茶師のポーション~探求編~

神無乃愛

マキネッタ


 あの二人、以前なら「ミルク以外は認めない!」と断固として宣言していたが、変わったようである。
 朝食の用意が出来、早いものから食べていく。

 こういう時は「盛り渡し分」というものがあり、前衛など体力勝負の探求者に多めに渡す。

 食べ終わった探求者にマスターが茶を、ウーゴがエスプレッソを渡していく。
 珈琲は好きでも、エスプレッソが苦手な探求者にはお湯かミルクを。お湯で薄めて飲むのもいいらしい。今回は念のため大きめのマキネッタをウーゴに渡してある。大抵、ウーゴが使うマキネッタは二杯ほどしか作らないもの。しかし、今回は人数が多いため、大容量のマキネッタを使う。
「エスプレッソじゃなくて、モカなんだよね」
 ぼそりとウーゴが呟く。気にするのはやはり、イタリア出身だからなのだろう。マスターもお茶の種類にはうるさくなるため、気持ちは分かる。
「マスターに頼めば、こういう機械を取り寄せてくれるからありがたいよ」
「私は珈琲に詳しくありませんから。ウーゴさんの言われるものを揃えれば、間違いないと確信しておりますので」
 お茶を淹れる道具にもこだわるマスターらしい一言だが、阿形の不服そうな顔は「茶器関係多すぎ! 何がどれか分からない」と言わんばかりだ。

 二人だけで魔植物の豆を倒すのは一苦労だったようで、昼近くに戻ってきた。
 何故かサブマスターと向こうに残していたはずの探求者も一緒になって。
「何をやっているのですか」
「予定変更。証拠集めたうえで、国際探求者ギルドに全部送付した」
「……」
 開いた口が塞がらないとはこのことである。証拠集めが早すぎたのは、サブマスターがそれまで集めていたからなのか、何なのか。
「いや、一般人、、、から上級ポーションの問い合わせがあってね。俺の使い魔ちゃんが聞いちゃったのよ」
 こっそりとギルドマスターに使い魔をつけていた探求者があっけらかんとして言う。
「確かあなたの使い魔は……」
「そそ。この携帯もどきだよーん。一部を飛ばせば、建物内ならあっという間に音を拾ってくれるし」
 付喪神だったはずである。その付喪神を携帯として使うのは如何なものか、と思わなくもないが、この男に言わせると「狛犬をマジックバックとかインベントリ代わりに使うあんたに言われたくない」そうだ。

 人はこれを五十歩百歩という。

「いやね、日本支部にしようか、日本探求者ギルドにしようか迷ってたんだけどさ、質のいいポーションで暴利を貪っているのが酷すぎてさ。いちお、日本支部と日本探求者ギルドにもつたえておいたよん」
「では安心して、迷宮探索に行けますね」
「そーいうこと。マスター、あんたのパーティにおれとサブマス入れて」
「私は弟子のパーティに……」
「知ってる。一緒にいればいいじゃんか。あそこのメンバーにも許可取ったし」
 いつの間に。そう言いたいところだが、どうやら地上でそういう話になったようである。それに、ほとんどの探求者が一緒に動くか、近くを回ることにしているため、同じことなのかもしれないが。
「……仕方ありませんね。弟子」
「なにー?」
「その間抜けた返事を止めなさいといつも言っているでしょう。……申し訳ないのですが」
「うん、マイニとクリフに聞いた。いいんじゃない? サブマスの護衛にもなって」
 あっさりと弟子が言う。
「そうですか。あとは、サブマスターの剣技を見ておきなさいと言いたかったのですよ。サブマスターは日本刀を愛用する数少ない探求者ですので」
「マジで!? 参考にする!!」
 弟子も一応日本刀を使う。使い方は道場で習ったやり方に我流が入っている。もっと効率よく倒したいと願う弟子にとって、ちょうどいいかもしれない。

「んじゃ、明日に向けて俺は豆乳作るね。こんだけ人数増えたら、絶対足りないし」
 水属性の精霊や妖精もちに頼んで水を出してもらいつつ、弟子は豆乳づくりを始めた。

 明後日から本格的に迷宮を探索するということにして、その日は再度どのパーティとどのパーティが隣り合わせで戦うか、ということを話しあった。

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く