無黒語

夙多史

Cent-01 赤ずきんちゃんのヘルメット

 一行はとある港に車を止めた。周囲には一切の明かりがなく、陰る月の光でかろうじて人影が認識できる闇夜の中を、4人は当たり前のように普段と変わらない歩調で進んでいく。
 草木も眠る時間帯という理由だけではない人気のなさの港の先端部分に、一隻の小型艇が停泊していた。その前で蹲るように座っていた小さな人影が足音に気づいてノロノロと立ち上がる。
「……遅いのです」
「悪ぃ悪ぃ」
 人影の恨めしそうな口調に、羽黒はいつもの軽薄な笑みをもって応える。
 声は若い女。しかし魔術師らしい頭の先からつま先までをすっぽりと隠すローブに身を包み、フードを目いっぱい目深に被って鼻元まで顔を隠しているため容姿は窺えない。
 が。
「ん? 前に会ったことあ――」
「人違いなのです」
「その声、アリスちゃんに似て――」
「私の名前はメイジー・ツヴァイなのです。アリス・ユニなどという名前ではないのです」
「……白羽、ファミリーネームは言ってませんわ」
 瀧宮兄妹の指摘に、魔術師の女はばっと全力で顔を背けた。
 ……まあ、本人が違うと言っているのだから違うのだろう。そういうことにしておいてやろう。
「ところで、聞いていた人数より一人多いようですが」
 アリス――ではなく、メイジーが一行の一番後ろでイライラと貧乏ゆすりをするウロボロスに視線を向けた。
「公式ではないが、お前さんとこ関連の幻獣だ。問題はないよな」
「……ああ、なるほど。彼の契約幻獣ですか。で、あれば問題はないのです」
 羽黒の言葉に頷くメイジー。
 それでは、と言葉を続け、後ろに控えていた小型艇に4人を案内した。
「アリ――メイジーさん、まさかとは思いますがこんな船で現地まで行くわけではありませんわよね?」
「なわけねーだろクソチビ。肉体作るときに脳のパーツちゃんと入ったのか?」
「羽黒お兄様!! この男無駄に白羽を追い詰めますわ!!」
「今のは阿呆丸出しな発言したお前が悪い」
「そんなあ!?」
 相変わらず苛立ったままの疾の辛辣な物言いに、白羽は羽黒に飛びつく。しかしこちらにも無下に引き剥がされ、襟をつままれぷらんと宙吊りになる。
「……そろそろよろしいのです?」
「どうぞどうぞ」
 白羽をぞんざいに吊るしながら話を促す羽黒。それに深い溜息をつきながら、メイジーは4人にフルフェイスのヘルメットのようなものを手渡した。
「予備を用意していて正解だったのです」
「なんだ、これ」
「感覚阻害魔術を組み込んだ拘束具なのです。申し訳ないのですが、ここから先は機密施設を多数通過するので『目隠し』していただきたいのです」
 メイジーは感情のない声音で静かに頭を下げた。
「ふむふむ、つまり『赤ずきんメイジーちゃんのヘルメット』ってわけですね」
「変な名前つけないでほしいのです!?」
「いいじゃあないですか。狼を見抜けない辺りの童話と機能もマッチしてますし」
「正式名称はちゃんとあるのです!?」
 胡散臭そうにヘルメットをコンコン叩くウロボロスに自分の名前で勝手に命名されたメイジーは顔を真っ赤にしていた。
「はっ、てめえらで対処できないから泣きついてきた相手に随分な対応だな?」
 手渡されたソレが気に入らなかったのか、受け取った拘束具をお手玉しながら疾は鼻で笑う。
「……無礼は承知なのです。ですがこちらにも保たねばならない体裁があるのです」
「こんな面子にすがっておいて体裁もクソもあるかよ。そんなモンに気ぃ遣ってっからてめぇらはいつまで経っても前進しねえんだよ」
「…………」
 ほんの僅かだが、彼女のまとう魔力が揺らいだ。
「挑発すんな。体裁保つのも組織の仕事だ。他に舐められたら回るもんも回らなくなる」
 言いながら、船の座席に腰掛けながら自分からヘルメット――もとい、『赤ずきんメイジーちゃんのヘルメット』を被る羽黒。それを見た白羽も小さく頷き被り、ウロボロスもため息交じりにそれに倣った。
「ちっ」
 最後に疾が不快感を隠そうともせず、舌打ちをしながら拘束具を装着した。
 それを見てほっと一息つき、メイジーは小型艇のエンジンをふかし、操縦舵を握る。
「……あ、一つ言い忘れていたのですが」

「「ほぎゃあああああああああああああああっ!?」」

「……透視しようとすると眼球を突くような痛みが走りますのでご注意を、なのです」
「早く言え」
 狭い船内をドタドタとのたうち回る女性陣の悲鳴を聞きながら、疾はつまらなそうに座席に深く腰掛けた。

     * * *

「既に周知の情報もあるかとは思いますが、現地の状況をまとめて報告させていただくのです」
 波に揺られること数分。ヘルメットに内蔵されたスピーカーから聞こえてくるメイジーの声の合間に耳を澄ますと、どうやら船ごと海上施設か巨大船に回収されたらしいということはイメージできた。しかしそこから先は転移魔術に次ぐ転移魔術で、いったい今自分たちがどこにいるのか皆目見当もつかなかった。
「観光客を含む、当時島にいた全ての人間と各地の魔術組織が派遣した調査隊員がもれなくアンデッド化して島中を徘徊していると思われるのです。その他、〈エーシュリオン〉と調査隊との戦闘で街の一角は崩壊、倒壊していて近付くのも危険な状態なのです」
「それはこっちでも掴んでる。沿岸の住宅街にはトラップも確認されてるんだったか?」
「はいなのです。純粋な物理的なトラップから魔術を感知して発動するタイプ、特定の魔力そのものを感知して発動するタイプと、さながらトラップの見本市なのです。その上、大聖堂からの狙撃で迂闊に立ち止まって解除もできない状態なのです」
「その大聖堂だが、敵さんの要所の一つで間違いはないか?」
「大規模な儀式魔術の痕跡が遠方の観察拠点からでも確認されたので、まず間違いはないと思われるのです。その他、博物館と王宮跡地でも同様の痕跡が。解析班によると博物館からは死霊魔術ネクロマンス以外にも迷宮化魔術も確認されたとのことなのです」
「迷宮化……なるほど、住宅街の地雷原化もその影響か」
「おそらくは。そしてこの迷宮化魔術が大変厄介で――」
 途中で白羽が転移酔いで気分が悪くなったため適度に休息を挟みつつ、何度も嫌味を投げつけてくる疾と爆睡するウロボロスをしり目に羽黒とメイジーが情報のすり合わせを行うこと約一時間。
 結局のところ、羽黒の事前情報と疾がハッキングして入手した情報以外、迷宮化魔術によって次々と島の様相が変わるため外からでは現状を完全に把握することは不可能であるということが分かった。
「使えねえ」
「…………」
 疾のその端的かつ的確な罵倒に、さすがのメイジーも何も言い返せず項垂れる。
「それで、白羽たちはどうすればいいんですの?」
「……ああ、はい。あ、その前に、もう拘束具は外して結構なのです」
 その言葉に、引き続き爆睡中のウロボロス以外がヘルメットを外した。最後に転移の気配があってから環境音がないまましばらく経ったが、最終目的地には着いていたらしい。
「あー、やっと解放され――ここどこですの?」
 ヘルメットを外し、乱れた長い白髪を整えながら白羽が周囲を見渡す。
 そこは薄暗い、かなり閉鎖的な空間だった。5人が腰掛ける固い座席以外は機械的な独特な雰囲気と、小さな窓がいくつか並んでいる以外、何もない。
 そしてその窓からは、眼下に白く厚い雲が敷き詰められていた。
「ここは大型輸送機の中なのです。現在、エジプト沖を飛行中なのです」
「わー! わー! 白羽、飛行機初めてですわ!!」
 窓に噛り付くようにし、無邪気に雲海を眺める白羽。それを冷たい目で見つつも、疾は不敵な笑みを浮かべつつ窓の外を見やる。
「……ほう、どこの組織が提供したか知らんが、大した技術力だ。音も気圧も安定性も、地上にいる状態とほとんど変わらん」
「匿名希望なのです。ご了承くださいなのです」
「この高度で移動中ってことは……」
 羽黒の呟きにメイジーが小さく頷く。
「皆様には〈エーシュリオン〉上空から潜入していただくのです。最初の目標としては、研究所とされている博物館を抑え、迷宮化の魔術を解除していただきたいのです。アレさえなければ、我々も島の外から援護ができるのです」
「了解した。ついでに研究の成果は魔術書一冊、メモ書き一枚残さず消滅させてくるわ」
 言いながらちらりと横目でウロボロスを見る。未だに拘束具を付けたまま、スカートのくせに大股開き、よだれを垂らして「ぐへへ紘也くんの雄っぱいぐへへ……」とか寝言を漏らしているその姿は白羽の教育に全方向に悪いため後でぶん殴っておくとして。
「そろそろ高度を下げるのです。こちらのパラシュートをどうぞなのです。ジャミングと透過魔術をかけているので問題はないはずなのですが……こちらは予備がないのです」
「「いらんいらん」」
 羽黒と疾がそろって首を振る。意見は一致。そこの駄蛇にくれてやる義理はない。というかいらんだろう自力で飛べるし。
「それでは皆様、投下の準備を。それと高度が下がって雲に突っ込むときはさすがに少々揺れますのでご注意――!?」

 ――……オォンッ!

 突如唸るような音を立て、輸送機が大きく揺れた。
「木偶! 何事なのです!?」
 メイジーが壁に備え付けられていた通信機に怒鳴りつけ、コックピットに状況報告を求める。しばしの間、日本語でも英語でもない言語で応答した後、舌打ちしながら指示を出して通信機を切る。
「掴まってくださいなのです!」
 途端、輸送機はその巨体に不釣り合いなアクロバットな動きで雲海へ機体を突っ込んだ。
「どうした」
「さらに上空からの攻撃なのです……機体に施していた認識阻害魔術も破られたらしく、一度雲の下に移動しながら体勢を立て直すのです」
「上空? 敵性戦力のリストに空飛べる奴はなかったと思うが……」
「未知の戦力が随時投下されるなんてザラだろ。島とそんなに近いのか?」
「いえ、まだまだ距離はあるのですが、この短時間に制空権も制海権もだいぶ取られたようなのです」
 その時、窓の外の景色が灰色の雲を突き破った。
 羽黒は窓をのぞき込み、霧のかかった海上に目を凝らす。
「……おいおい」
 彼にしては珍しい、乾いた笑いがこぼれた。
 しばし表情を固めたまま、羽黒は沈黙する。そしてうん、と小さく頷き白羽に向き直った。
「羽黒お兄様?」
「白羽、これはお前が持っとけ。フォレストルージュ姉妹の霊髪で瘴気の浸食の問題はないと思うが、念のため」
 と、羽黒は懐から小さなブレスレットを取り出して白羽の細腕に巻き付けた。それは、事前に疾から買い取った退魔の魔道具だった。
「羽黒お兄様、これ……?」
「おい! いつまでも寝てんじゃねえ!」
「ふぎゃ!?」
 白羽が困惑するのを放置し、未だにいびきをかいていたウロボロスの拘束具を蹴り飛ばして破壊した。
「な、なんですか!? 寝てません、寝てませんよ!? ていうか何しやがんですか危ないでしょーが!」
「うるせえ。いいからじっとしてろ」
「は?」
 いうが早いや、羽黒は妙に慣れた手つきで自分に手渡されたパラシュートのハーネスをウロボロスに装着させる。そして白羽にもハーネスを装備させ、白羽をウロボロスが後ろから抱きかかえる形にドッキングさせた。
「って、起きて早々何しやがんですか!」
「やっぱ寝てたんじゃねえか」
 この状況で爆睡できる精神はいっそのこと羨ましい。だからこそ。
「ウロボロス、うちの妹任せたぞ」
「は?」
「お兄様!?」
「おい災厄」
「なんだ最悪」
 疾は既にパラシュートを装着しており、いつものようにやる気なさげに座席に腰かけ、しかし眼だけは爛々と焔を灯して待っていた。
「指揮権をお前に譲る。島ではお前の判断で動け」
「そもそもあんたに持たせてた記憶はないが。……まあ、了解した。海は任せた」
「おう。メイジー」
「は、はい!」
 羽黒は向き直り、さらに指示を飛ばす。
「認識阻害のかけ直しは?」
「す、既に完了しているのです」
「よし、じゃあ俺が合図したら自墜しない程度の速度で一気に島まで行け。いいか、絶対に速度を落とすなよ?」
「ちょっとちょっとちょっと待ちなさいよこのクソ龍殺し! なんだってあたしがアンタの妹の世話をしなきゃならんのですか!? せめて説明くらいしなさいよ!」
「ん? ああ」
 羽黒は適当に頷くと、ロックのかかっているハッチを力ずくでこじ開けた。その瞬間、気圧の差により機内に豪風が吹き荒れる。

「ちょっと制海権取り返してくるわ」

「は?」
 困惑するウロボロス。それを完全に無視し、羽黒はニィッと軽薄な笑みを浮かべた。
「メイジー!」
「木偶! 全速力!」
 メイジーの合図で、機体全体が大きく揺れた。その衝撃で、ハッチの淵に立っていた羽黒が身一つで宙に放り出された。
「羽黒お兄様!?」
 白羽が絶叫し、手を伸ばして駆け寄ろうとする。しかしウロボロスに縛り付けられていたために、その小さな手は兄に届くことはなかった。

     * * *

「やれやれ」
 懐に忍ばせていた魔石を一つ残らず砕きながら、羽黒は重力に身を任せていた。
「確かに事前に聞いてたぜ? だがまさかこんな大量に、しかもこんな状態でいるとは完全に予想外。アスク・ラピウス……なかなか面白えことしてくれんじゃねえの」
 憎たらし気な言葉とは裏腹に、羽黒の表情は実に楽しげであった。
 砕けた魔石の魔力に反応し、ソレら全ての標準が上空の輸送機から羽黒へと移る。
「……空母級3、戦艦級5、巡洋艦級15……駆逐艦以下は数えらんねーな」
 深い霧の中、それでも見間違うことのない圧倒的な存在感をざっと数える。
 羽黒は笑う。

「だが、まあ、リハビリにはちょうどいい感じだろ」

 眼下に迫る、艦隊を組む軍艦の幽霊船フライングダッチマンを目の前にしても、羽黒は軽薄な笑みを崩さなかった。
「――精製、【無銘ムメイ】!」
 羽黒の目の前に、馬鹿馬鹿しいほどに長大な大太刀が出現する。羽黒の魔力を練って作られたその大太刀は、しかしところどころノイズが走ったようにぼやけており、不安定な状態であった。
「おら、よっと!」
 それを槍のように構え、真下で漂っていた巡洋艦級のフライングダッチマンに向けて投擲した。
 重力に従い真っすぐに飛んで行った大太刀は頑強な装甲を物ともせず、ざっくりと艦橋に突き刺さった。そしてそこを起点に、フライングダッチマンの莫大な魔力が大太刀に吸収されていく。
「おおおおおおおおおお!!」
 自身も落下しながら、羽黒は突き刺さった大太刀に遠隔で魔力を注ぎ込む。
 どくんどくんと心臓が大きく鼓動を打ち、魔力を繰る腕に血管が浮き上がる。踏ん張りのきかない空中で奥歯が砕けそうになるほど食い縛って超重量の物体を持ち上げるような感覚に耐える。
 地鳴りのような音を立てながら大太刀に封印されていくフライングダッチマンの魔力。同じく大太刀に込められた自身の魔力をが大太刀の支配権を賭けて争奪戦を繰り広げる。
 そして。
「だあああああらっしゃああああああああああっ!!」
 羽黒が大きく腕を振り上げると、魔力を吸われ、辛うじて軍艦の姿を形作っていたフライングダッチマンの残渣が余すところなく大太刀に封印された。そして後には、巨大な軍艦を一刀両断できそうなスケールの巨塔のような太刀が、海面から柄を伸ばした状態で残された。
「ぐふっ……!」
 巨大な鍔の上に何とか着地する羽黒。しかしあまりの衝撃にさすがの龍鱗も全てのダメージを軽減できず、膝から下の骨がひび割れた。
「…………っ!」
 激痛に耐えながら、羽黒は自身に封印されている吸血鬼白銀もみじの力の一端を拝借して治癒を図る。その間にも隙なく周囲を伺い、自身の魔力を再び練り上げる。
 着地地点は幽霊艦隊の陣形のほぼ中央。既に近くにいた3隻の駆逐艦級フライングダッチマンの主砲は全てこちらを向いている。
「地中海に沈んだ軍船の怨霊をフライングダッチマンに食わせたってところか。やれやれ、怨霊とはいえ英霊をなんだと思っていやがる。つーか、何が彷徨えるオランダ人フライングダッチマンだ。ほとんどイタリアかイギリス籍の軍船じゃねーか」
 治癒した両の足で巨刀の鍔に立ち、静かに言霊を紡ぐ。
「――精製、【無銘】二十本」
 羽黒の周囲を、亡霊のように輪郭がはっきりとしない太刀が漂う。
「行け」
 すっと指さし標的を定めたのと、3隻の駆逐艦級の砲台が一斉に火を吹いたのはほぼ同時だった。
 迫りくる砲弾と無銘の太刀が音もなく衝突する。弾幕の大部分は太刀によって魔力を吸収されたが、数発は吸収しきれずに至近弾として水柱を上げた。
「うおっ……さすがに梓のようにはいかんか」
 あの愚妹であれば、今の斉射を完全に防げただろう。
 水柱の滴を払いながら、想像以上に「八百刀流」としての戦闘の勘が鈍っていたことにため息が漏れる。
「ま、気楽に行こう。少しずつ、勘を戻せばいい」
 砲弾を吸収した太刀は勢いを弱めず、駆逐艦級へ向け飛翔する。
 その切っ先は装甲を容易く貫き、魔力を吸収しながら混ざり合う。
 足場にするために吸収した巡洋艦級の時ほどの負担はない。感覚を思い出してきたということなのか、今度はさほど苦労することなく、三振りの巨刀を完成させることができた。
「ふっ……!」
 腕を伸ばし、刀を振るうイメージで横に薙ぐ。
 それと連動するように、遠く離れた位置で漂っていた巨刀がゆっくりと、しかし恐ろしい唸りをあげながら周囲のフライングダッチマンを両断していく。

 ――オォオオォォオオオォォォオオオオォォォォオオオオオォォォォォ

 上空からサイレンのような音が降り注いできた。
 見上げると、どうやって飛んでいるのかわからないほどボロボロの艦載機が編隊を組んでこちらに向かってきていた。今いる位置からでは見えないが、どうやら空母級も動き始めたらしい。
「――解除、一本」
 言霊を紡ぎ、暴れまわっていた巨刀の一本を魔力に還元する。
 羽黒のもとに戻ってきた、駆逐艦級を吸収して膨れ上がった魔力を再び太刀の形に練り上げる。
「――精製、【無銘】五十本」
 先ほどの倍以上の数の無銘の太刀が羽黒の周囲を漂う。それを、二振りの巨刀を操る手を止めずに全て上空へと放つ。
「……来い」
 太刀と艦載機がぶつかり合うのを視界の隅で捉えながら、周囲の状況を観察する。
 先ほどの水柱で、おおよその位置が周囲に知れ渡ってしまった。今度は先ほどの比ではない砲弾の雨が降り注ぐだろう。
「……来い!」
 艦載機を吸収し、再び膨れ上がった魔力を練り直す。
 次の斉射に備え、羽黒は軽薄な笑みを浮かべながら唇をそっと舐めた。

「来い! 砲弾だろうが何だろうが、全部まとめて喰らってやるよ!」

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