げている訳ではない。かと言って背中に背負っている訳でもない。未だにゼクトは得物を見せてはいない。
その理由は、“剣を抜くほどでもない”というよくありがちなプライドなのかは分からない。
ただ分かることは、“それが無くても十分に強い”ことだ――。
「さあ、往きなさい! 捕まえたなら手を! 足を! 首を! 遠慮はいりません、私が許可します! 私に聞かせてください! 彼らの呻き声を、断末魔を! そして我が鬼の一員として彼らを招くのです!」
それが鬼たちを動かす合図となった。
「ウオオオオオオオアアアアアッ!」
鬼の軍勢が一斉に二人に駆け寄ってくる。
恐らく彼らは元々人間だったのだろう。“鬼ごっこ”とは、鬼が逃げる役の人を捕まえてその人が今度は鬼になる遊び。しかし、これはその遊びの進化版――“増やし鬼”だろう。
彼らには最早意思はなく、与えられた命令によってようやく動くことが出来る“操り人形”。となれば、それらを操っている本元を叩けば鬼は動かなくなるだろう。
最も、簡単に叩けるとは限らない。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
創は雄叫びを上げ、鬼たちの先にいるハイドへと駆ける。
だが、当然その行く手を阻むように鬼たちが立ち塞がる。手に持っているのは斧や鍬、スコップなど、どれも当たってしまえば命の危険があるものばかり。幾つもの凶器と成り下がった道具が創目がけて下りてくる。
しかし、それを簡単に許さない者が今、創を味方している。
「――それらは畑を耕すものだ。決して人に向けていい物ではない」
僅か数秒にも満たない間だった。
ゼクスが現れたことによって目も前にいた鬼は一瞬の内に弾き飛ばされる。頭には斧が、顔には鍬が刺さり、そのまま倒れて行った。超高速な動きをするゼクトはそのまま右、後ろと移動し、鬼たちの相手をしていた。
創の周りにはゼクトの残像が回り始めていた。
聞こえてくるのは金属が弾かれる甲高い音と鬼たちの呻き声。宙に舞うのは道具と赤黒い血。その血は草原を、白い花を疎らに赤く染めていく。
だがそこで不思議な現象が起きた。
一ミリたりとも視線を外してはいなかった。意識はしてないが、瞬きも数回程度だろう。そんな中、鬼の先にいたハイドの姿がないのだ。
「――何!? 一体何処に消えたんだ!?」
混乱する頭を整理しつつ冷静に辺りを見回した。隠れられるところがあるとすれば、村の住人が住んでいた建物、それ以外は茂みのみ。この一瞬で隠れるところは少ないはずだ。
「ハジメさんっ! 後ろです!」
その戦いを見ていたキルキスからの声が響いた。
「え――ぐっ、ああっ――!?」
反応した時にはもう既に背中と太ももに鋭い刃物が刺さっていた。
「“かくれんぼ”、ア~ンド“釘ナイフ”です」
釘ナイフ――軟鉄であるところの釘を加工して造られる簡易な刃物。これを投げナイフのように投擲して木の板などに突き立てるなどをして遊んでいた物。これを投げて遊ぶ範疇では釘手裏剣とも呼ばれた。
「ぐ……!」
振り返るもまたしてもそこにハイドはいなかった。
「ハジメさん! 今度は左です!」
その言葉通り左を向くと、ハイドが石を蹴り飛ばしてきた。
人間に反射神経が無かったら今ので顔の半分は無くなっていただろう。何もこれは大げさではない。その石を避けたその先にいた鬼の顔を貫通させたのだ。本来なら地面を転がす程度の“石蹴り”を殺人的なまでに強化した遊び。
“かくれんぼ”により隠れられるのは辛いが、どうやら“二つ同時の遊びは出来ない”らしい。元からハイドの眷属になった鬼は別として、“かくれんぼ”という遊びと同時に“石蹴り”という遊びは出来ない。なので一旦“かくれんぼ”を解く必要があったのだ。
遊びでしか攻撃してこないのは彼なりのプライドかは分からない。ただ、第三者――キルキスの協力により“かくれんぼ”を解いたハイドの姿を確認し、知らせてくれる。それだけで十分だった。
「ンン~~。少々厄介ですね~。……ンハッ! ではではこうしましょう!」
そしてハイドはまた姿を消した。闇雲に探しても見つからない。気を張りつつ、キルキスの声を待つしかない。
「ハジメさん!」
遂にキルキスの声が聞こえた。全神経を集中して声を聞こうとする。
「――すぐ後ろです」
創は振り向きざまに剣を薙ぎ払おうとした。
しかしそれは叶わず、丸く透明な薄い壁に閉じ込められてしまった。ハイドが指の輪から作ったそれは徐々に浮き始める。
まるでこれは――、
「“シャボン玉”です」
“シャボン玉”と称されたそれはさらに浮き上がる。
「くそ! 破れない!?」
剣でいくら斬ろうが突こうが薄い壁は傷一つ付かず、一向に破れる気配はしなかった。
さらにそれは浮き上がり、遂には上空百メートル地点まで到達していた。創の頭に最悪の状況が思い浮かぶ。
「――レッツ、スカイダイブ」
ハイドが指を鳴らす。それに反応するかのように、あれだけ頑丈だった壁が容易く、
――パンッ、と割れた。
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