科学チートで江戸大改革! 俺は田沼意次のブレーンで現代と江戸を行ったり来たり

中七七三

21.蝦夷地開発とアイヌ交易、飢饉回避の米は?

江戸城が大きいとはいえ、その全てを電化するわけではないだろう。
 しかし、一応確認はしておいた方がいいかと俺は思った。

「田沼殿どのくらいの灯りが必要ですが、例えば、今のこの部屋何個分とか」

 今俺たちがいる田沼の江戸屋敷。
 その大書院では単一電池六本を使用するキャンプ用のカンテラが灯っている。
 単純な明るさで言えば、現代の普通の家に劣らないし、菜種油やロウソクに頼りよりはずっと安い。
 
「そうさのぉ~ 灯りだけでいうなら、四~五部屋分もあればよいか」
「そうですか……」

 それならば、しばらくはここと同じ乾電池式のカンテラで慣れてもらうという方法もある。
 説明にして「エレキテルの火花を使って灯りを出している」と言えば「そんなものか」と納得するくらいの素地はあるだろう。
 全く未開の世界ではないのだから。

「しばらくは、ここと同じカンテラで灯りをとるのは?」
「それは構わぬ。いや、むしろ急いでやった方が良いな」
「まあ、二~三日でこれは、揃えられますけどね」

 俺は「これ」と言って科学の光を放つカンテラを見やった。
 灯りだけなら、実際問題、それで問題はない。

「まずは、大奥、上様に灯りの良さを知ってもらおう―― それからか……」
「それなら、すぐに用意しますよ」
「頼む。既に話は通してあるのでな」

 田沼意次はそう言うと、ずっと俺の方に身を乗り出した。
 そして、ジッと俺を見つめて口を開いた。

「エレキテルは灯りに使うだけではあるまい。土岐殿」
「ええ」
「エレキテルによる『氷室』、『扇』、『ぱそこん』は知っておる」

 田沼意次の言う「氷室」とは冷蔵庫、「扇」は扇風機だ。
 パソコンはそのままの意味。
 今のところ、全て源内邸で、稼動中のものだった。

「それを江戸城でも、使いたいと?」
「扇はもういらぬであろうが、『エレキテル』を使った囲炉裏のような物もあろう。どうか?」
「ありますよ――」
 
 あれだけのモノを見せられればエレキテルで動く「囲炉裏」なモノがあると想像することは可能だろう。
 そして、それはある。
 電気ストーブや、冷暖房用窓用エアコンなどの機械が二一世紀にはあるのだ。

「生活を華美と便利は異なる。それで予算も搾れれば、文句をいれにくかろう」
「まあ、油や炭を使うより長い目でみれば、安くなるでしょうね」
「然り」

 この田沼意次の支持基盤で最大のところは、大奥と将軍だ。
 そこを二一世紀の科学で染めていく。
 そして、徐々に江戸城内の意識を変えていくということなのだろう。

「とにかく、水車の力で回転させることができれば、エレキテルはいくらでも出せます」
「ほう――」
「なんなら、江戸中の川にエレキテルを付けて、江戸の街にエレキテルの灯りを照らすことも…… 可能性はありますね」

 俺ギリギリで言いきらないで済んだ。
 実際、水力発電、ソーラー発電については、簡単に調べたくらいだ。

 ソーラー発電は有効だと思っていたが、浅間山大噴火が待っている。
 天明三年(1783年)には浅間山大噴火し、江戸まで火山灰で埋まるという記録が残っている。 
 日照時間がそれで激減しているのだ。
 ソーラー発電をメインとした電化を進めるのは、かなり危険だといえる。
 
 そういうことで、水力発電を調べたが「マイクロ水力発電機」やそれより小型の「家庭用水力発電機」も製品化されている。
 10アンペア程度(1KW)を発揮するものならば、それほど大きくないし高くもなかったはずだ。
 まあ、これは戻ってから詳しく調べればいい。

「江戸中に…… エレキテルか―― ふふッ、源内が喜びそうな話ではあるな」
「まあ、そうですね。確かに乗り気でしたよ」

 平賀源内は、エレキテルの推進に積極的なのだ。
 己の「エレキテル」が見世物扱いされ、かといって具体的に社会に役立つ何かが思い浮かばない。 
 せいぜいが、頭に「バチッ」と静電気をやって「電気治療」と言っていたくらいだ。 
 そして、この件では実際に組み立てを手伝った職人が勝手に粗悪品を作り、罰せられた。源内さんロクなことになっていない。

 源内さんは「ワタル殿、エレキテルでよぉ、江戸から闇を無くしちまいたいなぁ。それができるならよぉ」と言っていた。
 そして、水力発電機なり、ソーラー発電機を設置するなら「絶対に、俺を立ちあわせろ! 絶対にだぞ!」と凄い勢いで言われている。
 まあ、何かあった時に、メカニック的な部分でこの時代で頼りになりそうなのは彼くらいなものだ。
 俺としても立ち会って欲しいとは思っている。

「で、源内はそろそろ、秩父か――」
「ええ、準備も整えて、ましたからね」
 
 平賀源内は失敗した秩父鉱山の再開発に向かう。
 さすがに、重機を自転車&リヤカーで持って行くわけにはいかない。
 それでも、現代のスコップ、ツルハシ。
 そして、坑道内を照らすための発電機、ランタンを持って行く。

「源内さん、この時代の大八車も改造しちゃいましたからねぇ――」
「それが、平賀源内よ」

 大八車は車軸が左右を貫通してその上に荷台がある。
 リヤカーは独立している。荷台を挟んで車輪があある。
 この差が何を産むかというと、重心の位置の問題だ。
 大八車はこのため、安定性がリヤカーに劣る。
 当然、高く積み上げ(構造上そうなる)重たくなればばるほど安定性が失われる。

 源内は大八車のその欠点に対し、強度を失わせることなく改造をやってのけた。
 さすがにゴムタイヤまでは実現できなかったが。
 でもって、それに荷物を積んで、秩父鉱山に向かうことになっている。
 
「藩の負担がなく、取り分は半々であれば、川越藩も了承するであろうよなぁ」

 田沼意次は「ふぅ」と息を吐いて言った。

「鉱山と言えば、蝦夷地の開発は? 田沼様」

 俺は訊いた。すでに、田沼意次には詳細な北海道の鉱山のデータをプリントアウトして渡してあるのだ。
 掘れば100パーセント、金銀銅が出てくる山がいくらでもある。
 日本三位の「金」埋蔵量を持ち、一時は日本最大の金鉱山だった「鴻之舞鉱山」もあるし、他にも有力な鉱山もある。

「あの地図は処分した。今は危険すぎる――」
「え…… いや。まあ、いいですけど」

 データは残っているし出すならいくらでも出せるのだ。
 しかし「蝦夷地開発」は難しいようだ。

「松前藩をなんとせねば…… どうにもだな―― 実際にやったように……」

 ただでさえ善人に見えない田沼意次の顔が悪代官に見えてくる。
 松前藩から蝦夷地を取り上げるという史実の展開に魅力を感じているのかもしれない。
 それが行われるのは寛政十一年(1799年)で今の時点から言えば二〇年後だ。
 
「徳川実記」などから直近の政治の動きに関する記録は田沼意次には渡してあるのだ。
 彼にとっては最強の武器といってもいいだろう。
 ただ、大きく歴史の流れが変わってきたときには、後々紙くずになりかねない。
 使い方は慎重にだ。

「確かに史実では蝦夷地を殆ど取り上げちゃいますけど、それは慎重になるべきでは――」

 強硬手段もやる人間と時期の問題があると思うのだ。
 この時期の田沼意次がそれをやれば、松前から蝦夷地を奪えば、政敵を増やし足を引っ張られる原因を作りかねない。
 いずれやるにしても、タイミングはどうなのか?

「しかし―― 松前藩のなすことは、もはや交易というものではないぞ。土岐殿よ」
「針一本で鮭五尾、水で薄めた酒が二升で鮭二〇〇尾ですからね……」
「鰊(にしん)もだ。暴利を貪っている」
「松前藩が指名した独占商人ですからねぇ…‥」

 これを直接松前藩がやっているという訳でもない。
 武士にそんなセンスはないのだ。あれば、あっちこっちで武士が困窮したり、藩財政が傾いたりしないのだ。
 
 松前藩が商人にアイヌとの独占交易権を与えている。
 そして、その独占交易権を持った商人がアイヌ相手に暴利を貪って売るわけだ。
 松前藩は、その商人から上前をはねているわけだ。

「松前藩が指名できる商人を幕府側で制限する。その代わり、松前藩にも大きく利益を配分する――」

 俺はなんとなく思っていることを口にした。

「それは? いったい。土岐殿」

 田沼意次が訊いてきた。いや、思いつきレベルなのだけどと思いつつ、俺は説明を始める。

「言ってみれば悪徳商人で、これが、アイヌ反発を招いて、反乱を起こす原因にもなる。であれば、そういったことをさせない。しないような真っ当な商人を選んで、その中から松前藩は選べというようにすればいいかなと――」

「ふむ」

「松前藩とすれば、どの商人が商売しようが、アイヌ交易の収入が保証されればいいわけですよね」

「その点は、完全には首肯できぬかもしれぬが…… 間違いとも言い切れぬか――」

 腕を組んで田沼意次が考え出す。

「後は『転封(てんぽう)』(大名の領地代えのこと)をちらつかせながら、交渉するしかないかもですね。最悪、松前から蝦夷地を奪うのはよくないとは思いますけどね。今の段階では」

「蝦夷地は、幕府が抑えねばらぬ」

 田沼意次は断定的に言った。安全保障問題、鉱山資源開発、交易の展開を見据えればそれは当然だろうとは思う。

「分かりますけど。急ぎ過ぎると、危ないってことです」
「ぬぅ…… 天明の大飢饉まで三年……」

 田沼意次は直近の最大の危機について口にしていた。

「ああ、そういえば松前藩ってコメ取れないですよね」
「うむ、弘前藩より米を運んでおるが――」
「いっそ、蝦夷地で米を作ればいいような」
「ぬぅ…… それは、そうではあるがな……」

 俺は思うのだ。
 さて、二一世紀における、都道府県別コメの収穫量の一位はどこでしょう? ってこと。
 これ、北海道と新潟が毎年争っていたはずだ。
 江戸時代、名目の「一万石」でコメの取れない松前藩であるが、今は取れる。

 そして、当時の蝦夷地開拓調査を行った者の試算でも五〇〇万石以上の収穫が見込めるという報告が上がってくる。 
 当時の米でもやればできなくはないということだろう。
 稲を育てる季節の天候条件はよくはないが、東北に比べて絶望的というわけでもなかった。

 あえて、稲作を持ちこまなかった政策的な面もある。
 仮に、アイヌに耕作が広まった場合、アイヌの生活の形が変わる可能性がある。
 彼らには米を作ってもらうより、鮭や鰊を取って、格安で売ってくれた方が都合がいいのだ。
 
 これは松前藩だけではなく「幕府」にとっても同じだ。
 酷い簒奪はしないが、こっちが利益を得るには、アイヌは今まで通りでいてくれた方がいい。
 あくまでも、一から二世代くらいの時間だと思うが。

「寒さに強い米は持ち込めるかもしれません」
「うむ……」

 でもって、二一世紀には古い種(二一世紀から見れば)ではあるが、種籾のとれる寒さに強い品種がある。
 まあ、農業試験場とかそう言ったところを当たれば、数は手に入るだろうとは思うのだ。
 飢饉対策も、俺は金儲けと同時に一応動いているのだ。 

(しかし三年か…… 失敗が許されないな。これ)

 飢饉対策は、生産力の落ち込みをカバーすること。
 そして、流通の円滑化。
 さらに、飢餓発生の藩に対する援助が可能な体勢を作らねばならんのだ。

「まず、飢饉までの時間はない。最悪の事態は回避しましょう。何万人もの餓死者を出すことだけは避けないと」

「うむ…… この田沼、それに対し二度と同じ過ちは繰り返さぬ」

 老中・田沼意次は目に強い決意を見せそう言ったのだった。
  
 そして、田沼に失敗をさせないためにも、俺は俺で「現代で金を作る」という問題を解決しなければいけないのだ。
 
 江戸で儲けた「小判」どうやって二一世紀の「日本円」にすること。
 でもって、江戸―現代の交易を、儲かるビジネススキームに乗せねばならない。

(確か、今、二〇〇〇万円くらいは残っているよな――)

 換金した小判、着物や小間物などで日本円を稼いでいないわけではない。
 しかし、主力の「小判」の換金は「相続税」の壁がある。
 
 今のところ、小判の換金は停止中。
 いざというときのために、二一世紀の自宅には千両箱が数個あるが、日本円にできないでいる。
 相続税の非課税枠の五〇〇〇万円はまだ使い切っていないのだ。

 江戸で売る商品の仕入れには日本円が必須だ。
 鉱山開発に使用できるような、機械もこれから大量に必要になるだろう。

 江戸で科学イノベーションを起こす。
 そのための、金は「小判」だけではだめなのだ。
 二一世紀の科学を続けて入手するには「二一世紀の日本円」が必要。
 つまり、現代のお金が必要なのだった。

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