現人神の導べ
46 第4番世界 エスカランテ入国
流石に建築などまで付き合うのもあれなので、瓦礫の撤去だけ付き合い出発する勇者一行。瓦礫の撤去ぐらいはできるが、家を建てるのは無理だ。残ったところでしょうがない。旅の途中なのだ、後は勝手にやってくれである。
ある日シュテルの召喚騎士達が囲む中、もぞもぞと野宿から起き出した勇者達が見たシュテルは服が変わっていた。
「あれ? 着替えたんだ」
「何ていうか、ドレスだね……。ショール……じゃなくて羽衣?」
「何よりおっぱいがけしからん!」
「うん、けしからん。妬ましい」
下半身はお決まりの二重構造のスカート。内側がミニスカートで、外側は正面の開いたロングだ。
上半身は体のラインが出る普通のワンピース型のようだが、胸の部分が横断するように布で抑えられているだけ。つまり北半球と南半球は見えるわけで……。清家と宮武が恨めしそうにガン見していた。
そして、羽衣のような淡いカラフルな布が背中から両腕の方に大雑把に巻き付く。一巻目は二の腕、二巻目は手首近くに巻き付いている。
レースとして使われているのはトケイソウだ。
「胸の部分結構緩そうに見えるけど……大丈夫なの?」
「魔装具だから、ポロリはないわ」
「あ、そうなんだ」
「大人向け用のデザインだったから、こっちで着たの。ちんちくりんでこれ着てもねぇ……」
服のデザインはエブリンで、言われた通りに作るのがベアテである。
断じて、シュテルは口を出していない。聖魔布が勿体無いから着るけど。
「装備といえば、刀にロマンを感じます!」
「分からなくもないけど、止めておきなさい。へし折るだけよ。素人があんなの使えるわけ無いでしょう」
刀とは、斬ることに特化した刃物である。10番世界や4番世界からしたら正気とは思えないほど薄く繊細な刀身だ。
魔物相手に通じるか? と言えば否だ。所詮刀は人を斬る為の武器である。
「いくらミスリルを使用しても厳しい物があるわ。それこそ魔装具でないと実用性は皆無でしょうね」
「刀と言わず、太刀ならわんちゃん?」
「あれはあれで扱い大変でしょうに」
「じゃあ……異世界お決まりの銃は?」
「剣と魔法の世界に銃を持ち込むのは無粋……と言うのは置いとくとして、どっこいどっこいかしらね」
ウルフとかベアとかそこらなら、アサルトがあれば十分と言える。
ただ、少しでも硬い奴らが来たらかすり傷すら怪しくなる。そうなるともう、設置型や兵器に搭載されている口径の大きい奴を引っ張り出す必要が出てくる。
「まあつまり、相手による。的確に目をぶち抜いていけるなら話は別だけれど」
「ふむぅ……」
「そもそもあれは安定供給が約束されており、部品などの整備交換ができないと話にならない代物よ。正直望み薄ね。射撃音も煩いし……銃はあまり進化して無い……と言うか、あの世界ではあれで十分だからねぇ」
多少の変化はあれど、銃は大きく変わっていないのだ。人を殺す分には十分だからだろう。むしろそれより、殺さず捕えるテーザーガンなどが進化している。
鉛1発頭や胸に撃てば死ぬのに、レーザー撃ってどうするって事だな。ただでさえ軍事は金がかかるし。
「まあ、清家の戦闘スタイル的に刀は合わなくも無いけれど……全員分の武器を用意するのは正直面倒なのよね」
清家の服に関してはもう……ネタ半分だからあれだが、武器となると全員分用意してあげないと不公平だろう。流石に面倒である。
今持ってるミスリル合金でもベテランが愛用する物だ。しかも王家が用意した物なので、頼んだ鍛冶師もかなりの物。今のところ作るつもりはない。
朝ご飯を作っている最中、清家がやって来て肉を掲げる。
「ユニエールさん、お願いします!」
「ローストビーフか」
「あい!」
「まあ、楽だし良いでしょう」
どうしても旅となると、その間の食事が真っ先に制限される。魔導オーブンがあり簡単に作れるのなら作っといた方が良いだろう。
下準備を済ませオーブンに放り込んで放置。
朝食を食べて出発だ。
再び複数の街や村を経由していく。
歩いたり護衛依頼を受けてみたりと、勇者一行は異世界旅行満喫中と言っていいだろう。満喫できる程度には鍛えられ体力がついているし、慣れて余裕もできた。
「もうすぐエスカランテー?」
「領土的にはそうね。最初の町はもう少し先」
「もうちょい先かー」
「このペースなら昼頃には着くでしょう」
「じゃあ多少遅れても昼は街で食おうぜー」
「『おー』」
娯楽の少ないこの世界。
この世界の住人にとって平民は生きるのが精一杯で、食事に気を使う余裕は無い。が、勇者達にとって食事は楽しみの1つである。
村はともかく、新しい街に付いたら食堂や屋台、酒場に突撃して食べるのだ。
支給金で切羽詰まってはいないが、消費するだけではあれなので、魔物を狩って稼いだお金で収まるようにしている。支給金は出発前の準備に使ったっきり、万が一の装備品などに使う予定で貯めているのだ。
つまり中2……もうすぐ中3だが、既に生計を立てていると言っていいだろう。
勇者かはともかく、立派に冒険者である。
「ああ、そうだわ。フィーナにプレゼントがあるの」
「なになにー?」
そう言って2個のボトルを渡す。
中には白い物とうっすらピンク色の液体が入っている。
「……なにこれ?」
「シャンプーとリンス」
ガバッと清家と宮武が猛烈に反応する。
「髪洗う時に使ってみなさい。そこの2人に使わせる代わりに教えてもらうと良いわ。高いやつだから」
「やったー! "ピュリファイ"汚れ落とすだけっぽいから気になってたんだー」
「うんうん。手触りがねー」
「楓……すっかり女の子になっちまって……」
髪を弄りながら呟く清家を、長嶺は生暖かい目で見ていた。
シュテルや眷属達は不要なので、使うのはフィーナぐらいである。フィーナ用に日本で高いやつ、かつフィーナの好きな匂いの物を購入し魔道具に詰め替え。
「まあ、次のお風呂がいつになるか分からないけれど」
「「あ゛」」
がっくり項垂れる2人であった。フィーナは特にダメージを受けていない。
この世界でお風呂は贅沢品だ。"ウォーター"は《生活魔法》なので、精々1回でコップ1杯分。これでお風呂の水を出すのは無理がある。水の確保が大変だ。
そもそもお風呂用の部屋を確保する余裕も怪しい。
この世界は最初から"ピュリファイ"があるのだ。お風呂という文化自体がそもそも珍しいと言える。フェルリンデンのお城にお風呂があったのは勇者召喚により、他世界から来る者の為に用意したと言って良い。
「だから他の国に無くても不思議ではないのよ」
「安めの宿だからと思ってたけど……」
「お風呂の目的はまず汚れを落とすこと……"ピュリファイ"があるからその発想がそもそも出ないとは……」
「まさしく文化の違いさ」
それこそ王家や伯爵以上の、やんごとなき人達が娯楽として採用するかどうか……だろう。何よりネックはお湯の用意なのだから。
「そっちこの後の予定は?」
「んー……特に決めてないがとりあえず王都かなぁ」
長嶺がもう1つのパーティーリーダーと話していた。
「こっちはどうする?」
「特に無いかなー」
「王都行く前に寄り道して、先に魔導開発都市ランテースに行きたいわね」
「じゃあそういうことで」
「それじゃあ少ししたら一先ずお別れか。魔道具が気になるし」
「魔道具は王都、魔法はランテースだったか」
「そうよ」
「お、壁だ」
「街に着いたかー」
大国の1つ、エスカランテ最初の町に到着した。
魔法開発、魔道具開発、魔装具開発に力を入れ、国内ならマジックアイテムが安く手に入る。
逆にマジックアイテムとなる魔物素材がそれなりにいい値段で売れるのだ。とは言え、冒険者が売るのは冒険者ギルドなので大して変わらないが。
街としては特に言うことがない程度には普通である。
強いて言うなら魔道具が普及しているため、民はそれなりに便利な生活ができていると言える。
普及しているということは誰もが必要にしているという事で、どこの店でも魔道具の燃料となる魔石が売られているのが目につく。
「取れたての魔石じゃ魔道具の燃料にはならないんだっけ?」
「そうね。《魔導工学》による加工が必要よ」
「じゃあここらに売ってるのは加工済みか」
「そう言えば……ユニエールさんの魔道具って魔石は? 必須だよね魔石って」
「『普通』ならそうね。私がそんないちいち交換する面倒な物を作るわけがないでしょう? 燃料なんか空気中にあるのに」
「あ、マナか」
「そ。でもそれだと商売にならないのよ。魔石は魔物を倒せば手に入る。でも使い道が無いと売れない。だから自分達が使う分だけ自作する」
シュテルが作っている魔道具は全て空気中からマナを吸い、変換して動く。物がひしゃげ大きく破損したりなどしない限り半永久に動き続ける。
《生活魔法》の"瞑想"を使用した物だ。
実はこの"メディテーション"は《神聖魔法》と同じジャンルである。つまり、神々の能力の1つを落とした物である。
マナは世界の生物に操作することは出来ない。精霊や妖精が辛うじて……といったところだ。
"メディテーション"は使用者の回りからマナを集め、魔力回復を促進させる魔法。
《生活魔法》使用時に魔法陣は表示されないが、存在自体はする。実は"メディテーション"の魔法陣は他に比べ圧倒的にでかい。それこそ、超級を超えるぐらいには。逆にでかすぎて魔道具にするには向かないのだ。本体がでかくなり魔法装置になってしまう。
それを必要な部分だけ残し、更に驚異的な精密魔力操作で魔道具にしているのがシュテルである。
勇者召喚にも"メディテーション"が使用されていたが、どれも等しく装置だ。つまり設置型と言うか、動かせない代物。
瞑想というだけあって、戦闘しながら使用するというのも無理だ。歩きながら使用できれば上々と言える。
まあ、そもそも生物には空気中のマナ自体感知出来ない。特定の魔眼持ちなら見ることができる。スプリンググリーンをした細かい粒が大量に。
ほぼ見る意味はない。
10番世界では最早いつもの事。
『女神様が作ったアーティファクトだし』で済むが、この世界だとそうもいかないだろう。
「面倒を避けるならあまり見せないように。出す時は堂々と使いなさい。コソコソしてると逆に怪しいでしょう?」
「『はーい』」
使用を控える? いやいや、そんなまさか。なぜこちらが苦労しなければならん。
自分が作った物を使っているだけで文句を言われる筋合いはないのだ。
能力も魔道具も堂々と使用するとも。しなくても良い苦労をする気は毛頭ない。
だがシュテル達は忘れていた。
当然のように護衛騎士が腰に挿している魔導剣。あれも正直異常なのだ……。
そもそも素材となっているマナタイトクォーツとルナクォーツは一番新しい鉱石達と言っても良い。10番世界で400年前から、創造のダンジョンで採れる素材。
つまり4番世界には存在しない素材だ。しかも水晶体。
ただでさえ容姿のせいで視線は集まるのだ。嫌でも目につくと言うもの。
ある日シュテルの召喚騎士達が囲む中、もぞもぞと野宿から起き出した勇者達が見たシュテルは服が変わっていた。
「あれ? 着替えたんだ」
「何ていうか、ドレスだね……。ショール……じゃなくて羽衣?」
「何よりおっぱいがけしからん!」
「うん、けしからん。妬ましい」
下半身はお決まりの二重構造のスカート。内側がミニスカートで、外側は正面の開いたロングだ。
上半身は体のラインが出る普通のワンピース型のようだが、胸の部分が横断するように布で抑えられているだけ。つまり北半球と南半球は見えるわけで……。清家と宮武が恨めしそうにガン見していた。
そして、羽衣のような淡いカラフルな布が背中から両腕の方に大雑把に巻き付く。一巻目は二の腕、二巻目は手首近くに巻き付いている。
レースとして使われているのはトケイソウだ。
「胸の部分結構緩そうに見えるけど……大丈夫なの?」
「魔装具だから、ポロリはないわ」
「あ、そうなんだ」
「大人向け用のデザインだったから、こっちで着たの。ちんちくりんでこれ着てもねぇ……」
服のデザインはエブリンで、言われた通りに作るのがベアテである。
断じて、シュテルは口を出していない。聖魔布が勿体無いから着るけど。
「装備といえば、刀にロマンを感じます!」
「分からなくもないけど、止めておきなさい。へし折るだけよ。素人があんなの使えるわけ無いでしょう」
刀とは、斬ることに特化した刃物である。10番世界や4番世界からしたら正気とは思えないほど薄く繊細な刀身だ。
魔物相手に通じるか? と言えば否だ。所詮刀は人を斬る為の武器である。
「いくらミスリルを使用しても厳しい物があるわ。それこそ魔装具でないと実用性は皆無でしょうね」
「刀と言わず、太刀ならわんちゃん?」
「あれはあれで扱い大変でしょうに」
「じゃあ……異世界お決まりの銃は?」
「剣と魔法の世界に銃を持ち込むのは無粋……と言うのは置いとくとして、どっこいどっこいかしらね」
ウルフとかベアとかそこらなら、アサルトがあれば十分と言える。
ただ、少しでも硬い奴らが来たらかすり傷すら怪しくなる。そうなるともう、設置型や兵器に搭載されている口径の大きい奴を引っ張り出す必要が出てくる。
「まあつまり、相手による。的確に目をぶち抜いていけるなら話は別だけれど」
「ふむぅ……」
「そもそもあれは安定供給が約束されており、部品などの整備交換ができないと話にならない代物よ。正直望み薄ね。射撃音も煩いし……銃はあまり進化して無い……と言うか、あの世界ではあれで十分だからねぇ」
多少の変化はあれど、銃は大きく変わっていないのだ。人を殺す分には十分だからだろう。むしろそれより、殺さず捕えるテーザーガンなどが進化している。
鉛1発頭や胸に撃てば死ぬのに、レーザー撃ってどうするって事だな。ただでさえ軍事は金がかかるし。
「まあ、清家の戦闘スタイル的に刀は合わなくも無いけれど……全員分の武器を用意するのは正直面倒なのよね」
清家の服に関してはもう……ネタ半分だからあれだが、武器となると全員分用意してあげないと不公平だろう。流石に面倒である。
今持ってるミスリル合金でもベテランが愛用する物だ。しかも王家が用意した物なので、頼んだ鍛冶師もかなりの物。今のところ作るつもりはない。
朝ご飯を作っている最中、清家がやって来て肉を掲げる。
「ユニエールさん、お願いします!」
「ローストビーフか」
「あい!」
「まあ、楽だし良いでしょう」
どうしても旅となると、その間の食事が真っ先に制限される。魔導オーブンがあり簡単に作れるのなら作っといた方が良いだろう。
下準備を済ませオーブンに放り込んで放置。
朝食を食べて出発だ。
再び複数の街や村を経由していく。
歩いたり護衛依頼を受けてみたりと、勇者一行は異世界旅行満喫中と言っていいだろう。満喫できる程度には鍛えられ体力がついているし、慣れて余裕もできた。
「もうすぐエスカランテー?」
「領土的にはそうね。最初の町はもう少し先」
「もうちょい先かー」
「このペースなら昼頃には着くでしょう」
「じゃあ多少遅れても昼は街で食おうぜー」
「『おー』」
娯楽の少ないこの世界。
この世界の住人にとって平民は生きるのが精一杯で、食事に気を使う余裕は無い。が、勇者達にとって食事は楽しみの1つである。
村はともかく、新しい街に付いたら食堂や屋台、酒場に突撃して食べるのだ。
支給金で切羽詰まってはいないが、消費するだけではあれなので、魔物を狩って稼いだお金で収まるようにしている。支給金は出発前の準備に使ったっきり、万が一の装備品などに使う予定で貯めているのだ。
つまり中2……もうすぐ中3だが、既に生計を立てていると言っていいだろう。
勇者かはともかく、立派に冒険者である。
「ああ、そうだわ。フィーナにプレゼントがあるの」
「なになにー?」
そう言って2個のボトルを渡す。
中には白い物とうっすらピンク色の液体が入っている。
「……なにこれ?」
「シャンプーとリンス」
ガバッと清家と宮武が猛烈に反応する。
「髪洗う時に使ってみなさい。そこの2人に使わせる代わりに教えてもらうと良いわ。高いやつだから」
「やったー! "ピュリファイ"汚れ落とすだけっぽいから気になってたんだー」
「うんうん。手触りがねー」
「楓……すっかり女の子になっちまって……」
髪を弄りながら呟く清家を、長嶺は生暖かい目で見ていた。
シュテルや眷属達は不要なので、使うのはフィーナぐらいである。フィーナ用に日本で高いやつ、かつフィーナの好きな匂いの物を購入し魔道具に詰め替え。
「まあ、次のお風呂がいつになるか分からないけれど」
「「あ゛」」
がっくり項垂れる2人であった。フィーナは特にダメージを受けていない。
この世界でお風呂は贅沢品だ。"ウォーター"は《生活魔法》なので、精々1回でコップ1杯分。これでお風呂の水を出すのは無理がある。水の確保が大変だ。
そもそもお風呂用の部屋を確保する余裕も怪しい。
この世界は最初から"ピュリファイ"があるのだ。お風呂という文化自体がそもそも珍しいと言える。フェルリンデンのお城にお風呂があったのは勇者召喚により、他世界から来る者の為に用意したと言って良い。
「だから他の国に無くても不思議ではないのよ」
「安めの宿だからと思ってたけど……」
「お風呂の目的はまず汚れを落とすこと……"ピュリファイ"があるからその発想がそもそも出ないとは……」
「まさしく文化の違いさ」
それこそ王家や伯爵以上の、やんごとなき人達が娯楽として採用するかどうか……だろう。何よりネックはお湯の用意なのだから。
「そっちこの後の予定は?」
「んー……特に決めてないがとりあえず王都かなぁ」
長嶺がもう1つのパーティーリーダーと話していた。
「こっちはどうする?」
「特に無いかなー」
「王都行く前に寄り道して、先に魔導開発都市ランテースに行きたいわね」
「じゃあそういうことで」
「それじゃあ少ししたら一先ずお別れか。魔道具が気になるし」
「魔道具は王都、魔法はランテースだったか」
「そうよ」
「お、壁だ」
「街に着いたかー」
大国の1つ、エスカランテ最初の町に到着した。
魔法開発、魔道具開発、魔装具開発に力を入れ、国内ならマジックアイテムが安く手に入る。
逆にマジックアイテムとなる魔物素材がそれなりにいい値段で売れるのだ。とは言え、冒険者が売るのは冒険者ギルドなので大して変わらないが。
街としては特に言うことがない程度には普通である。
強いて言うなら魔道具が普及しているため、民はそれなりに便利な生活ができていると言える。
普及しているということは誰もが必要にしているという事で、どこの店でも魔道具の燃料となる魔石が売られているのが目につく。
「取れたての魔石じゃ魔道具の燃料にはならないんだっけ?」
「そうね。《魔導工学》による加工が必要よ」
「じゃあここらに売ってるのは加工済みか」
「そう言えば……ユニエールさんの魔道具って魔石は? 必須だよね魔石って」
「『普通』ならそうね。私がそんないちいち交換する面倒な物を作るわけがないでしょう? 燃料なんか空気中にあるのに」
「あ、マナか」
「そ。でもそれだと商売にならないのよ。魔石は魔物を倒せば手に入る。でも使い道が無いと売れない。だから自分達が使う分だけ自作する」
シュテルが作っている魔道具は全て空気中からマナを吸い、変換して動く。物がひしゃげ大きく破損したりなどしない限り半永久に動き続ける。
《生活魔法》の"瞑想"を使用した物だ。
実はこの"メディテーション"は《神聖魔法》と同じジャンルである。つまり、神々の能力の1つを落とした物である。
マナは世界の生物に操作することは出来ない。精霊や妖精が辛うじて……といったところだ。
"メディテーション"は使用者の回りからマナを集め、魔力回復を促進させる魔法。
《生活魔法》使用時に魔法陣は表示されないが、存在自体はする。実は"メディテーション"の魔法陣は他に比べ圧倒的にでかい。それこそ、超級を超えるぐらいには。逆にでかすぎて魔道具にするには向かないのだ。本体がでかくなり魔法装置になってしまう。
それを必要な部分だけ残し、更に驚異的な精密魔力操作で魔道具にしているのがシュテルである。
勇者召喚にも"メディテーション"が使用されていたが、どれも等しく装置だ。つまり設置型と言うか、動かせない代物。
瞑想というだけあって、戦闘しながら使用するというのも無理だ。歩きながら使用できれば上々と言える。
まあ、そもそも生物には空気中のマナ自体感知出来ない。特定の魔眼持ちなら見ることができる。スプリンググリーンをした細かい粒が大量に。
ほぼ見る意味はない。
10番世界では最早いつもの事。
『女神様が作ったアーティファクトだし』で済むが、この世界だとそうもいかないだろう。
「面倒を避けるならあまり見せないように。出す時は堂々と使いなさい。コソコソしてると逆に怪しいでしょう?」
「『はーい』」
使用を控える? いやいや、そんなまさか。なぜこちらが苦労しなければならん。
自分が作った物を使っているだけで文句を言われる筋合いはないのだ。
能力も魔道具も堂々と使用するとも。しなくても良い苦労をする気は毛頭ない。
だがシュテル達は忘れていた。
当然のように護衛騎士が腰に挿している魔導剣。あれも正直異常なのだ……。
そもそも素材となっているマナタイトクォーツとルナクォーツは一番新しい鉱石達と言っても良い。10番世界で400年前から、創造のダンジョンで採れる素材。
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