現人神の導べ

リアフィス

02 勇者(団体さん)

視界が切り替わったと思ったら、上に落ちていた。
いや、うん。何故か逆さまに召喚されたんだ。そのまま頭から着地した。

ゴン……パタ……。

どこのどいつだ? 逆さまで召喚するとか言う器用な下手くそは。文句言っても許されると思うんだが?
ちなみにヒルデは腰から行った。シロニャンは転移直後ハリネズミに戻り、後頭部から落ちてそのまま寝ている私のお腹に乗った。

『おや? ほうほう。これは面白いではないか』
『何やら同じ格好をした同じぐらいの子供達が多いですね』
『6番世界の学生達だな、これは。しかし、異世界召喚を2世界からとは……』
『いったいどっからエネルギー持ってきたんでしょうか。……とりあえず、起きましょうユニ様』

念話で会話しつつ、お腹に乗ってるシロニャンを抱え、ヒルデに手を伸ばして起こしてもらう。その間にも情報収集を進める。相手に聞くなんて面倒な事はしない。
召喚者側は……ほう、第一王子が迎えに来ているようだな。それと騎士達と、魔法使いか。
召喚された者達は……我々3人と……27人か。よくある1クラスにしては少し少ないか? 教師はいないし休み時間だったのだろうか……。
年齢は13……中2か!

まあ、そこまでは良い。いいんだが、何で1人狐っ娘混じってんの?
あの世界獣人いないはずだが……あ、こいつ普通に男子学生か。ハハハ、性転換した挙句に種族変わってるとかウケるー。
……本人からしたら笑い事じゃないだろうが、私にとっては笑い事。

翼は来る前に消しといたが、目も閉じておくか。少々目立ちすぎる。
目を閉じたところで大した支障もないしな。

「えっ!? どこだここ!」

流石に召喚された学生達が騒ぎ始めたか。
明らかに地下っぽい石造りの部屋だし、下には魔法陣が刻まれた祭壇の様なところにいるからな。

まあ、召喚した側も予想以上に来てびっくりしているようだが……。

「(……勇者様ってこんな来るんだったか?)」
「(文献では1~10ぐらいだと書いてあった気がするのですが……)」
「(奇遇だな、私もそのぐらいの人数だったと読んだ覚えがあるのだが?)」
「(ま、まあ、魔王を考えると多い分にはありがたい限りかと……)」
「(来てしまったからには仕方ない……か)」

第一王子と魔法使いがヒソヒソと話していたし。私には筒抜けである。


ざわざわしているのを放置して、情報を集める。
邪魔な『人』を透視して、床の魔法陣をチェックする。
次元の壁はそう簡単に抜ける訳がない。しかし、こうして召喚されたのだ。
どうやったのか気になるじゃないか。

『なるほど、ヒルデ。これ作ったのは天才だぞ』
『人が作ったのですか』
『そのようだな。これは大掛かりな魔法装置だ』

10番世界では持ち運びのできない、大きな魔道具を魔法装置と呼ぶ。
この異世界召喚の魔法装置にはエネルギーの溜め込み方が3つあるのだ。
本体が周囲のマナから常にエネルギーに変換する方法。
充電池の様な魔道具から吸い出す方法。
人から吸い取る方法。

2つ目は各地にある周囲のマナを取り込む充電施設があり、定期的に電池を交換する。満タンのやつを本体に繋いで、そこからエネルギーを吸う。空になったら充電施設に持っていって、溜まったやつと交換する。

そして3つ目、寝る前にお城で働いている魔法使い達が魔力を込めてから寝る。

これを魔王が復活する期間、数百年単位続けるのだ。
そして溜まりに溜まったエネルギーを使用し、勇者を召喚する。
そしたら再び魔力を溜める作業をしながら、召喚された勇者達を育てる。

『なるほど……確かに天才ですね』
『まあ、他の世界からしたら誘拐装置でしかないわけだが。正しく天災だ』
『確かに、誘拐されましたね。して、いかがなさいます?』
『折角だし遊んでいくさ。休暇休暇』

「私の名前はローデヴェイク・フェルリンデン。ここフェルリンデン王国の第一王子だ」

第一王子の声が召喚の間に響く。ざわざわしていた学生達がようやく静かになり、とりあえず聞く態勢になったようだ。
と言うか、女子共は見惚れていると言っていい。第一王子は王族だけあって、非常にイケメンである。爽やか系だ。

「まず突然の召喚、非常に申し訳なく思う。しかし、魔王復活の予兆がある。どうか討伐に力を貸して欲しい、異界の勇者達よ」
「いやいや……突っ込みどころしかないんだが……勇者に魔王って漫画じゃあるまいし。そもそもここどこだよ!」
「ここはフェルリンデン王国王城の離れにある地下になる」
「突っ込みどころしかねぇ! 大規模なドッキリか!? コスプレか!?」
「ドッキリ……? コスプレ……?」

『話が進みませんねぇ……』
『全くだな。張り倒すべきか』

ぎゃーぎゃー騒ぐ男と、どうしたものかと困り顔の召喚側。
張り倒して話を進めるべきかと思った時、念話が入った。

『シュテル』
『おや、創造神様。一応言いますけど、転移したわけじゃないですよ?』
『それは分かってるわ。それより貴女のいる4番世界だけど、壁どうなってる?』

壁……って言うと世界を隔てる次元の壁か。えーっと……うわぁ。

『なんというか……』
『やっぱりボロボロか……』
『……直した方がいいですよね、これ』
『最優先で直して。既に影響が出てる。8割ぐらい回してどのぐらいで終わる?』
『思考を8割回してもこれは……年単位ではないかと』
『最悪4番世界、6番世界、10番世界が滅ぶ』
『何でまたそんなことに』
『異世界召喚魔法のせいよ。今までの召喚によって歪みに歪んで、今回召喚対象となった6番と10番に影響が出た。ある意味シュテルがいる今で良かったわ。とりあえず4番を急いで。6番と10番は壁自体に問題はないから』
『次元の壁が歪んで4番に寄せられている状態ですか。8割回して修復作業に入ります』
『よろしく。何か変化があったら連絡するわ』
『分かりました』

がっくりしながら早速次元の壁修復作業に入る。どうしてこうなった。休暇とはいったい。だから自分達で解決できない事態を引き起こすなと……。
人類とは厄介な生物だまったく……。
絡んだ糸を解く作業と言うか、穴が空いたところを埋める作業と言うか……。
それはそうとこれはあれだな、魔王なんて小物どうでも良くなったわ……。
頑張れ、若者達よ。私は……忙しい……。

『いきなりテンション下がってますが、どうしました?』
『4番世界の次元の壁がボロボロで、お仕事貰ったわ……』
『ああ……創造神様からですか……』
『最悪6番世界と10番世界を巻き込んで消滅するようだから、修復するわ』
『……てきとーに誤魔化しておきますか?』
『いや、8割修復に回す。勇者達が死なない程度に見ながら、魔王とかいう小物は勇者達に任せるつもりだ』
『畏まりました。移動するようですよ』
『謁見の間か。お、狐っ娘が違和感に気づいて驚愕してる。騒がないのは褒めてあげたい。面白そうだから狐っ娘観察しながら修復してよ』


狐っ娘は横を見た後、小声で話しかけていた。

「(長嶺ながみね! 長嶺!)」
「(ん……? え、耳?)」
「(かえでだ! 俺どうなってるこれ!?)」
「(は? 楓? あいつは狐っ娘じゃねぇぞ)」
「(やっぱ狐なのか……。狐の尻尾だよなこれ……何で俺だけ変わってんの?)」
「(…………確かに、隣にいた楓がいないな。おい宮武みやたけ、楓見てないか?)」
「(え? いないの? 楓ならそっちに……って何その子)」
「(楓……らしい)」
「(いやいや、耳も尻尾も無いし、そもそも男でしょうが)」


まず狐っ娘。
名前は清家せいけ かえでというそうだ。凄いな、清家。
白いセミロングの髪で、耳も尻尾も白いが、先端の方が黄色……金だな。瞳はエメラルドか。身長は私より少し高い150といったところだろう。胸は……並だな。
うむ、十分美少女と言えるんじゃないだろうか。
我々女神一行よりは親しみやすいんじゃないか? 生物じゃない我々は整いすぎているからな。

男の方は長嶺ながみね 弘晶ひろあき
身長172ぐらい。体格も普通。髪も瞳も当然黒。まあ、日本人だしな。
顔は……まあ悪くはないけど、イケメンかと言われると微妙なラインだ。

女の方は宮武みやたけ 麗菜れいな
身長154ぐらいか。胸は……並だな。こちらも当然黒髪黒目。
髪型もごくごく普通。いやまぁ、奇抜なのがいても困るが。学生だし……。
顔は比較的整っている。可愛いと言うより、美人寄りの顔立ちだろうか。

どうやって知ったかって? 女神だし記憶や思考読んでしまえば容易いことだ。

ふむ、騒いでないのは褒めてやらんこともないが、状況的に置いてかれるな。
我々も動くとするか。
ひそひそ話している3人に置いていかれる事を教え、歩いて行く。
我々が最後尾だ。召喚された位置も一番後ろだった。

それより少々気になることがあるが……この狐っ娘苦労しそうだな。

「そこの狐っ娘、清家楓と言ったか」
「えっ、そうだけど……」
「あまり妾から離れない方がいいぞ」
「それはどうして……?」
「この世界、獣人の社会的地位が低そうだ。今は余裕がないだろうが、周囲の目を見てみれば分かる」
「……なりたくてなったわけじゃないのになぁ。と言うかなんで俺だけ……」
「転移時に何かあったんだろうが、それは知らん。が、悪いことばかりでもないだろう。人のまま力を持った者達より、体ごと変わったのだから強くなるぞ。ほら、鏡」
「おおー……これが俺。ひとまず安心……ところで、貴女は?」
「君達とは別の世界から召喚された者だ。勇者仲間になる……お、着いたか」

学生達はお城の中なもんだから、めっちゃキョロキョロしながら歩いていた。
一応フェルリンデンは大国のようだ。よって、中々豪華な作りをしている。
学生達からしたら物珍しい限りだろう。
だが、我々からしたら……正直家の大神殿の方が豪華である。本来世界にない物質で作られている大神殿。中も当然豪華である。
貴族というのは見栄えを気にする者達が多い。故に、趣味じゃなかろうと豪華に作ってある。

だから、別にこれと言って反応するような事もないな。
感想といえば、我が国アトランティス帝国の南にあるファーサイスの方が豪華かな? である。

謁見の間へとぞろぞろと入っていく。流石に学生達は緊張しているようだ。
私? 緊張するわけがない。基本的に女帝だから同格だ。王族と会うのも私の仕事の1つだからな。女神という立場は基本使わん。

さて、この国の王はどんなやつか。

コメント

  • ノベルバユーザー601712

    面白いですね。

    0
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