鳥カゴからのゼロ通知
chapter1-14 「相応しい舞台」
「――そういえば、何でハジメさんは急に剣を使い始めたんですか? 昨日まで使っていなかったということは、それまで必要なかったということですよね?」
『ホースメン』を目指している道中、キルキスはそんなことを聞いてきた。
「あー。えーっとですね。敵討ちと言いますか、守りたいものがあると言いますか。それでもって剣を手に取り騎士相手に戦ったのですが、ボコボコにやられてしまいまして。これは護身用みたいな物ですよ。……僕の技術が足りず、狼一匹にあの体たらくでしたが」
創は手を頭の後ろに回して笑って見せた。自分のカッコ悪さを誤魔化す為だ。
――本当に、何でこの程度でハイドを殺そうだなんて思ったのか……。
「……なるほど。素敵ですね!」
「……え?」
創の言葉を聞いてキルキスは目を輝かせていた。
「だってそれって、誰かの為に戦っているってことでしょう? とても素敵なことではございませんか。大丈夫です。あなたはきっと強くなります。何かを守りたいと思うその心が、人を強くするのです」
「……ありがとうございます。そう言って頂けると、少し気持ちが楽になります」
とは言っても、僕は元々違う世界の人間。この異世界、”裏世界”は剣と魔法が溢れている。例えどんな励ましの言葉を掛けられようと、この世界で生きる人たちにそれらで勝つことは難しいだろう。
「それは良かったです。……あ、見てください。街が見えてきましたよ」
まだ距離はあるが、前方に王国のようなお城があるのがわかる。創はその城の大きさに口が開けっ放しになっていた。
***
「この街に何の用だ?」
街の門には門番のような騎士が二人立っていた。街に入る人を一人一人検問しているよ手をうだ。
「私たちはただの観光です。そんなに長居はしません」
「そ、そうか。丁度本日、デュエルが行われる予定だ。見どころだから是非見て行くといい」
門番はキルキスの余りにも露出が多い服装によって露になっている大きな胸に自然と視線が寄っていた。キルキスも胸の下で手を組み、わざと胸を強調しているようにも見える。その後ろでもう一人の門番もキルキスの妖艶さに顔を覗かせていた。
「ありがとうございます! お仕事大変かもしれませんが頑張ってください」
「あ、は、はい。ありがとうございます。そちらも観光を楽しんでください!」
手を振って検問を後にするキルキスに何故か門番も手を振っていた。そしてもう一人の門番も、後ろで小さく手を振っていた。
創もその光景には苦笑いするしかなかった。
「――あの、『デュエル』って何ですか?」
それはたった今門番が口にしていた言葉だった。大体は想像できるが、具体的なことは分からなかった。
「『デュエル』というのはその名の通り、決闘のことです。腕自慢の戦士が各地方から集まって戦闘を行う、ホースメンの伝統的なイベントです。優勝者には賞金と栄誉が讃えられます」
「へぇ、ちょっと見てみたいかも……」
それはただ人が殴られたり斬られたりされているところを見たいのではなく、単に技術的な部分を見てみたいのだ。各地方から腕自慢が集まるのであれば、何か技術が盗めるかもしれない。
「中には誓騎士の方もいらっしゃるんですよ」
キルキスのその言葉に創は反応してしまう。創の頭にダートの顔が浮かんだのだ。
「そうなんだ……」
そう言う創は手を強く握りしめる。
「もしよかったら、ハジメさんも出てみませんか? いい修業になるかもしれませんよ。大丈夫です。もし怪我をしても私が治して差し上げますから」
キルキスは人差し指を唇に当てて微笑んだ。
「……そうですね。じゃあ修業がてら出てみますよ」
素人の僕が出ても全く勝負にならないかもしれない。相手には軽くあしらわれ、観客からはビーイングの嵐が巻き起こるだろう。もしかしたらまた一方的にやられるだろう。それでも、強くならなきゃいけないから。僕の守りたいものを守る為に。
「本当ですか!? じゃあ私、精一杯応援しますね!」
そうして二人はいよいよ『ホースメン』に足を踏み入れる――。
***
「……おぉ~」
門をくぐるとお祭りみたいな賑やかな光景が広がっていた。周りに視線を向けると道中に屋台が連なっていたり、さっき話していたデュエルのポスターが張られていた。治安を守る為だろうか、騎士が見回りをしている。
「この街は名前の通り騎士がたくさんいます。街の治安は王国直属の騎士たちが守っています」
「あの王国のですか?」
創は来る途中から見えていた城を指さした。
「はい。あれが『ハルバート王国』、このホースメンを管轄しているところです。デュエルを主催しているのもあの王国です」
「余興……みたいなのもの?」
「そうですね。王国にとってはこの街は下町ですので、街を盛り上げるイベントとしてお祭りがあるのです。その余興としてデュエルが開催される訳です」
「なるほど……」
街の人を思ってのイベントを開くなんて、あそこの王様は住人思いの人なのかな。そのお陰でこうして活気付いている訳だし。誰もが楽しめる余興であるならば、このデュエルも役立っているのかもしれない。
「そしてこのデュエルにはまだ秘密がありまして。見込みのある戦士を王国がスカウトするのです」
「スカウト?」
「はい。王国の騎士になるには厳しい試験のようなものがありますが、このデュエルで素晴らしい力を発揮した者には王国からスカウトがあるのです。そのスカウトを受けた者にはそのまま直属の騎士になれるのです。それを狙ってデュエルに参加する人も多いのです」
ということは、さっきから街を巡回している騎士たちはデュエルで結果を残した猛者が多いということになる。だから『ホースメン』――“騎士団”ってことなのか。確かにそんな騎士がこの街の治安を守っているのであれば安全は保障されているようなものだろう。
「あ、ハジメさん! 見えてきましたよ!」
「え?」
キルキスが指を指した方を見てみると、そこには教科書やテレビで見たことのあるような建物があった。
それはローマにある円形闘技場をそのまま模したようなもの。競技場と呼ぶに相応しい会場そのものだった。
「……闘技場……?」
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