現人神の導べ

リアフィス

19 人外バトル

自然系の最上位に位置する『自然を司る神』こと、自然神。
ツリーから少々外れ独立している『時と空間を司る神』こと、時空神。
2つの最上位の力を持つ『時空と自然を司る神』。あえて言うなら、万物神。
最上位能力を2つ持つ事から超越神とも言われる。
その万物の女神であるシュテルンユニエールには3つぐらいの戦い方がある。

1つ、己の身体を使用した近接戦闘。
2つ、無尽蔵の魔力使用による魔法戦闘。
3つ、能力を使用した、神本来の戦い方。

近接戦闘と魔法戦闘は言わずもがなだろう。
能力を使用した戦闘と言うのは神々が司る能力を使用した方法だ。神によって能力は違うので戦い方も様々で、強さも幅がある。
シュテルの場合、時空操作と自然操作なのでかなり高い戦闘力を誇る。近接が一番弱く、続いて魔法、そして能力となるだろう。
一番弱いと言っても人間程度ならある程度力を込めデコピンすれば死ぬ。超越神の身体能力を考えると余裕だ。
とは言え、近接より魔法か能力を使用した方が早いのも確かだ。よくある『近づかれる前に殺せ』ができるのだから、その方が早い。

自然神の能力は簡単に言うと《攻撃魔法》……所謂属性魔法の上位互換。
火、水、風、土、光、闇に加え植物系。勿論派生の氷と雷もだ。これらをノーコストで操作することが可能。できないことの方が少ない。
地上にいる限り最強と言えるのが自然神。神界だとただの案山子だが。
……しかし残念ながら、神々は普通神界にいる。

時空神の能力はそのまま《時空魔法》のプロフェッショナルである。
空間操作、重力操作、時間操作……がノーコストで可能。
空間崩壊による存在否定や亜空間追放。超重力による圧死やブラックホールにポイ捨て。時間停止による封印などなど。
防御面においても次元操作による絶対防御。空間操作による転移、もしくは強制転移でそもそも攻撃が届かない。
神々の中でもとびっきりにヤバい能力なのが時空神である。創造神様が唯一分単位かける相手だ。武神すら瞬殺するというのに。能力の相性問題である。

時空神と自然神の戦闘面の能力は大体こんなものだろう。
シュテルは主に時空神の能力を防御と移動に使用し、自然神の能力を様々な事に使う。使い勝手がいいのだ、自然神は。時空神は基本手加減には向かん。


で、なぜ突然こんなおさらいじみているかというと……シュテルとヒルデが学園の訓練場で人外バトルを繰り広げているからだ……。

いつも通り実技の授業中に書類仕事をしていたシュテルだが、ふと顔を上げ……。

「ふむ、そろそろ体を動かしたいものだな……。ヒルデ、休み時間」
「畏まりました」

という一言により、皆が休憩に入った訓練場は人間には早い地獄に早変わりした。


皆が水分を取りながら休みに入る中……普段動かず書類を処理しているシュテルが書類を片付け立ち上がり、皆と入れ替わるように広場の方へヒルデと歩いて行く。
生徒達どころか教師組も『?』を浮かべつつ見送るが、歩いている最中にシュテルは胸元から種を取り、ヒルデは腰にある手に収まるぐらいの棒を握りしめる。

シュテルはいつもの、生体武器とも言える植物型の神器。
ヒルデのはシュテルが作った魔装具で、棒をそれぞれ握り魔力を流すと小手の様な形をした結界を発生させる、《格闘術》用の武器であり、防具だ。
侍女があからさまに武装するわけにもいかない。故にこの2本の棒は腰に装飾の一部のようになっている。本来は武装している眷属騎士が2人ほど常に控えている。

シュテルの持った種はシンプルなロングソード……型の木剣になる。大体1メートルほどだが、シュテルの身長が身長なので長く見える。
2人して武器を持ち出し、中央に向かっていくものだから皆興味津々である。実力確認で軽く教師を張り倒したり、王都を囲う壁をぶち抜いたりとしているが、実際に戦闘を見たことがある者はいない。清家達も知らないのだ。


美少女と美女かつ勇者一行でもある。他の勇者達とは違う世界から来て、2人は戦う実力もあり実技が免除されるレベル……学園で話題にならない訳がないのだが、逆に高嶺の花となり話しかける者がいない。
口調はともかく仕草や動作は完璧。仕草や動作が完璧なのに口調があれ……という事は十中八九わざとそうしているのだろうと分かる。仕草や動作を教えといて、口調を教えないわけがないだろう? 声は穏やかだが、言葉自体は外見のイメージとは少々……いや、だいぶズレる。
『そうする必要がある立場』なのが分かるだろう。お城に通う程度の位置にいると言い、実際にあの書類の量。貴族の中でも上の方な……上流階級の子供達が察せない訳がないし、ここに通うものはエリート達。
真っ先に思い浮かべる立場は軍関係の者だろうか。少なくとも隊長格だ。

美女……ヒルデはどう見ても美少女……シュテルの侍女であるが、学園にいる侍女達とは雰囲気がこう、違うのだ。何がどう違うのか分かる者はいないようだが……はっきりせずモヤモヤしている者が数人いるようで、ピンと来ない状態だ。
分かったらスッキリする事だろう……ブリュンヒルデは侍女達の中でも一握りの……王族や公爵に付く者達と似ていると。
普通侍女は周囲の警戒はしない。と言うか、ド素人がしたところで正直意味がない。そんな心得はないし、戦うことはできないのだから。
でも、王族や公爵に付く者達だと違ってくる。少なからず戦える者が付けられ、いざとなれば護衛にもなるのだ。ヒルデはその者達と雰囲気が同じである。
とは言え、ヒルデは自他ともに認める侍従バ……もとい、侍女の鏡である。学園の子供にはっきり悟られるような事はせず、わざと数人分かるかな? というぐらいである意味遊び、ある意味教育していた。


まさかそんな2人が戦おうとしている? ともなれば興味津々である。
6番世界の勇者達も例外ではない。召喚された時からかなりお世話になっているだろう。身長は一番小さいと言えるが、間違いなく保護者は誰だと問われれば、口を揃えて『ユニエールさん』と答えるだろう。
強いということも分かっているが、どのぐらいなのかはピンと来ない。よって、同じく興味津々だ。

そして、距離を取り向かい合って……戦いは合図もなしに唐突に始まった。
先に動くのは挑戦者。ブリュンヒルデだ。圧倒的強者である自らの主に手加減など不要。最初から本気で打ち込んでいく。
真正面からの右ストレートは……右手めがけて木剣が振り下ろされ、甲高い金属同士がぶつかる音を響かせ、衝撃波も発生させながら止められる。

当然こんなことで終わる訳もなく、次々打ち込むが全て木剣で受け止められ、受け流され、時には弾かれる。
これは模擬戦……お互い技術を育てるための戦いだ。よって、本来やらないような事も含めて行われる。シュテルは受け流したりする必要はない。全て受け止めればいいのだが、それでは練習になるまい。


もう最初の攻撃で、観客である彼らはポカンと間抜け面を晒していた。
なぜならブリュンヒルデの踏み込みがまず見えない。消えたと思った時にはでかい音が聞こえ、既にシュテルに受け止められていたのだ。2人の髪が靡いていた。

ヒルデの踏み込みに音は無かった。ドンッ! というあれが。
実はあれ、かなりエネルギーの無駄であり、ただの演出だ。踏み込んだ力を地面が受け止められず、音と共に弾ける。人間ああいった物の方が分かりやすいだろう。
主との模擬戦でそんな無駄をする訳がない。そもそも主との模擬戦は、身体能力にあぐらをかかず、技術を磨くための物だ。
本気の《身体制御》により無駄を無くし、全て体を動かす力へと変える。

もう観客が見えるのは、2人がぶつかり合う一瞬だけだ。その時だけ時が止まったかのようにヒルデの姿が見える。そして、特に驚く様子もなく……難なく全てを捌くシュテルの姿。ほぼその場から動くことなく、体の向きだけを変えている。
そして、しばらくしたらシュテルも動き出した。

さも当然かのように動きは見えず、突如ヒルデの正面や横、はたまた後ろから攻撃を繰り出す。
ヒルデはそれを受け止め、避け、反撃する。そして当然反撃に反撃するシュテル。
剣を持っていない左手だって使用している。防いだり殴ったりしているが、素手である。が、そこを気にする者は……いや、気にできる余裕がある者はいなかった。
超高速戦闘……これを全て見れる者は学園にいなかった。かなり高ランクの冒険者や実力のある騎士達でないと無理だろう。少なくとも《身体強化》や《強化魔法》の"肉体強化リインフォースボディ"で視力も強化しないと無理である。

剣と拳がぶつかる度に金属音が響き、髪が靡く。
込められている力はいったいどれ程のものなのか……。

当然外から金属のぶつかり合う、ガインガインした音が聞こえれば気になるだろう。窓には学園の生徒達が張り付いていた。
そんな事はお構いなしに、魔法まで飛び交い始める。

「母なる大地よ、牙を剥け!」
自儘じままたる風よ、打ち砕け!」

2人の言葉と意思、そして代償まりょくに従い、魔法となり現象となる。
ヒルデの魔法により、大地が槍となり周囲からシュテルを襲い、シュテルの魔法が大地から伸びた槍を砕く。

静謐せいひつたる水よ、集いて穿て!」
精悍せいかんなる炎よ、集いて爆ぜよ!」

続いてシュテルの魔法により水の槍が周囲からヒルデを襲い、ヒルデの魔法が水を散らす。
近接、魔法、近接、魔法と目まぐるしく次々と状況が変わっていく。
シュテルがヒルデに背後へと転移し剣を斜めに振り抜く。
ヒルデはバックステップで避けるが、直後再び背後に来たシュテルを振り向きざまに左で殴りつける。
シュテルは拳を木剣で逸し、左手で殴り掛かるが右で受け止められ、その反動で距離を取られる。
ヒルデは下がりつつ魔法を放つが、対抗魔法で防がれ、お返しの魔法を同じく対抗魔法で防ぐと同時に突っ込み殴り掛かる。


外野が見えるのはぶつかり合い止まった直後の2人と、色鮮やかに飛び交う魔法のみ。その魔法すらもすぐに対抗魔法で打ち消し合い姿を消す。
火には水を、風には土を、光には闇を……またはその逆をぶつけ合う。
ただ逆の魔法を当てればいい訳ではない。魔力が高い方が低い方を打ち消すのだ。
打ち消し合うという事は同じぐらいの、お互い消えるぐらいの魔力で打ち込んでいるということになる。相手の魔法に込められた魔力量を正確に読み取り、自分の魔法に同じぐらいの魔力を込め、ぶつける。そう簡単にできることではない。
しかも2人は近接戦闘をしながら……だ。普通近接なら近接、魔法なら魔法と……特化する事が多い。全てできるほど、人は優れていないし、寿命も短い。

2人は全ての魔法を打ち消し合っている。当然わざとそうしているのだ。
2人が全力で魔力で押しあったら地形がヤバい。ではどうするかというと、魔法使用に条件を付けるのだ。

攻撃は『上級規模』までの『オリジナル』を使用すること。
防御は『オリジナル』の『対抗魔法』で『正確』に『打ち消す』こと。

相手の魔法を瞬時に読み取り、込められた魔力を把握し、逆の魔法を構築し、ぶつけるという訓練だ。
ここで言うオリジナルは<Index>の初期魔法は使うなという事だ。練習にならん。
なぜって"ファイアランス"には"アクアランス"を本数合わせて魔力合わせて、位置を合わせるだけで終わりだ。
人類からしたらこれでも相当だろうが、女神一行からしたら少々物足りん。
既にある物を使ってはトレースするだけだ。全くもって面白みがない。
個性の出た複雑な動きをするオリジナルを予測し、打ち消す事に意味があるのだ。

この際シュテルは自然神の能力は封印中だ。当然である。魔法にできて、自然神の能力でできない事はないと言える。
自然神の能力はいわば全てオリジナル魔法だ。とは言え、魔力を消費していないので魔力で察知することは不可能。魔法ではなく、自然現象と言える。
これでは訓練にならん。よって、訓練は魔法を使う。


まあ何はともあれ、外野からしたら人外戦闘に変わりない。
自分の目を疑いたいところだが、残念な事に目撃者は多い。皆窓から外を見てポカンとアホ面を晒しているのだから。
まさに目の前では金属音を轟かせながら、時折魔法による爆発音やらが響くのだ。
訓練場? 当然ボコボコだ。先の折られた槍とか、水で濡れてたりとか、地面が抉れてたりしている。


休み時間が終わり実技再開となった時、2人はさくっと終わりにした。
シュテルが片足をトントンとすると、ボコボコだった訓練場が元通りになり、木剣を種に戻しつつ自分の机へと戻る。ヒルデも当然それに続き、側に控えた。

当然のように……と言うか、この程度なら2人にとっては極普通なのだが、この世界の人間達からしたら化物である。
一方魔法の無かった勇者達からしたら『凄い!』としかならない。
近接と魔法を使いこなす戦い……正しく中二心をくすぐる魔法剣士、拳士をやってみせた2人であった。一部の勇者達の憧れとなり、目標になる。
長嶺と清家の目がキラキラして、清家など尻尾をブンブンしながら見ていた。

物凄い温度差が発生しており、目を輝かせる異界の勇者達と慄く現地人であった。



フェルリンデン王国、王城。
上層部の者達が集まり、会議中であった。

「学園の者から報告が来ています。……例の少女と侍女について」
「ほう? 誰か掴まえたか?」
「……いいえ、陛下。2人の戦闘力がある程度分かったそうです」
「ふむ。で、使えそうか?」
「対魔王を考えれば間違いなく」
「フハハ。そうか、そうか。それは良いではないか」
「ですが……」

上機嫌な国王に比べ、一部の貴族は顔色が優れないという真逆の表情をしていた。
1人は今報告している、事前に報告を見ている者。
その他は自分の息子や娘から直接話を聞いている者だ。

「なんだ」
「……強すぎるのです」
「は?」
「強すぎるのですよ……彼女は! 利用なんて考えず、歩み寄るべきだと進言致します」
「はんっ! 貴様小娘相手に言っているのだ」

今会議室は3つに別れていた。
国王派。第一王子派。我関せず派の3つだ。
簡単に言えば、利用が国王派。歩み寄りが第一王子派。我関せずはそのままだ。
自分達が何をしたか分かっている者は第一王子派となる。

「……彼女はそもそも人間では無いそうですよ。精神生命体だから我々よりも年上だと、報告が入っております」
「……精神生命体だと? 何バカな事を……」


※精神生命体とは……
全ての種族からなれる可能性がある種族。
肉体があった時と同じ見た目をしている。
肝心のなり方は一切不明である。
精神生命体の寿命はないが、不死ではない。

というほぼ謎で、伝説上の存在と言われている種族だ。



「(さてさて、この国はどういった選択をするのか。……割とどうでもいいが)」

シュテルには当然筒抜けだったが、当の本人は対して興味がなそうであった。

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