クラス転移、間違えました。 - カードバトルで魔王退治!? -

極大級マイソン

第11話「仲間を犠牲にする勇気」

「担任……先生がそんな契約を結んだってことなんですか!? しかも私達の知らないところで!」
「にわかには信じられないなぁ……。それは本当に先生だったのか?」
「クラス転移を行うには『転移させる全員の承認を得る』、もしくは『クラス全員が認める代表者の承認を得る』のどちらかが必要なのだ。そして転移が正常に働いた以上、あれは貴君らの担任だったはずだぞ」
「もしくは彼方ノ原だな。あいつ、クラス委員長だし。『クラス全員が認める代表者』という項目に当てはまらなくもない」
「彼方ノ原さんが私達に黙ってこんなことするとは思えないけど……」
「確かに、あいつは真摯で誠実な奴だ。俺達に何の断りもなく勝手な真似はしないだろう」

 猿渡悟が、眼鏡をクイっと上げて、彼方ノ原きなこを庇う。その他にも、彼女をフォローする声がチラホラと上がった。纏まりのないこの2年4組でも、いやだからこそ、そんなクラスを纏める彼方ノ原きなこの人望は高い。

「悟くんが誰かを認めるなんて滅多にないことデス。まあ、デス子も彼方ノ原さんではないと思うデスね」
「じゃあ、やっぱり先生が……」
「あの"老賢者グランドティーチャー"、ただ呆けているだけだと思っていたが、まさか"ボケたフリ"で我らを欺き、罠に嵌める策だったとはな! 我が暗黒邪龍眼イービル・アイを持ってしても、全くその隠れた素顔を見抜けなかったぞ」
「だったら出しゃばってくるな。……で? その契約に則り、俺達が魔王を倒して姫を助けると。そして、それが叶わない限り俺達は元の世界に帰れない。そういうことだな?」
「そうだ」

 生徒達は、うーーんと唸り声を上げて天井を見つめ始めた。ドラゴンから始まって、異世界だの、勇者だの、クラス転移だの、チーレム無双だの。
 様々な出来事が立て続きに起こり、皆の頭の中は最早パンク寸前だった。
 悪魔、魔王を倒す……。そもそも、実際の悪魔がどのような存在かも知らない皆には、何とも答えづらい話である。高村銀河も今は大好きなゲームも手を止め、腕を組んで考え込んでいた。

「因みに、そこの幼女ドラゴンは、魔王と戦って勝てるのか?」
「無理だな」
「あっ、じゃあ俺らも無理だ諦めろ。諦めてゲームしよう」

 そう言って銀河はサッサと考えるのを辞めゲームをやり始めた。しかしそのゲームを悟に取り上げられ、銀河は苦悩の声を漏らす。
 そして悟は、オレガノにビッと指を突き立てた。

「俺の見た限り、そこのドラゴンは体長10メートルはゆうに超えていたぞ。そんな怪物でも倒せない奴を日本の高校生である俺達に倒せだと? 無理に決まってるだろう!!」
「ていうか、本来転移するはずだった2年1組のみんなでも出来ないんじゃないかなぁ」
「あっ、そこは心配ない。異世界転移でこの世界に呼ばれた者達には"特典"が付くからな」
「特典?」

 ガーベラは立ち上がり、部屋の隅に置かれた棚から一つの箱を取り出した。それをテーブルの上に置き蓋を開くと、中には大きな水色の原石が入れられていることに皆が気づいた。

「わぁー高価そうな石デスねぇ!」
「これは本物なのか、辺銀デス子」
「うーーん元の世界のクリスタルに似ているデスが……。しかしこの石、初めて見る物だけど何故か不思議なパワーを感じるデスね。異世界の未知の力的な……」
「あーーうん、勿論私も感じていたぞ。この石から凄まじいマナの本流が……」
「この石は、今回の転移に使用した魔道具だ。これぐらいのサイズの石は、世界中探しても滅多に御目に掛かることは出来ないだろうな。我が手に入れたのだ!」

 オレガノは幼児体型の身体でえっへんと胸をそらして威張ってみた。威張った幼女ドラゴンが可愛かったのでデス子は思わず微笑んだが、その後この龍が雄なのだと思い出して、ハァッとため息をつくのだった。

「これが何だ?」
「この魔道具は一度転移するのに使うと、以後その効力が失われるのだが呼び出した勇者に"特殊な力"を宿すもう一つの力を持っているのだ」
「特殊な力?」
「空を飛べるようになったり魔法を使えるようになったり、勇者が悪魔を倒すのに役立つ戦闘向けの能力が手に入るな」
「ええっ!? じゃあ、その力が私達に手に入るってことなの!?」

 オレガノの話を聞いた瞬間、瀬奈の瞳が見開きキラキラと目を瞬かせた。彼女は幼少の頃から魔法や特殊能力といった話しは大好きであり、そんな力を持てたらと日々夢見ているのだ。
 しかしオレガノは、そんな彼女に対し申し訳なさそうに首を振った。

「そのはずだったのだが、この石は既に本来転移させるはずだった2年1組専用に調整されておる。だから、間違えて転移された貴君らにはその力が宿らないのだ、すまんな」
「ああ、何だガッカリ」
「ならこれはもう、ただの石ころ!! もう他に魔王を倒せそうな方法があるとは思えんぞ!」
「……いや。一つだけ、貴君らに"力"を授けられる方法がある」

 そう言ってドラゴンは、白いドレスの懐から一つの風呂敷を取り出し、それも一緒にテーブルの上に置いた。そして、風呂敷が開かれるとそこには全身に動脈のようなものが浮き出たひと口サイズの肉団子が一つだけポツンと置かれていた。
 生徒達は、これは「ヤバいもんが出たぞ」と警戒し、知らず知らずのうちに額から汗を流し始めていた。
 この、謎の肉団子の詳細を知るべく、恐る恐る最初に手を挙げたのは南ヶ丘瀬奈だった。彼女はゆっくりと肉団子を指差して口を開く。

「あの、これは?」
「【魔人の心臓】、という代物だ。これを食べた物は全細胞が活性化し、その者に適した人智を超える力が手に入ると言われている……」
「よし南ヶ丘、お前これ喰え。そして魔王を倒してこい、異論は認めん」
「容赦無いな!? いやいやいやおかしいって、何故私がこんな物を喰らわねばならないんだ!!」
「でも確かに、お前こういうの好きそうじゃないか。ダークファンタジーでも定番ネタだしさぁ」

 悟の無慈悲な要求に賛同する形で、銀河は2台目のゲームをやりながら瀬奈を促す。
 瀬奈はもう一度テーブルに置かれた心臓を見る。動物の粘膜のようなドス黒いピンクの皮膚に完熟したトマトのようなぶよぶよした丸み、そして本当に生きてるかの如き脈の鼓動。どう考えても人が口に入れるものではない。
 瀬奈はこの臓物を口に入れた自分の姿を想像し、身震いを起こした。

「絶対無理っ!! 銀河が食べなさいよこの心臓!!」
「だってこれ、喰った奴に適した能力が手に入るんだろう? 俺がこれを食べても『ゲームのキャラの動きを完全把握する動体視力向上』みたいな力しか手に入らないだろう。……ああでも、それもなかなか悪くないな」
「確かに、こいつに喰わせるのは賢くないな」
「そもそもこれ、どう見ても食べた瞬間、怪物になる代物だよね、ビジュアル的に。今はまだ差し迫った状況って訳ではないし、無理に食べる必要ないと思うんだけど……」
「よく言った日向!!」
「だが、魔王を倒すにはこれ以外……」
「それに、俺たちの身の安全の方が大事だからな。無事に元の世界に帰ることも大事だけど、他に良い方法が見つかるかもしれないし。俺はまだ、これを使うときじゃないと思うぞ」
「ふむ……確かにそうかもな」

 悟は、日向と隼人の説得に納得したのか、渋い顔をしながらスゴスゴと引き下がった。ひとまず、瀬奈がこれを食べるという流れはなくなったので、瀬奈はホッと一息つく。
 しかしそうは言っても状況は好転しない。どういう手段を取るにせよ魔王を倒し、姫を助けなければ皆は日本に帰れないのは変わりないのだから。

「しかし、雑魚のデス子達がこんなこと話し合っても時間の無駄だと思うデスよ」
「そうだな、こういう荒事は四天王達の領分だ。……そういえば彼奴等は、今頃何をしているのだろうな」
「確かに。……まずは、はぐれた4人と合流した方が良いかもしれないな。ここから最初に居た山の中へ行くにはどうしたら良い?」
「それなら、我がまた龍の姿に戻って貴君らをあの場所に連れて言っても良いが……」
「それに賛成。他に異論がある奴はいるか? …………居ないようだな」
「ならサッサとあいつらと合流するぞ。目指すは最初の山だ!」

 そうと決まれば話は早い。生徒達は椅子から立ち上がり、目的地を目指すためバスの中へと戻ろうとする。バスを"籠"代わりにしてオレガノに運んでもらおうという算段だ。
 そして、皆が宮殿の外へ出ようとした際に、隼人は、今まで存在を忘れていた、とある人物に気が付いた。

「あ、そうだ影踏! まだ、壁にめり込んで気絶してるようだけど、どうしようか……」
「ああ、棄てよう」

 猿渡悟の、無慈悲なセリフが聞こえた。

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