茶師のポーション~探求編~

神無乃愛

役割分担


 第一層目の駆逐が一段落すると、持ち寄った食材、水、薬草をブルーノの前に皆が置いた。
「流石に魔力マナ足りない」
「私が支援するわ。あと数人が支援すれば何とかなるけど、食事は……」
「飯は手の空いた奴らで作るぞ」
「テント補強は俺に任せろ」
「ベッドメイキングはこっちに」
 マイニが支援を打ち出せば、他の探求者たちもすぐに乗り出した。

 ブルーノに支援するのは妖精・精霊と契約した支援魔法持ち。そして、浄化された水と薬草と使い、すぐさまポーションを作るのは薬師。料理が得意な者は料理を。
 皆があっさりと役割を決めていく。
「こうなると、俺のアイデンティティはなくなるんだよなぁ」
 ぼそりと弟子が呟く。
「悠里のアイデンティティは料理。あの時もうまかったし」
 そういうのはブルーノで。ただ、今回他のパーティに弟子よりも料理が上手な者も当然いる。
「弟子、暇なら薬草のすり潰しを」
「へーい」
 今回作るポーションの数はとてもではないが、マスター一人では手が回らない。他のメンバーでは、薬師という職種では駆け出しばかりだ。
「あと、水を」
「ほーい」
「弟子、気の抜ける返事を止めてください」
「えー。気を紛らわすという面でもいいじゃんか。師匠、気ぃ張りすぎ」
 迷宮で気を抜くということが命取りになると教えているにもかかわらず、これだ。
「てかさ、適度に気ぃ張るのはいいと思うんだ。師匠が何を警戒しているか分かんないけど、もう少し俺らも頼ってよ。師匠が第一線を退いた時よりも、少しは成長したと思ってるよ」
 その言葉に、マスターは息を吐きだした。
「仕方ないでしょう。私が今作っている子のポーションが、皆さんの命を預かる一線だと思うと、気も抜けないものですよ」
「そっかぁ。じゃあ、戦闘では俺らを頼ってよ」
「そうさせてもらいますね。私も昔ほど身体は動きませんので」
 わざとらしく言えば、その場にいた者たちが皆朗らかに笑っていた

 なのだが。弟子の悪い癖が一つ。厭きやすいのだ。
「ししょー、あとどれくらいー?」
 この問いも何度目となるのか。周囲が苦笑していた。
「そうですねぇ。……食事も出来たそうですし、一度休憩いたしましょう。皆に二本ずついきわたるくらいは作りましたので」
「どんだけ作ってんの」
 ぼそりと弟子が言うが、マスターは聞こえないふりをした。
 他の薬師もいるため、何とか全員に五本ずついきわたるくらいは出来ていたようである。
 一人頭五本で足りるのか、と言われれば否だ。

 だからと言って闇雲に増やすわけにもいかない。マスターのようにマジックバックやら、インベントリを持っている探求者ばかりではないのだ。
 軽く食事をとった後、茶を注いでひと呼吸おく。マスターにとって茶を淹れるという行為が、心を落ち着かせる動作でもある。

「さて、明日はどこまで進める?」
「迷宮の状況からして、急ぐべきなのは分かる。しかし、準備が」
「噴火につながってしまう大暴走だとしたら……」
 誰が言ったのかは分からない。だが、誰一人「あり得ない」とは言えなかった。

 富士山噴火の前兆に怯えた魔獣が大暴走を引き起こしたとしたら。
 ここに来ている者たちは、その可能性を考慮に入れている。口に出さなかっただけで。そして、その可能性を否定したいのだ。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品