~大神殿で突然の婚約?!~オベリスクの元で真実の愛を誓います。
マアト神の呪
***
「また地面に引っ繰り返ってる。よほど好きなのね、大地が」
腰に手を当てたコブラ……ことティティはイザークを覗き込んだ。「ほら、はっぱ」と呆れながらも頭についた草ッパを手で叩き落として、不思議そうな表情になった。
「ねえ、大地に横になると、何か違うように見える? やってみようかな、わたしも」
「王女様に地べたに寝ろなんて言えない。まあ、空が落ちてくるように見えるかな」
ティティはゆっくりと座り込むと、ぺた、と背中を倒して仰向けになった。「汚れるって!」の一言に「いいの! 見たいの」と首を振った。
(あんなに、汚れることを怖れていたのに……)驚き続きのイザークの横で、ティティは小さく唸った。くるんと顔をイザークに向けて、困惑の笑顔を見せた。
「風が気持ちいい。何かが背中をもそっと通った。これが良くて、地べたに転がるの?」
(ちょっと違う)と思いつつ、倒れて、隣のティティに手を伸ばした。黒い海と濃紺の空は闇に二人で放り出されたような気分。
――世界の終わりだろうと、ティティといられれば終わらない。どんな世界で、悪意が渦巻こうと、ティティといられれば。闇もなくなる。
イザークは長い腕を頭の下に回し、ティティを見詰めた。
可愛いコブラ頭。ネフトの服が良く似合うが、ちょっと露出が激しい気がする。
「よくここまで来られたな。サアラの野郎が「子造りは支援しねえよ!」って俺を遠ざけたせいで、どこにいるのかも分かりはしなかった。一人で平気だったか」
「子作りって……」ティティはぷいと顔を横に向けた。
揺れたコブラ頭ごとくいと顔を片手でイザークのほうに向けさせ、きょとんとした瞳に獣の顔をしたイザーク自身を見つけた。
――マアトの呪。ティティの左眼はぼんやりと霞んでいて、涙すら見えない。
「なによ」とティティの言葉と同時に、目元に触れた指先がほんのり熱くなった。
「呪術なんて止めさせりゃ良かったって思った。こっち、来い」
引き寄せた肩越しのティティの睫がチクチクささる。
「自分の目玉が腐ろうが、消えようが飛び出そうが構わんが、ぱっちりとしたティティの、凜とした双眸を再び見たい。片眼にさせるつもりはなかった」
「ん」とティティは安心したようにイザークに頭を預け、すり寄った。唇を震わせながら、イザークを見詰めている。
(ボルテージが上がってきた。構わないか? サアラとネフトにバレなきゃ、いいか。呪いをかけた呵責がティティにはあるわけだ。そこを突っつけば首尾は上々)
ばっと起き上がって両腕の間にティティを挟み込んだ。ティティは眼を瞠って、イザークを怖々と見詰めている。剥き出しの肩に唇を寄せ、首筋をぱくんとやった。ビク、とティティの体が強ばった。怖がらせてどうするのかと、イザークは諦めた。
そもそも、ラムセスとの口約束の婚約で、正式な婚姻はしていない。
「いや、腹が減っただろ! サアラに見つかるとまたうるさいから、戻りな」
ティティは動かなかった。イザークはざり、と足を地に擦らせた。下心をぶっ飛ばして、良心がじんじん痛む。
「あのさ、呪いなら気にしてねえから。……ティティ?」
コブラがぬおっと逆立った気がする。
「イザーク、わたしを好き、なのよね? なんで、止めたの?」
(何だァ、藪から棒に)背中に冷や汗。イザークはごくりと唾を飲み下した。
「良かったのに……シても。そういう、気分で……忘れて! わたしらしくもない! ネフト様に影響受けすぎたの!」
小さく叫んで、ティティは「あ、んん」と咳払いをしてそっぽを向いた。
(まさか、ティティ、俺を意識してる?)逸る前で、ティティはコブラ頭をぶんぶん振り回して、小刻みに震えながら眼を強く瞑って見せた。ぎょろっと瞳を向けた。
「鍋……」ティティは背後の鍋を指した。ぶくぶくと鍋はピナツボ火山口のように泡を噴いていた。
「だああああ! ちょ、ちょっと待ってろ! は、腹が空いたよなっ? 調度いい頃合いだと思うぜ」
立ち上がった背中がびん、と伸びて躓きそうになる。(何だァ、今度は!)見ればティティがイザークの服を抓んでいる状態だった。
(離れたくないのか)どうも今夜のティティはいつもと違う。積極的と言うか。あのネフトというオンナの影響かとイザークは眉を寄せた。ティティは現在くらいが丁度いい。男に疎い王女という控えめさがイザークの欲望の歯止めになっているのに。
(積極的になられてみろ。俺の第二の心臓が積極的に体内で蠢くぞ、本気で)
短く生えた雑草が揺れる。とうとう鍋が爆発し、二人はそれどころではなくなった。
「また地面に引っ繰り返ってる。よほど好きなのね、大地が」
腰に手を当てたコブラ……ことティティはイザークを覗き込んだ。「ほら、はっぱ」と呆れながらも頭についた草ッパを手で叩き落として、不思議そうな表情になった。
「ねえ、大地に横になると、何か違うように見える? やってみようかな、わたしも」
「王女様に地べたに寝ろなんて言えない。まあ、空が落ちてくるように見えるかな」
ティティはゆっくりと座り込むと、ぺた、と背中を倒して仰向けになった。「汚れるって!」の一言に「いいの! 見たいの」と首を振った。
(あんなに、汚れることを怖れていたのに……)驚き続きのイザークの横で、ティティは小さく唸った。くるんと顔をイザークに向けて、困惑の笑顔を見せた。
「風が気持ちいい。何かが背中をもそっと通った。これが良くて、地べたに転がるの?」
(ちょっと違う)と思いつつ、倒れて、隣のティティに手を伸ばした。黒い海と濃紺の空は闇に二人で放り出されたような気分。
――世界の終わりだろうと、ティティといられれば終わらない。どんな世界で、悪意が渦巻こうと、ティティといられれば。闇もなくなる。
イザークは長い腕を頭の下に回し、ティティを見詰めた。
可愛いコブラ頭。ネフトの服が良く似合うが、ちょっと露出が激しい気がする。
「よくここまで来られたな。サアラの野郎が「子造りは支援しねえよ!」って俺を遠ざけたせいで、どこにいるのかも分かりはしなかった。一人で平気だったか」
「子作りって……」ティティはぷいと顔を横に向けた。
揺れたコブラ頭ごとくいと顔を片手でイザークのほうに向けさせ、きょとんとした瞳に獣の顔をしたイザーク自身を見つけた。
――マアトの呪。ティティの左眼はぼんやりと霞んでいて、涙すら見えない。
「なによ」とティティの言葉と同時に、目元に触れた指先がほんのり熱くなった。
「呪術なんて止めさせりゃ良かったって思った。こっち、来い」
引き寄せた肩越しのティティの睫がチクチクささる。
「自分の目玉が腐ろうが、消えようが飛び出そうが構わんが、ぱっちりとしたティティの、凜とした双眸を再び見たい。片眼にさせるつもりはなかった」
「ん」とティティは安心したようにイザークに頭を預け、すり寄った。唇を震わせながら、イザークを見詰めている。
(ボルテージが上がってきた。構わないか? サアラとネフトにバレなきゃ、いいか。呪いをかけた呵責がティティにはあるわけだ。そこを突っつけば首尾は上々)
ばっと起き上がって両腕の間にティティを挟み込んだ。ティティは眼を瞠って、イザークを怖々と見詰めている。剥き出しの肩に唇を寄せ、首筋をぱくんとやった。ビク、とティティの体が強ばった。怖がらせてどうするのかと、イザークは諦めた。
そもそも、ラムセスとの口約束の婚約で、正式な婚姻はしていない。
「いや、腹が減っただろ! サアラに見つかるとまたうるさいから、戻りな」
ティティは動かなかった。イザークはざり、と足を地に擦らせた。下心をぶっ飛ばして、良心がじんじん痛む。
「あのさ、呪いなら気にしてねえから。……ティティ?」
コブラがぬおっと逆立った気がする。
「イザーク、わたしを好き、なのよね? なんで、止めたの?」
(何だァ、藪から棒に)背中に冷や汗。イザークはごくりと唾を飲み下した。
「良かったのに……シても。そういう、気分で……忘れて! わたしらしくもない! ネフト様に影響受けすぎたの!」
小さく叫んで、ティティは「あ、んん」と咳払いをしてそっぽを向いた。
(まさか、ティティ、俺を意識してる?)逸る前で、ティティはコブラ頭をぶんぶん振り回して、小刻みに震えながら眼を強く瞑って見せた。ぎょろっと瞳を向けた。
「鍋……」ティティは背後の鍋を指した。ぶくぶくと鍋はピナツボ火山口のように泡を噴いていた。
「だああああ! ちょ、ちょっと待ってろ! は、腹が空いたよなっ? 調度いい頃合いだと思うぜ」
立ち上がった背中がびん、と伸びて躓きそうになる。(何だァ、今度は!)見ればティティがイザークの服を抓んでいる状態だった。
(離れたくないのか)どうも今夜のティティはいつもと違う。積極的と言うか。あのネフトというオンナの影響かとイザークは眉を寄せた。ティティは現在くらいが丁度いい。男に疎い王女という控えめさがイザークの欲望の歯止めになっているのに。
(積極的になられてみろ。俺の第二の心臓が積極的に体内で蠢くぞ、本気で)
短く生えた雑草が揺れる。とうとう鍋が爆発し、二人はそれどころではなくなった。
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