現人神の導べ
32 第6番世界 秋葉原
『東京、到着です。お乗り換えは―――』
ぞろぞろとリニアから降りていく乗客達に混じり、シュテル一行も降りる。
流れに身を任せ、しばらく進んでスペースの開いている場所に抜け出す。
「す、すごい数ですね……」
「時間的にマシな方だろうな」
「これでですか……」
「さて、ここからどこ行こうかねぇ……いっそ温泉か? の前に秋葉原行くか」
秋葉原は相変わらずのようで、ぶらつくには丁度いいかもしれない。
しかし電車をリニアにした際の整備で多少路線が変わっている。空間把握で道を遡り、調べることも可能だが面倒である。
そもそもプロがいるのだから聞けばいい。
明らかに周囲から浮いた格好の一団。
ドレスを来た少女が改札にいる制服を着た者に話しかける……が、何を言っているのかさっぱり分からない。聞き取れなかった訳でもなく、置いてある翻訳用の機械も翻訳できていなかった。
話しかけられた方も話しかけた方も少し止まり、駅員が英語で話しかけようとしたら……少女がそれはもう全く違和感のない日本語を話しだした。
「ああ、すまない。我が国の言葉で聞いてしまった。秋葉原に行くにはどうしたら良いだろうか?」
「それでしたらあちらの改札を抜けた後―――」
少々驚きつつも丁寧な説明により行き方が分かったので、早速向かう。
「うむ、助かる。世話になったな。……行くぞ」
それからシュテル一行は言語を日本語に切り替えた。女神一行に言葉の壁はない。
駅員の言うとおり改札を抜け、新しい切符をジェシカに買わせて再び乗り込む。
「この乗り物はどこまで行けるのでしょう?」
「この国なら大体行けるな山奥とかの田舎じゃない限りは。長距離用の速いのもある。外国は最初に来た空港で空路だ。この国は島国だから、周りは海なんだ」
秋葉原は近いのですぐに着く。
改札を抜け、当然行くのは電気街。オタクとは言い換えれば趣味である。そう言った者を狙った店が立ち並ぶ場所は実に都合がいい。好きな物には人はうるさくなる。その者達を満足させる……王道から少々マニアックな物まで置いてあるのだから、丁度いいのだ。
昔より遥かに拡大した電気街をぶらぶらと彷徨く事にする。
「今までとは雰囲気が違いますね?」
「ここは少々特殊な場所だな。自分達の趣味の物を買い集めに来る場所だ」
「なるほど。知るには丁度いいですね」
どこに行こうかと思いつつうろうろしているシュテル一行。
周りには野次馬と言うか、物珍しさに釣られた者達がいた。
『コスプレか? 何のキャラだ?』
『コスプレなのか? レベル高すぎるぞ』
『金髪幼女!』
『ロリ巨乳だと!?』
『メイドさんだ!』
『でかい!』
それらをガン無視するシュテル一行であるが……歩いているとメイドが呼び込みしていた。それにジェシカが反応した。
「おや? 侍女仲間ですか」
それにすかさず突っ込むシュテルである。
「待て待てジェシカ。お前とは似て非なる者だ」
「はて?」
「お前は職業侍女。向こうは接客業だ」
「ふむ? ……メイド喫茶?」
「行かないぞ。本職を知ってる我々はイライラしそうだからな。むしろお前達は殺気立ちそうだし。格好は似てるが別物だ」
ジェシカやエブリンはともかく、ヒルデ。あいつは間違いなく殺気立つ。
ジェシカとエブリンはどちらかと言うと、聖職者寄り。ヒルデは完全に侍女側。
自らの命すら懸けて、盾にすらなる侍女の鏡がメイド喫茶なんか見たら発狂するわ。元近衛と魔法師団でもあるフリードとミーナも怪しい。
「極論で言えばごっこ遊びをしているだけだ。あの侍女服も仕事服と言うより衣装に近い。だからあんなスカートが短かったり、明らかに邪魔なふりふりが付いてたりする。存在理由が違うのだから別物だ」
「そうでしたか……。別の侍女事情を聞くのは楽しいのですが……残念です」
「まあ店によってもある程度変わるが、あそこは間違いなくヒルデが発狂するタイプの店だ」
アトランティス帝国の大神殿にいる侍女達は、まさに仕事服な所謂ヴィクトリアンメイド服。その中でもどの侍女か、役職が分かるよう細部が違う物を着ている。
大神殿は侍女長や女官長とは別に……女神の世話係であるヒルデ、ジェシカ、エブリンの3人がいる。この3人の服装が一番豪華であり、日本のアニメなどでメイド服と言えばこれ! と言った感じのクラシカルタイプに近くなっており、素材も全て聖魔布だ。
侍女なので主人より目立つ必要はない。むしろ静かに壁に待機しているべきだ。
故に服装自体はシンプルなのだが、3人は主の側に立っても恥ずかしくないよう、素材は主と一緒でデザインも少々変え……と手が加えられている。
主より目立つ必要はないが、恥とならないよう『うちは侍女達にもこれだけの資金を、待遇をしています』という見栄、家の余裕を示すのが一般的な王侯貴族だ。
まあ、主が女神なだけに大神殿は少々特殊と言えるのだが。
よって、ジェシカは実に立派な侍女服を着ている。勿論足首レベルまであるロングスカートのエプロンドレスだ。対して呼び込みはミニスカふりふり。
察しのいいオタクならこの時点で『相容れない2人なんだな……』と分かりそうである。当然仕事内容が全然違うのだから、2人の雰囲気も違う。
ミニスカふりふりだろうが何だろうが、仕事としてある以上需要はあるのだ。それにグダグダ言うつもりもない。違うものだとジェシカが分かればそれでいいのだ。
……絶対に店に入ることはないが。
3Dホログラムでキャラクターが踊っているのを観察してみたり、てきとーに店に入って冷やかしたりで時間は過ぎていく。
ある店でフリードが棚から手に取った本は裸の女性が……。
「……おや?」
「それは成人向けだ」
「え、えっ?」
「いや、ジェシカ。お前は関係ないぞ」
『せいじん』という言葉に反応したジェシカがシュテルを見て、シュテルが見ている方を見て『はい?』となっている。
成人向けだ。聖人向けではない。
ジェシカは生前に聖女と呼ばれていたからな……。
「18に線が引いてあったり、18禁と書かれている物は成人……大人向けだ」
「こちらでは18から一人前ですか。しかしなぜ制限が? 生物としては当然の知識のはず……」
「知らん」
異世界の性知識事情は実に早い。
6番世界は外敵がないからこそ、増やさねばという危機感もないのだろう。
……今後どうなるかは知らんが。
シュテルは漫画やゲーム、アニメ関連を物色している。
未だにちらほら見覚えがあるのが生き残っているのは感心する。当然大半は知らない物だが、この辺りは面白ければなんでもいいのだ。
「やはりファンタジーは根強いな。SFは未来だからともかく、ファンタジーはまさに異世界だからか? 巨大ロボも相変わらず強いな」
「カラフルな本がこんな沢山あるだけでも驚きですねぇ」
「そりゃ表紙だけだ。流石に中はカラーじゃないぞ」
「ああ、そうでしたか」
「フルカラーも無くはないが……高くなるな」
ミーナと話しつつも物色を続けていると昼になる。
「お昼はいかがなさいますか?」
「一度出て、何か食べに行くとしよう」
てきとーに入ったお店から一度出て、今度は飲食店を目指し彷徨う。
とは言えここにそんな大層なお店はないので、極普通なチェーン店のファミレスに決め、さっさと入ってしまう。
「い、いらっしゃいませ! 5名様ですか?」
「うむ」
「こちらへどうぞ」
まさか入ってくるとは思わなかったであろう一団が来て、ばっちり緊張している店員はスルーしてあげて席に着く。
シュテル、シロニャン、ジェシカが座椅子側。フリードとミーナが椅子に座る。
店内はこれと言って気になるところはない、極普通のファミレスだ。
強いて言うならメニュー表が薄い板になっている事だろうか。タッチパネル式のディスプレイのようだ。
「これはこれは、実に面白いですねぇ」
「これは便利だな」
フリードとミーナが感心する中、メニュー表を見ながら注文を決める。
シロニャンはシュテルが持ってるのを見ながら決めたようで、目玉焼き乗せチーズインハンバーグにするようだ。お子様ランチの必要は一切ない。
「妾はステーキ……鳥の方にするか」
「私はこのカルボナーラと言うものに」
「私はドリアですかねぇ」
「私は普通にステーキで」
注文が決まったところで店員を呼び注文。後は来るのを待つだけだ。
庶民の味方、ファミレスに場違いな外人のドレスを着た少女や、メイドさんがいる光景。同じ客側の人達は物珍しそうにしているし、店側もそうなのだが……店側はそれ以上にハラハラしていた。『こんなところで口に合うのか?』とか、『何か文句言われないだろうか』とか、気が気じゃない。
まあ、杞憂なのだが。
やって来た料理を5人ともどこの高級料理店だ的な作法で食べ始める。
「ふむふむ、この値段でこの味は凄いですね」
「庶民の味方、ファミレスだからな。学校帰りの学生達や社会人の昼、おばちゃま達の世間話の場などなど」
「まさに庶民の味方ですね」
「料理と言うのは値段が目安にはなるが、イコールではないからな」
料理は値段が高くなれば量が減る。その分見た目にも拘る。
しかしそれでは美味という幸福感は味わえるが、満腹感……が怪しいだろう。
高い美味しい素材は大雑把にやっても美味しいに決っている。いかに安い物を美味しく料理し、お腹いっぱい食べるか。それを突き詰めるのが料理人だと、シュテルは思っている。
「美味しい物は美味しいのだ。それが全て。場所など些細な事だ」
生物にとって食事は必須であり、娯楽でもある。つまり、胃袋掴んだ者勝ち。どうせ食べなきゃならないのなら、少しでも美味しい物を食べたいと思うだろう。
「この後はいかがなさいますか?」
「数日この辺り彷徨いて、その後温泉。現状やること無いからな。しばらく待機」
食後もぶらぶらと彷徨い物色していく。
スーパーで調味料や飲み物、更にお菓子を大量購入である。買った物をバレないように空間収納へしまうのが地味に面倒であった。
ふらっとネカフェに突撃し、片っ端から知識を仕入れたり、世界情勢もちらっとチェック。一度見れば忘れないので、とりあえず詰め込んでおく。
ついでに召喚された勇者達も調べると見事行方不明にされており、今も情報を集めているようだ。帰ってくるにしてもまだ先だし、放置だ。
そんなこんなで数日過ぎ、後は温泉のある旅館なりでのんびり過ごす予定だ。
勿論既に予約済み。一月という長期滞在である。
「まずは駅だな」
5人で駅へと向かっている最中、事件……と言うか事故がおきる。
「高史っ!?」
少年の飛び出しだ。
少年に迫るのは軽自動車。自動ブレーキが瞬時に起動、運転手も反応するがすぐに止まるわけもなく、少年へと突っ込む。
あわや……と言う時、いつの間にやら金髪のドレスを着た少女が割り込み、少年と入れ替わるように投げる。少年はイケメン……フリードが受け止めた。
止まりきれない車はブレーキ音を響かせながら少女へと突っ込み、鈍い音をさせるが……。
少年を投げ、轢かれる瞬間に軽くジャンプ。フロントから屋根、そのまま後ろへとゴロゴロし、空中で捻りを入れピシッと着地。着地した後、後続が来る前に戻る。勿論自分の足で。
車が止まった後、運転手がすぐに降りてくる。
近くにいたお巡りさんもやってくる。
「だ、大丈夫か!?」
「問題ないから心配するな。少年、気をつけたまえ。親が泣くぞ」
車の上をゴロゴロしたからジェシカにドレスをパンパンされつつ、運転手と少年の方へ声をかけるシュテル。
コクコクと頷く少年を軽く撫でてから、次は警察へ。
「見たのが全てだ。話なら少年の親と運転手でするといい。こちらは予約に遅れると面倒なのでな。行かせてもらうぞ」
「ええっ!?」
警察の方はまだしも、厄介なのは医者の方だ。生物じゃないのがバレてしまう。
連絡手段は持っていないので、予約してある店だけ伝えて少々強引に撤収。
真っ直ぐ立ち、普通に歩いているのだからスルーして欲しいシュテルであった。
どちらかと言うと、なぜあれでそんなピンピンしてるのか気になる外野である。
「ありがとうございます……!」
背後で深々と頭を下げる少年の親に『今回は運が良かっただけだ。2度目は無いぞ』と言いながらさっさと立ち去る。
女神の気紛れは割りとある。
ぞろぞろとリニアから降りていく乗客達に混じり、シュテル一行も降りる。
流れに身を任せ、しばらく進んでスペースの開いている場所に抜け出す。
「す、すごい数ですね……」
「時間的にマシな方だろうな」
「これでですか……」
「さて、ここからどこ行こうかねぇ……いっそ温泉か? の前に秋葉原行くか」
秋葉原は相変わらずのようで、ぶらつくには丁度いいかもしれない。
しかし電車をリニアにした際の整備で多少路線が変わっている。空間把握で道を遡り、調べることも可能だが面倒である。
そもそもプロがいるのだから聞けばいい。
明らかに周囲から浮いた格好の一団。
ドレスを来た少女が改札にいる制服を着た者に話しかける……が、何を言っているのかさっぱり分からない。聞き取れなかった訳でもなく、置いてある翻訳用の機械も翻訳できていなかった。
話しかけられた方も話しかけた方も少し止まり、駅員が英語で話しかけようとしたら……少女がそれはもう全く違和感のない日本語を話しだした。
「ああ、すまない。我が国の言葉で聞いてしまった。秋葉原に行くにはどうしたら良いだろうか?」
「それでしたらあちらの改札を抜けた後―――」
少々驚きつつも丁寧な説明により行き方が分かったので、早速向かう。
「うむ、助かる。世話になったな。……行くぞ」
それからシュテル一行は言語を日本語に切り替えた。女神一行に言葉の壁はない。
駅員の言うとおり改札を抜け、新しい切符をジェシカに買わせて再び乗り込む。
「この乗り物はどこまで行けるのでしょう?」
「この国なら大体行けるな山奥とかの田舎じゃない限りは。長距離用の速いのもある。外国は最初に来た空港で空路だ。この国は島国だから、周りは海なんだ」
秋葉原は近いのですぐに着く。
改札を抜け、当然行くのは電気街。オタクとは言い換えれば趣味である。そう言った者を狙った店が立ち並ぶ場所は実に都合がいい。好きな物には人はうるさくなる。その者達を満足させる……王道から少々マニアックな物まで置いてあるのだから、丁度いいのだ。
昔より遥かに拡大した電気街をぶらぶらと彷徨く事にする。
「今までとは雰囲気が違いますね?」
「ここは少々特殊な場所だな。自分達の趣味の物を買い集めに来る場所だ」
「なるほど。知るには丁度いいですね」
どこに行こうかと思いつつうろうろしているシュテル一行。
周りには野次馬と言うか、物珍しさに釣られた者達がいた。
『コスプレか? 何のキャラだ?』
『コスプレなのか? レベル高すぎるぞ』
『金髪幼女!』
『ロリ巨乳だと!?』
『メイドさんだ!』
『でかい!』
それらをガン無視するシュテル一行であるが……歩いているとメイドが呼び込みしていた。それにジェシカが反応した。
「おや? 侍女仲間ですか」
それにすかさず突っ込むシュテルである。
「待て待てジェシカ。お前とは似て非なる者だ」
「はて?」
「お前は職業侍女。向こうは接客業だ」
「ふむ? ……メイド喫茶?」
「行かないぞ。本職を知ってる我々はイライラしそうだからな。むしろお前達は殺気立ちそうだし。格好は似てるが別物だ」
ジェシカやエブリンはともかく、ヒルデ。あいつは間違いなく殺気立つ。
ジェシカとエブリンはどちらかと言うと、聖職者寄り。ヒルデは完全に侍女側。
自らの命すら懸けて、盾にすらなる侍女の鏡がメイド喫茶なんか見たら発狂するわ。元近衛と魔法師団でもあるフリードとミーナも怪しい。
「極論で言えばごっこ遊びをしているだけだ。あの侍女服も仕事服と言うより衣装に近い。だからあんなスカートが短かったり、明らかに邪魔なふりふりが付いてたりする。存在理由が違うのだから別物だ」
「そうでしたか……。別の侍女事情を聞くのは楽しいのですが……残念です」
「まあ店によってもある程度変わるが、あそこは間違いなくヒルデが発狂するタイプの店だ」
アトランティス帝国の大神殿にいる侍女達は、まさに仕事服な所謂ヴィクトリアンメイド服。その中でもどの侍女か、役職が分かるよう細部が違う物を着ている。
大神殿は侍女長や女官長とは別に……女神の世話係であるヒルデ、ジェシカ、エブリンの3人がいる。この3人の服装が一番豪華であり、日本のアニメなどでメイド服と言えばこれ! と言った感じのクラシカルタイプに近くなっており、素材も全て聖魔布だ。
侍女なので主人より目立つ必要はない。むしろ静かに壁に待機しているべきだ。
故に服装自体はシンプルなのだが、3人は主の側に立っても恥ずかしくないよう、素材は主と一緒でデザインも少々変え……と手が加えられている。
主より目立つ必要はないが、恥とならないよう『うちは侍女達にもこれだけの資金を、待遇をしています』という見栄、家の余裕を示すのが一般的な王侯貴族だ。
まあ、主が女神なだけに大神殿は少々特殊と言えるのだが。
よって、ジェシカは実に立派な侍女服を着ている。勿論足首レベルまであるロングスカートのエプロンドレスだ。対して呼び込みはミニスカふりふり。
察しのいいオタクならこの時点で『相容れない2人なんだな……』と分かりそうである。当然仕事内容が全然違うのだから、2人の雰囲気も違う。
ミニスカふりふりだろうが何だろうが、仕事としてある以上需要はあるのだ。それにグダグダ言うつもりもない。違うものだとジェシカが分かればそれでいいのだ。
……絶対に店に入ることはないが。
3Dホログラムでキャラクターが踊っているのを観察してみたり、てきとーに店に入って冷やかしたりで時間は過ぎていく。
ある店でフリードが棚から手に取った本は裸の女性が……。
「……おや?」
「それは成人向けだ」
「え、えっ?」
「いや、ジェシカ。お前は関係ないぞ」
『せいじん』という言葉に反応したジェシカがシュテルを見て、シュテルが見ている方を見て『はい?』となっている。
成人向けだ。聖人向けではない。
ジェシカは生前に聖女と呼ばれていたからな……。
「18に線が引いてあったり、18禁と書かれている物は成人……大人向けだ」
「こちらでは18から一人前ですか。しかしなぜ制限が? 生物としては当然の知識のはず……」
「知らん」
異世界の性知識事情は実に早い。
6番世界は外敵がないからこそ、増やさねばという危機感もないのだろう。
……今後どうなるかは知らんが。
シュテルは漫画やゲーム、アニメ関連を物色している。
未だにちらほら見覚えがあるのが生き残っているのは感心する。当然大半は知らない物だが、この辺りは面白ければなんでもいいのだ。
「やはりファンタジーは根強いな。SFは未来だからともかく、ファンタジーはまさに異世界だからか? 巨大ロボも相変わらず強いな」
「カラフルな本がこんな沢山あるだけでも驚きですねぇ」
「そりゃ表紙だけだ。流石に中はカラーじゃないぞ」
「ああ、そうでしたか」
「フルカラーも無くはないが……高くなるな」
ミーナと話しつつも物色を続けていると昼になる。
「お昼はいかがなさいますか?」
「一度出て、何か食べに行くとしよう」
てきとーに入ったお店から一度出て、今度は飲食店を目指し彷徨う。
とは言えここにそんな大層なお店はないので、極普通なチェーン店のファミレスに決め、さっさと入ってしまう。
「い、いらっしゃいませ! 5名様ですか?」
「うむ」
「こちらへどうぞ」
まさか入ってくるとは思わなかったであろう一団が来て、ばっちり緊張している店員はスルーしてあげて席に着く。
シュテル、シロニャン、ジェシカが座椅子側。フリードとミーナが椅子に座る。
店内はこれと言って気になるところはない、極普通のファミレスだ。
強いて言うならメニュー表が薄い板になっている事だろうか。タッチパネル式のディスプレイのようだ。
「これはこれは、実に面白いですねぇ」
「これは便利だな」
フリードとミーナが感心する中、メニュー表を見ながら注文を決める。
シロニャンはシュテルが持ってるのを見ながら決めたようで、目玉焼き乗せチーズインハンバーグにするようだ。お子様ランチの必要は一切ない。
「妾はステーキ……鳥の方にするか」
「私はこのカルボナーラと言うものに」
「私はドリアですかねぇ」
「私は普通にステーキで」
注文が決まったところで店員を呼び注文。後は来るのを待つだけだ。
庶民の味方、ファミレスに場違いな外人のドレスを着た少女や、メイドさんがいる光景。同じ客側の人達は物珍しそうにしているし、店側もそうなのだが……店側はそれ以上にハラハラしていた。『こんなところで口に合うのか?』とか、『何か文句言われないだろうか』とか、気が気じゃない。
まあ、杞憂なのだが。
やって来た料理を5人ともどこの高級料理店だ的な作法で食べ始める。
「ふむふむ、この値段でこの味は凄いですね」
「庶民の味方、ファミレスだからな。学校帰りの学生達や社会人の昼、おばちゃま達の世間話の場などなど」
「まさに庶民の味方ですね」
「料理と言うのは値段が目安にはなるが、イコールではないからな」
料理は値段が高くなれば量が減る。その分見た目にも拘る。
しかしそれでは美味という幸福感は味わえるが、満腹感……が怪しいだろう。
高い美味しい素材は大雑把にやっても美味しいに決っている。いかに安い物を美味しく料理し、お腹いっぱい食べるか。それを突き詰めるのが料理人だと、シュテルは思っている。
「美味しい物は美味しいのだ。それが全て。場所など些細な事だ」
生物にとって食事は必須であり、娯楽でもある。つまり、胃袋掴んだ者勝ち。どうせ食べなきゃならないのなら、少しでも美味しい物を食べたいと思うだろう。
「この後はいかがなさいますか?」
「数日この辺り彷徨いて、その後温泉。現状やること無いからな。しばらく待機」
食後もぶらぶらと彷徨い物色していく。
スーパーで調味料や飲み物、更にお菓子を大量購入である。買った物をバレないように空間収納へしまうのが地味に面倒であった。
ふらっとネカフェに突撃し、片っ端から知識を仕入れたり、世界情勢もちらっとチェック。一度見れば忘れないので、とりあえず詰め込んでおく。
ついでに召喚された勇者達も調べると見事行方不明にされており、今も情報を集めているようだ。帰ってくるにしてもまだ先だし、放置だ。
そんなこんなで数日過ぎ、後は温泉のある旅館なりでのんびり過ごす予定だ。
勿論既に予約済み。一月という長期滞在である。
「まずは駅だな」
5人で駅へと向かっている最中、事件……と言うか事故がおきる。
「高史っ!?」
少年の飛び出しだ。
少年に迫るのは軽自動車。自動ブレーキが瞬時に起動、運転手も反応するがすぐに止まるわけもなく、少年へと突っ込む。
あわや……と言う時、いつの間にやら金髪のドレスを着た少女が割り込み、少年と入れ替わるように投げる。少年はイケメン……フリードが受け止めた。
止まりきれない車はブレーキ音を響かせながら少女へと突っ込み、鈍い音をさせるが……。
少年を投げ、轢かれる瞬間に軽くジャンプ。フロントから屋根、そのまま後ろへとゴロゴロし、空中で捻りを入れピシッと着地。着地した後、後続が来る前に戻る。勿論自分の足で。
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近くにいたお巡りさんもやってくる。
「だ、大丈夫か!?」
「問題ないから心配するな。少年、気をつけたまえ。親が泣くぞ」
車の上をゴロゴロしたからジェシカにドレスをパンパンされつつ、運転手と少年の方へ声をかけるシュテル。
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「ええっ!?」
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連絡手段は持っていないので、予約してある店だけ伝えて少々強引に撤収。
真っ直ぐ立ち、普通に歩いているのだからスルーして欲しいシュテルであった。
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