クラス転移、間違えました。 - カードバトルで魔王退治!? -

極大級マイソン

第4話「眠りの危機」

 南ヶ丘瀬奈が眠っている間に何が起きたのか。それを説明するには時間を少し遡ることになる。
 東隼人がデュエルをし、辺銀デス子は瀬奈が寝ている隙にカードを頂戴しようとしているそんな中、バスの最前列に男女2人が座っていた。
 白のカチューシャに漆のように艶やかな長髪の女子は日向ひなた棚歌たなか
 茶髪のクセ毛に何故か腰に帯刀を所持している男子が田中たなか奏多かなたである。
 2人は同じ座席に隣り合わせで座っており、一見して学生カップルに見えるがそうではない。

「まったく相変わらずやかましい奴らだ、バスの中でぐらい静かに出来んのか。……師匠、御気分は宜しいでしょうか?」
「ああ、私は大丈夫。……まあ、みんながはしゃぐのも仕方がないよ。今日は待ちに待った修学旅行なんだから」

 自分を気遣う奏多に、やんわりと諭す日向。普段粗暴な態度をとる奏多は、しかし日向にだけは礼節な対応をするのだ。
 この2人は"主従関係"だった。日向棚歌は師匠、田中奏多はその弟子として、関係が成り立っている。日向の家系は武道の名門として代々その地位を築いており、田中はその家系の一人娘、日向棚歌に弟子入りし、彼女に従い付き添っているのだ。

「……ねえ、奏多くん。出来ればその、旅行先ではそのかしこまった喋り方やめてもらえないかな?」
「? 何故ですか?」
「いや、恥ずかしいから。街先で『師匠』って呼ばれたら私何者なんだって周囲に思われるじゃない」
「はっはっは! 何を謙遜なされる。貴女は由緒正しい日向家の長女ではないですか、堂々となされて誰が困るのです」
「私が困るんだって! はぁ、別に私って武門の生まれってだけで修行とか受けてるわけじゃないのに……」

 そう、日向は名家の生まれというだけで本来教授される修行うんぬんは殆ど習ってないのだ。元々武道の家である日向家は"男"が強く、兄弟の中で唯一の女である日向棚歌は厳しい修行を受ける事なく育ってきた。棚歌自身もそれを良しとしていたし、女でも家族から差別される事なく普通の女子高校生みたいに過ごしてきた。将来はどこかの企業でOLにでもなるか、はたまた永久就職先にでも嫁ぐのかと本人は考えていたのだが……。

「まさかそんは私に、弟子入りする人がいるなんて思ってもみなかったよ……」

 田中奏多と初めて出会ったのは、高校の入学式初日。鋭利な刃物みたいに周囲を見据える彼は、さながら野生動物のようだと当時は思っていた。
 それがどういう経緯で彼とこんな関係になってしまったのか。日向は過去の記憶を思い出そうとするが突然、自分たちに声をかけてくる人物の登場でその追憶は一時中断された。

「やあお二人とも。少しお時間いただけますか?」
「誠十郎さん? 私たちに何か用ですか?」

 現れたのは一斉野誠十郎だった。彼は生まれながらの細い目で2人を一瞥してそれから前方のフロントガラスから外を確認した。
 何事かと日向も窓の外を見るが、そこにはカーブを描いた道路とたくさんの木々があるだけで、特に変わったものは見当たらない。先ほどから2人はずっとこの景色を眺めていたが、まだ自分たちは山の中にいるようだ。
 誠十郎はふむと呟いてあごを撫でる。

「やはりおかしいですね……」
「えっと、何がですか?」
「勿体ぶってないでサッサと喋ろ」
「いえ、私が事前に調べたルートによれば、もう山を抜けても良いはずなのに、未だ山の中にいるのは少しおかしいと思いましてね」
「それはただ遅れてるだけなんじゃないですか?」
「しかしこれまでの道中、渋滞に遭遇していた訳ではありませんし速度も特別遅かった訳でもなさそうでした」
「……先生が道を間違えてるって言いたいのか?」
「ふむ、少し確かめてみますかね」

 そう言って誠十郎はスマートフォンを取り出して、現在の位置をGPS通信で調べようとしてみた。しかしマップの位置は表示されず、電波も圏外となって現在の場所が確認できない。

「うーむ……」
「そんなに気になるなら、直接先生に聞いてみればいいだろう」
「そうですねぇ……」

 誠十郎は状況を確かめるため担任教師がいる運転席に歩を進めた。2年4組のの担任は担当科目は現代国語、学校全体の中でも割と年配な方でもう時期定年退職をする頃だと校内では噂になっていた。
 そんな先生が、何故かバスの運転手を雇わず自分で目的地まで運転するとい言い出したのである。本来ならイレギュラーなことだが、もうすぐ教師をやめるということもありやり残したことがないかと色々挑戦したいのだろうと教師陣は考えた。クラスの皆も特に反対することなく、結果先生がバスを運転をすることになったのだが……。

「おや?」
「どうかしましたか誠十郎さん」
「どうやら、先生お眠りしているようですね。居眠り運転というやつです」
「「うん、、、おぁっ!!?」」

 日向と奏多の2人は口を揃えて全く同じように驚いた。それも無理はない、自分たちが乗っているバスの運転手が居眠りをしていると知れば誰だって驚くだろう。
 奏多は、誠十郎の言ったことが本当かどうか彼も運転席に近づく。するとそこには、バスのハンドルにもたれ掛かってスヤスヤ居眠りをしている担任教師の姿があった。
 奏多は頭を抱えて唸った。

「おいおい痴呆かこの教師!? 大事な生徒を乗せている車で居眠りするなんて!」
「ふーむ、このままだと時期にバスは衝突してしまいますね……」
「そうと分かってるんなら何とかしろ!」
「手段としてはどうしましょう? 私が運転を代わるか眠っている先生を起こすのか……」
「どれでもいい! 何なら俺が力づくで停めてもいいんだぞ!?」
「それは少々乱暴過ぎますね……。分かりました、私が運転いたしましょう」

 誠十郎は運転席で眠る担任を他の座席に移動し、今まで操縦を失っていたバスのハンドルを操作しようとした。しかしどういう訳なのか、バスのハンドルは操縦士がいないにもかかわらず自動的に操縦されており、山道の曲がりくねったカーブをスムーズに進ませていた。

「これは……」
「なに、どういうことだ。自動操縦? この先生自分で運転するとか見え張っていたくせにこんなプログラムを仕込んでいたのかよ」

 奏多はそう納得したが、誠十郎は疑問に思い運転席を調べてみようとバスのハンドルに手をかけてみた。
 そして誠十郎は、ハンドルを力づくで止めてみようとするがハンドルの動きは力強く強固で、誠十郎が力を込めてもビクとも止まる様子はなかった。
 誠十郎はペダルの方も確認するが、ペダルもまた自動的に動いているようでアクセルのペダルがこ気味良く上下していた。
 一方で、日向も様子が気になったのか運転席を調べる2人の元へ近づいてきた。

「あの、どうなっていますか?」
「どうやら、一応運転は問題なく行われていますね。今のところはですが……」
「これ、放っておいても目的地まで操縦してくれてるってことでいいのか?」
「もしそうならば良いのですが、そもそも何故こんな機能がこんなバスに備わっているのかが気になりますね」
「新装したんだろう。問題がないっていうなら俺は先に席に戻っているぜ」
「ええ、そんな楽観的な……。どう考えてもおかしいよこれ」
「もし師匠が気になるというのであれば、俺がこのバスを停めますが」
「力づくで?」
「力づくでです!」

 非常に強引な手段を行おうとする奏多を日向が止める。いくら謎の現象が起きているとはいえ、彼に大事を任せるとなにが起こったものか全く分からないからだ。
 そして、3人がそのようなやり取りをしていると、
 突然バスが急停車をし出した!

「いきなり過ぎおおおおぉっ!!?」

 バスが急に停車したため、バスの中にいたクラスメイトたちは皆強い衝撃を喰らった。
 日向は咄嗟に近くの手すりに掴み衝撃に備えたおかげで、幸い倒れることはなかった。しかし車内、特に反応に遅れた後部座席の方は騒然としている。
 怪我人がいるかもしれないと、日向が後部座席へ移動を始めようと思ったその時、バスの前方にいきなり巨大な影が出現し出した。

「な、何事なの?」
「うおおぉっ?」

 日向と奏多は声を上げ、誠十郎は興味深そうに細い目を見開いた。
 すると、彼らは目撃しただろう。前方に突如現れた影が大きく蠢き、その上空から大きな"ナニカ"が降りてきたことを。

「な!」
「ん!」
「ほお……」

 それは金色の鱗を纏い、背に巨大な翼を持つ『ドラゴン』だった。
 そのドラゴンは、熊をも一齧りしそうな大きな口とどう猛な牙、手には太い三本の指とそこから生える鋭利な鉤爪を持ち、目は水晶玉のように美しく透明でどこまでも見渡せるくらい澄んでいる、美しく強大なモンスター。
 まさに、"この世のものとは思えない"、そんな存在を、3人は目撃した。

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