現人神の導べ

リアフィス

08 地味だけど切実な問題

座学と戦闘訓練を繰り返すある日の夕食時。

「ご飯食べた後、女の子は残ってもらえる? 聞きたいことがあるんだよね……」

1人の女学生がそれだけ言って、ご飯を食べ始めた。
そしてぞろぞろ男達で食堂から出ていく……。

「こういう時……残った方が良いのか、出ていった方が良いのか……未だに悩む」
「召喚前を知らないなら残れば良いんだけどな」
「そうなんだけどねー……」
「清家は……うーん……。残った方が良いんじゃないかな……?」

という事で清家も残り、我々も残り、全員が集まる。

「何かあったの?」
「地味だけど切実な問題です」
「『???』」
「ああ、なるほど。確かに切実だろうな。妾には関係ないが……」
「はい。誰か……生理用品持ってないですか!」
「『あー!』」
「そろそろ来るはずなんだよね……」

そう、生理用品。女の子達にはさぞ切実な問題だろう。
異世界召喚何かされたもんだから、買えないのだ。

「あるにはあるんだけど……あげる余裕があるかというと……」
「ぐふぅ……」

机にふっぷして轟沈していた。
そして、その子とは違う問題に直面してるのもいる。

「…………待って、俺生理くるの?」
「『…………』」

何とも言えない女子達の視線が集まり、続いてシュテルに視線が集まった。
どうなんだ? という目である。

「……諦めろ。来るぞ」

ごんっ!

轟沈2人目である。

「あるにはあるけどこの人数はねぇ……」
「割りと死活問題……」
「この世界のって聞いたの?」
「ただの布だってさー……」
「『それは……』」
「だからこうして集めたんだよー」
「やれやれ仕方ない。とりあえず今ある奴持ってこい。なんとかしてやる」

持ってる数人が取りにパタパタ走っていく。
その間に準備をしておく。マナタイトクォーツは……ダメか。中見えない方が良いだろうし。いや、二重にするか。表は……ステンレスとかでいいかな。
コアは小さいルナクォーツでいいだろう。

空間収納からこれらを取り出す。

「……何してるの?」
「準備だよ準備。我々はいらないから12人だな」

《魔導工学》にて瞬時に12個の小箱を作り、魔法をかける。

「持ってきたよー」
「お待たせー」

戻ってきたので早速物を受け取る。

「ふむ……。少しサイズ変えるか。ついでにティッシュ持ってるやつとかいないか? 少し高いやつだと尚良い」
「……ポケットティッシュなら」
「使い勝手としてはいいんだろうがな……」

言いながらもせっせと形を整え、1つの入れ物に綺麗にしまっていく。

「タンポンとナプキンがあるのは嬉しいけど、流石に夜用はないかぁ……」
「おー待たせー。とりあえず消耗品持ってきてみた」

ハンドクリームやら化粧水やら色々机に並べられる。

「おお! 凄い! 凄いけど……」
「『何で夜用まで持ってんの!?』」
「いやぁ……友達の家泊まり行く予定だったんだよねー」
「そのタイミングで行くかね? 数日ずらせばいいのに……」
「私軽い方だからねー」

ふむぅ……? バンドエイドもあるじゃないか。ああ、でもバンドエイド使うぐらいの怪我なら《生活魔法》で十分だな……。まあいいか。ついでだついで。
いっその事これは……化粧箱的なのにしてしまうか。
タンポンとナプキンは流石に中で隔離して……っと。

「こっち側は"浄化ピュリファイ"を付けて、生理用品用にする……と。そしてこっち側にポケットティッシュやら、バンドエイド、ハンドクリームなどなど放り込んでおく……」

興味津々に超見てくるけど、見られるのは慣れてるので別に影響はない。
これまでは普通の魔道具。本番はこれからで、これは私にしかできない。

今の状態を記憶し、時間を巻き戻すことにより、消耗品無限増殖とする。

そしたら中身を取り出し別の箱に移して状態記憶。
取り出した箱は魔力を食わせて中身を確認。
これを繰り返して人数分中身を入れる。

「『すごーい!』」
「さて、渡す前に約束があります」
「『???』」
「絶対に他の者に渡さない事。売らないこと。奪いに来たら王族だろうと殺せ」
「『えっ』」
「まあ、流石にそこまではできないだろうが、盗られたら妾に言え。相手が王族だろうとしばき倒して回収するからな」
「補足しますと、この魔道具は《時魔法》が組まれていますから、買うとしても値が付けられない代物です」
「いやいっそ、悪意を持って勝手に触れた奴に電撃流して殺すようにするか」
「ああ、それは良いですね」
「『ええっ!?』」
「ははは、人の物を許可なく奪う盗賊に人権はない。……とは言え、お前達が気まずそうだから、動けなくなる程度にしてやるか……」

こうして非常に便利な、女勇者お揃い化粧箱がプレゼントされた。

「物騒なのはともかく、非常に便利なのは確か」
「魔力バカ食いするから、使ったら頻繁にやるんだぞ。差がでかければでかいほど魔力食われるからな」
「『はーい』」
「……そもそも生理用品の使い方が分からない件について」
「……麗菜に教えてもらいな」
「……おなしゃーす」
「はぁ……仕方ないか……」

教えられる狐っ娘より、教える宮武の方が恥ずかしがっているという、よく分からない状況なんだよなこいつら。
トイレも狐っ娘より宮武の方が恥ずかしがってたし。多分狐っ娘、初日の風呂で吹っ切れたんだろうな……。
既にできてるし吹っ切れた狐っ娘にプレゼントをやろう。

「清家にはもう1個プレゼントがある」
「え? プレゼント」
「これをやろう」
「……え? ふ……く……?」
「和風ロリィタファッション! 略して和ロリ」
「ほえー……ゴスロリ的な?」
「ゴスロリもまぁ、一応ジャンル的にはそうだな。ゴシック&ロリィタ。これは和服のロリィタファッションだから和ロリ」
「……できが良いのは分かるけど、派手すぎない?」
「そうだな。でも狐のイメージは和だろう?」
「まあ、分からなくもないけど……って言うか、ユニエールさん世界違うんだよね? 詳しすぎない?」
「『うん、思ってた』」
「そりゃあ、10番世界の前は6番世界で暮らしていたからな。日本で」
「『へ?』」
「とは言えたかが90年だ。最早故郷は10番世界だな。日本より帝国の方が好きだし」

自分で作った国かつ最高権力者だから、当然といえば当然なのだが。

「まあ、とりあえず着てみようかな。着方分からんけど……」
「着付けならできるよー」
「『まじかよ』」
「一応魔装具だから、普通のより着るのは楽なはずだ」
「「へー」」

そそくさ服一式持って引っ込み、割と早く先に着付けに行った子が戻ってきた。

「思ったよりすごかった。素体が良いから何着ても似合うね。ちょっと恨めしい」
「『ほぉー』」

そして狐っ娘がやってきた。
京紫の生地に白や黄色の花が咲き、袖口や衿などには白いフリルが使用され、帯は背で大きなちょうちょ結び。振り袖もあり、スカートは短めで、ニーソ装備。
流石に靴は戦闘もあるので、動きやすさが重視されている。
頭には耳の邪魔にならない程度の、小さめのヘッドドレスが乗っている。

「ふむ、良いじゃないか」
「やっぱ派手すぎると思うんだけど?」
「『可愛いから許す!』」
「あ、そう……。これ貰っちゃって良いの?」
「むしろ返されても"ストレージ"の肥やしだが。妾はドレスがあるからな」
「それなら1人で着れそうだけど、衿は右前だよ! それだけは間違えないように! ややこしいけど右前左前は相手から見て、だからね! 右前で着ること! 左前は死装束って言われるやつだからね! いいね!」
「あっはい……」

物凄い気迫だった。

「右前左前ってそもそも何?」
「着物の着方なの。簡単に言えば私達から見て、右側の衿が前に来てるのが右前。逆が左前」
「へぇー……」
「あれは和ロリだからあれだけど……本来の着物って半衿とか、伊達衿とか何枚かあるのね。左、右、左、右、左、右って重ねて右前。右を重ねるって意味なの。で、亡くなった方は生きてる人の逆で……右、左、右、左って左を重ねる左前」
「『へー!』」
「だから、生きてる人は着物を着る時右前で着る。まあ、一番覚えやすいのは……右利きの人がお財布を懐に入れる時、右前だと着てる人からすれば左の衿が前だから、入れやすい」
「『なるほど!』」
「……まあ、この世界じゃ誰も気にしないんだろうけど」
「『確かに……』」
「でも私が気にするから右前! 和と付いてるからには右!」
「『あっはい』」

人には譲れないところがある。
そしてそれが戦争へと……今回は繋がりはしないが。
政治と宗教と性癖の話は死人が出るぞ。……関係ないか。

「でもユニエールさん? あれ、生地なんですか? 凄い良い生地ですよね?」
「アラクネの糸からできた生地だ」
「アラクネ?」
「蜘蛛系の進化系と思えばいいぞ」
「ふむぅ……。これシルクより高いんじゃないかなぁ……」

鋭いですね13歳。シルクより優れているぞ。

「アラクネってゲームに敵で出て来るあれ?」
「蜘蛛に人間の上半身があるあれだ」
「……サイズは?」
「蜘蛛が2メートル中盤」
「うっわぁ……色合いは?」
「黒に赤いラインが入ってるな」
「……かっこいいからセーフかな……」

それで良いのか清家……。良いと言うなら良いか……。

女の子達の切実な問題が解決したため、解散した。

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