人喰い転移者の異世界復讐譚 ~無能はスキル『捕食』で成り上がる~
81 傲慢なる皇帝
「おはようございます」
朝、女性の声で目を覚ますと、目の前にはエルレアが居た。
彼女は布団の上に座って、にっこりと笑っている。
「ん……おはよ。なんで、って言うかどうやってここに?」
鍵はかけてたはずなんだけど。
「鍵なら、キシニアさんに言ったら合鍵を貰えましたよ。あと、私を連れてきてくれた百合は先に自分の部屋に戻りました」
プライバシーもへったくれもないな帝国。
まあ、寝顔を見られるぐらいは今さらだからいいんだけど。
と言うか、そろそろ傷も治ってきたし、一緒に寝てもいいかなって思ってた所だし。
「とりあえず……」
「はい、おはようございますのキスですね」
何も言っていないのに、エルレアは目を閉じて、エサをねだる小鳥のように唇を突き出した。
先走りすぎでしょ。
確かに、僕もそのつもりだったんだけどさ。
でも、何となくそのまま流されるのも嫌だったので、僕は人差し指を立てると、エルレアの唇にあてがった。
ぷにゅ。
柔らかな感触。指だけなのに何故かドキドキする。
「むぅ、今朝のミサキはいじわるで――んっ!?」
そしてエルレアが不満げに目を開いた所で、僕は一気に彼女を引き寄せて唇を押し付けた。
見開かれたまんまるな目。
僕が舌を滑り込ませると、彼女も積極的に舌を絡めてくる。
薄っすらと半目になり、体が熱を帯び、表情が蕩けていく。
エルレアの性格上、する方よりされる方が好きであることは言うまでもなく。
むしろ、さっきのキスのおねだりだって、僕にいじわるされること予想した上での行動だったのかもしれない。
だとしたら、僕はエルレアの手のひらの上で踊らされてることになるのかな。
――ま、それで彼女が幸せなら、何だっていいや。
「ぷはっ……は、はふ……寝起きにしては、刺激が強すぎます……」
「魅力的なエルレアが悪い」
そう言って抱き寄せると、彼女はくてっと力を抜いて身を任せた。
確かにエルレアの言う通り、激しすぎたかもしれない。
ほどよい倦怠感が、僕を二度寝へと導いていく。
エルレアのうつらうつらと――
「はっ!? だ、駄目ですよミサキっ、私は寝に来たのではないのです!」
「わかってるって、起こしに来たんでしょ?」
「それも違います。今日の午前はミサキの予定が空いていると聞いていたので……」
「空いているというか、埋まってないだけでやることはあるんだけど」
「空いていると聞きましたので」
聞く気ないな、この子。
まあいっか。
確かにエルレアの言う通り、別に行かなくてもどうにかなるし。
「近頃、中々ミサキとふたりきりになれなかったではないですか」
言われてみれば、エルレアとはあまり触れ合えてない。
僕の怪我の都合もあったしね、どうしても2人でいるとエルレアをお腹に乗せることになるから。
「私はミサキに所有される身だというのに、この体を犠牲にしてまで命を救われて……なのに、まだまともにお礼も出来ていません」
「で、お礼をしにきたと」
「はい、傷も癒えてきたようですし、もう大丈夫だと思いまして。さあ、今日は私を好きに使ってください!」
それいつもと変わらないような。
大体、最後にエルレアを抱いてからもう2週間近く経過してるわけで――
「そんなこと言ってるけど、実はエルレアがもう我慢できないだけだったりしてね」
その可能性も、大いに有り得る。
意地悪くそう言うと、エルレアは目を反らしながら体をよじらせる。
そして、ぼそりと言った。
「……それも、もちろんありますけど」
目をうるませ恥じらうエルレアの姿は、世の男性が見たら99%は一発で落ちるほどの美しさで。
仮に女性だとして80%は一瞬で陥落するだろうと言い切っても過言ではなくて。
とっくに落ちてる僕の恋愛中枢のど真ん中にクリティカルヒットするのは、当然のことだった。
僕はエルレアの体を抱き上げ、ベッドに寝かせると、馬乗りになって組み敷く。
結局その後、昼を過ぎて百合が呼びに来るまで、僕が止まることは無かった。
◇◇◇
午後になって帝都へ出た僕は、ウルティオを発現させて作業を始める。
これまでも他のアニマ使いたちは、もちろんアニマを使って復興の手伝いをしてたわけだけど、今の姿になったウルティオに限っては初のお披露目だ。
大量の魔物を取り込んだウルティオは、サイズが他のアニマより2mほど大きくなっている。
他にも全身黒はもちろん、翼が生えていたり、手足から鋭い爪が伸びていたりと、以前より何かと目立つ要素が増えていた。
遠巻きに見ているだけとはいえ、集中する帝都の住人たちの視線が気になって仕方がない。
そんな中、イリテュムが木材の束をこちらに運んできた。
僕に渡すつもりらしい。
「はい、どうぞっ!」
百合は何故か怒り気味に言いながら、木材を僕に押し付けた。
あまりにエルレアと2人で盛り上がりすぎて、うっかり遅刻してしまったのをまだ根に持っているのか。
悪いのは明らかに僕だから、言い訳のしようもないんだよね。
途中からエルレアは『そろそろ行った方が良いのではないですか?』ってやんわり忠告してくれてたし。
「ごめんね、百合」
「怒ってません」
「怒ってるって」
「本当に怒ってないの! その、遅れてきたこと自体はもういいんだけど……」
「じゃあなんでそんな不機嫌なの?」
「エルレアとばっかり、その、やってて……ずるいと思ってるだけ!」
あー……そっち、なんだ。
今夜にでも部屋に呼ぶつもりではあったんだけど、それで許してくれるといいなぁ。
許してもらうには、僕が頑張るしか無いか。
上がるハードルに不安を抱きつつも作業を進めていると、足元に近づいてくる人影が見えた。
アニマの作業区域には一般人は入らないように規制されているはずなんだけど、と思ってよく見てみると……なんと、その人影はリアトリスだった。
皇帝がこんな所で何をしてるんだか。
「ようやく我に気づいたか、本来ならば溢れ出るオーラですぐさまわかるはずなのだがな。どれほど鈍感なのだ、ミサキよ」
どう反応していいかわからない。
ほんと傲慢なほど自信家なんだな、この人は。
「今日は何の御用ですか、皇帝陛下」
「ミコトが我のアニマと同等と話すミサキのアニマを一目見ておきたいと思ってな。どれ、ステータスを見せてみよ」
「別に構いませんけど……」
視線が集中してるのがちょっと気になるけど、頼まれたんじゃ仕方ないか。
久しぶりでちゃんと表示できるか不安だけど――『ステータスよ表示されろ』と念じると、目の前に数字と文字の羅列が現れる。
もちろん、それらの文字列は周囲にも見られるようにしてあった。
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名称 ウルティオ
武装 自律射撃支援機構:アンサラー・スレイヴ
処刑捕縛網:アラクノ・アイアンメイデン
螺旋貫通弾:ヘリカル・クロー
非実体手甲剣:シヴァージー・マギア
重力弾:グラベダド
脚部広域凍結機構:フリームスルス・ヴェント
腕部広域焼却弩:ガーンデーヴァ・アグニ
殲滅兵器:メルクリウス
スキル 親愛なる友
卑劣なる俯瞰者
正義の味方
霧に消える悪意
魔弾の射手
羨望せよ我が領域
影の病
鷹の目
群れの頂点に立つ者
大いなる大自然の息吹
私は太陽になれない
能力 Lv.108
HP 360040/360040
MP 319170/319170
出力 41860
機動性 39170
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しっかし、最初の状態とはすっかり別物になっちゃったな。
見た目にしても、ステータスにしても、もはやどんな機体だったのかも思い出せないぐらいに。
「ほう、なかなかだな」
リアトリスは腕を組みながら、ウルティオを見上げている。
その表情には、未だ余裕の笑みが浮かんでいる。
あんまりこういう事は言いたく無いんだけど、オリハルコン抜きで今のウルティオよりも強いアニマなんて存在しうるんだろうか。
僕だって、途方もない数のアニマを捕食して、ようやく手に入れた力だって言うのに。
「我がスペルヴィアと真正面からやりえるかもしれぬアニマを見るのは久しぶりだ、前皇帝以来か」
前皇帝もそんなに強かったんだ……とんだ化物揃いだな。
と言うか、リアトリス自身がそんなに強いんなら、先日の戦いに出ておけば苦戦することも無かったのに。
「久しく性分が疼いて来たわ。どうだミサキよ、お前が望むなら我のアニマを見せてやらんでもないが」
そう言われると、見たい気もする。
謎の上から目線は、もうこの際皇帝だから、と気にしないことにしよう。
「見てみたいです、他の四将の方々も口を揃えて”強い”、”大きい”と言っていましたからね、興味はありますよ」
「そうかそうか、どうしても見たいと言うか!」
いや、そこまでは言ってないけど。
「ならば見せてやろうではないか……安全な広場に移動するから少し待っておれ」
そう言うと、リアトリスは「はーっはっは!」と謎の笑い声をあげながら、どこかに去っていった。
アニマを発現するだけなら、そこら辺で出せばいいだけなのに、なんで移動する必要があるんだろう。
『我に相応しい舞台が必要だ!』とか言いそうではあるけども。
そして待つこと5分ほど、僕は――なぜ彼女がわざわざ移動したのか、嫌でも理解することとなる。
「誇り高き我が魂の象徴、気高き我が命の炎! 顕現せよ、スペルヴィアよ!」
帝都に仰々しい口上が鳴り響く。
声がした方に視線を向けると、普通のアニマとは比べ物にならない――あまりに巨大な光の柱が、天に向かって神々しく伸びた。
周囲に光の粒子を撒き散らしながら、天頂が見えないほど高くそびえ立った柱は、やがて少しずつ薄れていき、その中からスペルヴィアが姿を現す。
「で、でか……」
見た瞬間、僕の口からは反射的にそんな言葉が出ていた。
周囲に居たアニマ――イリテュムも、テネリタスも、同様に上を見上げながら呆然としている。
眩いほどの金色のボディに、雄々しく天に向かって伸びる一本角、背中の四枚羽から放たれるエネルギー帯によって作られる、謎の光輪。
そして何よりも特筆すべきは、そのサイズだった。
ウルティオですら見上げなければその顔を見ることは出来ない。
数字にして、ゆうに50mはあるだろうか。
思わず”馬鹿げてる”と口にしてしまいたくなるほど、とにかく巨大で――
「ふ、我がスペルヴィアを前に恐れおののいているようだな。だがそれも当然のこと、なぜなら我は、生まれながらにして世界の頂点に立つことを定められたもの、すなわち真の皇帝なのだからな! くはははははははははぁっ!」
その溢れんばかりの自信も、彼女の場合はナルシズムではなく、まっとうな自己評価の結果であると言える。
何せ、これだけ強力な力を持っているのだから。
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名称 スペルヴィア
武装 絶対支配域:ロゴス
完全掌握陣:ブラフマー
皇帝剣:シヴァ
神域到達:ヤハウェ
スキル 世に轟きし我が美声
従属こそ正しき選択
選ばれし者
能力 Lv.83
HP 764320/764320
MP 253200/253200
出力 68210
機動性 23620
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表示されたステータスを見て、誰もが圧倒された。
他人から奪ったわけでもなく、HPと出力は当然のようにウルティオを越え、スキルも複数持っている。
しかも、レベルが僕より低いってことは、まだまだ伸びしろがあるってことだ。
「どうだミサキよ、我のスペルヴィアは。お前のウルティオも大概であったが、こちらもなかなかであろう?」
巨大なスペルヴィアに見下されながらだと、どれだけ自信過剰でも”いい戦いができそうだ”とは言えない。
武装なんて使わなくても、この巨体が高速移動をするだけでとてつもないプレッシャーになりそうだ。
「本当に皇帝になるために生まれてきたような人なんですね」
武装の名前やスキルの名前は、自分で任意につけられるものではない。
本人の趣味や嗜好が反映される可能性もあるけれど、それでも全ての武装、スキルに何かしら皇帝的な要素が入っているという事は、本当にそればかりを考えてきた人なんだろう。
「何を今さら。アニマを出すまでもなく、我は頭からつま先まで余すことなく皇帝だぞ?」
淀むこと無くそう言い切ると、十分に住民たちの視線を満喫したのか、スペルヴィアは姿を消した。
あのまま出しっぱなしにされても、あのサイズじゃ作業には参加できないからね。
「岬を四将に仕立て上げたことと言い、何から何まで滅茶苦茶な人だね」
近寄ってきた百合が、笑いながら言った。
すっかり機嫌は元に戻ったようで、その点に関してはリアトリスに感謝すべきなんだろうか。
「まったくだよ。あれぐらいの人じゃないと、皇帝なんて役割はこなせないってことなのかな」
「皇帝になるのも大変なのですね」
「まあ、リアトリスの場合は特別だと思うけどねー」
さらに近づいてきたエルレアとフランサスが、同じく半笑いで言っている。
誰もが呆れながら、けれど圧倒されて。
能力で迫っても、まだまだ遠い世界の人だと感じる。
やっぱ僕には四将とかそういうの向いてないって。
だって、クラスメイトを殺して満足してるような、小さな世界の人間なんだからさ。
◇◇◇
それから僕はリアトリスが再び姿を現すのを待っていたのだけれど、結局、スペルヴィアを解除したまま居なくなってしまった。
今日の作業を終え、1人で城へ戻った僕は、偶然リアトリスの自室の前を通りがかる。
「いい加減にしてよッ!」
すると、中からそんな怒鳴り声が聞こえてきて、僕はびくっと体を震わせた。
今の声って……もしかして、ビオラさん?
それにしては随分と乱暴な口調だったけど。
しかもここ、リアトリスの部屋ってことは、話してる相手は彼女ってことだよね。
僕は悪いと思いつつも、そのまま部屋の前で足を止めて聞き耳を立てた。
「あまり大きな声を出すでない、脳に響く」
「それはリアがアニマを出すなんて無茶をするからじゃない!? ついこの間まで昏睡状態だった人のやることじゃないわ!」
「ミサキにあれほどのアニマを見せられたのだ、皇帝として黙っておくわけにはいくまいよ」
「皇帝皇帝って、地位がそんなに大事なの? リアは、そのために死んでいいって言うの!?」
「うむ、本望だな」
「っ……ふざけないでよぉっ!」
すごい迫力だ。
部屋の外にいる僕が、思わずのけぞってしまうほどに。
「ビオラよ、お前はもっと落ち着いた女だったはずだぞ。いつからそのようにヒステリックに喚くようになったのだ」
「無責任にも程があるわ。あなたよ、あなたがそうしたんじゃないっ、人殺ししか知らなかった私に、誰かを守る喜びを教えたのはあなたじゃない……!」
「我は路端に落ちていた花を愛でただけだ」
「だから、簡単に捨てられるってこと?」
「枯れ果てるまでは手厚く育ててやるのが拾ったものの務めよ」
「だったら……置いてかないでよ。勝手に弱って、勝手に死なないでよ……!」
「……我に、そのつもりはないがな」
「つもりは無くても、弱ってるじゃない……アニマを発現しただけで倒れるくせに、よくそんな事言えるわね……」
リアトリスが病気を患ってるって話、本当だったんだ。
だから帝都が攻め込まれても戦えず、城に引きこもったままだった。
けど皇帝として、王国が攻め込んでくる直前である今、自分が死病だなんて公表できるはずもない。
おそらく彼女は、このまま隠し通すつもりなんだろう。
お姉ちゃんはこのこと、知ってるのかな。
知ってるんだとしたら、僕にすら隠しているわけだし……僕も聞かなかったふりをして立ち去ることにしよう。
「ミサキ」
そう思った矢先、部屋の中から僕を呼ぶ声がした。
「どうしたのリア、急にシロツメの名前なんて呼んで」
「外におるのだ、そして立ち去ろうとしておる」
「なっ……まさか今の話、聞かれてたの? しかもリア、それに気づいて――」
「どうせミコトも知っておるのだ、隠すような話では無いと思ってな」
「そこじゃなくって! いや、そこもだけどっ」
「ん? ビオラとの関係については我は隠すつもりは無いといつも言っておるではないか。さて、ミサキよ部屋に入るが良い、聞きたいこともあるはずだ」
まさか気づかれていたとは、気配を感じたってやつなのかな。
観念して部屋に入ると、目を涙に濡らしたビオラと、表情は変わらないが心なしか顔色の悪いリアトリスが僕を迎えた。
「噂は聞いていましたが、本当に病だったんですね」
「病では無い、寿命だ」
「寿命?」
僕やお姉ちゃんより年上とは言っていたけど、どんなに盛って計算しても20代にしか見えないんだけどな。
「スペルヴィアの代償なのかもしれぬな、おそらく我には才能が無かったのだ。だが皇帝になるという運命は変わらず、ゆえに寿命を代償として支払った」
「それで、もう寿命が尽きようとしていると」
「持って3ヶ月と言った所だ。どうにか王国との決戦に間に合いそうでほっとしておった所だ」
「勝手にほっとしないでよ……」
リアトリスの隣でビオラは呟いた。
2人の関係は、改めて確認するまでもなく、おそらく恋仲なんだろう。
こんなだけど、おそらくリアトリスも本気でビオラのことを思っていて――だから、多少の無理があるとわかった上で、メイドとして彼女を隣に置いている。
”人を殺すことしか知らなかった”って言ってたし、殺し屋でもしてたのかな。
どうりで、メイドにしては異様な雰囲気を放ってるわけだ。
「お姉ちゃんも知ってたんですね」
「我から話したからな」
「……リアはいっつもミコトばっかり特別扱いする」
「くはは、そう嫉妬するでないビオラよ」
特別扱いって、どういうことだろう。
「あの女……ミコトは、どうもリアの家族に似てるらしいの」
「我も人間だったということだな。死が近づく中、どこか母に似たミコトを見て、らしくもなく寂しさを覚えてしまった」
「それで、お姉ちゃんを四将に?」
いや、でもお姉ちゃんが以前の四将を殺したのは偶然だって言ってたんだっけ。
「それは違う、だがどの道そばに置こうとは思っておったよ」
「リアの隣は私だけの特権なのに……」
ここまで恋人が嫉妬してるのに、よく堂々と隣に置くとか言えるな。
これが皇帝らしさってやつなのかな、ただデリカシーが無いだけのようにも思えるけど。
「死に際ぐらい好きなことをさせておくれよ、ビオラ」
「甘い声で言っても許さないから」
「我のツガイは狭量だのう、ミサキの周囲を見よ、3人も4人も侍らせておいて文句の一つも出ていないぞ?」
「あれは特殊なの! 異常なの!」
特殊とか異常とか言われちゃってるよ。
確かにまあ、3人も居るし、エルレアは手足が無いし、お姉ちゃんは血が繋がってるしで、否定は出来ないけど。
「だが、ミサキが現れた時点でミコトを傍に置いておくのは諦めるしか無いな」
「すいません、奪ったみたいで」
「構わぬ、以前からミコトは弟の話しかしておらんかったからな。あれだけ聞かされては引き離す気にもならんよ」
ほんと、お姉ちゃんって所構わず僕の話ばっかりしてたんだな。
自分で言うのもなんだけど、不出来な弟だったのに。
どうしてお姉ちゃんは、そこまで僕のことを想ってくれたんだろう。
「他に何か願いは無いんですか? 僕に出来ることなら手伝いますけど」
「他に……か。お前に叶えられるものなど無いな。最後に我が望むのは、どれだけ皇帝らしい散り様を世界に見せつけられるか、それだけだ」
「リア……」
死を連想させる言葉に、ビオラは切なくリアトリスを見つめた。
皇帝らしい散り様、か。
僕には想像も出来ない、こりゃ叶えられそうにないや。
「そうだ、願いとはちと異なるが、ミサキがどのようにして亡命者たちを殺すのかも楽しみにしておるぞ。確か、ウメノとかいう男が、まんまと罠にかかり身内に殺されたのであったな?」
リアトリスは彼らの死に方を一種のエンターテイメントとして見ているらしく、実に楽しそうに経過を聞いてくる。
皇帝と平民、ほぼ噛み合わない価値観を持っているけれど――この一点に関しては僕らは共感していて。
「実は、今からちょうど次の仕込みをしようと思ってた所です」
彼女の笑みに答えるように、僕もにこりと笑いながら言った。
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