茶師のポーション~探求編~

神無乃愛

お茶のために水を採取に


 マスターの薬草採取依頼がどうなるかはともかくとして、とりあえず必要なものは「水」だ。幸いにも、ここは富士樹海迷宮。水も美味しい。最下層の水が一番だろうが、マスターどころか、弟子のパーティも難しい。行くのは日本の探求者なら一度は行くという上層部だ。
「そういえば、日本に来てから水採取のクエストはないわね」
 マスターの目的地を知ったマイニが呟いた。
「えぇ。ポーションに使う水は軟水。実は日本の水の殆どが軟水です。最悪、水道水を浄水器で浄水して使ってしまえば、代用は可能なのですよ」
「羨ましい! イギリスにいる薬師はさぞかし悔しがるね」

 水問題というのが、結構大きい。それゆえ、日本で作られるポーションの一部は国外へ輸出されていたりもする。
「そういう意味では薬師の育ちやすい環境とも言えますね。……ただ、水道水で作ったポーションは性能が悪いですよ」
「性能が悪いのは、初級の迷宮で使えばいい。逆に駆け出しだと、手ごろで使いやすい」
 趣味に迷宮潜りを公言しているだけあって、ウーゴは「どこにどのくらいの性能のポーションを持っていけばいい」のかを把握している。基本は「何があってもいいように」一つ上のポーションを持ち歩くようだが。

 ただ初心者としては本当に初級でも入り口付近で修行をする。そこであれば性能が多少悪くとも大丈夫だということらしい。万が一の場合はベテランをみて逃げ出すようにすればいいということだ。
「理にかなっておりますね。問題は探求者本来の仕事『探し出す』というクエストに水が入らないことですかね」
 ポーションなどいくらあってもいい。硬水が殆どを占める欧米では常に貼りだしてあるクエストの一つだ。
「薬草ばっかりで厭きるってのはよく聞くなぁ」
「弟子も同じことを言いましたね」
「ううっ。言ったよ。でも師匠は水採取や他の採取にも連れてってくれたし。同じ時期に探求者になった奴には羨ましがられた」
 通常は嫌になるくらい薬草採取を繰り返す。その作業に厭きた探求者は、辞める者も多い。

「私も久しぶりに美味しい玉露が飲みたいですからね。ついでですから迷宮に行こうかと」
「ラッキー! 久しぶりに師匠と迷宮行ける!!」
 諸手をあげて喜ぶ弟子に、マスターは遠慮なく拳骨を落とした。
「ひっでーー!!」
「お前に遠慮したら避けられます。お前はパーティのリーダーだというのに、自覚がない」
「そうね、それは言えるわ。でも、私もマスターと潜るのは賛成」
 マイニが言えば、全員が賛成してきた。

 くすり、と笑ってマスターが得物と防具を阿形から取り出す。
 得物に使うのは、採取にも優れた小刀だ。

 そして吽形から水の保存容器を取り出し、樹海へ潜る準備は整った。

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